1月13日 参加者(敬称略):(砂糖水, 殻, αkuro, 門森 ぬる, 音色)
※全員分写したつもりですが、お名前が抜けている方がおられましたらお知らせ下さい。その他にも何かお気付きになりましたら修正して下さって構いません。(筆記者・砂糖水)
前回の続きです。
完結したのよ。
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「まあいいじゃないか、とりあえずクビは免れたし」
しかしペロッパフはなおも納得できないのかそっぽを向く。あとでうまいもんでも食わせてやるから、といっても機嫌が直らない。まったく。機嫌直せよとペロッパフをつついていると、
「さっきはごめんねー」
でた、デデンネ女。ぴくん、とペロッパフが反応する。警戒でもしてるのか。そういえば預けた時変なことされなかっただろうか。
「お詫びにこれあげる」
ぶすり。なにかを頭に刺される。
「それね、アンテナ。感度がいいんだ」
なるほど、分かりやすい。そうか、だからこんなにも、理解が容易い、とても、とっても。それはきっと月からのエックス線。
「そう。ヘドロが、ベトベターに進化するように」
電波を浴びて、俺もこうして、ようやく本物のトレーナーに。
「メガシンカできるね!」
「できるか!」
俺は、アンテナを叩き折る。なんのことはない、ただの玩具だった。
「あら、もったいない。それとも、こっちの方がよかった?」
女が何やら白い粉の入った袋をチラつかせる。
「あなたはどうしてそんな風に、俺にちょっかいをかけるんですか」
抱えていた雑誌を握り締める。表紙に「バイトから正社員までの道」の煽り文句が踊る求人誌。
「そりゃ、旅館の従業員としちゃ、新米だし、ドジもしますけど」
「あはは、マジメだね」
女は俺の手に握る物をちらりと見て、
「君、就職したいの? それともトレーナーになりたいんだっけ」
「……一応、トレーナーっすけど」
「ふーん。じゃあ、あの目つきの悪い男の人に、話したら」
女の言葉が少し気になる。しかし今はそんなことより、俺も仕事に戻らなくてはならないのだが。
「……つまんないの。なんか面白いこと起きないかな」
女との別れ際、そんなつぶやきが聞こえた。
◆ ◆ ◆
俺はその後、女将さんから睨まれることも多かったがなんとか仕事を続けることができていた。ペロッパフは相変わらずちょこちょこ逃げていたが、最近はすぐに捕まえられる所にいてくれる。奴なりに反省したらしい。
ある夜、その日も俺はペロッパフを追いかけ、旅館内を走り回っていた。もうガメノデスは出さないと心に誓っている。
「どこいったアイツ……」
きょろきょろと辺りを見回すと、後ろから声をかけられた。
「な、なあ」
振り向くと、あの青年だった。風呂上がりのようで浴衣を着ていて、申し訳なさそうな目をしたペロッパフを抱いている。
「こいつ、迷っちゃったみたいでさ」
「あ、ありがとうございます!」
青年からペロッパフを受けとる。
「……この間は悪かったな」
「え?」
「俺がもう少し強く言っていれば、君が怒られることもなかっただろ?」
「……もういいんです、クビは免れましたし」
「そうか……」
軽い沈黙。なんだこの状況。ペロッパフはいつの間にか寝息をたてている。そこで俺はあのデデンネ女の言葉を思い出した。
「あの、この間の男性って、どんな方なんですか?」
「え、アイツ? そうだな……あんな見た目だけど、すごく強いトレーナーなんだ」
「えっ」
マジか。意外だ。人は見かけによらないってこういうことなのか。
「強くて、かっこよくて、優しくて……」
そう言う青年の頬は何故か少しだけ赤い。のぼせたのか、それとも。
「……それ、ノロケですか?」
「えっ」
「えっ」
冗談のつもりで言ったのに、青年はすごく驚いた顔をしている。
「い、いや、違うからな!? そんなんじゃないからな!?」
「は、はい……すみません」
何故だか知らないが凄く焦っている。腕の中のペロッパフがくすくす笑っているのは気のせいか。
「おーい、セイジー」
向こうから浴衣姿のあの目付きの悪い男がやってきた。
「ジュン……! お前、今の話聞いてたか!?」
「あ? なんのことだ」
「……じゃ、じゃあ俺達はこれで!」
ふたりが去っていったあと、廊下にポツンと残された俺。ペロッパフはまた眠っていた。
とりあえず戻ろう。ペロッパフをボールに戻し、ポケットにしまいながら振り返る。しかし、
「あ」
しまう際にボールがポケットの縁に引っかかり、落としてしまった。慌てて拾おうとするが踵が当たり、転がって行く。ボールはそのまま転がり続け、不幸にも突き当たりの階段を下っていった。
