【とある日の臨時ニュースより】
「番組を中断してニュースをお伝えします。13時45分現在、ライモンシティ東の16番道路にてゾロアの大量発生が確認されました。ゾロアは大変珍しいポケモンであり、これまでに野生での生息が観測されたことは極めて稀なことです。専門家はこの状況を何らかの異常気象の兆候であろうとコメントしており――」
【16番道路に居合わせた若者のコメント】
「いやあ、びっくりしましたよ。俺、ほぼ毎日ここでサイクリングしてるんですけど。ついさっきやって来たらゾロアが沢山いるんだもん、マジ驚きましたよ。テレビとか雑誌とか、図鑑とかなら見たことあるけど本物見るのは初めてです。一匹捕まえようかと思ったけど生憎ボールが無くて。いやー、もったいないことしたな」
【現場に飛んできたというトレーナーへのインタビューより】
「ニュース見て急いで来ましたよ!だってゾロアですよ、こんな機会逃したらもう手に入らないかもしれないじゃないですか。いつ捕まえるの?今でしょ、って奴です。はは、古いですかね。レベルはあまり高くないみたいですが、これから頑張って育てて強いゾロアークにします。頑張ろうな、ゾロア!!」
【ライモン警察16番道路派出所勤務警官のコメント】
「本当、何なんでしょうかね。気がついたらゾロアが沢山現れていまして……まあ、ゾロアとは言え野生のポケモンが大量発生するのはそこまで珍しいことでも無いから静観しようと思ったんですけど、見てみると何だか様子がおかしくてですね。どうも、生まれたばかりみたいなんですよ。みんな小さくて、危うい感じ。それならどこかに母親のゾロアークがいるはずなんですがね……世の中わかりませんよ。それよりも、駆けつけたトレーナーたちの整備に忙しくて……はあ……」
【ワンダーブリッジ ミネズミショー開催人のコメント】
「あら、また16番道路で大量発生が?最近多いですねえ。ええ、先月はフカマルとモノズ、その先々月はピンプクとロトム、さらにその前の月は……各地方でいわゆる「御三家」と呼ばれるポケモンでしたっけ?……まあ、やけに珍しいポケモンたちがたくさん出たって話じゃないですか。ええ、私も見に行きましたよ。ミズゴロウがいっぱいいて可愛かったです。私のミネズミには遠く及びませんが!…………失礼しました。それはともかく、一体どういうことなのでしょうかね?」
【3番道路育て屋夫婦の会話より】
「じいさん、今日もあの子は来たかい?」
「あの子……と言うと、メタモンの子かね?」
「そうそう。メタモンと、色々な珍しいポケモンを預けては自転車に乗って去っていき、と思ったらまたすぐにやってくるあの子じゃよ」
「勿論来たともさ。今はどこで手に入れたのか、ゾロアークを預けてるからの。今日も何十個というタマゴを次々に引き取っては自転車に飛び乗っておるよ」
「若いねえ……あの元気はどこから来るのか……」
「そうじゃの……しかしそれにしても、あんなにタマゴを持って行ってどうするつもりなんじゃろうか。全部孵化させてポケモン牧場でも作るつもりなのかの」
「確かに、じいさんの言うとおり。そう言われると不思議じゃ……色々な種類のタマゴを持っていくからゾロアが特別好きというわけでも無さそうじゃしの」
【ウルガモス新聞社会面・ホドモエ大学教授のコメント】
「近年大きな問題となっている、ポケモン育成に異常なまで執着するポケモントレーナー。巷では『廃トレーナー』『廃人』などと呼ばれているらしい。彼らはポケモンを育てることに熱中するあまり、ポケモンをポケモンと思わなくなっているという。薬物による能力増強は当たり前、傷ついてもすぐに回復させずに無理なバトルを行う、野生のポケモンを無闇矢鱈と攻撃する……などなど。
中でも問題なのが、弱いと見なしたポケモンを捨てることだ。そのポケモンが捕まえてすぐのもので、捕まえたその場所に返すというのならばまだ良い。しかし、中途半端に育ってしまったポケモンが弱い野生のポケモンが生息している土地に放たれたり、違う地方のポケモンが持ち込まれたりすると生態系に影響が出てしまう。また、生まれたばかりのポケモンを多く捨てていくトレーナーもいるという。まだ自分の力だけでは生活出来ない、幼い命を無責任に棄てていくだなんて何を考えているのだろうか。
とはいえ、ここ、イッシュではそのように捨てられたポケモンが多くいるという情報はまだほとんど聞かない。是非、これからもこの状態を保っていきたいものだ。」
【バトルサブウェイに通うエリートトレーナーの日記より】
「今日もあの子が来た。今月はどうやらゾロアらしい。一日に何十匹もゾロアを見せてくるのはそろそろ勘弁して欲しい。好きでやっているとは言え頭痛がしてくるし、ゾロアばかりを見ているとゲシュタルト崩壊を起こしそうになる。ゾロアゾロアゾロア……ポチエナの一匹でも混ぜてくればいいのに。
それは置いとくとして、あの子はあの大量のゾロアを一体どうしているのだろう?フカマルとかピンプクとかヒトカゲとかナエトルとか、今まで山ほど連れてきたポケモンもそうだけど、ボックスにはとてもじゃないけど収まりきらないんじゃないのか。前も一度気になって本人に聞いてみたんだけど、『東の方に』という謎の答えが返ってきてさっぱりわからなかった。カントーにはポケモンを売る組織とかもいたみたいだし、悪いことに使ってないといいんだけど……」
