注・このオタマロの顔を一分間見つめてからssをお読みください。
ボールをおむすびころりんみたいに落っことして転がしたら、何かのポケモンにぶつかった。何だろうと思ってボールから出してみると、そいつは出てくるなり僕をあざ笑っていた。いやあざ笑っているんじゃない、元々そういう顔なのだ、オタマロというポケモンは。
はっきり言って僕はオタマロが苦手だった。当然いじめたりすることはしないけど、草むらで見かけるとなんだか微妙な気分になってそーっと通り過ぎてしまう。僕を頭ごなしに責める人はまずオタマロと一分でいいから見つめ合ってみて欲しい。あの人を小バカにしたような顔、見てるとなんとも言えない気分にならないか? 見つめ合った人全員が同じ意見を持つとは言わない。
でも十人に一人か二人くらいは、僕と同じ気分になる人は絶対にいると思う。かわいい、と思える人は本当にポケモンが大好きな人だからそれはそれとして誇っていい。
「なんでお前、よりによって僕の落としたボールの中に入っちゃうんだよー」 「しゅううう?」
仕方がないので意外にもピカチュウよりでっかいその体を持ち上げてしかってみせた。でもオタマロはマイペースに鳴くだけだ。横で成り行きを見ていたボカブにも見せてやると、ヘンな顔をした。さすが僕のボカブ、僕の気持ちをわかってくれるか。
少し考えて、逃がすことにした。いじめたいわけじゃないけど好きなわけでもないし、そんな僕が連れ歩いてもオタマロにとっていいこととは思えないからだ。草むらの中に、それでもびっくりさせないようにそっと置いて、バイバイと手を振った。
「じゃあね、もう会うことはないだろうけど元気で」 「しゅうううう!!」
バイバイと手を振って背を向けると、何かが後ろからついてくる気配がした。気のせい気のせいっ。明るくスキップをして旅に戻る。いつも通りの、僕とボカブの足音。それに確実に追走する、何かのついてくる音。僕はため息をついた。
「何でついてくるんだよー」 「しゅー?」
僕ががっくり肩を落とすと、後ろからついてきていたオタマロは、きょとんとヘンな顔を傾げていた。そんな小バカにした顔でかわいい仕草をしたってかわいくないぞ。やっぱりその顔が苦手だったので知らん顔をして歩いていると、後ろから「しゅうううううううっ!?」という叫び声が聞こえてきた。思わず振り向くと、野生のポケモンだかトレーナーだかがバトルをした後なのか、結構深い穴にさっきのオタマロが落ちていた。びっくりしているのか、オタマロは「しゅうううう!?」という独特の鳴き声を上げながらパニックを起こしている。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・よかった。これでもうついてこないな。
「ボカー・・・・・・」 「何だよボカブ! お前だってオタマロの顔を見てヘンな顔してたじゃないか!」
僕は思わずボカブに怒鳴ったが、ボカブは「でも・・・・・・」という顔をして僕の顔を見上げていた。すごく後味の悪い顔している。嫌いな味の木の実を食べた時だってこんな顔はしない。
僕のボカブは素直なやつだから、ヘンなのと思ったらヘンなのって顔をするし、嫌いな食べ物を食べればうげーって顔をする。
でも、ヘンだからっていじめたりはしないし、嫌いな食べ物だからって、露骨に蹴飛ばしてよけたりはしない。
対する僕はボカブみたいにいい奴じゃない。 でも、別に苦手だからっていじめたいとは思わない。
「ああもう!!!」
やつあたりをするみたいに僕は背負っていたリュックを地面に叩きつけて、穴の中に飛び込んだ。横幅は広いものの幸い底は深くはなく、余裕で這い上がることが出来そうだった。
・・・・・・あくまで僕なら、ってことで、〇・五メートルしかないオタマロが果たして自力で這い上がることが出来るかは疑問だけど。僕がオタマロの体を持ち上げると、オタマロは体をじたばたさせた。
「しゅうううううっ!!」 「何だよ勝手についてきた癖に、持ち上げたくらいで暴れるなよーー」
怒鳴ろうとして、オタマロのしっぽに血が滲んでいるのに気づいた。 ケガをしている。落ちた時に擦りむいたらしい。
「・・・・・・リュックの中にきずぐすりがある。手当てしてやるから、じっとしてろ」 「しゅううう?」
さっきバイバイを言ったときは全然話が通じてなかったけど、じっと顔を見て言った僕の気持ちをなんとなく察してくれたのか、暴れるのをやめて大人しくなった。でもやっぱり顔は僕のことを小バカにしている。
