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  [No.3617] サンドのサンドイッチ 投稿者:焼き肉   《URL》   投稿日:2015/02/28(Sat) 20:08:47   96clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:サンド】 【サンドパン

 ルンルン気分でミルクと砂糖入りのコーシー(コーヒーを軽く言った俺語)をいれてテーブルに戻ったところ、ハムエッグとレタスの挟まれたサンドイッチがサンドのサンドイッチに変貌していた。食パンと食パンに挟まれた、まだまだ小さいサンドの口の周りには卵の黄身と白身がくっついていた。ゲップまでしている。これだけ状況証拠がそろえば言い訳もクソもあるまい。こいつがハムエッグレタスサンドをサンドのサンドイッチにしたのである。向こうの部屋からずだだだだだだだ! と、鋭い背中と爪を持った、サンドに似た姿格好のポケモンが走ってくる。僕のサンドパンだ。

 僕のサンドパンはテーブルの上のサンドのサンドイッチを見ると、ああ! という顔をしてテーブルによじ登り、我が息子のサンドのサンドイッチをひっぱたいた。ぎゃいぎゅい言ってるのはガミガミクドクドお説教しているのだろう。サンドのサンドイッチはサンドされたまま泣いている。

 一通りお説教の終わったサンドパンは不意に僕の方を向いた。そしてサンドのサンドイッチをかばうように抱きしめるとぎゃいぎゅい鳴いた。さめざめ涙まで流している。これは私の朝食よ、食べないでちょうだい! とでも言ってるのだろう。

 ごめんウソ。息子の粗相を許してやってくだせえご主人、と僕に訴えていたのだろう。朝だからお腹が空いてたんじゃないかな。怒ってないよ、と言うと、ありがたき幸せですご主人、と平伏した。昔から義理堅い性格だったけど、子どもを持ってからますますそれが悪化した気がする。僕はこいつにそんな悪政を強いていただろうか。少なくともいつの間にか抱えていた卵をウチで育てれば、と言ってやるくらいはこいつに甘かったはずなんだけど。

「……怒らないけど、残ったパンは君達で食べなさい。僕はもう、いいや」

 サンドパンはまたへへーっと頭を下げ、サンドのサンドイッチの上部分を取ってムシャリ出した。息子が具を食ったからもういいやって感じにパンから退いて毛づくろいしだしたのをまたパカンっとひっぱたくのも忘れない。びええんかーちゃんひどいよう、とさめざめ泣く(この辺の仕草がおやそっくし)息子にいいからあんたもお食べ、と食パンを差し出すサンドパンを見ながら、僕は少し冷めた甘ったるいミルクコーヒーをすすった。



n番煎じっぽいネタですが気にしない


  [No.3710] サンドパンの旦那さん 投稿者:焼き肉   《URL》   投稿日:2015/04/11(Sat) 05:38:47   115clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:サンドパン】 【サンド】 【ネズミ】 【バカップル

 サンドのサンドイッチの続き。ギャグですが下ネタ多いです。



 サンドパンの手を引いて僕はある場所を目指して歩いていた。サンドパンの手の片方は僕が握っていて、もう片方の手は息子のサンドが握っている。ときおりフワフワ風に乗って飛んでいくフラべべや、遠い空を飛ぶ鳥ポケモンの影に気を取られてフラフラどこかに行きそうな息子を、これっ! よそ見しないの! ご主人に迷惑がかかるでしょう、って感じでギイギイ鳴いて注意している。おかげで僕は通りすがる車なんかに注意を払い過ぎる必要がない。

 人間一人とポケモン二匹でやって来たのは、一軒の古い屋敷だった。家の周囲が白い高い塀で囲まれており、それさえも突き抜けて、昔のカントー家屋って感じの瓦屋根が顔を出している。表札にはきちんと家主の名字が書かれており、文字の横には何かを塗りつぶした跡がある。

