イッシュ地方ヒウンシティ
まだ街は起きず、朝霧が港を優しく包み込む。
ポケモンセンターの電子看板以外は全て、物言わぬただの黒壁の板になってるだけ。
そんな優しい白の世界に、そっと包まれた、2つの影が溶け込んでいた
「朝の散歩には、まだ少し早かったかな。」
右手から肩にかけて痣が残るドレディア。名はジャスミン
紫の影は女性で、ドレディアの主人の『リーリエ』。
仲間や友人、それから双子の弟からは『リア』の愛称で親しまれている。
「ねぇ、ジャスミン。少し……遠出しようか。」
ジャスミンは、車椅子に乗る自分の主の姿を見る。
ロイヤルパープルのウルフヘアー。
チェリーピンクのつり気味の猫目。
左の頬から首、そして肩にかけて残る大きな火傷痕。
「れでぃ……。」
「心配しないで。今日は調子がいいんだ。このまま橋を越えてヤグルマの森にでも行くかい⁇それとも4番道路の方にでも行こうか?」
けど、まだ4番道路の方は冷えるだろうから、森の方かな。のんびりと、そして楽しそうに話す女性の顔を、ただ眺めながら、ドレディアは思案する。
彼女はなぜ、こんなにも強いのだろうか、と。
*
*
肉と血が焼ける臭い
大木が燃え、草が燃え、充満する煙と燃え盛る業火が生き物たちを追い詰めていく
雨が降る気配は無い。
いっそのこと清々しいほどに晴れ渡る、とてつもなく憎たらしい星月夜だ。
「っ、……ハイドロポンプは尽きた……水の波動も少ないし、雨乞いをしても、全てを消すほどにはならない………。」
火の粉の中をくぐり抜けながら走る紫の小さな影。
その背中には一匹のドレディア。
右腕には濡れたハンカチが当てられているが、よくみれば赤く爛れているのが布の下から見え隠れしている
「さて……この子を背負いながら走るのもそろそろ限界か………っ、!」
目の前に燃え盛る大木が落ちてきて、思わず足を止める。
散った大きめの火の粉が顔にかかったようだが、ドレディアを背中に抱えた紫の髪の『彼女』はおかまいなく、まだ燃えていない部分に足をかけて飛び越えた。
「っ、……あとで冷やすか。それよりも森を抜けなきゃね。こうなら最終手段だ。」
紫の彼女……リーリエはひとまず飛び越えた大木から少し離れて、一度ドレディアを背中から降ろすと、バックルから下げたモンスターボールのうちのひとつを宙に投げた。
そこから現れた、緑の体の三つ首の巨体のサザンドラが、するりとリーリエの前に降りてきた。
「私は他に逃げ遅れていないポケモンや人がいないか、探せる範囲で探してくる。レディはこの子を背中に乗せて、近くのポケモンセンターまで運んでやってくれ。……そんな顔をするな、レディ。これが私の仕事なんだから。」
頼んだよ、と告げてから、レディと呼ばれた色違いのサザンドラの背に、右腕に痛々しく、そして生々しい火傷を負い、気絶した状態のドレディアを乗せた。ドレディアが落ちないように、近くに運良く、燃えることなく残っていた長めの蔦を使って括り付けると、リーリエは送り出す。
大丈夫、心配しないでと笑いかけた。サザンドラは、主人である彼女のその一言を信じて、背中に乗せたドレディアが落ちぬようにゆっくりと高度をあげて、東に進む。
その先は、シッポウシティ。ここから1番近い場所はそこだろうと判断したらしいサザンドラを見送って、リーリエは視線を未だ燃え盛るヤグルマの森に移す。
「………さて。たとえこの命尽き果てようとも、師匠からの教えと、自らの誓いは守らなきゃね。」
決意に身を固めたその表情(かお)に、いっぺんの曇りも見当たらなかった。
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3月10日(火)
一粒万倍企画掲載
砂糖水さんがリラさんのお話しを待ってくださったので
サプライズですわん
あと私事ですが誕生日迎えました。
これからまた1年がんばっていきます。
NOAH
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