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  [No.3736] はじめませんか、きのみ食 投稿者:Ryo   投稿日:2015/05/07(Thu) 18:44:53   53clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

はじめまして!ここは管理人・アサガオによる「きのみ食」のホームページです。
きのみ食の魅力や始め方、ポケモンと一緒に楽しめるきのみ食もお教え致します。

1.きのみ食って何?
きのみ食とは、その名の通り、きのみを中心とした食生活のことです。
私達の体を形作る一日三食の食べ物から、自然とポケモン、私達の体に負担をかけるポケモン由来の食べ物や輸入食品を廃し、自分で育てたきのみを中心とした食生活に変えることで、私達の健康、ポケモンの住む自然の両方を良くすることができるのです。
私達の住むこの世界には、たくさんの食べ物が溢れています。その中には、わざわざ遠い国から取り寄せたものや、牧場で必要以上に栄養を摂らされたケンタロスやミルタンク由来の食べ物など、自然本来のあり方から離れてしまった食べ物もあります。そういった不自然な食べ物を食べ続けていると、心身のバランスが崩れ、思わぬ病気を引き起こしてしまうのです。
また、お肉を取るためのポケモンを育てるために自然は膨大なコストを支払うことになります。一頭のケンタロスをお肉にするまで育てるためには、なんと牧草が3500kgも必要になるのです。
そこで、私達人間やポケモンと共にずっとこの世界と調和してきた食べ物―きのみにスポットライトが当たることになりました。
きのみは水と少しの肥料だけですぐに収穫することができるので、自然への負担がかかりません。また、様々な種類のものがあるので、きのみに含まれる栄養だけでも人間が生きていくのに必要な栄養のほとんどを摂ることができます。きのみには様々な味のものがあり、例えば同じ「甘い」でもモモンとマゴでは全然違いますので、色々と育てて違った味を楽しむこともできます。ポケモン由来の栄養を一切摂らず、きのみ、野菜、穀物類のみで生活している人々の住む村は世界有数の長寿村だった、という例もいくつもあります。
自然にも優しく、いつまでも健康で若々しい体を保ち続けることができる理想の食生活、それがきのみ食なのです。

2.きのみ食の成り立ちと理念
現在のきのみ食を確立したのは、シンオウ地方のトバリシティ出身の食文化研究家、ウメヤ・コウジ氏(1925~1987)です。彼はシンオウ地方に伝わる神話の研究に携わり、人とポケモンの繋がりについて深く思索した結果、次のような考えを持つに至ります。
「人々の心身が乱れ、これまでの時代になかった病気が蔓延り、ストレスに弱くなってしまったのは、人がポケモンを傷つけ、ポケモンを由来としたものを食べているからである。我々はシンオウ神話の若者に倣い、もう一度その手に持った剣を捨て、それをジョウロや肥料に持ち替え、人とポケモンが真に手を取り合って暮らしていた時代に立ち返るべきではないのだろうか」
ウメヤ氏はこの考えをもとに「きのみ食」の元となる「自然栄養食」の研究を始め、イッシュやカロスにまで渡りこの思想を広めました。そして、より自然に調和した食べ物を求める中でウメヤ氏がたどり着いたものが、きのみ食なのです。
ウメヤ氏が思想のよりしろとしているシンオウ神話とは、人間が糧としていたポケモンを剣で無闇に傷つけてしまったために、ポケモンが人間の前から姿を消してしまい、人間がそのことを深く嘆いて剣を捨てるというものです。
この神話が元となって生まれたきのみ食は、「人はポケモンや自然を無闇に傷つけてはならない」「自然の理念に反した食べ物を食べず、生き物が本来食べていたものを感謝して食べよう」という優しい理念の上に成り立っています。

3.どうやって始めればいいの?
理念、などという言葉を使ってしまったため、なんだか難しそう…と思ってしまった方もいらっしゃるでしょう。でも、本質はとてもシンプルなのです。
ポケモン由来のお肉や油といったものを控え、一日三食のメニューをきのみや野菜を中心としたメニューに変えれば良いのです。タンパク質はお豆、炭水化物は玄米ご飯や、天然酵母のパンで摂取しましょう。こうしたメニューを続けていると、だんだんと体が自然本来のリズムを取り戻していきます。まず、不自然なものを食べていた時の内臓のトラブルがなくなり、その影響で体型がすっきりとし、頭が良くはたらくようになります。お肌も綺麗になるので女性にも嬉しいことでしょう。
これまでファストフードやお肉に親しんできた人ならば、慣れない食事に戸惑うこともあるかもしれませんが、例えば朝食をナナの実のスムージーと天然酵母のパンにする、というところからでも徐々に始めていただければ、少しずつ体が変わっていくのが実感できるはずです。そうすれば自然と体のほうできのみ食を選んで取り入れるようになり、無理なく健康的な食生活に移行することができます。
また、きのみを育てるためのプランターもたくさん用意しましょう。木が育ち、色々な花をつける姿は、それだけでも充分私達の心を癒してくれます。