 僕はインターホンを押した。鐘のように響く音の後、間があいて、それから一人の女の子と一匹のポケモンが横開きの玄関から出てくる。

「はあーい……なんだ、アマノじゃない。いらっしゃい」
「こんにちは、サンノ。お邪魔するよ。ミルミルも元気そうでなにより」
「グギュウウウウ!」

 突然の来訪を歓迎してくれた女の子の方は僕の幼なじみ、お腹に良さそうな名前のポケモンはミルホッグだ。握っても何故か痛くないサンドパンの鋭い爪から手を離し、僕はミルホッグの「お前なんでほっぺにいつも各種木の実詰めてんの?」って訊きたくなるようなほっぺを両側からウリウリする。ほ〜らウリウリ、ウリウリ瓜〜。両手でグリグリすると、ミルホッグはギュウギュウ鳴いて喜んだ。でもほっぺから各種木の実が飛び出すことはなかった。コイツのほっぺがぷくぷくしてんのはミネズミの時からで生まれつきのものだしね。

「ちょっと、私のかわいいミルミルいじめないでくれる?」
「いじめてないよ、スキンシップだよ」
「じゃあセクハラをしないで」
「合意の上だからセクハラじゃないよ」
「外でわいせつな行為をしないでと言っているの」
「ほっぺぷくぷく罪ですか」
「そうよ、ほっぺぷくぷく罪よ。私のミルミルのほっぺは私のためにあって、他の誰にもぷくぷくをウリウリさせる権利はないの」
「瓜をあげるのはいいかい?」
「好きにして」

 いいのか。ミルミルはポリポリかじれるもの好きだからなあ。ネズミだし。ネズミ、という単語に、僕はサンノの家の表札を見た。

 『根済屋』と墨でかかれた横に、塗りつぶした後。そこにはかつて「敷」という文字が極自然に、ナチュラルに追加されていたのである。

「なによ」
「表札のラクガキ、消す必要なかったんじゃないかなあって」
「ラクガキはラクガキよ。消してなんの問題があるの」

 あり得ないことを聞いたように首をかしげる彼女の頭上で、赤っぽいピンクのリボンと長いポニーテールが揺れていた。リボンの端には白いラインが入っていて、それが装飾品そのものを装飾していたりする。

「問題はないけど」
「なら問題はないわね。遊びに来たんでしょ、入って」

 話を一方的に打ち切って、彼女は僕にポニーテールと背中を向けてしまった。ミルミルも主人の後を追うものだから、僕は二つのしっぽがフリフリされるのを見送ることになる。

 白いライン付きのリボンで結んだ、サンノのポニテがフリッフリ。
 黄色いライン付きの、先端は白いミルミルのしっぽもフリッフリ。

 通されたサンノの家は広い。インターホンを押してから少し間があったのはこのせいである。奥の方の部屋にいると、玄関に来るまでちょいと間があいてしまうのだ。板張りの廊下を歩いていると、いらっしゃいませご主人のご友人様、という感じで、何匹かのポケモンが出迎えてくれる。いつもの事だ。ラッタ、ビーダル。

 彼女の部屋に入ると、更にもう数匹が僕達を出迎えた。鞠(まり)のように弾んで飛んで、サンノの胸に飛び込んでくるのはルリリ、勝手に僕の体をアスレチックに見立てダダダダダーッと肩に乗って来たのはデデンネだ。

 そして、部屋の机、ベッド、本棚の上などいたるところに黄色い物体が置かれている。ピカチュウのぬいぐるみだった。彼はこの世でもっとも有名かつ人気なネズミポケモンである。サンノも大好きだった。彼らのつぶらな瞳がジッと、僕とサンドパン達を見つめている。何匹かは白い綿をぷっくりした腹からはみ出させてしまっている個体もいた。ネズミ達にかじられてしまったのだろう。時々本能に抗えず、サンノのネズミ達は物を齧ってしまうのだ。げっ歯類さん達の共食い反対。

「で、何の用よ? 遊びに来たの? トランプでもする? おやつ食べる?」

 ルリリを抱えたまま、サンノは僕に座布団を勧めた。当然のようにピカクッション。僕に茶色いしましま背中を向けるピカクッションの上に、ちょいとごめんよとお座りした。傍らに僕のサンドパンと息子のサンドも座る。

