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  [No.3355] ゲームノマカプ詰め 投稿者:焼き肉   《URL》   投稿日:2014/08/26(Tue) 23:13:56   71clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:ノマカプ】 【短編

 ゲームやりながらカタカタしてたものが溜まって来たのでこの場をお借りさせて頂きます。上からチェレン×ベル、ヒュウ×メイ、カルム×セレナです。


  [No.3356] 優しさと大人のトリック 投稿者:焼き肉   投稿日:2014/08/26(Tue) 23:17:00   113clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:BW2】 【チェレン】 【ベル】 【チェレベル

 ジムリーダーになった際、両親とか博士とかそういう家族とそれに近い人を覗けば、真っ先にお祝いの言葉をくれたのは幼なじみのベルだった。ベルだって家族に近いくらいの付き合いではあったけれど、チェレンは家族に近い存在である彼女をずっと昔からかわいいと思っていたから、なんとなくその枠に当てはめるのに抵抗があった。

 もう一人の幼なじみである少年からは、どこかでウワサでも聞いたのかハガキで「おめでとう」と簡素な言葉が自宅宛てに届いた。いそがしくて直接会いに来れないのは仕方ないとしても、ライブキャスターで連絡くらいくれればいいのにと思う。

 敢えてそうしているのか、もしくは機械が対応していないほど遠くにいるのか、ここ数年彼はこちらから連絡を取ろうとしても連絡が取れない。

 初めて冒険に出た少年が背負うにしてはずいぶんと重い使命を彼は背負わされてしまったから、カタが付いた今、しばらくは誰とも合わずにいたいのかもしれない。彼のことも気になるが、今はベルのことだ。彼女はチェレンがジムリーダーになることになったと知って、真っ先に駆けつけてお祝いの言葉とせんべつのいかりまんじゅうまでくれた。

 いかりまんじゅうの箱を差し出した彼女が、おめでとうの次に言った言葉は、何だか前後の会話と微妙につながらないような、棚から見知らぬものが出てきたような、突発的なものだった。

「チェレンメガネやめたんだね、最近会えてなかったから知らなかったよお」
「ああ、コンタクトにしたんだ。ジムリーダーになるし、メガネかけてるよりとっつきやすくて柔らかいイメージになるだろう? ボクがジムで扱うのも、ノーマルタイプのポケモンだし」

 ノーマルタイプのポケモンは、決定的な弱点が少ない代わりに、防御面では少し不安の残るポケモンも多い。その弱点を高い体力もしくは補助技で補う種族もいるから一概には言えないが、抱きしめた時のやわらかい感触も含めて愛されるような、そんな部分がノーマルタイプのポケモンにはある。かわいらしい見た目の種族の多さ、育てやすさから、トレーナーからそうでない人にまでとっつきやすいと愛されている。

 ピッピとかプリンみたいに愛されたいというのとは違うけれど、親しい人間以外からは少し生真面目で近寄りがたいと言われる自分も、すこしはとっつきやすくなれればいいという願望も込められている。


「似合ってるよお。こう、えーっとね、チェレンの優しいとこがね、パアッとわかりやすく出てきたみたい!」
「そう?」

 ベルの例えは半分くらいしか理解できなかったけれど、自分の望む方向にほめられているのはわかった。それが照れくさくて、彼女が来ると知ってあわてて締めたネクタイの位置をいじる。そういうベルは旅立ちの日から少なくとも外見は大して変わっていないかと思えば、そうでもない。

 久しぶりに会った彼女は、二年前までつけていなかったメガネをかけていた。

 ホントはベルの姿を見てすぐに気がついたのだけれど、彼女の独特なペースに飲まれて、なかなかそこにつっこむことが出来なかったのである。

「ベルはボクとはあべこべにメガネをかけはじめたんだね」
「うん、そうなんだ……博士のお手伝いしてたらね、視力さがっちゃって」

 その事を父親に話したら、すぐ手を引かれメガネ屋に直行させられたのだという。ハラハラしながら娘を店に引っ張っていく様子が目に浮かぶ。どうもベルの父親の過保護は変わっていないらしい。

