女の子は机の上に、両手で抱えられるくらいの小さなネズミを二匹乗せ、教師のように人差し指を立て彼らに語りかけた。
「いーい? デデンネ、コラッタ。ネズミと言えばチーズと物語では相場が決まってらっしゃるみたいだけど、わたしはそれに反対なの」
デデンネとコラッタと呼ばれたネズミ二匹は、ん? と兄弟のように首を傾げ、これから始まるご高説に備えている。
「大体ね、ケーキみたいに切ってあるチーズに穴があいてるのはネズミがかじったから、なんてナンセンスなのよ。あれはね、チーズが美味しくなるために熟成していった結果、勝手に穴があくわけ。あんたたちはネズミだけど、勝手に冷蔵庫にあるチーズをカジカジする悪い子じゃあないでしょう?」
ネズミ二匹は、うんうんと頷いて、ご高説に聞き入っている。時折種族ごとの固有の鳴き声とは違う、チューチューというネズミ声が聞こえる。おそらく人間で言う、うん、とかああ、みたいな感嘆の声なのだろう。
「ネズミってやつは雑食性で、なんでもムシャムシャモグモグ食べるでしょう、だからチーズにこだわらなくてもいいと思うのよ」
ネズミ二匹にこうしてご高説を垂れている彼女こそが、実は一番ネズミにチーズをやることの是非に対してこだわっているのであるが、その場にいる誰もが、ネズミ二匹を含めて気がつかない。
彼女はその事実には全く気がついていないし、ネズミ二匹はそもそも事実を知ることに興味などないからだ。ネズミ二匹の意識は、ご高説を垂れている女の子の大きく開いた口と、立てた人差し指と、体の後ろに回されている利き手でない左手に向かっている。
「だからわたしはあなたたちにチーズをあげることはありません。イタズラネズミが家主の目を盗んでこっそり食べるに一番ふさわしいと思われるものをあげます」
左手がネズミ二匹の眼前に突きつけられた。その上には長方形の、チョコチップクッキーの箱が乗っかっている。
「意識の高いネズミとして、その頭にネズミにはチーズよりクッキーだということをよーく刻み込んでおくのよ」
女の子は定番に逆らう口調とは裏腹に、開け口にしたがってチョコチップクッキーの封を開ける。中の三つに区切られたプラスチック製の容器からクッキーを二枚取り出し、ネズミ二匹に一枚ずつ、景気良くくれてやった。
女の子はご高説を垂れて満足したのか、自身もチョコチップクッキーをサクサクかじる。
ネズミ二匹が女の子の言い分をしっかり頭に刻み込んでいるかは怪しい。チョコチップクッキーが美味すぎてそれどころではないからだ。
ミスターイ●ウのチョコチップクッキーが好きです。