「ちょっと話があって」
「とうとうあなたのサンドパンといつの間にか増えてるサンドちゃんを私に譲る気になったのね。いい心がけだわ」

 んなことしたらまた表札に敷って追加されてネズミ屋敷になるんじゃないかなあ。あげないよ。肩の上でデデンネがチュウチュウキイキイ鳴いている。

「いいや、今日は僕のサンドパンがいつの間にか増殖していた件について話に来たんだ」
「ネズミちゃんだからでしょ」
「いや合ってるだろうけど違うそうじゃない」

 そりゃ一般的にネズミポケモン(とそれに近いポケモン)は増えやすいって言うけどさ。サンドはまあ、一匹見かけたら四十匹はそこに住んでるって言われるコラッタほど見かけやすいポケじゃないけど、絶滅なんて言葉も聞かないのはやっぱり、そこそこ増えやすいからだろうね。

「まあポケモンだから、人よりは後先考えなくてもいいっていうか、実際一匹くらい増えても何も問題じゃないけど、気になって」
「何が?」
「いくらネズミちゃんでも一匹じゃ増えないだろ。だから父親がいるんじゃないかって」
「要件はそれ? なんていやらしいの。あなたは私のネズミちゃん達が一匹の可憐なサンドパンのメスを手篭めにする鬼畜畜生だとでもいうのね、」
「違」
「国家の犬! 猫の手先! ニャースを率いるロケット団!」
「だから」
「うちには犬も猫もいらないのよ、出てって」

 真顔でそういうこと言わないでくれるかなあ? いくら付き合いが長くったって冗談との区別がつかなくて悩む事もあるんだよ?

「だからその……手篭めにしたとは限らないだろ? じゃなくてね、僕のサンドパンは」
「『僕の』サンドパン、まさか父親はあなた、ずいぶんサンドパンへの独占欲が強いと思っていたけど、とうとう」
「君のがやってそうだけど」
「や、やってないわ……」
「どもった」
「本当よ」

 照れるくらいなら、手篭めだの、ポケモンと人間がどうだのなんてネタを振らなければいいと思うんだ。

「僕のサンドパンはこの通り義理堅い性格だから、あまりぼくのそばを離れないし、単独行動の時、どこかで全く知らないポケモンと行きずりの関係を結んだとは思えないんだよね」

 行きずりの関係って。サンノの表現技法が伝染しちゃったよ。言葉もネズミ式に増えるのか。

「だからさ、サンドパンそのものは君の手持ちにいないとしても、サンドパンと同じような種族を引き連れていて、僕ともサンドパンとも仲良くしているサンノ周辺が怪しいと思うわけだよ」
「何も怪しくないわ」
「つっかかるなー……言い方が悪いなら謝るよ、僕としちゃあただ気になることをハッキリさせたいだけなんだ」
「ルリルリはシロね」
「ルリリは赤ちゃんだからね」
「おねショタ」
「何か言った?」
「いいえ」

 サンドパンはいつの間にかサンノの横に移動して首元をなでなでされていた。いつネコになったんだこの野郎。あ、お母さんだった。このマザー。そのマザーだけど、この場にいるいつの間にか僕の頭の上で「頂上にたどり着いたー!」とチューギィ叫んでるデデンネにも、いつもビックリ仰天した顔してるビーダルにも、ラッタに尻尾を甘噛みされてああーんってなってるミルホッグにも、噛みついてるラッタにも反応していない。となると。

「ネズミちゃん一匹足りなくない?」
「足りなくないなんてことないわ」
「現に一匹足りないじゃない」
「いるわよ……ピカピカ! アマノが勝手に行方不明にしてるわよ! 出ておいで!」

 魔法をかけないでいつまでも、とか続けたくなるニックネームに応え、一部齧られ気味なピカチュウぬいぐるみの山がうごめいた。返事がないただのしかばねの山から出てきたのは……? ゾンビ!

「うーあーうーあー」
「何やってるのよ」
「効果音を」
「せめてピカピカチュウチュウと鳴きなさいよ」
「ピカピカチュウチュウ」
「よしよし」

 サンドパンのように僕も首をなでなでされてしまった。何これ。ゴロゴロすればいいの? 僕の頭のピカピカチュウチュウコールに釣られたかは知らないけど、ピカチュウぬいぐるみの中から出てきたのは生身の生きたピカチュウだった。おやびんって感じで、電気ぶくろの赤いほっぺに少し傷がある。今まで寝てたって感じで、つぶらな瞳がすげー釣りあがってて目つき悪っ!

