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  [No.3715] あるあさ そらから ふってくる 投稿者:Ryo   投稿日:2015/04/13(Mon) 21:12:04   71clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

ある朝、朝ごはんを食べていると、ドスンという音と共に、ぼくの家の庭にヒマナッツが降ってきた。最初はいん石かと思ってちょっとびっくりしたけど、ただのヒマナッツだったので
「なーんだ」
と思った。いきおいよく落ちてきたのに、ヒマナッツは何事もないような顔をして、のんびり空を見上げていた。

学校へ行く道で、友だちに聞いてみたら、みんなの家にもヒマナッツが落ちてきたと言っていた。
「うちは二匹落ちてきた」
「うちは屋根に穴が開いて大変だった。しゅうり屋さんが午後に来るんだって」
口々にそう言っている。でも、ヒマナッツは毎年5月くらいになるといつもこうやって落ちてくるので、みんなそんなにおどろいていなかった。でも屋根に穴が開いた友達はかわいそうだった。

学校へ着いた。校庭を見ると、そこにもヒマナッツが何匹か落ちていた。ヒマナッツたちは気持ちよさそうに葉っぱを広げて太陽の光をあびていた。
「いいなぁ、おれも勉強なんかしないでひなたぼっこしたい」
友達があくびしながらそう言った。
教室のせきにつき、チャイムが鳴ると、いつものように朝礼が始まった。時々、まどの外を上から下にヒマナッツが通りすぎていった。
一時間目と二時間目もいつもどおりにすぎていく。じゅぎょうがとてもたいくつだったのでまどの外を見ると、真っ青な空から、ヒマナッツがちょっと大きな雨つぶのように、町中にぼたぼたと落ち続けていた。
三時間目は体育でマラソンだったけど、朝からずっと落ちてきているヒマナッツのせいで校庭がヒマナッツだらけになってしまい、外で体育はできなくなって、かわりに体育館でドッジボールになった。ぼくはマラソンはきらいだったので、体そう服にきがえながら、心のなかでピースした。
四時間目のとちゅうで、校内放送が流れた。
「ヒマナッツのせいで道路があちこちふさがってしまって、このままだとみんな家に帰れなくなるかもしれないので、四時間目が終わったら全員下校してください」
と、校長先生が言っていた。それを聞いたぼくやみんなは、早く帰れるのでうれしくてそわそわしだした。小さな声で
「ラッキー!」
と言っている人もいて、先生におこられていた。

帰りの会を終えて、友達と一緒に下校する時に校庭を見ると、校庭はもう地面の色が見えるところのほうが少ないくらいだった。歩道や小さい道はヒマナッツですっかりうまってしまって、ぼくたちはどけながら歩かなければいけなかった。お年よりや車いすの人は大変だろうなぁと思った。じょ雪車が、道路につもったヒマナッツをかき分けて道路を走って行った。
「じょ雪車って5月でも走るんだ」
と友達がびっくりしていた。
反対がわの道路は、車がガードレールにぶつかって、ずっとじゅうたいしていた。車の下にヒマナッツのからみたいなのがちらばっていたので、たぶんヒマナッツをひいてしまったんだと思った。じゅうたいしている車の上をふんづけて、ラッタとコラッタの親子がヒマナッツをくわえて一列に道路を横切っていった。
それから、ぼくは帰り道のとちゅうに橋があるけど、橋の下の川を見たらヒマナッツがいっぱい流れていて、流れがおそいところや石のかげには、固まりになってるのもいた。ぼくは
「お祭りの時のとうろうみたいだなぁ」
と思った。しばらく見ていたら、コイキングが大きな口を開けて水面に上がってきて、ヒマナッツをひとのみにしたので、すごくびっくりした。空を見たらヒマナッツを食べようと、色んな鳥ポケモンがいっぱい飛んできていた。
カーブミラーのある分かれ道のところで友達と分かれて、そこからは一人でヒマナッツをどけなければいけなかった。ぼくの家は坂のとちゅうにあるので、空から落ちたヒマナッツが時々石ころみたいにごろごろ転がって来てあぶなかった。
げんかんまでの小さい道の両がわにヒマナッツが山のようになっていて、その間は人がやっと一人通れるくらいだった。お父さんが屋根に登って、大きなスコップで屋根の上につもったヒマナッツを庭におろしていた。ぼくも手伝おうとしたけど、あぶないからやめろと言われた。
家で宿題をしながら時々庭を見ていたら、ピジョンが空からおりてきてヒマナッツの山からヒマナッツを2匹つかんで飛んで行った。