先にオタマロを外に出してやってから、僕は自力で踏ん張って穴から這い上がった。さっきたたきつける攻撃を喰らわせてやったリュックからきずぐすりを取り出して、地面に座り込んで膝の上にオタマロを抱え上げてやる。ずっと穴の外で待っていたボカブが心配そうに寄ってきた。僕はボカブの頭を撫でてやって、心配ないよ、と言った。
「ちょっとすりむいただけみたいだからな。すぐ元気になるさ」
きずぐすりのスプレーをオタマロのしっぽにかけてやると、キズに染みるらしく、オタマロが鳴いた。これは治療行為だからそこはガマンしてもらうしかない。
「こっからポケモンセンターは少し遠いし、ガマンしろ」 「しゅううううううっ!!」
よく見るとしっぽ以外にも至る所にすり傷を作ってたから、全体的に吹き付けてやる。ケガは大したことなさそうだけど、きずぐすりが染みたのか、オタマロはちょっとグッタリしていた。しかたがないからしばらくそのまま膝に乗せておいてやることにした。一息ついたのを見計らって腹の虫が鳴る。昼食にすることにして、リュックから買っておいたサンドイッチを取り出した。
「しゅううううっ!!」
食い物の匂いを敏感に察知したのか、オタマロが食べたそうに鳴いたが無視した。きずぐすりまで使ったのにサンドイッチまであげてたまるか。
「お前にはやらん」
きっぱりと言い捨てて、リュックからもう一つ包みを取り出す。安物だけど量だけは多いポケモンフードだ。
「お前はこっちな」
サンドイッチの包みをいったん脇に置き、手に何個かポケモンフードをあけて、オタマロの口の方に持って行った。ボカブも食べたがったので、こっちは皿に開けて置いてやる。
「安物だからってわがまま言ったら今度こそキレるぞ」 「しゅー♪」
だけどオタマロは文句を言うこともなく、僕の手のひらからポケモンフードを食っている。これだけ食欲があるなら大丈夫そうだ。安心して(少しだけだけど)僕もサンドイッチを食べ始める。
手当てを受けてついでに飯も食って、オタマロはすっかり元気になったようだった。ボカブはすっかりオタマロと仲良くなって、きれいになったしっぽにじゃれついたりしている。くそうボカブめ。お前だけは僕の気持ちをわかってくれると信じていたのに。いやちょっと違う。ボカブはオタマロの顔を見て笑っている。へんなかおーとでも言いたげだ。だけどオタマロは平然としている。いいのかお前それで。
・・・・・・なんにしても、ここまでしてしまったからには連れて行くしかなさそうだ。もう仕方がないとしても、ため息は出る。
「んじゃ、そろそろ行くか・・・・・・その前に」
僕はさっきオタマロを助けた、結構深めの穴に目を向けた。
「ったくもー!!! 地形変えるほどのバトルしたら野生ポケモンだろうとトレーナーだろうとちゃんと戻しとけってんだよ!!!! ジムリーダーだって自分とこのバトルフィールドくらい、バトル終わったら整えてるっつーの!!!!」
穴を埋め終わる頃には、僕はどろかけでも食らったみたいに土まみれになっていた。しかたない。これ以上ポケモンでもトレーナーでも何でも誰かが落ちてケガでもしたら後味悪いし。ちなみにボカブとオタマロも自慢の後ろ脚としっぽを使って手伝ってくれた。
うんせ、ほいせ、としっぽで土をはたいて穴に落としていたオタマロは何だか一生懸命だった。相変わらず人を小バカにした顔をしていたけど。
( ・´ひ`・ )∋
オタマロが仲間になって(しまって)しばらく経った。僕は今、ポケモンバトルを挑まれて相手をしている。それはいいんだけど、僕のボカブに対して、相手はメグロコ。ボカブも健闘してるけど、相性の悪さもあって、苦戦を強いられている。ボカブの足がもつれる。これ以上はマズい。
「ボカブよくやった! 戻れ!」
ボカブを引っ込め、腰につけたもう一つのボールを取り出した。僕はボールを振りかぶり、投げた。飛び出した光がポケモンの形になって、大地に降り立つ。
「しゅうううううっ!!」
ボールから出したオタマロは張り切っていた。本格的な実践は初めてだからな。少しレベルに不安があったのと、やっぱりなかなかあの顔の苦手意識が抜けないのとで、僕はあまりオタマロを積極的に使おうとはしていなかった。が、今はお前だけが頼りだ。頼むぞ。
不利なタイプを出してきたからか、相手のメグロコはすなじこくを使ってきた。じわじわ削る作戦で来たか。オタマロはすなあらしが痛いのか、「しゅうううっ」と声をあげて、攻撃に耐えている。
「オタマロ、アクアリング!」 「しゅうううっ!!」
その手があった、とばかりにオタマロはしっぽをピンと立てて技を繰り出した。二つの青いリングがオタマロを包んで、傷を癒していく。メグロコはグワッと大きな口を開けて、オタマロに襲いかかった。
ーーかみつく攻撃でひるみ効果をねらって、反撃させないつもりだ!