「ギ……ギギィ!」

 瞬間! 僕のサンドパンが僕だけのサンドパンじゃなくなった! メスの顔になった! ボーッと顔を赤くして、ピカぐるみの上に立つおやびんピカチュウを見つめたまま動かない! ただならぬ気配に息子のサンドもお母ちゃんどうしたの、ってオロオロ母のトゲトゲを引っ張っているのだが気づかない!

 おやびんピカチュウは僕のだったサンドパンを一目見るや、おうおうマブいスケさんよう、元気してたかって感じで僕のサンドパンにつかつか歩み寄った。サンドパンはそれを真っ赤なお顔、恋する瞳でおでむかえし、あのう、そのう、って感じにツメをシャッシャカ合わせている。殺人準備っすか。

 あなたにまた会えるとは思いませんでした。サンドパンが鳴く。いつ一晩だけって言った? ピカピカが鳴く。こんなトゲだらけの身体すぐ飽きてしまうに違いないもの。そういう傷つくような身体、好きだぜ。嫌だわ恥ずかしい。これはあの熱い逢瀬の結果です。サンドパンが息子をそそくさピカチュウの前に出す。おう、オレもとうとう父親かい。ピカチュウおやびんがサンドの頭を撫でてやる。だあれ? って感じにサンドが首をかしげる。

 台詞は全部僕の想像でしかないけど、大体合ってるんじゃないかな。だって雰囲気がただ事じゃねえもん。

「……サンノが心配するような手篭めはなかったようだよ」
「いくら私のピカピカが強くても、じめんタイプで一メートルもあるサンドパンが、ピカチュウに抵抗出来ないわけがないものね」
「……いつ頃こうなったかは知らないけれど、逢瀬の場所は、あそこかな?」

 ピカぐるみの山を僕は指差した。サンノの部屋は広く、ピカぐるみの山は壮大。あの中なら気づかれまい。かじられながら愛の巣にまでされたピカぐるみたちは今何を思うのだろう。とりあえずジュペッタになる前に片付けた方がいいと思う。

「こうなったからには責任を取らないとね、さっさとサンドパンをサンドちゃんごと譲りなさい」
「手持ちもういっぱいでしょ」
「じゃああなたをパソコンに送るわ」
「解決してない!」
「一人減る」
「減らしてどうするのさ! そもそも譲る気ないからな!」

 声を荒げてしまった。思っていた以上にメスの顔をしたサンドパンがショッキングだったみたいだ。いやだって、あんな顔、トレーナーの僕でさえ見たことないぞ。それがあの、どこのネズミの骨とも知れないピカチュウと。いや知ってるけど! いやあん堪忍してえ、ってな感じに襲われたんじゃなくて良かったかも知んないけど!

「よしよし」

 サンノが僕の頭を撫でてくれた。頭の上のデデンネはとっくに下山している。撫でられたって嬉しく…………嬉しい。視界の端では発覚! 熱愛じめん/でんきの相性を越えた愛が熱い。



 サンノの名前は大好きなラノベの一つ「曲矢さんのエア彼氏」の曲矢サンノから。


  [No.3766] サンノさんの過去事情 投稿者:焼き肉   《URL》   投稿日:2015/06/05(Fri) 19:29:08   110clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:サンド】 【サンドパン

「よしよし」

 根済屋サンノが頭を撫でている。僕やネズミたちにするように、小さなチョロネコを撫でている。ベンチの上、サンノが腰かけている。そのサンノの膝の上で、チョロネコはにゃーんと甘えるように鳴きながら彼女の寵愛を受けている。

