「不思議だねえ」と少女が言った。
「何が」と、少年が言った。
秋の冷たい雨が、激しく打ち付ける夜だった。時期が時期なため、元から寒い空気が一層冷え込み、吐く息は白く宙へ上って行く。
二人は季節に似つかわしくない格好をしていた。通りすがりの人間達が、異端者を見る目で彼らを見て行く。
「十二年も経っちゃったんだね」
「そうみたいだな」
「あ、君はDSでも後の方からか。その名前を付けてプレイし始めたのは、BW2からだもんね」
「そういうアンタは、ほとんど初期からだそうだな」
少年が独特の形をした帽子を脱ごうとした。が、隣の少女に止められる。
「ダメだよ。それだ十二年前から続く、君のトレードマークなんだから」
「そうは言ってもな……」
「確かに、今までのキャップに比べたら不思議なデザインだけど、慣れるから」
渋々帽子を直す少年。
「あたし、色んな地方を旅したよ。でもね、一番印象に残ってるのは、ホウエンなの」
「初のフルカラーだったからか」
「初めてのポケモンだったから、かな。諸事情で入手できたのは発売から1年以上経ってからだったんだけど……。
広い大地に広大な海。果ては空まで。今でも、あれ以上に広いフィールドは無かったんじゃないかって思うの」
どうしても分からなくて、攻略本を買ってもらい、水道の多さに目がチカチカした。
見渡す限りの青。ページを捲る度、青が溢れて来る。
御三家しか育ててなくて、レベル85の一匹だけで挑んだ四天王、チャンピオン戦。
ユレイドルに何回煮え湯を飲まされたことか。
「……初めて殿堂入りできた時は、本当に嬉しかった」
「夏休み最後の日だっけ」
「十年前の話よ」
風が吹いた。少女のバンダナが揺れる。
いつの間にか、街を歩く人影はまばらになっていた。
「3DSでリメイクされるって聞いて、どんな風に進化しているのかすごく楽しみだった」
「そりゃあ、当時を知っている奴からすれば、そうだろうな」
「きっと、素敵な冒険が待ってるよ」
初めて遊ぶ人も。
十二年の時を越えた人も。
少女が少年に向かって、右手を出した。
少年も右手を差し出す。
「十二年おめでとう、”ナミ”!」
「どうかホウエンを楽しんでね、”キナリ”!」
朝日が、二人の姿を照らしていた。
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当時の主人公と今の主人公に会話させてみた。
両方予約したので、この二人の名前で遊びたいと思います。