「ちょっとだけねえ、期待してたんだ」
「何を?」
「チェレンと、おそろいでメガネかけるの!」

 きっと天真爛漫な彼女に他意はない。幼なじみの少年とおそろいだったら楽しいだろうなあということ以外の意味は。でもなんだかその言葉にドキッとしてしまうのは、密かな感情を隠している少年の、条件反射のような抗いようのない心ゆえだろう。

 これだけでもチェレンはうれしかったのに、ベルはあまごいからかみなりでもぶつけるみたいに、言葉をたたみかけるのだ。

「でもでも、あたしと入れ替わりでチェレンがメガネやめたのも、ちょっと面白いなあって思うなあ」
「面白いってなにがさ」
「えーっとねえ、んー……チェレンととりかえっこしたみたい、っていうか」

 自分がなれないネクタイをいじるように、ベルは赤ぶちのメガネを両手でいじって笑った。その表情はむかしからずーっと、密かにチェレンがこっそりかわいいなあと思っていたものとちっとも変わりはしない。

「チェレンの優しいところが、メガネをやめてパアッて出てきた代わりに、あたしがメガネをかけたら、少し大人っぽくピシーッてなったかなって。ほら、フーディンとかバリヤードのわざの、トリックみたいにとりかえっこしたみたいじゃない?」

 なるほど彼女はエスパータイプの親戚なのかもしれない。なにしろ自分が言われてうれしいことを、ふにゃふにゃした言葉で的確にぶつけて来るのだから。だけどかえんほうしゃを出そうとしたらハイドロポンプが出てしまうくらい正反対の言葉しか、照れくさいことが苦手な、今の自分は言えないのだ。

「ボクがとっつきやすくなったかどうかは判断に任せるとして……ベルが大人っぽくなったっていうのは、どうかなあ」
「あー、ひっどーい! あたしだってね、アララギ博士のお手伝いして、いっぱい、いろんなこと知ったんだから!」

 ひっどーい、なんて言っても、彼女が本気で怒っていないのはわかっている。長い付き合いだ。自分も彼女がちょっとしたことでは怒らないのを知っていて言ったし、彼女も親しいがゆえに生真面目くさい自分が憎まれ口を叩くのを理解してくれている。
 
「ジョーダンだよ。ボクだって、ジムリーダーとしても一人の人間としてもまだまだだし……ベルは確かに、少しおとなっぽくなったかもね」
「ホントにホントぉ!? うれしいなあ!」
「やれやれ、そういうところがどうかなあって言ってるんだけどね」
「だってだってえ、チェレンにほめてもらえると、また格別違うなあって思うんだよ!」

 やれやれ。内心だけでチェレンは首を振った。彼女はどこまで考えて発言しているのだろうか。

 いいや、彼女に裏などない。それは自分がよく知っている。だからチェレンにほめられると他の人と違う感じがするという言葉だけが真実なのだろう。

 だけど悪くはない。だってチェレンはベルの裏のなさ、優しさ、トボけたところ、そんな要素全てをずっとかわいいなあと思っているのだから。

 彼女の言うところのトリックが働いたのなら、まだそれは定着に時間がかかるのかもしれない。だからチェレンは、『優しいところがパアッと出てきた』のだとしても、今は彼女にうまく素直な気持ちをぶつけられないし、わずかにぶつけた素直な気持ちも、憎まれ口に埋もれてしまう。ベルはそんな自分を笑って許してくれるし、無邪気に接してくれる。

 トリックで入れ替わったものが定着するまでは、少しずつ少しずつ、彼女に素直な気持ちをぶつけていこう。彼女の持ってきたいかりまんじゅうを、おいしいお茶でも入れて一緒に食べながら、少しずつ少しずつ。


