最初のポケモンは、ポケモンを増やすことにした。
既に自分達の分身には下準備はさせてある。地球という星の一部には、沢山の自分の子供達が生活をしている。しかし、沢山の子供と言ってもせいぜい数十匹。ポケモン以外の人間という生き物が増え続けている中、もっとポケモンが少ないと寂しいという不満が出始めている。
子供達の珍しい我が侭だ、聞いてやらなければいけない。既に下準備は整っているので、跡は行動に移すだけだった。
「せっかくだから、形が違う仲間を沢山増やそう」
最初のポケモンは、地形や環境に合わせて様々なポケモンを考え出した。空を飛べるポケモン、地を這うポケモン、泳ぐポケモン、小さなポケモン、大きなポケモン、安全なポケモン、危険なポケモン、とにかく色んなポケモンを考えた。同じ姿形をした人間よりも多種多様なポケモン達を産み出した。
「できた。これだけ作れば充分だろう」
最初のポケモンは知恵を絞って、全部で一五一匹のポケモンを産み出した。地球に放たれた多くのポケモン達は時間をかけて増える中で、自分の姿に合った場所で暮らすようになった。そのうちに人間と共存するポケモンも現れ、人間の方もポケモンを捕まえる道具を発明した。人間がポケモンを捕まえることに関して最初のポケモンは何も思わなかった。というのも、殆どのポケモンは幸せに暮らしているからだ。それに多少不幸なポケモンがいたとしてもいちいち助けていられない。一度手を出せば全部を助けなければならない。そうしたら自分の仕事が増える。それだけは避けたいことだった。
世の中の流れが変わって、自分の分身達も喜んでくれた。最初のポケモンは子供達の笑顔が見られればそれだけで満足だった。
ある日、分身の一匹が最初のポケモンを訪ねてきた。
「どうしたユクシー」
それは、記憶を操作できる力を与えたユクシーだった。
「お父さん、お願いがあってきました。急なことで申し訳ないのですが、ポケモンを増やして欲しいのです」
「ポケモンを増やす? 結構な数を産み出したつもりだったが、足りなかったのか?」
「そうなのです。お父さんがポケモンを放った地方はカントー地方というところなのですが、他の地方はまだまだポケモンが少ないのです。と言って、今までのポケモンが増えるのには時間がかかりすぎます。他の地方ではポケモンが極端に少ないので、人間の間でポケモンが高額で取引されるという事態も発生しているようです」
「そんなことになっているのか。それはさすがに放っておけないな。教えてくれてありがとう、お父さんに任せなさい」
最初のポケモンは自分の分身の報告を受けて、またポケモンを増やすことにした。と言っても、いきなり増やせる訳がないので、時間をかけて知恵をしぼった。
今までのポケモンと姿が同じではいけない。多少似ていても違うものにしなければ。それは、最初のポケモンのこだわりだった。
こうして最初のポケモンはまた仕事を始めた。一から新しいポケモンを作ったり、以前作ったポケモンを退化させたものを生み出すことで、多少強引に数を増やした。
そうして、また新たに百匹のポケモンが産まれた。特別な力を持つ自分の分身も少し混ぜておいた。ユクシーが言っていた、カントー地方の近くを中心にそれらを放った。それらのポケモンも時間をかけて増えていき、ユクシーの言っていた危機は一部で免れたようだった。
これで少しは休めるだろう。さすがに二百五十一も創造したのだ。暫くは様子を見よう。
しかし数年後、今度は違う分身が最初のポケモンを訪ねてきた。
意思の神として産み出したアグノムである。
「お父さん、少し良いでしょうか?」
「あ、ああ、大丈夫だ」
少々疲れが残っていたが、可愛い子供のためにと体に鞭を打つ。
「お疲れのところ申し訳ないのですが、またポケモンを増やすことはできないでしょうか?」
「結構増やしたつもりだったが、まだ問題があるのか?」
「実は最近になって、ホウエン地方という地域を発見したのです。ここは以前ユクシーが見つけたような事件は起こっていませんでしたが、やはりポケモンの個体数が少ないのです。ユクシーやエムリットと相談したのですが、どうやら今いるポケモンを無理に連れていくと生態系のバランスが崩れてしまうようなのです」
生態系が崩れる。それは、自分の努力が水の泡になるということだった。流石に、最初のポケモンも眉を寄せた。
「なかなか生き物を作るのは難しいものだな」
「私も手伝います。ですので、また新しいポケモンを増やしましょう」
最初のポケモンは、アグノムの言うことを信じて、また新しいポケモンを生み出すことにした。今度は自分の分身が手を貸してくれたので、作業はスムーズに進んでいく。以前形にしたポケモンと類似したものから、全く新しいものまで、様々な仲間が創造されていく。自分以外の意見を取り入れることで、更にポケモンのレパートリーは増加していった。
こうして最初のポケモンは、また百三十五匹のポケモンを考え出した。アグノムが言っていたホウエン地方へそれらを放つ。以前百匹増やした時とは違い、アグノムの言う生態系が崩れかけたが、昔作ったポケモンを少々混ぜることによって、なんとかバランスは保たれた。
「お父さん、お疲れ様でした」
「なに、これくらいのこと構わないさ」
