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  [No.3362] かいぶつとあたし、あとダイエット 投稿者:砂糖水   投稿日:2014/09/07(Sun) 23:08:01   44clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:ゴクリン

 あたしはかいぶつを飼っている。ただのポケモンだと言われるけれど、あたしにはかいぶつにしか思えない。たしかにふざけた顔をしているから、ぱっと見た感じは怖そうには思えない。
 だけど、緑の大きな風船のあいつは、何でも食べる。そう、何でも。ゴミだろうが何だろうが、お構いなしに食べる。これのどこがかいぶつじゃないと言えるのだろう。
 緑風船のかいぶつは今日ものんきに何かを食べている。こいつのエサを探すのは一苦労だ。食べさせるのは、はっきりいって何でもいい。かいぶつだし。問題なのは量。あほみたいにこいつは何でも食べる。家から出るゴミだけじゃ足りなくて、近所の人が出すゴミまで食べる。おかげでこの辺りはとてもきれいだ。かいぶつが次々に食べちゃうから。

 学校でも似たような感じだ。あいつが見境なしに食べないよう、あたしがいいと言うまで食べるなと言い聞かせている。だけどかいぶつは与えられたものなら何でも食べちゃうのだ。
 おかげで一時期、物がなくなるたびにあたしは呼び出されていた。あたしはかいぶつに学校のものを勝手に食うなとちゃんと言い聞かせていたし、あいつもそれはきちんと守っていた。
 しばらくして、クラスメイトが壊してしまったものを勝手に食べさせていたことがわかった。ショーコインメツってやつ。そんなにあたしに嫌がらせしたいのか。
 で、まあこの件は解決したんだけど、あたしを犯人呼ばわりした先生はあたしに謝らなかった。だから、こっそり先生のものをかいぶつに食べさせてやった。すぐにばれて怒られたけど、先生のものはとっくに消化されて跡形もない。ざまあみろ。

 かいぶつはよく食べる。馬鹿みたいにみたいに食べる。だからふんの量も尋常じゃないくらい多い。
 かいぶつはサンギョーハイキブツだっておかまいなしに食べるだろうけど、あいつのふんも立派なサンギョーハイキブツだと思う。ってパパが言ってた。あんまり後始末に困るから、出した本人に食べさせようとしたこともあるけど、さすがに拒否された。当たり前か。
 仕方ないから毎日毎日、あたしはあいつのふんの処理をしなくちゃいけない。
 かいぶつの飼い主はめんどくさい。

 そんなわけで今でさえめんどくさいのに、進化したらでっかい紫色のお化けみたいになって食事量も増えるだろうし、それでもってふんの量も増えるだろうから、進化したら追い出す! と常々言っている。さすがにこれ以上は無理。

 そんな毎日を送っていたある日のこと。あたしは気づいてしまった。こいつ、でかすぎない?
 出会ったころはしぼんだ風船だったくせに、なんなのこいつ。あたしの身長と同じくらいって、どういうことだ。
 最近、人に飼われたポケモンの巨大化が話題になってたけど、こいつも? いや、絶対違う。
 あたしはかいぶつの頭にある黄色いやつをつかみ、引きずるようにしてポケモンセンターに行った。そうして検査をしてくれたジョーイさんは苦笑いしながらあたしに言った。
「肥満、ですね」
 あたしもそう思ってた。気が合うね、ジョーイさん。
 冗談はさておき。あたしがかいぶつのデブ化を疑ったのは簡単な理由だ。体の割に顔のパーツが小さい。体が異常に成長したのなら、顔のパーツもデカくなるもんじゃないの。
 そんなわけで、あたしは一言、
「かいぶつ、ダイエット!」
 宣言した。