  [No.3357] 変わらないもの 投稿者:焼き肉   投稿日:2014/08/26(Tue) 23:20:21   106clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:BW2】 【ヒュウ】 【メイ】 【ヒュウメイ

 メイは、年齢はオレの妹以上オレ以下の、昔からの近所の幼なじみというやつだ。すっとぼけてて天然で、年
齢はオレの妹以上なのに、オレの妹より幼いイメージがずっと取れないようなやつだった。妹ももっと小さいこ
ろは聞き分けがなくて世話がやけたけれど、メイは妹の手がかからなくなってもずっと目が離せない、いつまで
も子どもみたいなやつだった。

 まるで妹が二人いるみたいだッ! と思うこともあった。雨あがりの日に水たまりで転んでベトベターみたい
になるわ、近所になってるオレンのみをとろうとして木にのぼって降りられなくなるわ、とにかく手のかかるエ
ピソードにいとまがねえ。

 呼び方も、オレの妹がオレをおにいちゃんと呼ぶように、メイもオレを「ヒュウお兄ちゃん」と呼んでいた。
いつの間にかその呼び方はしなくなっていったけれど。「ヒュウお兄ちゃん」の「お兄」が取れて、「ヒュウち
ゃん」。ちゃんはいつ取れるんだちゃんは。オレはずっとお前のことメイ、って呼んでるのに。オレが年上だか
ら、呼び捨てを無意識的に避けてるのかもしれない。何にも考えてなさそうなのに。

 アイツの面倒を見ていて特に大変だったのが、街の近くに迷い込んできたミネズミをかわいいって追いかけ回
して、噛まれそうになった時だ。オレが間に入ってかばってやったからいいけど、あのまま噛まれたらどうなっ
てたことか。代わりにオレが噛まれる羽目になったけど、その時長袖だったから服が破けたくらいで、ケガは大
したことなかった。

「えっぐ・・・・・・ゴメンね、ゴメンね、ヒュウお兄ちゃん。わたしのせいで、ヒュウお兄ちゃんが」
「・・・・・・別にへーきッ! これからは、ポケモンを追いかけまわしたりしちゃダメだからなッ! 初めて
会う友達に接するみたいに、目線をあわせて、優しく話しかけるんだ」
「うん・・・・・・こんどから、きをつける・・・・・・それから、ありがと・・・・・・」

 話が逸れたけど、とにかく少なくともサッと見た感じは何にも考えてなさそうに見えるから、オレはメイがポ
ケモンを貰うと聞いて喜んだ。ポケモンのことは普通に好きみたいだし、ポケモンと一緒にトレーナーとして旅
に出たら、少しはすっとぼけたところがなくなるんじゃないかと思ったからだ。

 その予想は、当たった。予想以上だった。ジムリーダーのチェレンさんと戦って、てっきり一回は負けて泣い
て戻ってくると思ってたのに、メイは一回挑みに行っただけで、ライブキャスター越しに燦然と輝くベーシック
バッジをオレに見せてきたんだ。

 それからのアイツはすごかった。次々とポケモンを捕まえては各地のジムリーダーに挑んで行って、着々と、
確実にトレーナーとしての階段を上がっていく。バトルを挑んでもこっちが簡単にやられることもあったし、共
闘してもほとんどメイがいいところを持って行ったこともある。

 オレの目的に協力してくれるサポーターとしても申し分ない。兄貴代わりとしても、すっとぼけたメイの成長
は、頼もしささえあった。だけど、ポンポンとオレを飛び越して、どこまでも行ってしまうメイには少しだけ、
少しだけだけどな、さびしいって、気もしたんだ。