「では、私は見回りに戻ります」
アグノムがいなくなると、最初のポケモンは横になった。まさか、三度もポケモンを考えることになるとは思わなかった。いくら自分が最初のポケモンだからって、こんなに頭を働かせたら疲れるに決まっている。有能で万能だとしても疲労は蓄積するのだ。今度こそ、ゆっくりと休むことにしよう。
最初のポケモンは、誰にも邪魔されることなく眠り始めた。
しかし数年後、またもや起こされてしまった。
感情を司るポケモンのエムリットである。
「お父様、起きて下さい」
ここまで同じことをされたら、さすがに何を言われるのか察してしまう。
「エムリットか。まだポケモンが足りないのかい?」
「よく分かりましたね」
「もうだいぶ考えたぞ。あの数だけでは足りないのか?」
「問題はシンオウ地方という地域なのです。お父様が考えたポケモンを流用してみたのですが、一部のポケモンを除いてなかなか繁殖が上手くいかないのです。昔から寒い地方なので、そのせいなのでしょうか」
「どれ、私が試してみよう」
最初のポケモンはわざわざシンオウ地方へ赴き、自らポケモンを増やそうとした。だが、いくら試行錯誤しようが、その土地でポケモン達はなかなか繁殖しなかった。
いくら調べても原因は分からない。自分は最初のポケモンなので、ないモノを新しく生む行為に関しては相談する相手もいない。手詰まり状態だった。と言って、このシンオウ地方を放置するのも気が引ける。
最初のポケモンは、自らに鞭を打って再び仕事を始めた。この地方に合うようなポケモンを作り出す。
これまでに多くの仲間を考え出してきたのだ。これまでと同様、シンオウ地方に合うポケモンも結構いた。今回も、今まで進化しなかったポケモンを進化するように改良した。いくつかは成功し、ポケモンの種類はどんどんと増殖していく。
やがて、シンオウ地方もポケモンでいっぱいになった。
「どうだ、これで満足だろう」
「お父様大変です。アグノムからお父様の姿が人間に見られたという報告が入ってきました」
「姿を見られた。そうか、私がシンオウ地方へ降り立った時に見られてしまったか」
「どうしましょうか。記憶を消しましょうか?」
「いや―そうだ。いっそ、我々もシンオウのポケモンということにしてしまおう。ユクシーとアグノム、それにお前の家を作っておこう。お前達と一緒に作り出したディアルガとパルキアも、人間の前へ一度顔を見せておくようにと伝えておいてくれ。何かしらの儀式をしている集落に姿を現せば、それだけで後世にまで記録が残るだろう」
「すると、対策はしなくて宜しいのですか?」
「ああ、何ら問題はない」
そうして、最初のポケモン達とその分身達を含めた百七匹のポケモンがシンオウに広まっていった。
不思議なことに、新しいポケモンを用意すると瞬く間にその土地で数を増やしていった。そして、直ぐにポケモンと人は共存して生きていくのだ。まるで、ずっと昔からポケモン達がそこで暮らしていたかのように。
更に月日が経った頃、最初のポケモンは生気のない表情で毎日を過ごしていた。なぜ廃人に近い状態なのか、原因は明白だった。
何事にも限界はある。頭痛は治まらないし、大して動いてもないのに節々が痛い。人間でいう風邪に近い症状。計四百九十三匹のポケモンを産み出したのだから無理もないことだった。
「大丈夫ですかお父さん」
側にいるユクシーが口を開く。
「ありがとうユクシー。だいぶ気分が良くなってきたよ」
「我が侭を言ってすいませんでした。簡単にポケモンを増やせだなんて、お父さんの苦労も知らずに言うべきではありませんでした」
「気にすることはないよ、ユクシー。自分達の仲間が多くなるのは嬉しいことだからね」
そう、今までの働きは無駄な努力ではないのだ。辛い作業ではあったが、確実に成果は出始めている。各地方では、充分過ぎるほど多くのポケモンが日々生活している。地上を仕切っている人間の殆どはポケモンを悪いようには扱っていない。上手く共存している、最高の状態だった。ここまで来れば、子供達の不満は解消されたに違いない。
大事な分身のお陰で体力も元通りになりつつある。これで、堂々と休むことができる筈だった。
最初のポケモンに、エムリットが近づいてくる。
「お父様、報告したいことがあります」
最初のポケモンはもしやと思ったが、悪い予感は当たってしまった。
「最近、人間がイッシュ地方と呼ぶ大きな土地を見つけました―」
次に言われる言葉が予想できた最初のポケモンは、首を激しく横に振った。その姿を見て、エムリットとユクシーは、やはり何も言えなくなってしまった。
一体、私はいつまでポケモンを作り続ければ良いのだろう。最初は暇つぶしも兼ねていた筈だ。それが、いつの間にか義務に変わってしまった。
いっそのこと、そのイッシュ地方には一種類のポケモンしか生み出さないようにしようか。
だが、最初のポケモンは、それでは上手くいかないことを何となく察していた。
これは呪いなのだ。最初のポケモンは、いつしかそう思うことにした。
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イベントが近いせいか、いつもより頓珍漢なネタが思い浮かびます。
フミん