ばんごはんを食べている間も、外でヒマナッツが落ちる音がしていたけど、学校にいた時よりも少ない感じで、時々屋根の上や庭でボトッという音がするくらいになっていた。
「去年はさむかったからなぁ」
お父さんがそう言いながらニュース番組を付けた。特集でヒマナッツのことをやっていた。
アナウンサーが駅の前で早口でしゃべっていた。ヒマナッツのせいで電車も止まってしまったらしい。線路につもったヒマナッツを作業員の人がいっしょうけんめいどかしているところが映っていた。
ここまですごいのは初めてだ。僕はなんだか台風の時みたいにワクワクしてきた。

次の日の朝、起きてみたら、ヒマナッツは庭のすみの方に少しいるだけになっていた。外に出ても、道路はきれいになっていて、ヒマナッツはほとんどいなくなっていた。みんな他のポケモンに食べられてしまったのだと思った。
ヒマナッツは弱いから、どんなにたくさん降ってきても、道のはしや庭にどけておくとあっという間に鳥ポケモンや動物ポケモンに食べられてしまう。ちゃんとキマワリになれるのは少しだけだ。
「あーあ、残念だな、学校が休みになったかもしれないのに」
僕はため息をつきながら、学校の支度をし始めた。

おわり


  [No.3726] 大幅加筆修正版 投稿者:Ryo   投稿日:2015/04/22(Wed) 00:31:06   66clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 ある朝、朝ごはんを食べていると、外でドスンという音がした。なにかと思ってびっくりして庭を見に行くと、そこにはヒマナッツが落っこちていた。
「なーんだ、いん石だったらおもしろかったのに」
 何もない空からヒマナッツが落ちてくるのは、5月くらいになると時々あることだ。いん石とか、すごくめずらしいポケモンのジラーチが落ちてくるんだったらおもしろいけど、ただのヒマナッツじゃおもしろくもなんともない。いきおいよく落ちてきたのに、ヒマナッツは何事もないような顔をして、のんびり空を見上げていた。

 学校へ行く道で、友だちに聞いてみたら、みんなの家にもヒマナッツが落ちてきたと言っていた。
「うちは二匹落ちてきた」
「うちは屋根に穴が開いて大変だった。しゅうり屋さんが午後に来るんだって」
 口々にそう言っている。でも、みんなそんなにおどろいていなかった。ヒマナッツがおちてきて大さわぎするのは小さな子供だけだ。小学3年くらいになるともう見なれてしまってどうでもよくなる。でも屋根に穴が開いた友達はかわいそうだった。

 学校へ着いた。校庭を見ると、そこにもヒマナッツが何匹か落ちていた。ヒマナッツたちは気持ちよさそうに葉っぱを広げて太陽の光をあびていた。
「いいなぁ、おれも勉強なんかしないでひなたぼっこしたい」
 友達があくびしながらそう言った。
 教室のせきにつき、チャイムが鳴ると、いつものように朝礼が始まった。時々、まどの外を上から下にヒマナッツが通りすぎていった。
 一時間目と二時間目もいつもどおりにすぎていく。じゅぎょうがとてもたいくつだったのでまどの外を見ると、
真っ青な空から、ヒマナッツがちょっと大きな雨つぶのように、町中にぼたぼたと落ち続けていた。