 ふわふわと周りを跳ねていたハネッコが、いつの間にか飛び方を知ったワタッコになって飛んでいってしまう
みたいに、メイは変わった。アイツが一人旅なんてだいじょうぶなのかと思ったけど、案外なんとかなるもので
、変なやつに騙されたりとかはしていなかった・・・・・・モンスターボールをスーパーボールと取り替えてく
れる親切なおじさんがいたとは言ってたけど。本当にだいじょうぶなのかと思うこともあったけど、まあとにか
くだいじょうぶだった。

 頭についた、ふたつのお団子頭だけだ。ずっとずっと変わってないのは。



「ひさしぶりー、ヒュウちゃん。待った?」
「いや。そもそもまだ待ち合わせまで時間あるしッ! というかなんだよその頭は」
「えっ、何かヘン?」
「ヘンだよッ! ボサボサじゃん!」

 メイの頭の団子は、団子と形容できないくらいグチャグチャになっていた。へんしんに失敗したメタモンみた
いだ。メイじゃあるまいし、へんしんできないメタモンなんてハラハラするやつがいるのかは知らないけどな。

「ちょっとオマエこっち来いよッ!」
「わー、ヒュウちゃんが怖いよー」
「当たり前だ! みっともないッ!」

 まるでサボネアみたいに毛羽立ったメイのお団子を直すために、その辺の石に座らせた。待ち合わせを街中に
しなくて良かったと思う。メイとはいえ女の髪を直すところを人に見られるのなんて恥ずかしい。イルミーゼと
バルビートのつがいが通りがかってニコニコこっちを見てきたけど、無視だッ! 無視ッ! 虫ポケモンだけに
なッ!

 メイの髪は解くともっと長い。地面に垂れ下がってしまうほどだ。野生のポケモンがメイの髪で遊んだら大変
なことになるので、手早く結び直し始める。お団子頭は手間がかかるけれど、コイツの髪質がサラサラで結びや
すいのが救いだ。面倒くさくない。面倒くさいけどな。

 小さい頃はしょっちゅうヘマをしてボサボサにしていたコイツの髪をよく直してやっていた。最近はしなくな
ってたからまだ出来るのか自分でもわかんなかったけど、どうも手が忘れられないほど手順を覚えていたらしく
て、簡単に直してやることが出来た。

 ・・・・・・コイツは、いったいどんだけ髪をボサボサにしてたんだッ!!

「最近は少し大人になったと思ってたのに・・・・・・相変わらずだなッ! オマエはッ!」
「えへへ、ゴメンねヒュウちゃん。ここにくる途中でちょっとゴタゴタしちゃって。気がついたら待ち合わせに
間に合わない! って時間になってたから、髪直すヒマもなかったんだあ」
「・・・・・・ゴタゴタってなんだよ?」

 オレが聞くと、メイは言葉につまったように黙り込んだ。オレが髪を直す手を止めて頭を撫でてやると、観念
したように続きを話し始める。

「プラズマ団・・・・・・あ、白い服着てる人たちじゃないほうね、とにかくプラズマ団の人が、ヒュウちゃんの妹ちゃんよりちっちゃい女の子のクルマユを、取ろうとしてたの。ツルたちに頼めば良かったんだろうけど、気がつ
いたら、体が動いてて、黒い服のプラズマ団の人たちにたいあたりしてて・・・・・・りあるふぁいと? みた
いになっちゃって」

 オレはとびひざげりを失敗したコジョフーみたいにすっころびそうになった。ダメだ。ちょっとは成長したと
思ってたのは幻想だった。ゾロアークのイリュージョンとおんなじで。ちなみにツルというのはこいつのジャロ
ーダのニックネームだ。

「アホかオマエは・・・・・・ポケモン勝負で決着つけろよッ!! ポケモントレーナーだろ! 何かあったら
どーすんだ!!」
「うーん、でも、プラズマ団の人もりあるふぁいとだと結構弱かったよ? 相手の人は男の人だったのに、結構
情けないなーって」
「二度とすんなよッ! オマエも、妹のチョロネコも・・・・・・どこ探したって他にいないんだからなッ!」
「うん、わかってる、ごめんなさい・・・・・・ヒュウちゃんは優しいよね、むかしから。ポケモンも、人も、
おんなじように、大切に思ってる」

