海上で美しい歌声を響かせるラプラス。人の言葉を理解し、人をその背に乗せる、優しいポケモン。
一般にそのようなイメージで語られるラプラスですが、地中海やその周辺では、船を沈め、乗っていた船員を殺して食らう魔物として恐れられていると言ったら、驚く人も多いのではないでしょうか。
魔獣ラプラスの伝承の概要は、こうです。
昼の漁は終い時、夜の漁にはまだ早い、夕暮れ時。どこからか美しい歌声が聞こえてきます。
船員たちはその歌に聞き惚れ、歌っているのは誰だろうと、歌の聞こえる方向に舵を取ります。船を進め、歌うのがラプラスであったと気付いた時にはもう遅い、船は岩礁に乗り上げ、あるいはぶつかって船腹に穴を空けて沈没し、乗っていた船員はラプラスに食われてしまう――というものです。
この伝承を見ても、温厚なラプラスのイメージには合わない、と思われる方が多いことでしょう。実際、船を沈没させる魔物の伝承は水のある場所至る所にありますが、その魔物の多くは、ブルンゲル、ドラミドロ、キバニアといった実害をもたらすポケモンをモデルに語られています。ラプラスの伝承も僅かにありますが、それも、助けてくれたラプラスをぞんざいに扱った為、報いとして嵐が来て船が沈んだ――というもので、地中海周辺の伝承のように積極的に人を襲うラプラスは、他に類を見ません。
何故こんなラプラスの伝承が、地中海には伝わっているのでしょうか。これには、ラプラスの個体数が一時期、絶滅寸前まで減少したことと、深い関わりがあるのです。
元々、ラプラスが群れる場所は、浅瀬や暗礁の多い航海の難所として知られていました。ラプラスは水深の比較的浅い場所で小魚などを食べて暮らしているからだとか、背中に乗せる人を探しているのだとか言われていますが、理由はよく分かっていません。ともかく、昔の船乗りにとって、ラプラスが多く水面から首を出している所というのは、舵に気をつけ、慎重に通るか、避けるかする場所でした。しかし同時に、舵をもし誤っても大丈夫な場所でもありました。万が一船が難破しても、近くにいるラプラスたちが、大抵の場合、船から放り出された人々を救い上げ、助けてくれたからです。
しかし、ラプラスはその賢さ、容姿の美しさから、貴族たちのステータスシンボルとされ、乱獲が進み、個体数を著しく減らしました。かつて危険な海底地形の目印となっていたラプラスたちはその姿を見せなくなり、目印を失った船が数多、難所を越えられずに難破しました。そんな船に、かつてあったラプラスたちの助けの手も、もう差し伸べられません。ラプラスたちの姿が消えた海で、どこからか、乱獲の手を逃れたラプラスの歌声だけが聞こえてきます。そのような状況が、地中海周辺に伝わる魔獣ラプラスの伝承を作り出していったのです。
また、ラプラスの乱獲で一番功績を上げていたのは、ラプラスに助けられていたはずの船乗りたちでした。魔獣ラプラスは、ラプラスの生態でも暗礁でもなく、ラプラスを裏切り、あわや絶滅というところまで追い込んだ人々の罪悪感の産物だったのではないでしょうか。
幸い、有志の人々の手によって、ラプラスの個体数は回復の兆しを見せています。昔のようにラプラスが海に群れる日が戻れば、その時、魔獣ラプラスは静かに、人々の記憶から消えていくことでしょう。
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ローレライが実はパンプジン説とか、ハロウィンの日にバケッチャの交換会が行われるとか、愛しい人を亡くした悲しみから中身をくり抜いたカボチャを使って降霊しようとする話とか、聞いたなら呪われる動画の正体はパンプジンの歌だとか、あの山の正体は実は超巨大なパンプジンなんですとか、色々考えた結果、こうなりました。書いてもいいのよ(他力本願)。