 三時間目は体育でマラソンだったけど、朝からずっと落ちてきているヒマナッツのせいで校庭がヒマナッツだらけになってしまい、外で体育はできなくなって、かわりに体育館でドッジボールになった。ぼくはマラソンはきらいだったので、体そう服にきがえながら、心のなかでピースした。
 体育館は学校と少しだけはなれていて、屋根つきの渡り通路を通って行かないといけない。その時にちょっと校庭を見たら、たしかにヒマナッツがあっちこっちにゴロゴロころがっていて、ちょっと走ったらつまづいてころんでしまいそうだった。たしかにこれじゃマラソンどころじゃない。
 体育が終わって汗だくで体育館を出る時になると、通路の両がわにヒマナッツが小さな山みたいにつもっていた。屋根の上でボコッという音がして、ヒマナッツが通路の横に転がり落ちてきて、その山の上に落ちた。
 四時間目のとちゅうで、校内放送が流れた。
「ヒマナッツのせいで道路があちこちふさがってしまって、このままだとみんな家に帰れなくなるかもしれないので、四時間目が終わったら全員下校してください」
と、校長先生が言っていた。それを聞いたぼくやみんなは、早く帰れるのでうれしくてそわそわしだした。小さな声で
「ラッキー!」
と言っている人もいて、先生におこられていた。

 帰りの会を終えて、友達のリンくんと一緒に下校する時に校庭を見ると、校庭はもう地面の色が見えるところのほうが少ないくらいだった。ところどころに黄色い山ができている。一年生が
「わーすごい!」
と言いながら校庭に入ろうとして、先生に
「あぶないからいけません」
と、しかられていた。
 リンくんはそれを聞いて
「ヒマナッツなんか、どこがあぶないんだろうな」
と、ぼくに聞いてきた。たしかにヒマナッツには手も足もないし、キバでかみついたりもしない。おこった時に葉っぱをぶんぶんふりまわすくらいだ。頭の上に落ちてきたら、あぶないかもしれないけど、落ちてきたヒマナッツがそんなにひどい悪さをすることなんてない。
 ぼくは、うーんと考えて校庭を見てみた。すると校庭の遠くのすみに、オニスズメのむれが集まってヒマナッツをつつきまわしているのが見えた。
「たぶん、あぶないのはヒマナッツじゃなくて、ああいうオニスズメとかなんだよ」
と、ぼくはリンくんにオニスズメを指さしながら言った。

 歩道や小さい道はヒマナッツですっかりうまってしまって、ぼくたちは時々、道のわきにヒマナッツをどけながら歩かなければいけなかった。お年よりや車いすの人は大変だろうなぁと思った。除雪車が、道路につもったヒマナッツをかき分けて道路を走って行った。
「除雪車って5月でも走るんだ」
とリンくんがびっくりしていた。
 反対がわの道路は、車がガードレールにぶつかって、ずっとじゅうたいしていた。車の下にヒマナッツのからみたいなのがちらばっていたので、たぶんヒマナッツをひいてしまったんだと思った。
 とつぜん、ビルとビルの間からラッタとコラッタの親子が一列になって飛び出してきた。みんな口にヒマナッツをくわえている。ラッタとコラッタたちは止まった車をふんずけて、道路を横切ってぼくたちの前を通りすぎ、またビルのかげに飛びこんでいった。
 ぼくたちの帰り道のとちゅうには川が流れていて、橋がある。橋の上から川を見たらヒマナッツがいっぱい流れていて、流れがおそいところや石のかげには、固まりになってるのもいた。ぼくは夏祭りの時のとうろうが、こんなふうに川を流れていったのを思い出した。しばらく見ていたら、コイキングが大きな口を開けて水面に上がってきて、ヒマナッツをひとのみにしたので、ぼくとリンくんはすごくびっくりした。空を見あげたらヒマナッツを食べようと、色んな鳥ポケモンがいっぱい飛んできていた。
 ヒマナッツはぼくたちが歩いている間もずっとあちこちに落ちてきていた。でも、だれかの頭に落ちたところは見たことがなかった。ヒマナッツには目があるから、落ちてくる時に人をよけているのかもしれない、ということをリンくんと話し合った。