 流石のメイでも自覚症状はあったのか、素直に謝って、それからはしばらく黙ってオレに髪を直されていた。
近くの川でバスラオが水面に顔を出して、また水の中に潜っていく。

「もちろん、助けなきゃ! って気持ちもあったんだけど・・・・・・わたし、あのクルマユのトレーナーの女
の子のことを、むかしのわたしと重ねてたのかもしれない」
「・・・・・・どういうことだよ」
「自分のことは、自分で守らなきゃって、思ったの」
「話が見えてこねえ」
「ヒュウちゃんも今言ったじゃない。わたしと、妹ちゃんのチョロネコも、他にいないけど、ヒュウちゃんだっ
て、他にいないんだよ?」

 やっぱり話が見えてこない。こいつのすっとぼけたところはやっぱり変わっていない。なんだか話しててわか
らないことがあるのだ。

「ええっとー、ほら、むかし、ヒュウちゃんが、怒ったミネズミからわたしをかばってケガしちゃったでしょ?
 ああいうこと、ヒュウちゃんにさせちゃいけないって思ったんだ」

 思わず手に持っていたくしを地面に落としてしまった。そんなこと、メイはぜってー覚えてねえと思ってたか
らだ。

「ヒュウちゃんは平気って言ってくれたけど、ヒュウちゃんの赤い上着の白い部分がね、血で赤くなってて、怖
くって・・・・・・もっとしっかりしなきゃ、ずっと「ヒュウお兄ちゃん」に頼ってばっかじゃダメだって」

 そういえば、

「うん・・・・・・こんどから、きをつける」

 いつからだっけ、

「・・・・・・それから、」

 こいつが、

「ありがと・・・・・・」

 オレのこと、

「・・・・・・ヒュウちゃん」

 ヒュウお兄ちゃんって、呼ばなくなったのは。

 そうだった、しょっちゅう世話を焼かせられたとはいえ、あれが最初で最後だった。大したことがないとはい
え、オレがケガするはめになるほど、危ないことになったのは。

「あの時は、本当にありがとう、ヒュウちゃん。ヒュウちゃんがいつも一緒にいてくれて、優しくしてくれたか
ら、わたしは少し強くなれたんだと思う・・・・・・ヒュウちゃんに怒られちゃうようじゃ、まだまだなんだろ
うけど」

 いいや、変わったよ、オマエは。考えるより先に体が動いて、女の子助けちまったんだろ? それってスゲー
ことじゃん。そりゃ、あんまり危ないことはしたらいけねえと思うし、もうするなよッ! とは思うけど。実際
強くなったじゃん、オマエ。すっとぼけてんのは相変わらずだけどさ。

「・・・・・・そーだな。強くなったけど、オレに怒られてるようじゃ、まだまだだッ!」

 そう思ってるのに、オレの口は思ってることの半分以下も出てこなかった。いつまでもガキなのは、どっちだ
ろうな。どっちもまだまだガキなのかもな、オレたち。

 オレが髪を直す作業を完了させると、ずっとむかしと変わらないお団子が、何もなかったみたいにメイの頭に
二つ、くっついていた。


  [No.3358] ある晴れた日に君と喫茶店でコーヒーを飲むこと 投稿者:焼き肉   投稿日:2014/08/26(Tue) 23:23:20   120clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:ポケモンXY】 【カルム】 【セレナ】 【カルセレ

 オレの隣の家って長いこと空き家だったんだ。少なくともオレが物事の判別がつくようになった時にはもう、
空き家だった。

 なんでかは知らない。前の持ち主が何かやらかしたいわくつきの物件だからとか? ウソウソ。アサメタウン
はのどかで緑が多くていいところだけど、へんぴなところだからね。

