ジョウト地方のアサギシティへと続く道路を走る、一台の軽トラックの荷台の上。
そこで私は荷物が落ちないように気を配りつつ、同じく荷物番を任された、手持ちでもある相棒のゴーリキーに声を掛けた。
「すまない、ゴーリキー。片腕のお前にまで無理をさせてしまって。」
左腕で気にするな、とばかりに肩に軽く手をおいて、彼はニッと笑う。右腕があった場所には、ここからでもその大きな傷跡が見えた。
その傷跡を見てから、私は自らの右足を見る。あらぬ方向に曲がり、治療の施しようが無くなったそれを見て、深く、ため息を吐いた。
私の名は、氷雨乃愛(ひさめ のあ)。20才。シンオウ地方のヨスガシティ生まれで育ちもヨスガの生粋のヨスガっ子だ。
小さい頃はホウエン地方に住んでいて、私の2人の妹は、ホウエンのカナズミシティ出身だ。トレーナーズスクールに通っていたが、父の転勤で生まれ故郷に戻り、高校を卒業して半年間はそちらで過ごしていたが、ここ2年半は、ホウエンとジョウトを仕事で転々としていた。
このゴーリキーとは、仕事の都合でフエンタウンに行く途中の洞窟で出会った。まだその頃の彼はワンリキーで両腕はちゃんとあったし、私の足もこんな風にはなっていなかったのだが、その日、ホウエンを襲った大きな地震の影響で、洞窟の岩壁が突如として崩れ落ちたのだ。
その時とっさに身を守ってくれたのが、今目の前にいる彼なのだが、彼はその時に右腕を失くし、私は右足を悪くしてうまく歩けなくなった。
「………なあゴーリキー。お前さ。義手を付けようとか思わないの?」
「?」
「………必要無いって顔してんな、お前。私は見てて辛いよ。」
彼は、とても勇敢だった。右腕を失くしたのにもかかわらず、洞窟からうまく歩けなくなった私をその小さな体で背負い、自力で山を越えてフエンのポケモンセンターにまで運んでくれたのだ。
だが私はその時の記憶は無く、起きた時にはポケモンセンターの入院患者用のベッドの上だった。ワンリキーがここまで運んでくれたことも、私をかばって右腕を失くしたことも、私自身も右足を悪くしたのも、その時に知ったのだ。
だからこそ私は、彼のその無くなった腕をなんとかしたかった。だから、手持ちにした今も、義手を付けようよ、と言っても、彼は首を横に振るだけ。
そして話を逸らすかのように、右足は平気なのかとか、何か手伝おうか、とか気に掛けてくれるのだ。
それはいまこの時もそうで、ガタガタと揺れるトラクターの上に座っているのもあり、足は痛まないのか、と、気に掛けてくる。やはりこんな時でも、私のことを第一に考えてくれるんだなぁと思うと、嬉しい反面、やはり申し訳ないと思う。
「さて、そろそろ街に着く頃かな。……ゴーリキー。義手、付けるかどうかちゃんと考えてよ。」
それでも彼は、ただ笑うだけだった。その姿に私は苦笑いを浮かべて、ポシェットからタバコを取り出して火を付けた。
紫煙が燻る先の1月の青い寒空を、ただ眺めることしか、いまはやることがなかった。
「いい天気だねぇ。」
のんきに呟いた私の言葉も、煙りとなって寒空に溶けた気がした。
*
ご無沙汰してます。NOAHです。Twitterで586さんからトレーナー設定を書いて頂いてから、書きたい意欲が沸いてましたが空回りしてました。
そしてそんななかふと浮かんだのが、片腕で甲斐甲斐しくトレーナーのお世話をするゴーリキー。短めですがなんとか形になりました。
かくとうタイプのポケモンをメインにしたのもしかしたら始めてかもしれないです……。
.