少女は大変なことを知ってしまいました。それは世界の秘密。触れただけで天地がひっくり返りそうなパラダイムシフトを起こすので、大人たちがこぞって少女から隠していたのだとさえ思われました。
しかし少女は知ってしまったのです。見てしまったのです。
鍋を。
そして、そこに入るチョロネコを。
それも一匹のみならず、二匹三匹四匹五匹六匹と、丸まってにゃあん。
かわいい。少女は思いました。頭でっかちなチョロネコたちが、なにをどうやっているのか体をくるんと鍋に収めてきゅうきゅうに詰まっている様は、なぜだか少女の庇護欲を大いにかきたてるものでした。
手に入れたい、と少女は思いました。急激な膨張を遂げた庇護欲が変異する先は、支配欲でした。まだ幼く無垢な少女のそれは、“手に入れて思う存分眺めたい、願わくば手を出して撫で回したい”という欲求に変換されました。
その欲求に抗うことは、一途な少女には難しいことでありました。
少女は考えました。手に入れる方法を。
まず、チョロネコを連れてくるのは困難だと判断しました。その代わり、家にはゾロアがいる。そこまで考えつくと、少女の希望はオセロ石をひっくり返すがごとく転身しました。ゾロア、ゾロア。ゾロアがくるんと丸まって鍋に入ったらかわいいに違いない! ここまでお膳立てが整えば、あとは鍋を持ってくるだけです。少女はなけなしのお金をはたいて、フリマで叩き売られていた土鍋を買って帰途につきました。
家に帰った彼女は、おかえりの挨拶でとことこ出てきたゾロアの目の前に、買ってきた土鍋を置きました。ゾロアは大きな目で土鍋を見つめました。
彼女の心は、プレゼントを目の前にした時のようでした。心の中にパステルカラーの期待がリボンやシャボンになって舞い飛んで、肝心のプレゼントの中身は見えなくて、外側のラッピングだけが破裂しそうなほどパンパンに膨らんでいる、あの時。目の前に鍋があり、ゾロアがいます。今まさに、彼女の希求が達成されようとしているのです。手の届く距離に、待ちに待ったプレゼントが降臨するのです。
ゾロアが鍋に化けました。
「違う」
少女の願いは霧散しました。
あと、土鍋はIH対応ではありませんでした。