人間がポケモンを狩猟対象にする理由は2つある。一つは食料を手にするため、生きるための狩猟。そしてもう一つは娯楽としての狩猟である。
カロス地方における鷹狩-猛禽類のポケモンを使用して小型のポケモンを狩る狩猟方法は、早くから典型的な後者としての顔をのぞかせていた。
カロスの鷹狩りの歴史は古く、5世紀のメロイア朝の時代に描かれた絵画には既に、ピジョンを肩に乗せてギャロップに跨がり鷹狩りに赴くフィリップ2世とその家来たちの絵が残されている。
その後王侯貴族の力が強まると共に鷹狩りもカロス全土で流行し、鷹狩りのために王や貴族によって買い上げられた各地の狩猟地は関係者以外の立ち入りを禁じられ、いかなるポケモンも狩猟、捕獲が禁じられ、これを破ったものは死罪となったという。
山や丘、森をまるまる一つ買い上げるのだから、そこで行われる狩猟もとても大規模な物になった。
まず平時にこの土地を管理するための庭師や木こりだけでも相当な数が必要である。12世紀の貴族、ルドルフ・フォン・ハールには、狩猟地の手入れをする庭師が50人仕えていたとされる。そしていざ狩りとなると、猛禽を操る貴族とその補佐である鷹匠、獲物を追い込むためのグラエナやヘルガー、ハーデリア等の獰猛な猟犬を操る係の者、それぞれが騎乗するギャロップやゴーゴート等の世話をする者、仕留めた獲物の処理をする係などによる、あたかもパレードか戦争にでも出向くかのような大規模かつ華やかな行進が行われたという。
鷹狩りで一般的に好まれた猛禽は紅と金の冠毛が美しいピジョット、飼い主に忠実なムクホークなどだが、「鷹狩公」の名で知られるコール大帝などは遥か東の国からわざわざワシボンを取り寄せて育て、それが進化したウォーグルは鷹狩りの貴族たちの集会でも一際目を引いたという。
また、カロス地方で一般的な猛禽であるファイアローだが、これは獲物を仕留める際に発火する習性があるため、獲物の毛皮を焦がしてしまったり、狩猟地で火事を起こしてしまう危険性があったため、あまり好まれなかったようだ。
貴族の従える猛禽たちは黄金の足輪や宝石の散りばめられた兜等で豪勢に着飾られ、美しく忠実に育てられた猛禽はそれと同じ大きさの黄金にも代えられない価値がある、とまで語られるほどだった。
狩猟地に赴いた鷹狩りの一行は、まずリーダーである王(または貴族)が見晴らしの良い場所に立ち、追い立て役の猟犬とその主たちを狩猟地の各地に配置するところから始まる。この采配の仕方が戦争時においては部下の采配の上手下手にも繋がるとされたため、王侯貴族は熱心に鷹狩りに励んだという。
楽士のラッパの合図で鷹狩りが始まると、猟犬とその主たちは一斉に動き出し、獲物を鷹匠と王(または貴族)の待つ広場まで追い立てる。
鳥なら風に乗り切らないうちに、獣なら猟犬に怯んだ隙に、鷹匠の合図で猛禽を飛ばし、仕留める。この時見事な動きをした主には褒美が与えられたため、狩猟犬を育てる者にとっても鷹狩りは身を立てるための大きなイベントであった。
一時は貴族の必修科目とまで言われた鷹狩りであったが、時代が進むにつれ、銃火器やポケモン捕獲・収納の技術が発達したこと、また都市の巨大化や交通網の発達により領地の確保や保全も難しくなったことから、大規模な鷹狩りは次第に行われなくなっていった。
政治体制が変化し、王権制から民主制へと変わってからは、鷹狩りは貴族の嗜みから鷹匠が技術継承のために細々と行うものとなっていった。しかしモンスターボールが一般的に普及し、人とポケモンの距離がより近づいた近年のカロスにおいてはポケモン愛護の気風が高まり、鷹狩りは残酷だという声が世間から上がるようになった。世間からのバッシングによって鷹狩りの技能を継承する団体は一時存続の危機にさらされたが、一方で遥か千年以上も前から人とポケモンが一体となって過ごしてきたことを伝えるその技能は後世へも継承されていくべきだという考えもおこり、今では鷹狩りは無形文化財に登録されている。
現在、カロス政府によって保護されている3つの流派が伝統的なやり方の鷹狩りを継承しており、祝典などにおいて猛禽を操る技を披露することはあるが、狩りの技能は疑似餌を用いて披露されることがほとんどで、本物のポケモンを捕らえる狩りが披露されることは今ではまず無くなったと言って良い。
