いらっしゃいませ。 ようこそ、「異文化の建物」へ。
お客さまがお二人、と。お二人は、どうしてこの建物へいらしたんですか? 「都会のヨスガシティに来たら、変な建物が目に入って、来てみた」なるほど、そうですか。大体この建物に来る人は、みなさん目的を持って、来てくださる方が多いんですが……。あぁ、いえ。別にどなたでも大歓迎ですよ。この建物に、足を運んできてくださるだけで、うれしいものですから。
お二人は、どちらからいらしたんですか? 緑の髪の方は……イッシュ地方! 外国じゃないですか。よくこんなところに、来ましたね。そちらの御嬢さんは? ホウエン地方! 遠いところから来て下さったんですね。
あれ、お二人はお住まいの地方は違うけれど、ご友人……ではないと。何? 「ちょうど街で歩いていて、話しかけてみたら意気投合した」と。これは何とも、不思議な縁ですね。
お二人ともどうかしましたか? 「縁」とは何か、ですか? なるほど、あまり聞きなれない言葉でしたか。何と答えるのが適切なんでしょうかね……。英語だと、おそらくbondが一番適しているでしょうか。物事の繋がりや、関わり合いについてのことを「縁」と呼ぶんですよ。
ふふっ。え、いえ。こういった会話が出来るのは、ここが「異文化の建物」だからかと思いまして。「なぜ、異文化の建物というのか」ですか? これが答えになっているかはわかりませんが、この異文化の建物は「ヨスガシティが、異なる文化を持った人々の、行きかう場所であることを象徴する建物」と言われています。
そういえばお二人は、どこからシンオウ地方に入ってきましたか? 緑さんは、ナギサシティ。御嬢さんは、キッサキシティ。キッサキは寒かったでしょう。夏とはいえ、雪も残っていたんじゃないですか? それに比べてナギサは、太陽の街と言われるほどですからね。暖かかったというか、暑かったんじゃないですか? 「海で泳いだ」いいですね。ナギサシティの海は、マサゴの浜と人気を二分するくらい人気のビーチですよ。
あれ? 何の話してましたっけ? あぁ、どこからシンオウに入ったのかということでしたね。御嬢さんの方は、トバリシティは通ってないですよね、きっと。緑さんの方はどうですか? あ、通っていない。ノモセシティの方から回っていらしたんですね。ウラヤマさんのお屋敷の方を。なるほど、それは残念ですね。お二人ともトバリにはまだ行かれていないと。それならぜひ、行かれることをおすすめしますよ。
トバリシティは、山だった場所を切り崩して作られた街なんです。そのため、他の街とはあまり交流を持たないと言われていました。「それが異文化と関係があるのか」って? もちろん、大いにありますよ。トバリシティには昔から、外からの部外者が街に来ることはありませんでした。つまり、トバリ独特の文化が形成されていったんです。
今はもうないですが、「ポケモンを食べる」というのが一番の文化ですかね。……、緑の方? 大丈夫ですか。顔真っ青ですよ。何? 「トモダチを食べるなんて、恐ろしい」まあ今の私たちはそう思いますが、昔は普通だったんではないでしょうか。こんな昔話も残っていますし。「海や川で捕まえたポケモンの、食べた後の骨をきれいにして、丁寧に水の中におくる。そうすると、ポケモンは再び肉体をつけて戻ってくるのだ」という昔話がね。これは、「おくりの泉」というトバリから近い湖で行われていたようですよ。おくりの泉には、戻りの洞窟という洞窟もあるらしくてですね、そこは冥界と繋がっている、なんて昔の人は考えていたそうですね。
まぁ、結論を言うと、この「おくりの儀式」そのものが異文化の象徴なんですよ。あれ、話が飛びすぎた? すみません、もう一度言いますか。トバリは他の街と、関わりが無かった。そしてトバリには、ポケモンを食べるという習慣があった。その文化は、他のシンオウの街にはない。ね? ほら、シンオウ地方の中で、トバリの食ポケモン文化は、異文化でしょう?
異文化というのは別に、違う地方のことだけを指すものじゃないんですよ。
近代になってヨスガには、そういった異文化を持ったトバリの人々が訪れるようになったんです。ヨスガの人々は、最初彼らの文化に驚き、そして軽蔑していました。しかし、あるときトバリの人々がポケモンを食べる前、そして食べた後にポケモンに感謝を捧げているのを見ました。生き物をいただくことへの感謝、それを大事にしている人々なのだと、知ったのです。それからは彼らを軽蔑することは少なくなっていき、異文化を否定するのではなく、受け入れることをヨスガの人たちは考えるようになったのです。
どうですか、いい話だと思いませんか?