4.きのみ食の基本メニュー一例
朝食:ナナの実のスムージーとパン(天然酵母)
もしくはネコブの実で出汁をとった海藻スープとお米(玄米が望ましい)
昼食:オレン、ナナシ、オボン、マゴ、ラム、リンドの実などからお好みでチョイスしたきのみのサラダ(味をバランスよく入れましょう)とハバンの実のジャムをつけたトースト(添加物を使っていない食パンを使用しましょう)
夕食:モモンとパイル、野菜類を入れたカレー、マトマの実のスープ
またはオボンの実のパスタ

ここにあげたものはあくまで一例に過ぎません。「きのみ食」で検索すると、きのみ食を実践されている方々の創作メニューがたくさん出てきます。
私が特におすすめするのは、マトマやヨプといった辛い成分の入ったきのみを使ったメニューです。きのみ食はどうしても冷たいものが多くなりがちですが、辛いきのみを使ったメニューは体を温めてくれるので、きのみ食の体を冷やすデメリットを打ち消してくれます。

5.ポケモンといっしょに始めるきのみ食
自然にも健康にも優しいきのみ食、ぜひあなたのポケモンとも一緒に始めてみたいですよね。
これまでに見つかったポケモンは実に700種類を超えていますが、実は食べ物自体を全く必要としない一部の種類以外は、全ての種類のポケモンが問題なくきのみを食べることができる、というデータがあります。つまり理論上、全てのポケモンはきのみ食の実践が可能なのです。ポケモンは文明社会にすっかり馴染んでしまった人間と違い、今でも自然に寄り添った生き方をしていますから、自然との調和を目指すきのみ食と相性が良いのは当然かもしれません。
現在では、自然界での主食が肉食のポケモンでも問題なくきのみ食に移行できるよう、完全にポケモン由来の成分を廃し、きのみ由来の成分のみで調理されたポケモンフードも色々と販売されています。
従来のポケモンフードからこうしたポケモンフードに移行すると、まずきのみの成分によって消化器官のお掃除が行われて、ポケモンの体臭や老廃物の臭いがなくなります。そして新陳代謝が活性化するので毛ヅヤ、肌ツヤがとても良くなってきます。ポケモンをコンテストに出されるトレーナーの方はご存知でしょうが、コンテストに出るようなポケモンはきのみ由来のおやつを食べることによって毛並みやお肌のコンディションを整えています。きのみ食のポケモンフードはそうしたおやつの効果を毎食ごとに得ることができるのです。
更に、こうしたポケモンフードはきのみの皮を剥いたりすることなく、一つ一つをまるごと使って調理されているので、きのみの栄養分を全ていただくことができ、非常に効率的にきのみ食を実践することができるのです。人間と同じように、始めは普段のポケモンフードに混ぜて少しずつ体を慣れさせていけば、よりスムーズにきのみ食への移行が可能です。

6.きのみ食を楽しもう
これまで長く語ってしまいましたが、私が何より強調したいのは
「きのみ食は楽しい」
この一点につきます。
管理人自身は、自然とポケモンを大切にした食生活を始めたいな、という思いできのみ食を始めたのですが、今では難しいことを考えるよりも、毎日のお献立を考えたり、きのみの木に水をあげて成長を見るのがとっても楽しいんです。
今日はすっぱいものが食べたいからナナシの実を使ってみようかな、とか、苦いきのみをどういう風に調理しようかな、などと考えたり、きのみ食を実践している仲間と料理の交換会をしたり、とても充実したきのみ食ライフを送っています。
それに、私のポケモンであるプクリンの「ふう」ちゃんも、今ではすっかりきのみ食のポケモンフードを気に入ってしまい、近所の人から一層毛並みを褒められるようになってしまいました。「何か特別なケアをしているの?」と聞かれることも多くなったので、その度にきのみ食のポケモンフードをおすすめしています。
ここまで読んでくださった皆さん、ぜひ朝の一食からでも、きのみ食を始めてみてください。心と体が自然のリズムを取り戻していくことが楽しみで仕方なくなること間違いなしです!


  [No.3737] 実践者の声 投稿者:Ryo   投稿日:2015/05/07(Thu) 18:45:50   42clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

ヨシノシティ A・Hさん(男性・32歳)
妻と2人の子供、それから私のオオタチと一緒に半年前からきのみ食を実践しています。妻は結婚する前の頃のように肌のハリを取り戻したことが嬉しい、と常々喜んでおりますし、子供たちは頭がスッキリするようになった、と言ってテストの点数も良くなりました。オオタチは元々きのみが好きだったのできのみ食のポケモンフードにもすぐ馴染んでくれました。抱っこすると体が無駄なく引き締まり、毛並みが良くなったのがとても良くわかります。半信半疑で始めたのですが、本当にやってみてよかったです!