 単に交通の便が悪いから買い手がなかなかつかなかったんだと思うよ。だからこう、すぐ隣の家に誰かが住ん
でる気配がするのは、いつの間にか部屋の家具が一個増えてて当たり前にそこにあるような、ちょっと心霊現象
みたいというか、変な感じはするね。

 変って言うのは失礼かな。だけどオレの隣はこれからもずっとイトマルの巣が張ってるような空き家なんだろ
うって思ってたし。気を悪くしたら謝るよ。どう言ったらいいのかな。驚きなんだ。早い話がね。



 向かい合ってテーブルについている「お隣さん」に一方的に喋りかけると、カルムはアイスクリームにコーヒ
ーをかけたデザートを一口食べた。

 ミアレシティのあちこちに散見される喫茶店の一つであるこの店は、コーヒーそのものよりも甘味に気合いを
入れている店として有名だ。飲めないというほどじゃないし、友達にもクールだと言われることもあるけれど別
にカッコよく見られたくてブラックコーヒーを飲むほどキザなカッコつけのつもりもない。

 だからこうしてアイスクリームに存在意義の大半を浸食されてしまっているような甘味を、普通に女の子の前
で食べている。「お隣さん」はこういうことをからかわないから気が楽だ。ただアタシもそれにしようかななど
と言いつつ普通に特大チョコレートパフェを頼んだのは謎だが。

 まあ甘味に気合いを入れた店なのだから、曲がりなりにも苦いコーヒーしてるこっちよりも正解だろう。何に
しても一方的にしゃべっても文句も言わないのが心が広いというか。「お隣さん」の女の子は看板メニューの一
つである特大チョコレートパフェを優雅に崩している。六分の一ほどが崩し終わったところで、「お隣さん」は
ようやく口を開いた。

「ある晴れた日にお隣さんのアタシと喫茶店でコーヒーを飲んでることが?」

 少し間を置いてから、「お隣さん」の問いかけが先刻の「驚きなんだ」という発言にかかっていることに気が
つく。いや「お隣さん」がいること自体が驚きなんだけれども。そしてこの場にいる自分と「お隣さん」、その
どちらもコーヒーを「飲んで」はいない。と思ってから、これが「お隣さん」流の冗談なのだということにも気
がつく。大変わかりにくい。

「まあそれも驚きと言えば驚きかもね。なにしろオレは女の子とのデートなんて無縁だから」
「へえ意外」
「なんで」
「だって女の子にモテそうだし。カルムってクールだし、カッコいいじゃない」
「冷たいとはよく言われるよ」
「へえそれも意外」
「なんで」
「だってアタシが困ってる時もさっそうとクールにやってきて、助けてくれるじゃない」

 とっても恥ずかしいことを言っても、「お隣さん」はほえるを喰らってもへいきな顔をしている勇敢なポケモ
ンみたいに、表情一つ変えない。こっちが恥ずかしくなってくる。

「そう取られるのも驚きかもね」

 なぜだか熱くなった手のひらの中にあるコーヒーのかかったアイスクリームは、熱が堪えたように少し形を崩
していた。


  [No.3359] Re: 優しさと大人のトリック 投稿者:砂糖水   投稿日:2014/08/26(Tue) 23:46:27   39clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

チェレンがすごく…かわいいです。
ベルももちろんかわいいのですが、あれこれ考えてるチェレンがひたすらかわいいです。
ちょっとじれったい感じとか愛おしくてなりません。
ほのぼのする組み合わせで、とても癒されました。


  [No.3360] Re: 優しさと大人のトリック 投稿者:焼き肉   投稿日:2014/08/28(Thu) 20:21:26   40clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

どうもこんばんは。コメントありがとうございます。
チェレンがメガネかけなくなったのと入れ替わりにベルがメガネかけるようになったというのがなんだか意味深
な気がして書いてしまいました。チェレベルはこういうちょっと噛み合わないほのぼのが合うのかなあと私も思
います。