「それで異文化の建物が建てられたのか」ですか? いえ、違います。この建物見たら分かると思うんですが、西洋風でモダンな雰囲気なことに気づきませんか? シンオウ地方の建物って西洋風な建物は、神殿以外はあまりないんですよね。まぁ例外として、ポケモンリーグなんかはありますけど、あれはポケモン協会の趣味らしいですよ。近代的なビルなんかは沢山ありますけど、いわゆる西洋の教会のような建物は、ヨスガのこの異文化の建物だけ。つまり、西洋の文化がこのシンオウに入ってきた後に、この異文化の建物は建てられたということです。
ヨスガシティは、コトブキシティと並ぶ大都市です。大都市ということはそれだけ、色々な人が行きかうということ。外国からのお客さんもヨスガには多く来ていました。イッシュ地方や、カロス地方などから来た人々は、ヨスガシティに多く滞在していたそうですね。
そこで、イッシュの人々のシンオウとは違った文化に触れたようです。イッシュに私はまだ言ったことの無いのですが、様々な人種の人々が住んでいると聞いています。そして、常に変化をしていると。シンオウ地方はどちらかというと、昔の教訓などがあちこちにある、といった特色が強いかと思われます。変化というものが起きやすいのは、シンオウでも南のほうが多そうですね。まぁそんなシンオウ地方ですが、イッシュの人々の多様な人種と民族、そして多様な考えを知り、世界は広いということを知った。
イッシュには本当に多様な考えがありますよね。二年ほど前でしたか。プラズマ団でしたっけ。イッシュでは、彼らの活動が話題になっていましたね。緑の方、今度はどうしました? 震えていらっしゃいますが……。もしかしてプラズマ団に何か嫌な思い出でも? 「そうではない、大丈夫」まぁ、それならいいのですが。ん、御嬢さんはもしかして、プラズマ団を知らないですか? まぁこっちにしてみれば、外国の話ですからそうかもしれませんね。
そのプラズマ団が何をしたのかという話なのですが、「ポケモンを人間の手から開放する」という理想を掲げ、人々からポケモンを強奪していた、というものですね。まぁ、これはある意味犯罪な気もするのですが、私はそれだけだとは思いませんでしたね。
「ポケモンを人間の手から開放する」という考えは、今までに無かった新しいものだと思うんですよね。まぁ、そのやり方は置いておいて。「ポケモンは人間が支配している」なんて、今まで私は考えたことはありませんでした。ポケモンは人間に寄り添ってくれる、対等な関係だと思っていましたから。それにもし、人間と共にいることをポケモンが不利益に思ったら、ポケモンは自ら離れていくと思いますしね。
そんな風に思っていた私ですから、プラズマ団の考えは新鮮な物でしたよ。でも結局は理想を掲げるだけで、ロケット団やギンガ団と何も変わらない、ただの迷惑な集団だったようですが。
イッシュの多様な考えの話を、していましたね。私は、プラズマ団のような考えが生まれたのは、イッシュの自由で多様性に満ちた雰囲気が影響しているのでは、と思いましたね。別に、イッシュのその特色は悪いものじゃないですよ。むしろ、もっと世界中に広がって欲しいものです。
そんなイッシュからのお客さんは、思想だけでなく、あるものをこのヨスガに残してくれたようです。
そう、それがこの「異文化の建物」です。文献によると、イッシュの人々はヨスガの人々の、異文化を受け入れるといった考えに感銘を受けたそうです。そこで、彼らにその異文化の象徴を作ることを提案した。
この建物はそういった背景で作られたものなんですよ。
あぁ、そういえば。ずっと入り口近くで、お話ししてしまいましたね。どうぞ中へ、お進みください。
どうですか、この建物は。ゴシック建築と呼ばれる、カロス地方発祥の建築様式なんです。外観から分かると思いますが、とても凝って建てられたもののようですよね。中のステンドグラスの装飾も、長い時間をかけて作られたようです。
「あのステンドグラスは何を意味しているのか」ですか? そうですね、あれはこのシンオウ地方の神話を意味しているんですよ。ステンドグラスというものは、教会にあることが多いですよね。あれは、文字の読めない庶民のために、教訓などを絵にして見せたものだと聞いたことがあります。識字率は当時で八十%を超えていたと聞きますから、その目的では作られていませんね。
あのステンドグラスが作られたのは、忘れられてしまった伝説を、思い出すためだと聞いています。
イッシュ地方には、建国神話というものがありましたよね。ええっと、二匹の龍が、兄弟となんとかっていう。「レシラムと、ゼクロム」そうです、それそれ。さすが緑の方。イッシュ出身ですものね。シンオウ地方には、建国神話ではなく、天地創造の神話があります。世界は一つのタマゴから生まれたポケモンによって生み出されたってやつです。でもこの神話、あまりシンオウの人々の中では知られていないんですね。ハクタイシティに古代のポケモン像があったり、カンナギタウンに壁画があったりするんですけど、あまり調査は進められていません。それでも、人々の生活や思想の中に宿っていると私は思っていますが。
そんな忘れられてしまった天地創造の神話。それをこの異文化の建物に来た人々に、知ってもらう。そして、再びシンオウ中に広めてほしい。そんな願いがあったと聞いています。ですからお二人も、この天地創造の神話がシンオウにあったということを、広めて下さいね。
少し話し疲れてしまいましたね。ひっきりなしに喋っていた気がします。大体私が話したいことは終わりましたので、あとはご自由に見学なさって下さい。
え? 「どうしてこんなに、色々なことを知っているか」ですか? そうですね、それには私がこの異文化の建物の管理人だ、とだけ伝えておきますね。
それでは、お二人の旅が実り多きものになることを、お祈りしています。
それでは……。
鳥居の向こう向けに書いていたんだけど、方向性がそれていったのでこっちに投稿することにしたもの。
おしゃべりな、管理人さん。