ある朝、朝ごはんを食べていると、ドスンという音と共に、ぼくの家の庭にヒマナッツが降ってきた。最初はいん石かと思ってちょっとびっくりしたけど、ただのヒマナッツだったので
「なーんだ」
と思った。いきおいよく落ちてきたのに、ヒマナッツは何事もないような顔をして、のんびり空を見上げていた。
学校へ行く道で、友だちに聞いてみたら、みんなの家にもヒマナッツが落ちてきたと言っていた。
「うちは二匹落ちてきた」
「うちは屋根に穴が開いて大変だった。しゅうり屋さんが午後に来るんだって」
口々にそう言っている。でも、ヒマナッツは毎年5月くらいになるといつもこうやって落ちてくるので、みんなそんなにおどろいていなかった。でも屋根に穴が開いた友達はかわいそうだった。
学校へ着いた。校庭を見ると、そこにもヒマナッツが何匹か落ちていた。ヒマナッツたちは気持ちよさそうに葉っぱを広げて太陽の光をあびていた。
「いいなぁ、おれも勉強なんかしないでひなたぼっこしたい」
友達があくびしながらそう言った。
教室のせきにつき、チャイムが鳴ると、いつものように朝礼が始まった。時々、まどの外を上から下にヒマナッツが通りすぎていった。
一時間目と二時間目もいつもどおりにすぎていく。じゅぎょうがとてもたいくつだったのでまどの外を見ると、真っ青な空から、ヒマナッツがちょっと大きな雨つぶのように、町中にぼたぼたと落ち続けていた。
三時間目は体育でマラソンだったけど、朝からずっと落ちてきているヒマナッツのせいで校庭がヒマナッツだらけになってしまい、外で体育はできなくなって、かわりに体育館でドッジボールになった。ぼくはマラソンはきらいだったので、体そう服にきがえながら、心のなかでピースした。
四時間目のとちゅうで、校内放送が流れた。
「ヒマナッツのせいで道路があちこちふさがってしまって、このままだとみんな家に帰れなくなるかもしれないので、四時間目が終わったら全員下校してください」
と、校長先生が言っていた。それを聞いたぼくやみんなは、早く帰れるのでうれしくてそわそわしだした。小さな声で
「ラッキー!」
と言っている人もいて、先生におこられていた。
帰りの会を終えて、友達と一緒に下校する時に校庭を見ると、校庭はもう地面の色が見えるところのほうが少ないくらいだった。歩道や小さい道はヒマナッツですっかりうまってしまって、ぼくたちはどけながら歩かなければいけなかった。お年よりや車いすの人は大変だろうなぁと思った。じょ雪車が、道路につもったヒマナッツをかき分けて道路を走って行った。
「じょ雪車って5月でも走るんだ」
と友達がびっくりしていた。
反対がわの道路は、車がガードレールにぶつかって、ずっとじゅうたいしていた。車の下にヒマナッツのからみたいなのがちらばっていたので、たぶんヒマナッツをひいてしまったんだと思った。じゅうたいしている車の上をふんづけて、ラッタとコラッタの親子がヒマナッツをくわえて一列に道路を横切っていった。
それから、ぼくは帰り道のとちゅうに橋があるけど、橋の下の川を見たらヒマナッツがいっぱい流れていて、流れがおそいところや石のかげには、固まりになってるのもいた。ぼくは
「お祭りの時のとうろうみたいだなぁ」
と思った。しばらく見ていたら、コイキングが大きな口を開けて水面に上がってきて、ヒマナッツをひとのみにしたので、すごくびっくりした。空を見たらヒマナッツを食べようと、色んな鳥ポケモンがいっぱい飛んできていた。
カーブミラーのある分かれ道のところで友達と分かれて、そこからは一人でヒマナッツをどけなければいけなかった。ぼくの家は坂のとちゅうにあるので、空から落ちたヒマナッツが時々石ころみたいにごろごろ転がって来てあぶなかった。
げんかんまでの小さい道の両がわにヒマナッツが山のようになっていて、その間は人がやっと一人通れるくらいだった。お父さんが屋根に登って、大きなスコップで屋根の上につもったヒマナッツを庭におろしていた。ぼくも手伝おうとしたけど、あぶないからやめろと言われた。
家で宿題をしながら時々庭を見ていたら、ピジョンが空からおりてきてヒマナッツの山からヒマナッツを2匹つかんで飛んで行った。
ばんごはんを食べている間も、外でヒマナッツが落ちる音がしていたけど、学校にいた時よりも少ない感じで、時々屋根の上や庭でボトッという音がするくらいになっていた。
「去年はさむかったからなぁ」
お父さんがそう言いながらニュース番組を付けた。特集でヒマナッツのことをやっていた。
アナウンサーが駅の前で早口でしゃべっていた。ヒマナッツのせいで電車も止まってしまったらしい。線路につもったヒマナッツを作業員の人がいっしょうけんめいどかしているところが映っていた。
ここまですごいのは初めてだ。僕はなんだか台風の時みたいにワクワクしてきた。
次の日の朝、起きてみたら、ヒマナッツは庭のすみの方に少しいるだけになっていた。外に出ても、道路はきれいになっていて、ヒマナッツはほとんどいなくなっていた。みんな他のポケモンに食べられてしまったのだと思った。
ヒマナッツは弱いから、どんなにたくさん降ってきても、道のはしや庭にどけておくとあっという間に鳥ポケモンや動物ポケモンに食べられてしまう。ちゃんとキマワリになれるのは少しだけだ。
「あーあ、残念だな、学校が休みになったかもしれないのに」
僕はため息をつきながら、学校の支度をし始めた。
おわり