日の下に語る。親愛なる我が友へ。
育ちを共にする友は数あれど、親愛を抱く友はただひとり。
開けた崖上に身を置き続け、常日頃より夢を追う。君を私は快く思っている。
日の出から日の入りまで、日長一日日に当たり続けるその故を私が聞けば君は言う。
「僕はあの太陽のように、大きく熱くなりたいんだ」
古くよりある太陽信仰。かと思ったのだがさにあらず。
「まぶしい太陽のような方を、あの子は愛すると言った」
恋慕である。話す君のなんと嬉しそうなことよ。意中の相手の好みを知れたのであれば、さもありなん。
しかしどこでそれを知ったのかと、思い尋ねたその返事。
「女性たちの会話に聞き耳を立てた」
些か不躾である。が、心底から表れる戯言の健やかなこと。その無邪気に私は惹かれ、君の助けになりたいと思えばこそ、君は親愛なる友となった。
君は太陽に焦がれ、恋に焦がれる。愛しのあの子のため、君は今日も踊り続ける。
「どうしたら太陽のようになれるだろう」
傍目にはふざけた、あるいは滑稽な身の程知らず。しかし君は心底から考えていた。
大きく、熱く、明るく。
それを太陽から学ばんと、君は太陽を目の中に納め続けた。
しかし純情は天に通じず、陽光は目を焼き肌を乾かす。いつしか目は闇を深くし毛並みは細く短く痩せていった。
君の行いを皆は不思議に思う。
「太陽のような、と言ったのに。太陽そのものじゃないのに」
「あんな様子で何を学べるやら。とんだ勘違い野郎だ」
笑う者もいた。愚者が自傷を尊んでいる、と。
しかし私は笑うまい。
「僕は太陽のように輝き、そしてみんなを照らそう。いつかあの子も美しく花咲くことがあるように」
皆のために、あの子のためにと恥ずかしげも無く話す、その実直に心惹かれた私には、君を滑稽などと笑えはしない。
屈託なく朗らかな君であれば、その輝きもひとしおであろう。私はあの子ではないけれど、君に照らされ咲く花の一輪となろう。
皆に知られる君の噂はついぞ発端に伝わった。太陽を眺め続けて痩せ細った君にあの子は言う。
「そんなに太陽を見つめていては、夜の闇を深くしてしまうわ」
笑わず、あの子は君を気遣う。
「時には陰に目を向け闇を見ないと。世の中は明るいばかりではないでしょう」
「僕が、夜の闇を照らそう。暗い夜道に迷わないように、見えるうちに太陽から輝きを学び取るんだ」
実直は時に愚直。あの子を前に君は大きな口を利く。
「それなら、夜にまた会いましょう」
頑なな君を呆れるか嘲るか、少しだけあの子は笑った。
その夜。
太陽が去った後、君は立ち竦んでいた。
「真っ暗だ。何も見えない」
陽射しに焼かれた目は夜の闇の深さを見る。日の入りに眠り日の出に目覚める生活は、君に夜の暗さを忘れさせていた。
「夜がこんなに暗いなんて。太陽から輝くことを学べなかったら、こんな思いをするなんて」
「ほうら、御覧なさい。昼に慣れきった目ではこの程度の夜も見通せない」
声を聞いて君はあの子に気づく。
「この程度でも、僕の目は閉じられたままのように見える。君の目には何が見えるんだい?」
「この夜を照らすものが、空に見える」
あの子は宵闇の中に佇み空を見上げた。言われて君も空を探す。
「世の中は明るいばかりでなく、しかし暗いばかりでもないわ。昼に太陽があるように、暗い夜にも」
瞬く星々に並んで、半円が夜空にあった。
「そう。そうだ。夜には夜に輝く月がある」
月明かりを目に写し君は思い出す。しかし陽射しに焼かれた君の目は月夜でさえもまだ暗い。
「だけど、しかし世を照らすには些か暗くあるけども」
「太陽を目が覚えてしまってはね。だけど今夜に至るまで、あなたは夜の暗さと明るさをどれだけ感じていたかしら」
月を見ながらあの子は言う。
「私は月が好き」
うすら暗い半ばの光の下、あの子の姿が夜に紛れゆく。
「夜の闇の中に輝き、ささやかに太陽を伝える月が」
それは君の目が太陽に焼かれていたからでなく。
「月のようになりたいとさえ、私は思っている」
月よりなおささやかに、あの子は輝いていた。
「だから私は、太陽のような方を愛するの」
今、あの子の目は赤く染まっていた。
あの子は花ではなかった。照らされてただ咲き誇る花でなく、照らされてこそ輝く月であった。
「僕は、君を輝かせる太陽になりたい」
君の目はあの子の輝きを見ていた。
「なら私は、あなたの輝きを伝える月になりましょう」
参った。
私ではあの子に敵わない。
しかし私は叶わずとも、君の想いが叶わぬ道理があるものか。
我が想いの花は咲かずとも君の輝きに映える草木であろう。君に照らされ強くあり、君の想いを応援しよう。
親愛なる我が友のために。
満ちゆく月の下、淡くささやかに光がふたつ、夜風にそよぐ草の葉ひとつ。
月の下に草語る。