ーーでは、時間までごゆっくり!ーー
ーーくれぐれも気をつけてくださいねーー
職員から再三の注意を受けてようやく出発することができた。
太陽の光がキラキラと反射する青い海。雪と呼ばれる白いものに覆われている山頂。外から見る地球はこんなにも美しかったんだ。
ーー現地の人に接触してはなりませんーー
現代は地球になんて誰も住んでない。月からじっと眺めるだけの、手の届かない存在。
ある時、イッシュと呼ばれる地域でポケモンと人を切り離そうっていう運動があったらしい。
それで切り離すことには成功したんだけれど、強大な力を持つポケモンを誰も制御できなくて、人類は本当隅に追いやられた。
その煽動した人は反逆者と呼ばれて殺されたんだって。
生き残った人たちは月に逃げた。数少ないパートナーとしてのポケモンを連れて。
ーー現地のものに触ってもいけません。ポケモンもですーー
やっと人間の文化が戻って来て、時間を越えられる道具も発明された。
この時間を越える道具でポケモンと人を切り離す前に戻れればよかったんだけど、そうも行かないみたいね。
なんでもこの歴史を変えようとしても第二、第三の扇動者が現れて結局は変わらないんだって。細かいところは変わっちゃうみたいだけどね。
だからその最初の扇動者が誰だったのか、今じゃ誰も解らない状態。私が聞いた話と友達が聞いた話で違うなんて当たり前。
でもその科学力を生かして時間を越えて接触しなければ個人的にどこでも行けるようになった。
だから、あたしはここを選んだ。
ーーとても古い年代のため、科学なんてものはなく突然攻撃される恐れもありますのでーー
モンスターボールなんてなかった時代、コンクリートなんてなかった時代。
電気なんてなかった時代。
そんな時代をあたしは選んだ。
時間を越える機械に身を包んで、サイボーグみたいに自由に飛べる。
海を越え、山を越え、人里でポケモンと人間が仲良く暮らしているのを雲に隠れながら見た。
こんなにいい時代があったんだ。なんであたしはこの時代に生まれて来なかったんだろう。
ーー絶対に見つからないようにお願いしますーー
腕についている時間を見た。この時代にいられる残りだ。
一通り見飽きてしまった。まだたくさん時間はある。
少しくらいなら大丈夫だろう。それに人が少ない砂浜がある。
人が来ないのを確認してそっと降り立った。柔らかい砂の感触が足の裏に伝わる。
あたしはそっと機械を脱いだ。
体を伸ばすと、潮風が体に入って来る。穏やかな波にそっと足をつけた。とても冷たい。
初めての海。テレビの中にしかなかった海。
あたしはさらに進んだ。本当に冷たくて気持ちいい。
全身に海を感じた。
もうそろそろ時間だ。あれを着ていないと転送してもらえない。
海から上がって機械のところに行くと、一人の男性がそれを持っていた。
現地の人と話してはいけない。接触してはいけないことを忘れてあたしは詰め寄った。
「返してください。それはあたしのです」
「これが貴方のだという証拠はあるのですか?」
身につけている翻訳機のおかげで言葉は通じるけれど、この男は返す気がないようだ。
けれどもう時間だ。あれを返してもらわないとあたしは月に帰れない。
「そこに月で作られたって書いてあるでしょう?」
といってもこの男に文字が読めるわけがない。男はふしぎそうに覗き込むが疑わしそうな目で見ている。
「……では月での舞を披露します。月では夫となる男性だけに見せるものです。それをつけないとできません。返してください」
必死になって頭を下げたら、男はしぶしぶ渡して来た。すぐさま機械を装着すると、宙に浮かぶ。
約束だもの。夫となる男性だけに見せるのは嘘だけど。
あたしのキレイハナが踊る花びらの舞みたいなのを飛びながらやってみせた。花びらはないけれど、何度も真似していたから覚えてる。
ピピピ、とアラームが鳴った。帰る時間がやってきた。
ヨシノシティというところに、天から来た美しい女性の話がある。
細かいところは少しずつ違うけれど、きっとあの男はあたしのことを天女だと思ったんだろう。
月より来ぬ乙女、天へ帰りし
天女の衣かけし吉野の夕浜
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鳥居に出そう出そう出そう出そうーーーーとして忘れました。
モロ星新一まんまだから迷っていたのすら忘れてせっかくだし書き上げようってことになりました。