「させるか! オタマロ、バブルこうせん!」 「しゅううううううっ!!」
僕の指示を受けて、オタマロは口から勢いよく泡を吐き出した。 命中! 相性の悪い攻撃を受けて、メグロコの動きが鈍くなる。 チャンス!
「もう一度、バブルこうせん!」 「しゅううううう!!!」
とどめの攻撃を食らって、メグロコが力つき、ひっくり返る。
「やったあ!」 「しゅー♪」
飛び上がった僕に向かって、オタマロがうれしそうに飛びついてくる。思わず受け止めて、顔を真正面から見つめてしまった。オタマロの顔はやっぱり人を小バカにした顔をしていた。だけど勝利の喜びのせいか、あんまり気にならない。
「お前そんな顔してて、結構強いじゃないか!」 「しゅー♪」
誉められた(前半の僕の言葉には我ながらちょっと疑問が残るけど)のが嬉しいのか、オタマロはしっぽをパタパタさせて笑った。
あ、コイツ笑うと結構かわいい。
一度かわいいと思うと、普段の小バカにした顔もかわいげがあるように思えた。
苦手意識が抜けないなりに、一緒にいるのだからとボカブと同じようにかわいがっていたつもりだったけれど、これからはもっとかわいがることが出来るような気がした。
( ・´ひ`・ )∋
あれから、ボカブとオタマロもすくすくと育ち、今ではチャオブーとガマガルに進化していた。進化したオタマロは、小バカにした顔がウソのように、普通にかわいい姿になっていた。あれからこれになるってのもスゴい。ポケモンってやっぱり不思議だ。しっぽの辺りに名残はあるといえばあるけど。
人によってはオタマロの進化系であるガマガルや、ガマガルの進化系のガマゲロゲも不気味だと言うらしいけど、僕個人としてはガマゲロゲはまあ普通にモンスターって感じで味があるし、ガマガルは普通にかわいいと思う。
・・・・・・でも、なんだろうこの・・・・・・いいようのない寂しさは。
認めたくない・・・・・・認めたくないけど、一緒に旅をしている間に、あの人を小バカにしている顔を好きになってしまったみたいだ。じっさいオタマロは顔が苦手なことを除けば、なつっこくて言うこともキチンと聞く、いい子だった。人柄ならぬポケモン柄の勝利というやつかもしれない。人なっつっこい上にかわいくなったのだから、ガマガルを今まで以上に溺愛しても理論としてはおかしくないはずなんだけど。なんだろう・・・・・・寂しい。進化したってガマガルは大事な僕のポケモンだけど・・・・・・寂しい。
「ねえガマガル、キミガマガルのメスかメタモンの彼女が出来る予定ないの? ああ別にガマゲロゲやオタマロのメスでもいいけど」 「ガマッ!?」
すっかりあの人を小バカにしている顔に魅了されてしまった僕は、チャオブーと一緒にポケモンフードを食べているガマガルに対して、ポロッとそんな言葉をこぼしていた。
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