「浮気?」

 膝の上のチョロネコを撫でていた彼女が、目の前に立つ僕を見上げる。チョロネコの高貴な紫に触れる指先は存外細くて白い。

「あなたに対して? ネズミちゃん達に対して?」
「今はネズミちゃん達に」
「……浮気じゃないわ」

 チョロネコの額、背中。ネコポケモンが撫でられて嬉しい場所を熟知している手は、ネコに理解のある手だった。

「ウチにはネコも犬もいらないんじゃなかった?」
「ここは公園だもの。ウチじゃないわ」
「ふうん」
「ネコだって別に嫌いじゃない、でも……」

 撫でる手を止めて、サンノはただ紫の毛並みのポケモンを見おろしている。チョロネコ越しに見るのは、過去の記憶だった。

「意地悪なネコは嫌い」



 ちょっと昔のこと。まだ僕のサンドパンが僕だけのサンドで、サンノはネズミというかただの昔からのパートナー、ミネズミが好きなだけのちっちゃな女の子だった時のこと。僕の身長はピカチュウ三匹ぶんがやっとで、サンノのポニーテールも髪が短すぎでカントーの昔の流行・ちょんまげみたいだった頃の話だ。

 同じネズミポケモンを持っていて、家も近かった僕らは、いつも一緒だった。サンドのザラザラした毛並みを撫でては、砂ネズミって感じだねとサンノが笑えば、僕もミネズミのほっぺをぷくぷくいじって、ほっぺにいつも何か詰まってるね、なんて言い合っていたお年頃の話だ。

 プラズマ団という奴らが僕らのちっちゃな世界をおびやかした。その頃の僕らはポケモンが人といて幸せか、なんて難しいことは考えてはいなかった。ただサンノとサンドとミネズミと一緒にいられれば良くて、大人が何かを騒いでるなとしか思わなかったと思う。

 それでもプラズマ団は僕らの世界をおびやかした。ただのポケモン勝負も、ポケモンを無理くり操る悪の組織と、ポケモンと遊ぶのが楽しいだけのオトシゴロだった僕らには災厄みたいなもんだ。

 いきなり襲い掛かってきた災厄は、ちょうど今サンノが抱きあげているチョロネコの形をしていた。主人のサンノを庇うように、敵のネコに踊りかかったネズミのミネズミは勇敢だったけれど、タイプというか種族の相性が悪かったのだろうか、窮鼠(きゅうそ)ネコを噛むとはいかなかった。毎日サンノに分けてもらっていた飲料水の効果はなかったようだ。哀れミルミル。

 サンノの腕でぐったりするミルミルに変わって前線に出たのは僕のサンドだったけれど、サンドの爪はサンドパンよりも丸っこくて、そんな彼女の爪は敵を屠(ほふ)るには頼りなかった。力尽きた僕のサンドのザラザラした皮膚に、天敵のネコの爪のトドメが刺さる。かに思われたその時──。

 黄色いリフレクターがサンドとチョロネコの間に立ちふさがったのだ。リフレクターと言ったのは、物理攻撃を防いだからで、黄色いと冒頭で申し書きをしたのはリフレクターの毛が電気で光っていたからだ。

 僕らの住む場所じゃ珍しいピカチュウが、弱ったサンドの代わりにチョロネコの爪の一撃を受けたのだ。ピッ、と赤い液体が地面に飛ぶ。赤い電気袋にかすったらしい。

 ──オレ様のお仲間に、ずいぶん手荒いおもてなししてくれちゃってんじゃねえか。

 ピカチュウ親分が本当にそんなことを言ったかは知らない。でも通りすがりのくせして、見ず知らずのポケモン達に肩入れしたのはマジだった。電気を溜める電気袋に穴が開いてもなんのその、暴風のような放電が二匹のネズミと一匹のチョロネコと、ついでにプラズマ団とやらまで包んだ。

 ボガアアアアアン! と大きな音がした後にはチョロネコとプラズマ団は黒コゲになっていて、プラズマ団はチョロネコを抱え、半泣きになって逃げていった。ちょっとチビってそうなくらい情けない遁走っぷりだった。電気技を食らっても平気な僕のサンドが、黒い三角の目でピカチュウの頼りがいのある背中とかみなり尻尾を見ていた。



「今思えば、あの時ピカピカに助けられた時点で、もう僕のサンドパンは僕だけのサンドパンじゃなくなっていたのかもなあ」
「NTR」
「うるさいよ」
「うるさくないわよ」