 その日からかいぶつのダイエット生活が始まった。とりあえず、こいつが食べ過ぎなのは明らかだったから、食事制限から。ジョーイさんにもアドバイスをもらって、適切な量の食事を与えて運動することにした。仕方ないからあたしも一緒に走ってやることにした。まあ拾い食いしないように監視もかねてだけど。
 そうして一ヶ月が経ち二ヶ月が経ち……。
「どうしてやせてないのよかいぶつ!」
 一向にかいぶつはやせなかった。おかしい。あんまりにも腹が立ったから、頭の黄色いやつをつかんで振り回したくなったけど、ぐっとこらえた。そんなことをしてもやせないし。
 ジョーイさんにはあたしが余計な食べ物(ゴミ)を与えてるんじゃないかと疑われたけど、断じて違う。あたしはそんなことしてない。
 と、いうことは、だ。ほかの誰かがあたしに隠れてゴミを与えているのだろう。
 そういうわけで、かいぶつを自由に行動させてあとをつけてみた。そしたら案の定、かいぶつにゴミをやっている人がいた。まず隣のおばさん。ていうかかいぶつ、そんなものほしそうな目でおばさんを見るな。あたしがちゃんと食べさせていないみたいじゃないか。適量を与えているじゃん。
 それからかいぶつは街をふらふらし始めた。顔見知りに会うたびに何か食ってるんだけどこいつ。今度会ったらエサを与えないで下さいというしかない。このままだと病気になっちゃうんです、とかいえばいいだろう。ああめんどくさい。
 学校でも様子をうかがってみると、出るわ出るわ、かいぶつにゴミを与えるやつらが。それもまあ、点数の悪かったテストならまだかわいいほう。いまだに壊しちゃったものを食べさせようとしたやつがいるのにはあきれた。さすがにこれは止めたけど。
 だいたいみんなに言いたいけど、あいつの口はゴミ箱じゃない!
 ていうか、かいぶつがダイエット中だってみんな知っているはずなのに、なんなの。あたしちゃんとみんなに言ったのに。まったくもう。またみんなにさらにきつく言っておかないとだめだ。
 そもそもかいぶつ! あんたがものほしそうな顔してるからいけないんでしょうが! ばか!

 あたしが必死になってかいぶつのダイエットを触れ回ったおかげか、あいつは徐々にしぼみ……もとい、やせていった。ああもう、余計な苦労かけさせないでよね。
 まったく、かいぶつがいるだけで大迷惑だ。だけど、あたしはどんなにぶつくさ文句を言おうと、進化したら追い出すと言おうと、あいつを追い出すことは多分ない。
 だってあいつには借りがあるから。

