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  [No.3244] [日下草語り] 投稿者:max   投稿日:2014/04/06(Sun) 23:07:11   142clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:リーフィア】 【エーフィ】 【ブラッキー

 日の下に語る。親愛なる我が友へ。
 育ちを共にする友は数あれど、親愛を抱く友はただひとり。
 開けた崖上に身を置き続け、常日頃より夢を追う。君を私は快く思っている。
 日の出から日の入りまで、日長一日日に当たり続けるその故を私が聞けば君は言う。
「僕はあの太陽のように、大きく熱くなりたいんだ」
 古くよりある太陽信仰。かと思ったのだがさにあらず。
「まぶしい太陽のような方を、あの子は愛すると言った」
 恋慕である。話す君のなんと嬉しそうなことよ。意中の相手の好みを知れたのであれば、さもありなん。
 しかしどこでそれを知ったのかと、思い尋ねたその返事。
「女性たちの会話に聞き耳を立てた」
 些か不躾である。が、心底から表れる戯言の健やかなこと。その無邪気に私は惹かれ、君の助けになりたいと思えばこそ、君は親愛なる友となった。

 君は太陽に焦がれ、恋に焦がれる。愛しのあの子のため、君は今日も踊り続ける。
「どうしたら太陽のようになれるだろう」
 傍目にはふざけた、あるいは滑稽な身の程知らず。しかし君は心底から考えていた。
 大きく、熱く、明るく。
 それを太陽から学ばんと、君は太陽を目の中に納め続けた。
 しかし純情は天に通じず、陽光は目を焼き肌を乾かす。いつしか目は闇を深くし毛並みは細く短く痩せていった。

 君の行いを皆は不思議に思う。
「太陽のような、と言ったのに。太陽そのものじゃないのに」
「あんな様子で何を学べるやら。とんだ勘違い野郎だ」
 笑う者もいた。愚者が自傷を尊んでいる、と。
 しかし私は笑うまい。
「僕は太陽のように輝き、そしてみんなを照らそう。いつかあの子も美しく花咲くことがあるように」
 皆のために、あの子のためにと恥ずかしげも無く話す、その実直に心惹かれた私には、君を滑稽などと笑えはしない。
 屈託なく朗らかな君であれば、その輝きもひとしおであろう。私はあの子ではないけれど、君に照らされ咲く花の一輪となろう。

 皆に知られる君の噂はついぞ発端に伝わった。太陽を眺め続けて痩せ細った君にあの子は言う。
「そんなに太陽を見つめていては、夜の闇を深くしてしまうわ」
 笑わず、あの子は君を気遣う。
「時には陰に目を向け闇を見ないと。世の中は明るいばかりではないでしょう」
「僕が、夜の闇を照らそう。暗い夜道に迷わないように、見えるうちに太陽から輝きを学び取るんだ」
 実直は時に愚直。あの子を前に君は大きな口を利く。
「それなら、夜にまた会いましょう」
 頑なな君を呆れるか嘲るか、少しだけあの子は笑った。

 その夜。
 太陽が去った後、君は立ち竦んでいた。
「真っ暗だ。何も見えない」
 陽射しに焼かれた目は夜の闇の深さを見る。日の入りに眠り日の出に目覚める生活は、君に夜の暗さを忘れさせていた。
「夜がこんなに暗いなんて。太陽から輝くことを学べなかったら、こんな思いをするなんて」
「ほうら、御覧なさい。昼に慣れきった目ではこの程度の夜も見通せない」
 声を聞いて君はあの子に気づく。
「この程度でも、僕の目は閉じられたままのように見える。君の目には何が見えるんだい?」
「この夜を照らすものが、空に見える」
 あの子は宵闇の中に佇み空を見上げた。言われて君も空を探す。
「世の中は明るいばかりでなく、しかし暗いばかりでもないわ。昼に太陽があるように、暗い夜にも」
 瞬く星々に並んで、半円が夜空にあった。
「そう。そうだ。夜には夜に輝く月がある」
 月明かりを目に写し君は思い出す。しかし陽射しに焼かれた君の目は月夜でさえもまだ暗い。
「だけど、しかし世を照らすには些か暗くあるけども」
「太陽を目が覚えてしまってはね。だけど今夜に至るまで、あなたは夜の暗さと明るさをどれだけ感じていたかしら」
 月を見ながらあの子は言う。

「私は月が好き」
 うすら暗い半ばの光の下、あの子の姿が夜に紛れゆく。
「夜の闇の中に輝き、ささやかに太陽を伝える月が」
 それは君の目が太陽に焼かれていたからでなく。
「月のようになりたいとさえ、私は思っている」
 月よりなおささやかに、あの子は輝いていた。
「だから私は、太陽のような方を愛するの」
 今、あの子の目は赤く染まっていた。

 あの子は花ではなかった。照らされてただ咲き誇る花でなく、照らされてこそ輝く月であった。

「僕は、君を輝かせる太陽になりたい」
 君の目はあの子の輝きを見ていた。
「なら私は、あなたの輝きを伝える月になりましょう」

 参った。
 私ではあの子に敵わない。
 しかし私は叶わずとも、君の想いが叶わぬ道理があるものか。
 我が想いの花は咲かずとも君の輝きに映える草木であろう。君に照らされ強くあり、君の想いを応援しよう。
 親愛なる我が友のために。

 満ちゆく月の下、淡くささやかに光がふたつ、夜風にそよぐ草の葉ひとつ。
 月の下に草語る。