【16番道路にある自動販売機の補充に来た男性のコメント】
「え?大量発生?またなんか出たの?へー。ゾロア。ま、多少は熱心なポケモンマニアとかトレーナーとかが来ると思うけどすぐ収まるっしょ。ん?知らないの?ほら、半年くらい前からこの辺で珍しいポケモンの大量発生がちょいちょいあるじゃん。でもさ、あれ、一晩明けるとそのポケモンたちきれいさっぱりいなくなってるんだよね。少なくなるとかじゃなくて、跡形も無く。俺もこの前、チコリータがいっぱいいたの見たんだけどその次の日には何もいなくなっててさ、ユニランとかチラーミィとか、いつも通り。まあポケモンのすることだからよくわからないけど、大丈夫なんじゃね?今回も」
【某ポケモン愛護団体パンフレットより抜粋】
「(前略)……であるからして、我々は『廃人』と呼ばれるようなトレーナーからポケモンを守らなくてはいけません。彼らは、ポケモンをより深く傷つければ傷つけるほど多くの経験値が手に入るなどという、狂った論理に基づいて行動しています。一部のトレーナーは、ポケモンを殺すことで経験値を最大まで引き出そうとしています。これは決して許してはいけない行為です。こんな考えを持った人間がポケモントレーナーをしているだなんて、おかしいにも程が……(後略)」
【とある日のニュースより】
「さて、次のニュースです。今日の午後2時頃に16番道路にて観測されたゾロアの大量発生ですが、23時現在、その姿は一切見られなくなりました。夕方には未だ多くのゾロアがいたという情報ですが、既に一匹残らず消えてしまったということです。同所では近日同じような事象が続いているため、研究者たちが調査を進める方針で――」
【ライモンシティ在住のポケモントレーナーのブログより】
「昨日は大量発生目当てのトレーナーたちがいて鬱陶しかったけど、全部いなくなったってことで今日も16番道路でトレーニング。勿論タブンネ狙い。でも、普通なら草むらでのんきにふらふらしてるタブンネたちの様子がちょっと変だった。何て言うんだろう、何かに怯えてそうな感じ。最初は、いつも攻撃する俺のこと怖がってるのかなと思ったけど急過ぎるし、俺を気にしてるわけじゃないっぽい。むしろ俺に近づいてきて、あたりを伺うような動きしてた。夜の間に何かあったのかな?それとも、昨日たくさん人が来て疲れてるのだろうか。ちょっとかわいそうになったから、今日はトレーニングを早めに切り上げてきた。
追記・そう言えば、あの草むらに行ったとたんにハーデリアが吠えまくって大変だった。こんなのは、うっかりボールから出したまま肉屋の前を通った時以来だ。恥ずかしいからやめてほしい。野生のレパルダスが馬鹿にするような顔でこっちを見ていた。
【サブウェイマスターたちの会話より】
「そう言えばクダリ、先月のちょうど今頃、すぐ近くでゾロアが大量発生したみたいですね」
「ああ、そんなこともあったね!でもすぐにいなくなっちゃったんでしょ?」
「そうでございます。次の日がお休みだったので見に行きたいと思ったのですが残念でしたね」
「あそこ、色々珍しいポケモンの大量発生があるみたいなのに、ボクたちはいつまで経っても見れない!つまらない!」
「野生では普通姿を見られない、アチャモやツタージャもいたという話です。是非みたかったですし……それに、恥ずかしながら私はゾロアに生でお目にかかったことが無いもので。ニュースを聞いて、とても行きたかったのです」
「え?何言ってるのノボリ兄さん。ゾロアならこの前たくさん見れたじゃない」
「はい?あなたこそ何をおっしゃるのですか、そもそも最近私たちは野生のポケモンすら目にしていませんよ」
「うん。確かに野生じゃないけどさ。でも見てるじゃん。ゾロアも、フカマルも、モノズも、ピンプクも、ロトムも。あと、フシギダネとか、ワニノコとか、ポッチャマとかも。全部全部、あそこで大量発生したものは見れるよ?」
「……ちょっと意味がわからないのですが……すいませんクダリ、もう少し細かく説明してくださいまし」
「だーかーらー、ここで見れるんだって!兄さんだって一緒にいたじゃない!」
「ここ……と言うと、バトルサブウェイですか?」
「うん!最近、よくボクたちまでたどり着く強い子!あの子が全部連れてきてくれる!」
「強い子、というとトウヤ様ですね。確かに彼はガブリアスやラッキー、ゾロアークなどは連れてきますがそれは進化系ですし、一匹じゃないですか」
「違うよ、そっちじゃない。バトルするポケモンじゃなくって、トウヤくんの後ろの方」
「後ろ?車両には我々と、トウヤ様と、ポケモンしかいないはずですが」
「車両じゃなくって……もっと後ろ。窓から見えるでしょ?地下鉄が走る、真っ暗な闇の中。みんないたよ」
「……どういうことですか?」
「大量発生したっていうポケモンたちがね、みんな、暗闇にいて」
「トウヤくんのこと、じっと見てた」