町外れの山の奥、そこには薬屋を営む小さな一軒家がありました。
家に蓄えていた食べ物が無くなってきたために、近くに買い出しにいかねばなりません。
しかし、薬屋の主人は薬の調合。そして主人の妻は店の番があり、手が離せません。そこで、まだ幼さが残る一人息子に買い出しに行かせることにしました。
「いいかい、この紙に書いてあるものを買いに行くんだよ」
「うん、分かった!」
「山には凶暴なポケモンもいるが、お前はまだ自分のポケモンを持っていない。だから、これを持っていくと良い」
主人は息子に小さな巾着袋を渡します。息子が試しに広げてみると、中には紫色の粉末が入っています。
「これはメタルパウダー。困ったことがあれば、この粉に祈りをささげて辺りへまぶせば、お前の望んだ姿となってきっと助けてくれるよ」
そう言って、主人は息子を送り出しました。
買い物も無事に終わり、荷物を抱えて帰り道に着く息子。行き道は何事もなかった山の小道ですが、帰り道は食べ物の匂いがするからかポケモンの匂いが強くなりました。
しかし徐々に気配は近づいていきます。悪寒を感じた息子が後ろを振り返ると、そこにはニドキングの姿が。しかも一直線にこっちに向かっているではありませんか。
これに気付いた息子は大慌て。荷物を落とさないように抱え直し、出来る限りの早足で家へと向かいます。
そんな息子の前に広がったのは大きな川。しかし慌てて来たため橋まではかなり離れた位置に出てしまいました。
とはいえニドキングが近付いているのは確かです。自分よりも大きな体が迫ってくることにパニック状態に陥った息子は、巾着袋からメタルパウダーをまぶします。
「この川を渡らせろ!」
するとメタルパウダーがオーダイルに姿を変え、背に少年を乗せて川をすいすいと渡っていきます。
これで一安心。と思いきや、ニドキングは波を制して少年の後を追うようについてきます。
息子がモタモタしている間にニドキングとの距離はより詰まり、ついに足を緩めれば間もなく捕まるような間隔になってしまいました。
「落とし穴を掘れ!」
息子はそう叫ぶと、再び巾着袋からメタルパウダーを取り出しては、真後ろにまぶきます。
するとメタルパウダーはサンドパンに姿を変え、両手を素早く動かして、深い落とし穴を掘っていきました。
突進していたニドキングは、落とし穴の手前で急停止出来ずに穴に落ちてしまいました。
ほっとするのもつかの間、ニドキングは落とし穴の中に出来た僅かな凹凸の窪みを利用してロッククライムで地上に瞬く間に出てきてしまいます。
落とし穴から出てきたニドキングとの追いかけっこが再び始まるやいなや、すぐに谷に出てしまいました。
さっきの川と同じく行きと異なる道で来たため、たった一つだけ架かった橋は視界の遥か先です。となれば……。
「空を飛ばせろ!」
息子は残りのメタルパウダー全てを巾着袋から目の前にまぶきます。
するとメタルパウダーはエアームドに姿を変え、息子を乗せて崖をひとっ飛び。
流石にこれにはニドキングも唖然として動きが止まります。が、ニドキングは冷凍ビームを向かいの崖にめがけて放ち、細い氷の道を作って渡ってきました。
とはいえ、崖から家までは目と鼻の先。エアームドから降りて、息子は薬屋の主人の元へ転がり助けを求めました。
「お父さん! 助けてください! ニドキングに追いかけられました!」
薬屋の主人は息子を家に入れると、一人家を飛び出し自らニドキングの元へ近づきました。
息子は不安そうに見ていましたが、ニドキングは主人を襲うどころかむしろ無邪気に戯れています。
どうやらニドキングは昔、薬屋の主人と仲が良かった野生ポケモンだったようです。
ニドキングは食べ物ではなく、薬屋の主人と似た臭いの息子を追いかけていたのでした。
───
お久しぶりです。生きてます。
一年以上前の作品ですが、何気なく置いておきますね。これ以来もう長い間短編書いてませんわ……。
メタルパウダーの使い方違うじゃねーか! というツッコミに関しては二次創作なので大目に見てください。大目に見てください!