俺の視界から消えたボールを追いかけようと慌てて階段を覗き込むが、既にボールはコーンコーンと高い音を鳴らしながら階段を下って行ってしまっていた。流石にここで重量級のガメノデスを追いかけろと出すわけにはいかない。多分その前にあいつが階段を突き破って俺の給料がカットされるだけだ。もうこれ以上ここで騒動を出すわけにはいかない。
ふとボールの転がる音が止んだような気がして、これはうまく下まで落ちて止まったんじゃないかという期待を胸に俺もその先へ降りていく。そういえばこの下って何だっけな。滅多に入ったことがないのは確かだし、物でもおいているんだろうか。かといって女将に「入るんじゃないよ」と言われたような記憶もない。開かずの間とかそんな物騒なもんがあるわけじゃないだろうな、とか不意に不吉な妄想をして背筋がぞわりとする。嫌な妄想を取っ払うかのように頭を振って俺は暗い階段の先へ進もうとして……その先で何かが光を反射したことに気が付いた。
その刹那、俺の頬をかすめて何かが俺の背後に飛んで行った。思わず仰け反った拍子に階段を踏み外し、俺は盛大に足をくじく格好で残りの階段を転げ落ちた。間の抜けた悲鳴を上げられれば良かったんだろうが、一瞬の恐怖にすべてを持っていかれて情けないことに声なんて出せずじまい。背中を強く打つ音で我に返ると同時に階段の終着点についたと悟る。幸い、目と鼻の先にペロッパフのボールは存在していた。掴み取るように確保してココが現実であるかどうかを確かめる。よかった、どうやらまだ生きているらしい。
安堵の息をつきかけたとき、今度は足元に鈍い音がして何かが刺さった。思わず口から悲鳴の一端が漏れる。ぎろりと刺さった刀身の、柄のあたりにある目が俺を睨み付けた。なんだよ、なんでこんなところにヒトツキなんかがいるんだよ!戻ろうにも退路は目玉付きの刀剣がご丁寧に塞ぐように刺さっているおかげで逃げようにも逃げられない。ずるっと足元から抜けた剣が浮遊する。切っ先がきちっと俺の方を向いた。あ、これ、やべぇわ。半ば無我夢中で投げつけたのは寝ているペロッパフではなくがたいのいいしゅうごうポケモンの方だった。軽い地響きとともに登場したそいつは今にも振り下ろそうとしていた刃ををバシッとはじきかえし、すばやくゴーストの手をきゅっと結んで戦闘不能にした。こいつ俺より冷静なんじゃねーの。それとも7つも集合しているから客観的なのか。とにかく安堵の息がこれでつける、とか思った矢先だった。
メリメリ、という嫌な音がしていた。何の音だと思えばさっきのヒトツキが壁紙を破ろうと…いやまて、ヒトツキを道具扱いしてんの俺のガメノデスじゃねぇか!お前何やってんの!俺の思惑とは別に得物を手に入れたガメノデスは上機嫌に壁を切りつけたりしている。お前そういうキャラじゃないだろ!それとも7つもいるうちのどいつかの気まぐれか?どっちにしたってやめさせる他ない。ボールに戻そうとした時、俺はふと周りに違和感を覚えた。あれ、さっきまであった階段無くね?
え、あれ、おかしいよな。俺確かに階段にペロッパフのボールを落として、それを追いかけて行って、何が起こったんだ。何で消えてるんだ。ゲームじゃあるまいし。壁だか石の中だかにいるとかそういう状況とかじゃないだろうな?笑えねぇよおい。じゃあ何か?ガメノデスの行動は本能的にここから出ようとしているからとか?……マジだったらどうしよう。手持ちに生憎エスパーだのゴーストだのこういう環境に強そうなポケモンがいないことを悔やむ。妖精って超常現象的に強いのか?肝心のわたあめは外の出来事なんか知らずにぐぅぐぅボールの中でいびきをかいていた。たたき起こしてもいいが今は逆にその様子を癒しとしてとらえることにした。じゃなきゃ心が折れる。
俺の様子に気づいたのか、ガメノデスがどうしようかという感じで俺の方を窺がっている。持っているヒトツキは気絶しているのかそれとも諦めたのか、特に抵抗する様子は見せていない。もういいよ、お前を信じるよ。三人寄れば文殊の知恵なら、お前7匹もいるし圧倒的に俺よりマシだろ。そんな意味合いを込めて俺は手をひらひらさせる。要するにお前の自由にやれって事だ。伝わったのか、ガメノデスはまた壁……もう境界が曖昧でそこが本当に壁なのかどうかもちょっとわからない場所にまたヒトツキをぐさぐさやり始めた。俺はひたすら寝ているペロッパフを眺めて癒されることにした。ホント此奴のんきだな。羨ましい。
