いつまでも一緒だなんて思ってはいなかった。
でも、こんなに早く別れてしまうものだとも思わなかった。
あのシオンタウンのポケモンタワーで、僕のライバルが見たこともないような表情をしていたのを思い出す。何か声をかけたほうがいいのかと思ったが、そんな間を与えることなく彼はバトルを挑んできた。こっちは心配しているのに、飛んだ仕打ちだと思ったが、今なら彼の気持ちが分かる。
この気持ちは、何かにぶつけ無ければ収まりそうにない。
苛立ち?
違う。
ただただ、やるせないだけだ。
僕がもっと周りを見ることのできるトレーナーだったら。
僕があの子のトレーナーでなかったら。
あの子が××することも無かったのだろう。
共に駆け回って、色々な人に出会って、バトルをして、笑って。隣にいるのは当たり前になっていた。
それを、失ってから立ち止まるなんて遅すぎる。もっと、もっと早く気がつかなくてはいけなかったんだ。このままじゃ、きっと繰り返してしまうから。僕は変わらなくてはいけない。あの子のためじゃない、これは、自分のために。
もう、行かなきゃ。
街のはずれ。
あの日と同じように僕は一人で立つ。
目の前に見える道は、夕暮れの暗さから陰鬱な色を醸し出している。一歩前へ踏み出そうとした時。
「どこに行くの?」
帽子を深くかぶっていた僕は、鍔を持ち上げて振り返り、声の主に視線を向ける。
白い帽子と聞きなれた声で、目の前の人物が誰なのか分かった。少女は手に何か抱えながら、僕に近づいてくる。
「ううん、違うね。どこまでいくの?」
彼女の問いには答えられない。自分でもまだわかっていないのだ。ただ、ここではないどこか遠くへ行かなくてはならない。それだけは感じ取っていた。
さぁ、というように肩をすくめてみせる、!
すると彼女は矢継ぎ早に質問を投げかける。
「何のために行くの?」
「手に入れたいものがあるから」
「帰ってくる?」
「そりゃあ、いつかは」
「そっか」
彼女は眉を下げて、複雑な表情で僕を見ている。
「早く見つかるといいね」
「うん」
彼女はポケットをまさぐると、二つのモンスターボールを取り出した。
「私と彼から。はい」
彼女は2つのモンスターボールを、僕の手に握らせた。ボールの透けた先に見えたポケモンは、彼女と僕の幼なじみの一番のパートナー。それに驚きを隠せずにいると、彼女は抱えていた楕円の物も僕に渡した。
「これも」
手に持つと、それが思っていたより重いことに内心驚いていた。そして、じわりと服の上から感じる温かさ。そこには、生命の重みと熱があった。
「これは何?」
彼女に尋ねると、そっと表面を撫でながら答える。
「これは、ゆりかごなんだって」
先ほどまでの突き刺すような風は無い。僕の腕の中の物を、優しく包むように柔らかな風が吹いていた。
「大切なものが生まれてくるための、大事なゆりかご」
彼女は、僕の右手に手を重ねる。
「大丈夫。きっと、また会えるから」
僕の腕の中で、新しい命がほんの少しだけカタリと動いたような、そんな気がした。
スマホのメモ機能に断片的に書かれていたものを、繋ぎ合わせてみたのです。
レッドさんとピカチュウの話のはず。いつか、もっと完成したのを書きたいですね。