また、ごく近年のことであるが、若者たちによって構築されつつある、全く新しい鷹狩りのスタイルを特筆しておきたい。
俗に「ハンティングバード」と呼ばれるこの新しいスポーツは、ミアレ郊外のとある公園にて、2人の若者が鷹狩りの真似をしてお互いのポケモンにレースをさせたことが発祥とされ、ミアレ中心にじわじわと広がっているようだ。
以下にルールの概略を説明する。
「ハンティングバード」は逃げ役のポケモンと追い役の鳥ポケモン、そしてそれぞれのトレーナーによって行われる。フィールドは、逃げ役が走るための「リング」と呼ばれる円形のコースと、トレーナー両名が待機、指示をするための「ランド」と呼ばれるリングの内側部分で構成されており、その形状、大きさは厳密には決まっていない。だがトレーナーは「ランド」から「リング」上のポケモンに指示を出すため「ランド」内からどの方角を見てもお互いのポケモンを視認できるような構造であることが絶対条件であるとされる。「リング」と「ランド」の間に木や車等の障害物があると、ポケモンに正確な指示を出すことができないため、そのコースでは「ハンティングバード」は行えない。
競技はまず逃げ役のポケモンを従えたトレーナーがポケモン(シキジカやコラッタなど小型で足の速いものが好まれる)をリング上に放ち、走らせるところから始まる。逃げ役がリングを一周する間に、追い役は逃げ役に3度まで「アタック」を仕掛けることができる。「アタック」は追い役が逃げ役を捕らえる行動、または追い役が接触を伴う攻撃を逃げ役に対して繰り出すことであり、指示の際にはトレーナーは「アタック」と宣言しなければならない。追い役に逃げ役の後ろを追わせるトレーナーもいれば、コース上空や自らの腕の上にて追い役を待機させるトレーナーもいるが、「アタック」は最良のタイミングを見計らって行わなければならないことはどちらも同じである。逃げ役がリングを一周する前に追い役が逃げ役に対して一度でも「アタック」を成功させた時点で追い役側の勝ちである。(無論、追い役の「アタック」をかわして一周走りきれば逃げ役の勝ちとなる)
逃げ役がリングに入ってから5秒間は「アタック」を仕掛けてはならない、などといったもう少し厳密なルールを設けている民間団体もあるが、まだ非常に新しいスポーツなため、公式ルールが定められる段階までには至っていない。しかし鷹狩りの競技的な側面をクローズアップしたこのスピード感溢れるスポーツは、若者にとって非常に刺激的であり、それが普及速度を早めている一因であることは間違いない。
また、ルール説明の中で「猛禽」ではなく「追い役」という言葉を使ったように、この競技において逃げるポケモンを捕まえる役は、必ずしもピジョットやファイアローといった勇ましい猛禽たちでなくてもよい。トレーナーとポケモンさえその気になれば、カモネギで追い役を務めることさえ可能なのだ。
「私達のデモンストレーションを見るお客さんが日に日に増えているのがわかります。そう思うと練習にも力が入りますよ」
そう話すのはハクダンシティのハンティングバードクラブ「アンバーアイ」のメンバー、リサ・ナガノさん(23)である。彼女は逃げ役のピカチュウを育てているエレナ・デュボワさん(22)とタッグを組み、カロス各地で「ハンティングバード」の普及活動を行っている。まず観客にルールを説明し、実際にマラソンのトラックなどを借りて競技のデモンストレーションを行うのだが、勝負はお互いに本気だ。勝敗はこれまで22対24と逃げ役のピカチュウの方がやや優勢なのだという。「ラストスパートの高速移動で逃げ切られることが多いので、その対策が今の課題です。将来的にはこのスポーツが広く認知されて、五輪競技にもなってほしい」とリサさんは相棒のヒノヤコマを撫でながら語ってくれた。
時代とともにその姿を変えてきた鷹狩りだが、今や「狩り」の部分は身を潜め、代わりに「スポーツ」としての鷹狩りという新しい側面に光が当たり始めている。その歴史は人とポケモンの関係そのものを表しているのかもしれない。
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始めまして。Ryoといいます。初投稿ですが、思い切って書いてみました。
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