近代化、機械化。イッシュのヒウン、ジョウトのコガネ、カントーのヤマブキ、タマムシなどなど「都会」と
呼ばれる街はいたるところに生まれ、開発は止まるところを知らない。人間の生活は日々豊かになり、便利にな
っていく。その一方でかつて尊ばれた山々や森は畏怖の対象ではなくなり、獣たちは神の座から引き下ろされた
。
だがそれでも残る信仰をご紹介しよう。
『送り狼』の話はご存じだろうか。全国的に広く伝わる話だが、『送り狼』、ホウエンで言えばグラエナやポ
チエナの話である。山道を行く時にいつのまにか後ろにグラエナやポチエナが付いてきており、立ち止まったり
転んだりすると彼ら襲われる。と、ここまでは共通だが、そこから先は転んでしまうと群れで襲ってくる、無事
に帰れた後に礼を言う、捧げものをすると狼、つまりグラエナやポチエナは山に帰っていくなど話のレパートリ
ーある。ホウエンでは危険な山から“無事に帰れるまで送り届けてくれる”存在としてグラエナやポチエナが見
られていたのだ。そして、それと似た話がジョウト地方にも存在する。
『ホーホー』と呼ばれるポケモンがいる。丸々とした茶色いフォルムと時計の針の様なトサカが特徴的で、あ
る地域では正確に時を刻むことから知恵の神とされるが、特別珍しいポケモンではなく比較的全国で見られるポ
ケモンである。しかし知恵の神とされる以外にも特にジョウトでは旅人の守り神として祀られていることがある
。
その昔、まだポケナビなどが発達していなかった頃、獣はヒトの支配になくそれの棲む森は畏怖の対象であっ
た。一歩踏み込めばそこは人間の領域ではなかったのである。そして、そこで活躍したのが件のホーホーであっ
た。ホーホーが森の道案内、特に夜目の利かない夜の森での誘導を行ったのである。その関係がヒトとホーホー
、そのどちらから始まったのかは定かではないが、安全に森を抜けさせてくれる存在であるホーホーは確かに守
り神になりえたのだろう。ジョウトでは森の入り口にホーホーを祀る祠が見られる場所も多い。今となっては随
分減ったが、実際にホーホーが森での誘導を行う姿が見られる地域も確かに存在する。ホーホーがそんなことを
行う理由もまた定かではないが、縄張りから追い出そうとした結果、誘導となったか、冬など食糧が不足した際
に獲物を譲ってもらう代わりに誘導を行っていたのではないかと考えられている。なお、ジョウトでこのように
祀ることが多いのは、ジョウト固有のホーホーが“フラッシュ”を覚え、夜道を照らすことができたことが大き
いのではないだろうか(ジョウト固有以外のホーホーは“フラッシュ”を覚えることができない。例外としてホ
ウエンのホーホーも“フラッシュ”を覚えるが、ホウエンでホーホーは外来種であり、ジョウトから渡ってきた
種であると考えられている)。
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フォルクローレじゃないですけど、そんな感じで。ずいぶん前に書いたものの記事的に。
山岳信仰で有名な山が近所にあって偶然登ってきたので適当に思い付きでガサガサやってみただけ。送り狼は全
国的に有名ですね。