 カーブミラーのある分かれ道のところでリンくんと分かれて、そこからは一人でヒマナッツをどけなければいけなかった。ぼくの家は坂のとちゅうにあるので、空から落ちたヒマナッツが石ころみたいにごろごろ転がって来てあぶなかった。
 げんかんまでの小さい道の両がわにヒマナッツが山のようになっていて、その間は人がやっと一人通れるくらいだった。お父さんが屋根に登って、大きなスコップで屋根の上につもったヒマナッツを庭におろしていた。会社が早く終わったのだ。ぼくも手伝おうとしたけど、あぶないからやめろと言われてしまった。
 家に帰ってテレビをつけようとしたら、なぜかテレビはつかなかった。お母さんがやって来て、テレビの前のぼくを見つけると、
「あら、ユウちゃんお帰り。ヒマナッツがすごいけど、頭とかケガしなかった?」
「うん、だいじょうぶだった」
「それならよかったけど…なんだかね、どこも大変なことになってるみたいなのよ」
お母さんはそう言ってぼくにスマホのニュースを見せてきた。ホウエン地方の海のおきの方に、グラードンがあらわれたというニュースだ。
 グラードンはぼくが小さい時にも一度出てきたことがあるみたいだけど、その時は10歳の天才トレーナーがたおしてしまった、とニュースで言っていたような気がする。でも、ようちえんに通っていたくらい小さなころだから細かいことはよく覚えていない。
 そのグラードンがまた海にあらわれて、ホウエンのルネシティというところに向かっているのだそうだ。ホウエン地方はそのせいで、どこもすごい暑さになっているらしい。まさかそれが、ヒマナッツのことに関係しているんだろうか。よく考えると、いつもなら、ヒマナッツは朝とか昼間にふってくるはずだ。学校から帰ってきてもまだ雨や雪みたいにふりつづいてるなんておかしいんだ。
 でも、ホウエンなんて遠いところで起こってることが、ジョウトのワカバタウンで起きてることにまで関係あるんだろうか。

 お父さんが家にもどってきた。
「まいったな。ヒマナッツがテレビのアンテナを折っちまった」
お父さんは頭をかいている。朝の友だちみたいにしゅうり屋さんをよべばいいんじゃないかと思ったけど、下校中に見た、じゅうたいしていた車のことを思い出したので何も言わなかった。

 夜になってもまだヒマナッツの落ちる音がしている。電気もつかなくなったので家の中は真っ暗だ。
 お母さんが家の中をかいちゅう電灯でてらして、ポータブルのスマホのじゅうでんきと、家族のきがえと、ふくろに入ったロールパンを見つけてきた。れいぞうこからお茶も出してきたけど、れいぞうこの電気が切れてしまったのでお茶は冷たくなくなっていた。
 スマホのニュースによるとグラードンをおとなしくさせるために、じえいたいとポケモントレーナーが向かっているみたいだけど、今のぼくにはグラードンよりヒマナッツのほうがずっとやっかいだった。
 かいちゅう電灯とスマホの光で机をてらして、ロールパンをみんなで食べて、お茶を飲んだら、もう何もすることがないし、おふろにも入れないので、そのままきがえてねるしかなかった。
 自分の部屋のベッドに入っても、屋根の上でボコッボコボコ、ゴロンゴロンという音がずっとしているせいで、今にも屋根をつきやぶってヒマナッツが部屋に落ちてくるんじゃないかと思ってなかなか眠れなかった。

 その夜はとても変なゆめを見た。
 一人で下校していると、ヒマナッツがミサイルのようないきおいで、ぼくをねらって落ちてくるのだ。ぼくは道ばたのケヤキの下や、商店街のアーケードの下を通って必死にヒマナッツをよけながら帰らなければならなかった。
 歩道橋の下からこわごわ空を見上げると、太陽があるはずのところに太陽がなくて、かわりにものすごく大きなキマワリが遠くの山の上にすわっていて、あのニコニコした顔でぼくの方を見ていた。
 そこで急にテレビのチャンネルが変わるみたいに場面が変わって、海の上で大きなグラードンがガオーッとほえた。
 また場面が歩道橋の下にもどると、キマワリが太陽のようにかがやきだして、ぼくはまぶしくてキマワリの方を見ることができなくなった。
 そこでぼくは、まどから本物の太陽の光がさしてきたことに気づいて、目が覚めた。

