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  [No.3296] 人間の話 投稿者:GPS   投稿日:2014/06/17(Tue) 20:02:30   55clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

最初のものが生まれ、「物」と「心」が生まれました。
最初のものは、いくつもの命を作りました。
いくつもの命は、さまざまな形を成し、何種類ものポケモンとなって世界を作りました。

最初のものは、世界が生まれたので、長い眠りにつくことにしました。

しかし、眠りにつく前にもう一つ。
最初のものは、人間を作りました。

最初のものは、最初の人間に言いました。
「お前に三つの目をやろう」
最初の人間は答えました。
「目は三つもいりません」
最初の人間は言いました。
「二つの目が欲しいです。右目は過去を顧みるために。左目は未来を信じるために。それ以上見ることの無いように。他のものの心を覗かないように」

最初のものは、最初の人間に言いました。
「お前に二つの心臓をやろう」
最初の人間は答えました。
「心臓は二つもいりません」
最初の人間は言いました。
「一つの心臓が欲しいです。一人で争うことの無いように。一人で愛し合うことの無いように」

最初のものは、最初の人間に言いました。
「お前に鰓と鰭をやろう」
最初の人間は答えました。
「鰓と鰭はいりません」
最初の人間は言いました。
「海の底に眠らないように。太陽の輝きから目を背け、暗い暗い場所へと潜っていくことの無いように」

最初のものは、最初の人間に言いました。
「お前に一対の翼をやろう」
最初の人間は答えました。
「翼は一つもいりません」
最初の人間は言いました。
「大地の熱を忘れないように。空の自由に夢を見て、この世界から飛んでいくことの無いように」

最初のものは、最初の人間に言いました。
「お前に根と葉と花をやろう」
最初の人間は答えました。
「根と葉と花はいりません」
最初の人間は言いました。
「自分で完結しないように。強いものを新しいものを、美しいものを願うことをやめることの無いように」

最初のものは、最初の人間に言いました。
「お前に鋭い爪と鋭い角、鋭い牙に鋭い棘をやろう。世界の頂点に立てるような、強い力を与えよう」
最初の人間は答えました。
「強い力はいりません」
最初の人間は言いました。
「爪も角も、牙も棘も。この体にはいりません。いつか間違って、無闇に傷つけることの無いように」
最初の人間は言いました。
「その代わりにお願いします。その代わりに二本の腕を。大切な誰かを優しく抱きしめられる、右と左の腕をください」

最初のものは、最初の人間に言いました。
「お前に堅い甲羅と堅い殻、堅い鎧と堅い繭をやろう。世界のどんな辛苦にも負けぬ、丈夫な身体を授けよう」
最初の人間は答えました。
「丈夫な身体はいりません」
最初の人間は言いました。
「甲羅も殻も、鎧も繭も。この体にはいりません。魂が朽ちて腐っても、肉体だけが生き続けることの無いように」
最初の人間は言いました。
「その代わりにお願いします。その代わりに柔らかな肌を。大切な誰かを温かく受け止められる、全身を覆う肌をください」

最初のものは、最初の人間に言いました。
「お前に神の波動をやろう」
最初のものは、最初の人間の前に、十七の板を並べました。
「灼けつく熱の紅い波動か。闇に溶けゆく黒の波動か。冥府に繋がる紫苑の波動か」
最初のものは言いました。
「触れれば凍る白磁の波動か。光の加護の薄紅の波動か。毒をも凌ぐ燻銀の波動か」
最初のものは言いました。
「紅紫の波動か浅葱の波動か、瑠璃の波動か翡翠の波動か。黄土か茶褐か梔子の波動か。玉虫色でも桔梗色でも、天色でも藍色でも。孤高にうねる緋色でも。どんな波動も与えよう」
最初のものは言いました。
「好きなものを選ぶとよい」
最初の人間は答えました。
「どんな波動もいりません」
最初の人間は言いました。
「神の力はいりません」

最初のものは、最初の人間に言いました。
「それなら私と同じにしよう」
最初のものは言いました。
「どんなものにも染まらない、どんなものでも変わらない、白の力を与えよう」
最初の人間は答えました。
「いいえ、必要ありません」
最初の人間は言いました。
「それは必要ありません」

最初のものは、最初の人間に言いました。
「お前はあまりに持たなすぎる」
最初のものは言いました。
「翼も無ければ根も葉もない。鱗も鰓も、強い力も持ってない。丈夫な身体も神の波動も、白の力さえ宿さない。何かを持つ者ばかりのこの世界、お前はあまりに弱すぎる」
最初の人間は答えました。
「いいえ、それで良いのです」
最初の人間は言いました。
「何も持たない、何も宿さない。弱点も無ければ、優位に立つことも無い。長い命も華やかな生も持ち合わせない。あなたの言う通り、人間は世界で一番弱い存在になる」
最初の人間は言いました。
「しかし、何も持たない人間は、何でも持つことが出来る。世界の全てと共にいられる。全てのものと、隣で生きていくことができる」

最初のものは、最初の人間に言いました。
「それでは行くとよい、人間よ。世界の全てを仲間にする生き物よ」
最初の人間は答えました。
「わがままばかりでごめんなさい」
最初の人間は言いました。
「おやすみなさい、また会う日まで」


最初のものは眠りにつき、最初の人間は世界へと旅立ちました。
時間が回り、空間が広がり、知識と意思と感情がうねる世界に、ポケモンの世界に、人間が生まれました。

そうして長い時が過ぎた今でも、人間は全てのポケモンの隣にいるのです。


  [No.3305] 「インドぞうの話」 投稿者:GPS   投稿日:2014/06/24(Tue) 17:33:05   75clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

最初のものが眠りにつこうとして、それでもまだ、もう一度。
もう一つだけ、最初のものは作ったのです。

最初のものは言いました。
「お前はポケモンではない」
最初のものは言いました。
「かと言って、人間でも無い」
生み出されたものは尋ねました。
「それならば、私は何なのでしょうか」

最初のものは言いました。
「ライチュウの電気は10万ボルトにも達することがある」
生み出されたものは尋ねました。
「そのことと私と、一体何の関係があると言うのでしょう」
最初のものは答えました。
「お前はそれで気絶する」

最初のものは言いました。
「ゴースは薄いガス状の生命体である」
生み出されたものは尋ねました。
「そのことと私と、一体何の関係があると言うのでしょう」
最初のものは答えました。
「それに包まれてお前は2秒で倒れる」

最初のものは言いました。
「それでは行くといい、ポケモンの世界へ、ポケモンと人間が隣合って生きる世界へ」
生み出されたものは尋ねました。
「その世界で生きる、ポケモンでも無く人間でも無い私は何なのですか」
最初のものは言いました。
「お前に名を与えていなかった」
最初のものは言いました。
「お前は、インドぞう、と名乗るが良い」

最初のものは眠りにつき、インドぞうは世界へと旅立ちました。
時間が回り、空間が広がり、知識と意思と感情がうねる世界に、ポケモンの世界に、人間とポケモンが隣合って生きる世界に、インドぞうが生まれました。

インドぞうは何なのか、それはだれにもわからないままです。

だけど、今でも、インドぞうは世界の何処かにいるのです。

世界の何処かで、ライチュウの10万ボルトに気絶し、ゴースのガスで倒れているのです。


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先日、チャットでインドぞうの話になったので。