絵本っぽいものの二本立てその一。 即興二次小説のお題で書いたものです。
ふよふよと月夜に浮かぶもう一つのお月さまに、イーブイは長い耳をピクピクさせます。
「こんばんは、もう一つのお月さま」 「こんばんは、かわいらしいウサギさん」
下方からの声に、呼ばれたお月さまはウサギの元にふよふよと体を下降させました。 降りてくるお月さまの背後には、もっと大きな、似た形のお月さまがあります。
「この辺りにはいっぱいルナトーンがいるのに、よくわたくしだとわかりましたね」 「簡単だよ、だってぼくの知ってるお月さまには、目のすぐ下にまあるい穴があるからね」
イーブイは胸を張って、見覚えのあるお月さまの真っ赤な目の下にある大きなクレーターを指さしたのでした。
「わたくしもすぐにウサギさんがわたくしの知るウサギさんだとわかりましたよ。その首から下げているフシギな形の石は、見間違えようがありませんからね」
ルナトーンはイーブイの首から下がっている、どこかルナトーンに似た形の石を見ていいました。
「シャワーズ兄ちゃんもブースター兄ちゃんも、サンダース姉ちゃんも、みんな石を使って進化したのに、ぼくはぜんぜん進化する気配すらないんだ。変なの。ずーっとこうやって、月の形をした石を首からさげてるのにさ」 「うーん、どうしてでしょうねえ」 「お月さま成分が足りないのかなあ。ねえ、お月さま。今夜はあなたの体の上で眠ってもいい?」 「かまいませんよ」
OKの返事が来たので、イーブイはルナトーンの硬くてほのかにあたたかい体の上で眠ることにしました。ルナトーンがイーブイの体を鼻の下に乗せて、すみかに帰る途中だというのに、イーブイの意識はすでに半分ほど夢の中へうずもれかけています。
「ねえお月さま、ぼくいつ進化できるのかなあ」 「そうですねえ、わたくしにもまったくわかりませんが、まだウサギさんはお小さいのですから、急ぐ必要はないのではないでしょうか」 「ぼくはねえ、お月さまにピッタリな、真っ黒な夜の体になりたいんだ。なのにぼくの首の下にある石は、いつまでたってもお願いごとをかなえてくれやしない」 「あせる必要はありませんよ。あなたのお兄さんお姉さんも、ウサギさんくらい小さかった時は、まだイーブイだったのでしょう?」 「うん、そうだけど……ぼくは早く進化したいんだ。そうしておとなになりたい。おとなになったら、お月さまのおヨメさんにしてくれる?」 「そうですね、あなたの騒がしおてんばが直ったら」 「むー、ひどいや、ぼくは本気なのに」 「フフフ、直ったら、考えてあげますよ」 「ほんとうに? うれしいなあ」
その言葉を最後に、イーブイは完全に夢の中へ意識をうずめてしまいました。
みなさんもご存知のように、イーブイはつきのいしで進化することはありません。イーブイの望む真っ黒な体になりたいのなら、誰かとの信頼関係が必要なのです。
誰か。そう、誰か──。
例えば、イーブイが夢中なお月さまが振り向いてくれたら──。イーブイは念願の、真っ黒な夜色の姿に変化をとげることが出来るかもしれません。
お題:見憶えのある月
自分の趣味的には最初から相思相愛のが好みなんですがオチにつながらないのでボツになりました。 なつき度進化なんだからなついてればいけそうな気もしますけどね。
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