 起きたばかりの時はいつもと同じ朝がきたような気がしていたけど、すぐに昨日のことを思い出して、ぼくはベッドから飛び起きて外を見た。
「うひゃー」
変な声が口から出てしまった。庭がヒマナッツのせいで全然見えない。それどころか、へいも見えない。ヒマナッツの山の先はそのまま道路になっている。家の1階くらいまでの高さまでヒマナッツで埋まってしまったみたいだ。
 お母さんがぼくをよぶ声がして、それからドタドタといそいで階段を上がる音と、ノックの音がした。返事をすると、お母さんがドアを開けた。とても心配そうな顔だ。
「ユウちゃん、ケガとかしてない?大丈夫?」
「うん、別に何ともないよ」
屋根がこわれたならともかく、何もなかったからぼくはただ眠っていただけなんだけどな。
「今日ね、レスキュー隊の人がこの町に来るんですって。あぶないからあんまり家から出たらだめよ」
「でもお母さん、さっき外を見たらドアも埋まってそうだったよ」
「まあそうだけど、一応ねぇ」
お母さんはため息をついた。
「お父さんが今どかせようとしてるところなんだけど、困ったわ」
「学校も休みだよね?」
「当たり前でしょう、お父さんの会社だって休みなんだから」
お母さんがあきれた顔で言ったので、ぼくは変なことを聞いたなと思って顔が赤くなってしまった。
「とにかく今日はおとなしくしてなきゃだめよ」
お母さんはそう言ってドアを閉めた。
「あーあ」
ぼくはため息をついてベッドにねころんだ。学校が休みになってラッキーだなんて思えなかった。家から一歩も出られない休みなんてちっともおもしろくない。しかもテレビもうつらないし、ゲームだってできない。ぼくの家だけじゃなくて、ほかの家もこうなっているんだろうか。リンくんの家は庭でガーディをかっていたはずだけど、だいじょうぶなんだろうか。

 しばらくねころんでいて、ぼくは気がついた。ヒマナッツが落ちる音がしない。耳をすませたけど、やねの上からは何も聞こえてこなかった。
 もしかしたら、足元に気をつけていればそんなにあぶなくないかもしれない。ぼくはベッドから起き上がった。
 そしてまどの外をもう一度見た。庭につもったヒマナッツの山は顔が見えるくらい近いところにあった。ぼくは息をすいこむと、まどを開けて身を乗り出した。
 ドサッ!
 ぼくは目をつむって、ヒマナッツの山の上におしりから落っこちた。ヒマナッツたちが体の下でピーピーとおこった声で鳴いた。
 ぼくはいそいで小さな声で
「ごめんよ、ごめんよ」
とささやきながら、お父さんとお母さんに見つからないように、ヒマナッツの山をかき分けて庭の反対の方へはっていった。

 ぼくの家は丘を切り開いた坂のとちゅうにあって、坂のてっぺんには小さな公園がある。ぼくはそこまで行ってみたくなったのだ。一体外がどんなふうになっているのか、見てみたくなったのだ。
 車が走るような道路はだれかがかたづけてくれたのか、ごろごろ転がっているヒマナッツをよけながらなんとか人が通れるくらいにはなっていた。でも小さい歩道や家の庭は、どこもポップコーンを山もりにしたみたいになっている。ヒマナッツの上をはだしではって歩くのは、小さいころボールプールで遊んだのを思い出してちょっと楽しかった。
 だれか大人に見つかりませんように、と思いながら、ぼくはひょこひょことヒマナッツの上を歩いて丘を登っていった。

 丘の上の公園があるはずのところにきたけど、見えるのはヒマナッツだらけで何もわからない。黄色と茶色と緑の葉っぱばっかりの景色を見ていたらなんだかクラクラしてきた。すると、その景色の中に何か鉄のぼうのような物が飛び出しているのが見えたので、ぼくはそこまで行ってみた。近くでよく見るうちに、その赤い鉄のぼうは、ブランコに使われているものだということを思い出した。つまりぼくは今、ブランコのてっぺんと同じ高さにいることになる。
 ぼくはそこに立って、丘の下を見渡してみた。