何回付いたか分からないため息を繰り返そうとした時、ふいにくらいその場所に光が差し込んだ。顔を上げればガメノデスの手元に亀裂がはしっている。これはもしかして出られるんじゃないのか。俺は疲れの抜けない足を奮い起こして立ち上がる。ぽいっとヒトツキを投げ捨てたガメノデスも意図を察したらしい。俺が突進するのと同時にあいつも亀裂に思いっきり爪を振り下ろした。ぱぁっと白い光が俺たちを包み――――。
派手に紙の破ける音がして投げ出されたそこは広い宴会場で、倒れ込む俺の目に映ったのは、たくさんの人と、整然と並べられた料理と、そして、こめかみにくっきりと欠陥が浮き出た女将の顔だった。これは、もう、取り返しがつかないな。自分のアルバイト生命が終わったことを確信しながら、俺はぶち破った障子と一緒にその場の空気を台無しにした。
◆ ◆ ◆
「仏の顔も三度までって知ってるかい?」
アンタのこれまでの頑張りは知っているよ。でもねぇ、手持ちのポケモンの脱走、備品の損傷、そしてくつろいでいたお客様の妨害。これだけそろうとうちの名前に傷がついちまうよ。そもそも、仕事をほっぽりだして何処に行っていたんだい?……聞いても答えなさそうだね。サボり癖があるってわけじゃないのは知っているけどもうこれっきりだよ。
女将さんはそう言って俺の目の前に封筒を一枚差し出した。
「これまでのあんたの働き分の給料だよ。……この意味は分かるね?」
もううちにはかかわらないでおくれ。その言葉に俺は素直に返事をした。正直、覚悟はしていたし、分かってはいたけれどこうやって面と向かって言葉にされると堪えた。
電波な女性にもあの目付きの悪い男と青年の二人組にももう会うことはないだろう。ボールを握りしめて、俺は給料の入った封筒の中に入っていた解雇通知と書かれた紙を眺める。この旅館で働いていたという事は履歴書に書かないでほしいとあった。やれやれ、"またか"。この調子だと当面、履歴書が真っ白なのは変わりそうにない。
「何で俺は働く先働く先であんな騒動に巻き込まれるんだろうな?」
ボールの中のペロッパフは、知ったこっちゃないとばかりに昼寝をしていた。
荷物をまとめて旅館をあとにする。と、いつかの女の子が声をかけてくる。
「ペロッパフくん、お出かけ? あ、トレーナーに復帰するんだ」
鈴を転がすような、可愛らしい声。少し胸が切ない。
「いえ、別に。ただやめただけっすよ。給料も入ったし」
女の子がニヤリとする。なんだか嫌味たらしい。
「デデンネ姉さんはー、たしか12年目」
「……は?」
「そんであたしは3年目。君は?」
12年、3年、一体彼女はなんのことを言ってるんだろうか。
「はぁ、あたしもそろそろバイト再開しないとなー。なんでか、続かないんだよねーあたし」
女の子はそう言い残して旅館へ入っていった。この子とも、もう会うことはないかもしれない。
俺はというと、この町の求人誌を握りしめて、歩き始める。いつか、トレーナーとしてきちんと実力を示せる、その日まで、歩き続ける。
ぱふ。
「あ、待て!」
完
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ということで完結しました。イエイ
参加してくださった皆様、ほんっとうにありがとうございました!そしてお疲れ様でした!
特に音色さん、今回ほぼお任せして完結までもっていっていただいてありがとうございました。あとほんといろいろすみません( ※備考:今日の進捗:4,822字 内音色さん担当:2,756字
それから殻さんにはかなりたくさんのご意見いただきました。ありがとうございました!全然生かせなくてすみませんでした…技量不足です…。あと蛇足とか言ってましたが、ラストの付け足し部分素晴らしいです。ありがとうございます。
あきはばら博士さんにもたくさんアドバイスいただきました。おかげでなんとか完結できました。ありがとうございました!
発起人のるた…るなっs…流月さん、楽しい企画始めてくれてありがとうございました。背中押した割に役立てなくてごめんなさい。
もーりーこと門森 ぬるさんには毎回ログ取りやっていただきました。まじありがとうございました。
αkuroさんにはいつも大いに引っ掻き回していただき、ストーリーの原動力になっていました。それに毎回参加していただきありがとうございました!
それからラクダさん、クーウィさん、WKさん、逆行さん、 (°○。。(`◇´)。。○°)さん、参加してくださってありがとうございました!
ちなみに、αkuroさんがこの話に登場するキャラクター、目付き悪男と青年のスピンオフを製作中ということです!皆様お楽しみに!
皆様もスピンオフなりif話なり好きに書いていいのよ。むしろ書いて!!!!!
ここまで読んでくださった方、ありがとうございました。
今回のリレー小説に携わってくださった皆様に心よりの感謝を。