ポケモンとともに行う旅はポケモントレーナーにとってとても一般的なスタイルである。ジムバッジを揃えポケモンリーグに出場しチャンピオンとなることを夢見て、住んでいる町のある地方を旅したという経験のある人は多いだろう。しかしそれが代表的なものであるとはいえ、トレーナーの旅とはジムバッジを獲得するためだけのものではない。
例えば現在タマムシシティに滞在しているカズキさんはジムバッジ取得のための旅を続けるうちに目にした土地ごとの様々な自然の造形に魅せられ、今ではポケモンとともに色々な土地を渡り歩きながら写真を撮影するカメラマンとして活動しているという。
「カナズミシティの出身でホウエンリーグのバッジを集めていたんですが、その中で目にして印象に残った風景は数え切れないほどでした。フエンから見た山の大きさ、ヒワマキのツリーハウス、ルネのカルデラの中から見上げた丸い空に、ミナモ港から見える水平線……初めて目にするものに、たくさん出会えたんです。
自分の住んでいる地方の中だけでもこれだけ多様な自然があるんだと、その時改めて感じまして。リーグ本戦出場は果たしたんですが、職業トレーナーはそれきりやめにしました。今はカメラ一本で生活しています」
それは少しもったいないですね、と口にすると、そうでもないんですよ、という言葉が返ってきた。
「『そらをとぶ』『なみのり』それに『ダイビング』。これらの技が使えれば、撮れるものの幅がぐっと広がりますから」
トレーナーとして鳴らした腕は、今でも役に立っているようだ。
光景ではなく、人との出会いを目的として旅するトレーナーもいる。
ヒウンシティで大道芸を披露するジャグラーのマイクさんの周りには人だかりができていた。彼はトレーナーとしてではなく芸人としての修行のため各地を回っており、ポケモンはあくまでアシスタント兼ボディガードといった具合なのだそうだ。
「人の多いところを選んで回っています。交通の弁もいいですし、やっぱり見てくれる人が多
い方が身が入るんですよ。格好悪いことはできないぞって」
隣では手持ちのマネネとタマタマがじゃれあっていた。これではボディガードとして少々頼りないのではないかと思っていると、マイクさんは苦笑して
「ただ、大きい道を通るので野生のポケモンにはあまり遭わないんですがトレーナーの方が多いんです。バトルを挑まれるととても勝てなくって……。とうとう賞金が払えなくなって、芸を見せて代わりにさせてもらったことがあります。あれでよかったのかなあって今でも思いますけど」
まさに芸は身を助けるというケースだろう。
そんなマイクさんが最近凝っているのは、珍しいコインの収集だという。
「以前イッシュ地方を回った時に、おひねりの中にデザインの違う硬貨を見つけたんですよ。よく表記を読んでみたら、イッシュ独立200周年の記念硬貨だったんです。それが珍しいなと思ったのがきっかけで……今でも、稼いだ額を数える時は毎回ほんの少し期待しながらやっています」
ただやっぱり普通のデザインでもいいので『折れる』お金があるのも嬉しいですね、とおどけてくれた。
また、トレーナーではなくポケモンが移動生活に向いているため、という例もある。
実家はシンオウ地方の農場だというシュリさんは、毎年花の咲く時期に合わせて世界を飛び回っているという。そんな彼女の手持ちはといえば、ビークインに五匹のミツハニー。彼女は世界各地の花の蜜を集める養蜂家だ。
「同業の人たちは春に、ホウエン・ジョウト・カントー・シンオウって順に北上して国内だけで終わらせる人がほとんどなんですよ。私はとにかく稼いでくる必要があったので一年中どこへでも移動して蜜を採っていたんですが、すっかりそれが習慣になってしまって」
そう話すシュリさんの周りは、いつでも花の蜜の香りで満ちている。言葉の切れたところで、丁度一匹のミツハニーが帰ってきた。
「咲いている花の種類が違うので、季節や土地ごとに蜜の味が違うんです。同じ場所でも、何かあって前の年にはなかった花が増えると別の味がするんですよ」
さしずめ、各地で様々な味に出会う旅とでも言えるだろうか。
そんな彼女に、どこで採った蜂蜜が好きかと聞くと、
「国内ではあまり知名度がありませんが、カロス地方には多くの花の名所があるんですよ。リビエールラインの花からは特にいい蜜が採れます」
とのことだった。シュリさん一押しの味を試してみるのもいいかもしれない。
風景、人、味、そして最後に紹介するのはモノと出会うため各地を旅しているというセンジさんだ。子供の頃からいつも共に過ごしているという相棒のオオタチとともに、人の少なくなってきた村などを回っているという。
「そうした村には古い財産の残っていることが比較的多いんです。揃ってエンジュの出ですから、掘り出し物の目利きには自信があるんです。私もそうですが、こいつも『おみとおし』なんですよ」
と自負するセンジさんの職業は古物の買い付け人だ。兄が経営する古物店へ品物を卸しているのだという。
「兄貴はエンジュから出たがらない、俺は飛び出していって帰ってこない、ならこれでお互い都合がいいじゃないかと」
元々旅好きな気質にはよく合った仕事で、見つけてくるモノの評判も上々とのことだった。
「まあ旅をする仕事なんですけど、見つけられる方からすれば旅をさせる仕事ですね。俺が品物と出会うのもあるんですが、品物は元あった場所から店まで旅をして新しい持ち主と出会うわけですから」
彼の旅は出会うためのものであると同時に、出会わせるためのものでもある。そんな彼に今までで一番の掘り出し物はと聞いてみると、
「小判を14枚ですかね」
と話してくれた。
「もうすぐ潰してしまう倉があるからと言われて、中にあるものを鑑定しに行ったんですよ。そうしたらもう、こいつが一竿の箪笥をじーっと見て動かない。空のはずの箪笥をよくよく調べてみたら、段の一つが二重底になっていてそこに小判が入っていたんです。こいつにはそれが見えていたんでしょうね。まったく様々ですよ」
とセンジさんは屈んで、足元のオオタチの頭を撫でた。
旅とポケモンが結びつけられやすいのは、やはりトレーナー修行としての旅が広く認知されている故だろう。しかし旅はもちろん修行のためだけにあるのではない。仕事のために行く旅も、楽しむために行く旅もある。
昔旅していた人も、今旅している人も、それを忘れてはならないのではないだろうか。
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ポケモン世界の仕事の話はもっとあっていいって聞いたけど、多分求められているのはこういうのではあまりないと思う。