「うわぁー…」
足元から、遠くの海の方まで、ずっと同じ色だった。まるで世界中のヒマナッツをぼくの町に集めてぶちまけたようになっていた。ヒマナッツの山の間から、黒っぽい道路が見えたり、家の屋根やビルや学校の時計が飛び出しているのが見えたりする。それがずっと続いた先に、だれかが青いチョークをたてにして黒板に線を引いたような海が見えた。ヒマナッツの上をまっすぐ歩いて行ったら、そのまま海までだって行けそうな気もしてくる景色だった。

 ぼくの上でグワーグワーとさわがしい鳴き声がして、ぼくの近くにペリッパーがおりてきた。ペリッパーは大きな口でヒマナッツをすくって飛んで、すくって飛んでをくりかえして、クチバシの中をヒマナッツでいっぱいにして、よろよろと海の方へ飛んでいった。
 気が付くと、空には鳥ポケモンが空をおおうくらい集まってきていた。ペリッパーやキャモメみたいな海の方にしかいないポケモンまで、こんな山の上まで飛んでくるのに、ぼくはおどろいてしまった。よく考えたらヒマナッツの山なんて、鳥ポケモンにとってはごちそうの山なのだから、夢みたいな景色に見えているのかもしれない。鳥ポケモンたちはぼくにおかまいなしにヒマナッツをつかんで飛んで行く。ぼくも鳥ポケモンだったらよかったのになぁと思った。人間のぼくにはヒマナッツはどうやっても食べられない。

 しばらくぼうっと鳥ポケモンを見ていると、大きなビニールぶくろを足につかんだ一羽のムクバードがぼくのとなりにおりてきた。そのムクバードはヒマナッツには目もくれないで、ふくろに乗ったままぼくの方を見ている。ぼくはそのちょっと白いもようの広い顔に見覚えがあった。
「ムク?」
名前をよぶと、ムクバードはピーッと鳴いてへんじをした。まちがいない。おばあちゃんの家のムクだ。ビニールぶくろの中には、ペットボトルに入った水や、ビスケット、かんづめ、レトルトのおかゆなんかが入っていた。きっとお母さんがおばあちゃんにたのんだんだと思った。でも、景色がぜんぜんちがうから、まよってしまったのかもしれない。
 ぼくは、ムクといっしょに家に帰ることにした。

 ずっと遠くから見ていたから気づかなかったけど、ヒマナッツは食べられたりどかされたりして少しずつへっていた。道路もきれいになっている。ヒマナッツの上を歩いて渡ることができないところもあったので、ちょっと困っていると、
「おい、そこで何してるんだ」
と大人のどなり声がして、びくっとしてしまった。こわごわと声の方をふりむくと、レスキュー隊の人が道路に車を止めてこっちをにらんでいた。
「あぶないからおりてきなさい」
と言われたので、ムクといっしょに道路におりた。名前と住所を聞かれたので答えたら、
「君がそうか。お父さんとお母さんがさがしていたぞ」
と言われて、車に乗せられて連れて帰られることになってしまった。後ろのざせきでムクといっしょに小さくなっていると、
「君、そのムクバードをさがしていたのかい?」
と言われたので思わずうなずいてしまった。
「ポケモンが大切なのはわかるけど、あんまりあぶないことしちゃだめだぞ」
と、レスキュー隊の人はやさしくしかってくれたけど、ぼくのむねはチクチクした。本当はぼくが外を見たかっただけなのに…
 出て行く時には庭がヒマナッツでいっぱいだったのに、帰るころには半分くらいにへっていた。げんかんは使えるようになっていた。帰ったらお父さんとお母さんにめちゃくちゃおこられて、最後には泣かれてしまった。ムクを見せてもダメだった。それから、ぜったいにこういうあぶない時に外に出てはいけないとやくそくさせられてしまったけど、ぼくはちゃんとやくそくすることにした。