 今はなんにもないけど、昔あたしはいじめられてた。調子に乗った男子があたしをからかってきて、思い出すだけでほんとむかつく。だけどそのころのあたしはうじうじしちゃって、反撃することもなくおとなしくされるがままだった。
 そんな、ある日。あたしはまっすぐ帰るのがなんだか嫌で、寄り道をしていた。わさわさと枯れ草が伸びた川原の、人が来ないところ。みんながよく来る場所は決まっていて、そこを外れるとほとんど人は来ない。そのころのあたしは一人になりたくてよくそこへ行っていた。それでそこでやることといえば、めそめそ一人で泣くだけ。今思うと、なんでこんなにうじうじしてたんだろう。
 そんな風に一人で泣いていると、突然、枯れ草からがさがさと音がした。びっくりしたあたしは逃げてしまいたかったけど、怖くて足が動かなかった。がたがたと震えていると現れたのはそう、緑の風船。今のあたしなら少しも怖がらないけど、そのころのあたしには得体の知れないものにしか思えなくて、まるで突然かいぶつが現れたのかと思った。
 だけどびっくりしているあたしをよそに、緑のかいぶつはぽてんと地面に転がった。よく見れば、なんだかしぼんだ風船に良く似ていた。
「ごくごーく……」
 と弱々しくしぼんだ緑風船が鳴いて、ぎゅるると音がした。たっぷりと悩んだあと、あたしはこう声をかけた。
「おなかすいてるの?」
 そうしたら緑風船はまた弱々しく「ごーく……」と鳴いた。
 あたしはなんだかその風船がかわいそうになって、黄色いのをつかんでひょいと持ち上げると家につれて帰った。思ったよりも緑風船は軽かった。
 そのあと家中の食べ物を食べつくす勢いで食べた挙句、さらにゴミまで食べて満足そうにしていたことはよく覚えている。ゴミを食べ始めたときは止めようかと思ったけど、食べ物がなくなるよりいいかな、と思ってそのまま見てた。後で調べたらまったく問題ないことがわかったから、結果オーライ。パパとママには微妙な顔をされたけど。
 次の日。一晩で見事に復活した緑風船を連れて、家を出た。さすがに飼うのはいい顔されなそうだったから、拾った場所に置いてくることにした。ちょうど休みの日でよかった。
「いい? ついてこないでね。あんたをうちでは飼えないの」
「ごーくごーく!」
 いい返事だ、と安心してうちに帰ろうと歩き出したら、緑風船は当たり前のようについてきた。
「ちょっと! ついてこないでって言ったでしょ!」
 叫んでもちっとも聞きやしない。ああまったく!
 そうこうしていると、あたしの声を聞きつけたのかいじめっ子がどこからともなく現れた。人が来ないところと言っても、あれだけ大声を出せばそりゃあ誰かしら来るだろう。気づいたところで遅かったけど。
「おい、なにしてるんだおまえ」
 にやにや嫌な笑い方をするこいつが大嫌いだった。そいつは緑風船を見つけると、まるで新しいおもちゃを見つけたように嫌な笑顔になる。
 あ、まずい。そう思うのに。
「なんだよそいつ」
 情けないことにあたしはその場で固まってしまった。だって、だって、怖かったんだもん。いつもそうやってあたしはあいつが飽きるまでじっと耐えるしかなかった。だけど、
「わっ! なんなんだこいつ!」
 あたしに付きまとっていた緑風船が突然、ぐわっと口を大きく広げる。まさか食べる気? そう思ったときぱっとひらめく。
「かいぶつにあんたのこと食べさせてやる!」
 はったりだったけど、緑風船の口の中ってまじまじと見ると怖い。無駄にでかい口だし、ほんとに何でもかんでも食べちゃいそう。まるでかいぶつみたいだ。そう思っていたから、口からするっと出た。
 いじめっ子はあたしの脅しにびびったのか一目散に逃げていった。ふだんあれだけえばってるくせに、かっこわる。ざまあみろ。
 あいつの姿が見えなくなると、緑風船は口を閉じた。
「……あたしを助けてくれたの?」
 もしかして、と思ってそう言ったけれど緑風船は、ん? と意味がわかっていないような顔をしていた。
「ごーく?」
 そうしてあたしにすり寄ってきて、ごくごーくと鳴いた。なんとなくエサをねだられているような気がして、あたしはなんなのこいつ、と笑った。

 それ以来あたしがからかわれることはほとんだなくなったし、たとえからかわれても、かいぶつをけしかければすぐ相手は逃げていった。それになんだかあたし自身も、おとなしくしているのがばかばかしくなって、強気の対応ができるようになった。そうしたら、おどおどしていた頃よりもずっと、世界が広くなってすごく楽になった。
 あと、かいぶつかいぶつと言っていたら、いつの間にかそれが名前になってしまった。まあいいけど。

 そんなわけであたしはかいぶつに借りがある。だからぶつくさ言いながらも世話をしなくちゃいけない。仕方ない。
 それにもう、かいぶつがいる生活が当たり前になってしまった。いくらうざかろうがめんどくさかろうが、いなくなったらいなくなったでなんだか物足りなくなりそうだ。

 えーと、だからとにかく!
 もう太るなよ、かいぶつ!




――――――――
学部四年生のころに思い付いた話なので…ええ、うん年前ですね(
前半だけ書いて放置してたのをちまちま書いて完成させました。
このテンションの違いはどうにかならなかったのか…(はい
ゴクリンかわいい。

9/14
コピペミスしててすみません…重複ってレベルじゃねーぞ!


  [No.3366] かいぶつの絵 投稿者:砂糖水   投稿日:2014/09/09(Tue) 20:10:28   32clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:ゴクリン
かいぶつの絵 (画像サイズ: 640×820 66kB)

珍しく描いてみた。
※砂糖水さんはお絵かきが苦手です。