 しかしチョロネコにはうるさかったらしい。うとうとしていたのが、ぴいんと背中を伸ばし、サンノを見上げてなになにどったの? と首を傾げている。ゴメン、とサンノが謝ると、ううん別に、って感じでまたチョロネコは目を閉じた。

 とりとめのない過去の記憶だ。小さかった僕は、ヒーローみたいにカッコよくサンノの事を助けられなかったし。ネコは意地悪で、サンノを助けようとしたポケモンも、実際に助けてくれたポケモンもネズミだった。ネズミ信仰をこじらせ、根済屋さんちのネズミ子さんが出来たわけである。

 公園の噴水近くで、ネズミ一家が交流している。噴水の中に浮いているハスボーを覗き込もうとして、ちっちゃなサンドが落っこちそうになっている。それを僕のサンドパンが抱きとめて、これっ、危ないでしょ! 私達に水は天敵よ! と叱っている。噴水の縁にどっかりと座ったピカピカが、んな過保護にならんでも死にやしねーよちょっと不快になるくらいで、とピカピカ笑う。

「僕らもそろそろ、サンドパン達みたいに一歩進んでいいんじゃないかな」
「そして二歩下がる」
「後退してる!?」

 サンノは悲しみに暮れる僕を見て表情を緩めている。固結びされたロープが解けたような微笑み。サンノがネズミポケモンで手持ちを固めているのは、何もネズミ信仰のせいだけじゃなくて、そういう事があったからネコのポケモンを上手く愛せないのではないかという不安も関係している。うちにはネコも犬もいらないというのは冗談でもないのだ。

 プラズマ団の行動に影響を受けた人は多いという。ポケモンと別れたり、あえて言うことを聞かないポケモンと一緒に生活したり。サンノもそういう人達と同じ人種に当てはまるといえば当てはまるのだろう。

 公園で、チョロネコを抱えてひなたぼっこが出来るのなら大丈夫だと思うんだけどな。サンノはネズミマニアの変なやつだけど、この世界の人々の大半がそうであるように、ポケモンには優しいんだ。

「老後はチョロネコを一匹傍らに置いて、二人仲良く過ごしたいね」
「賢い勇敢なネズミちゃん達くらいカッコよくなってから出直しなさい」

 これは手厳しい。


  [No.3769] 人間の家庭とポケモンの家庭 投稿者:あいがる   投稿日:2015/06/06(Sat) 20:42:07   73clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
人間の家庭とポケモンの家庭 (画像サイズ: 666×470 100kB)

自分のポケモンが自分たちより先に家庭を持ってしまうと、トレーナー本人たちの人生観にも大きく影響を与えてしまいそうですね。
トレーナーが子供を持つころには、おそらくサンドパンたちは孫の代までファミリーができてしまっていそうです。
子育ての苦労が大人になって分かるように、ある程度トレーナー自身が成長して家庭を持ち様々な経験を積んで、そしてやっと手持ちのポケモンファミリーたちの心がよりよく分かってくる、と想像するとなんとも感動的な匂いがします。

サンドのサンドイッチ、直球ですが、頭に浮かんだイメージがなかなか離れないので絵にして残しておきます。


  [No.3770] Re: 人間の家庭とポケモンの家庭 投稿者:焼き肉   《URL》   投稿日:2015/06/07(Sun) 10:12:43   47clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

うわああああああコメントだけでなくイラストまで……! ありがとうございます! ありがとうございます!
このドヤァって感じのサンドがそのままパンごと食ってやりたいくらいかわええです!
モノクロなのがまたいい味出してるなあ。

確かにネズミさんだから最終的には手持ち圧迫するほど増える可能性もなきにしもあらずですね。
一応トレーナーがポケモンを使役するというのがあの世界の流れなんでしょうが、こういう場合はある種ポケモンの方が立場が上になってしまうわけですねそういえば。
大人の階段登っちゃったポケモンの気持ちを後になって知るというのは子に親が教わるようで感慨深い。

あいがるさん、コメント&イラスト本当にありがとうございます!