 夕方にはテレビもゲームもつくようになって、ぼくの家はだいたいいつもどおりの生活にもどった。夕飯はムクが持ってきてくれたものを食べた。お母さんがスマホでおばあちゃんにお礼を言っていた。
 夜のニュースでは、ぼくの町がテレビにうつった。レスキュー隊がこわれた家から人やポケモンを助け出すところを見たり、ひなん所にひなんした人がいることを知った。ぼくやぼくの家はぶじだったけど、本当にあぶなかったんだと思った。
 次のニュースで、グラードンがいなくなった後のホウエンの様子をうつしたので、そこでぼくはグラードンが昨日の夜中に、エリートトレーナーに8人がかりでたいじされて海へ帰っていったことを知った。もしかして、やっぱりヒマナッツのことはグラードンのせいなのかな、と思ったけど、そのことはテレビでもだれも言っていなかったので、ぼくの考えすぎかもしれない、とも思った。

 その次の朝になると、ぼくの庭のヒマナッツはもう庭のすみにちょっといるだけになっていた。ヒマナッツは弱いから、たくさんふってきてもすぐに他のポケモンに食べられてしまう。ちゃんとキマワリになれるのは少しだけだ。
 お父さんはもう仕事が始まったので会社に行かないといけなくなったし、ムクもおばあちゃんの家に帰っていったけど、学校はひなん所になっていたのでしばらく休みで、ゲームをしたり、勉強をしたりしながらすごした。

 一度、リンくんがガーディの「ファイヤー」を連れて遊びに来てくれた。
「お前のとこ、どうだった?」
もちろん、どうだった、というのはヒマナッツ事件のことだ。でも、ぼくは色々しかられた思い出があるから、あんまり話したくなかったので、庭から見た景色のことだけ話して、リンくんに同じ質問をした。
「リンくんの家は大丈夫だったの?ファイヤーはケガしなかった?」
「うーん、庭の物置がこわれたけど、家は大丈夫だったかな。ファイヤーなんて、ヒマナッツ転がして遊んでたし。さすがに夕方になったらやべーってなって家に入れたけど」
ファイヤーは全然平気だったというように元気よくワンとほえた。さすが、伝説のポケモンと同じ名前のついたガーディだ。でも、このガーディはリンくんが5さいの時にもらってきたポケモンで、リンくんが「かっこいいから」っていう理由でつけた名前だから、ひのとりポケモンのファイヤーは何も関係ないんだけどね。
「そういえばさぁ」
リンくんがとつぜん話題をかえた。
「ユウくん、まだポケモン持ってないのか?」
「うん、そうだけど?」
「そっかあ」
リンくんはぼくの答えを聞いて、ちょっと天井を見上げてから、
「おれね、来年になったらファイヤーと旅に出るって決めてるんだ。ユウくんはどうする?」
と、聞いてきた。
「ぼくは…」
ぼくはそこまで言って少し考えた。まだポケモンも持っていないぼくだけど、ヒマナッツのことがあってから、ぼんやりだけど、考えていることがあった。
「ぼくは、勉強してポケモンの研究をする人になりたいよ」
リンくんは目を丸くした。
「へぇー!ユウくん頭いいもんな。やっぱりウツギはかせの所に行くの?」
「そういうのはまだ考えてないけど…でも、ヒマナッツを見てたら色々知りたくなったんだ」
どれだけ勉強したらいいのか分からないし、本当に、これくらいのことしか今は考えられなかったけど、ぼくは、この夢を初めて人に話したんだ。
「ユウくんだったら、きっとなれると思う」
だから、リンくんがそう言ってくれたのが、本当にうれしかった。

 学校が始まったら、図書室に行こう。そして、ポケモンの本をたくさん借りてくるんだ。それから、天気の本も。グラードンとヒマナッツの関係は多分ぼくだけの考えだけど、二つを一緒に調べたら、何か分かるかもしれない。ヒマナッツがどんな天気の時にどこからどうやって落ちてくるのか、つまらないなんて言ってないでちゃんと調べなくちゃ。
 ぼくは新しいノートを一冊、つくえから取り出して、こう書いた。
「ポケモン研究ノート」

おしまい