タマムシシティ きのさん(女性・20歳)
タマムシ大学で勉強し、バイトに勤しむ忙しい日々の中で、瑞々しく育つきのみの木は私の癒やしです。
クラボの実を好んで育てているのですが、花も可愛いし、実の辛味も料理のいいアクセントになりますし、まさに一石二鳥です。
私のガーディもきのみ食のポケモンフードに切り替えてからとても穏やかな性格になり、散歩中に他のポケモンに無闇に吠え掛かることがなくなり大変助かっています。

トキワシティ N・Mさん(男性・65歳)
去年の健康診断で、血中コレステロール値が高くなっていると言われたことをきっかけに、きのみ食を始めました。始めてからはなんだか体が軽くなったような気がして、趣味のウォーキングでも気軽に森を越えてニビシティまで行けるようになりました。まだその後の診断は受けていないのですが、自分自身の実感としては「やって正解」でした!


  [No.3738] あるトレーナーの実践記 投稿者:Ryo   投稿日:2015/05/07(Thu) 18:49:14   43clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「へぇー…」
私は思わず感嘆の声を漏らしながら、そのアサガオさんという人のホームページに魅入っていた。
ネットサーフィンをしていたら偶然見つけたホームページ。ソノオタウンのラベンダー畑や、シンオウの広大な草原、アサガオさんと及ぼしき若い女性が、ふっくらしたプクリンの背に腕を回して微笑んでいる写真などで彩られたそのホームページで紹介されていた「きのみ食」。私はその言葉を聞くのは始めてだったが、アサガオさんが紹介している写真付きのメニューはどれも彩り豊かで、深夜1時のお腹にダイレクトに響いた。
ポケモンの肉を食べない生き方、そういうものがあるということ自体は知っていた。ただ、そういう生き方もあるよなぁという以上の感想を抱くことはなかった。それはひとえに、そういう生き方は、例えば宗教的な使命とか、自然を守りたいとか、そんな感じの信念を持っている人がやるものだ、という私の先入観があったからに他ならない。このアサガオさんは、きっかけはそうだったかもしれないが、今は何よりも楽しくて健康にいいからこの「きのみ食」をやっているのだ。しかもポケモンにまで良い効果があるなんて、驚きだ。
目を光らせて布団の中でスマホの液晶を覗きこんでいる私を、レパルダスの「レッチー」が早く寝ろよとばかりに布団の上から睨みつけている。スマホの液晶が眩しいのだろう。しかし私としては、そっちこそどいてくれと言いたいところである。君が乗っているのは布団越しとは言え私の体の上だ。液晶の光が届かない部屋の隅に行けばいいじゃないか。
現にパチリスの「パッチー」はそうしている。彼は私の使い古しのブランケットを体の上に被せ、お行儀よく丸まって寝息を立てている。
この二匹は一事が万事こんな感じで、パッチーはよく言うことを聞いて誰にでも人懐こいのに、レッチーは気に入らない人間には顔も向けないし、現トレーナーである私の言うことでさえ時々無視するのだった。それにレッチーはイタズラな性格で、パッチーの持ち物にしょっちゅう手を出しては怒られている。もしかしてこの違いもポケモンフードのせいなんだろうか、私は少しずつ眠くなってきた頭でそう考えた。元々は二匹とも旅トレーナーの弟から送られてきたポケモンである。コールセンターで働く社会人に自分でポケモンを捕まえに行く時間などない。人から貰ったポケモンは懐きにくいとか、言うことを聞かないとか言われていたが、パッチーはちゃんと私に懐いている。
ホームページの体験記にあった、ポケモンフードをきのみ食仕様に替えたら大人しい性格に変わったガーディの話。パッチーのポケモンフードは元々植物性のものが多く入っている。そしてレッチーのポケモンフードは肉食ポケモン用なので、やっぱりそういうポケモンが食べるようなものが入っているのだ。あんまりその辺りを考えていくと気まずくなりそうなので、これまで深く考えたことはなかったが。
きのみ食のポケモンフードでは、肉食ポケモンに必要な成分をきのみから抽出しているとホームページのどこかに書いてあった気がするが、眠さが思考力に勝ってきたのでスマホも手から離れてしまった。とにかく明日ちゃんと検索して、必要な物を揃えよう。そこまで考えたあたりで私はレッチーの重さを感じながら眠りに落ちた。

次の日。
私は朝食をヨーグルトだけで済ませ、ひと通りの掃除を済ませてしまうと、トウカの森のすぐ近くにある小さなフラワーショップへ自転車を走らせた。
1DKの女性一人暮らしのアパートのベランダでも育てられそうなきのみって何ですか、とだけ聞いたら、必要な最低限のものだけ教えてくれるのではないかと思っていた。それは半分当たっていた。店員は懇切丁寧に世話の簡単なきのみの種類と育て方を教えてくれて、そこはありがたくアドバイスに従って幾つかのきのみをカートに入れることができたのだが、
「お客様、もしかしてご自分できのみを育てるのは初めてですか?」
「え?ああーはい」
その返事を聞くやいなや、
「あらぁ、そうだったんですかぁ!」
あからさまに店員の声のトーンが高くなった。…それからは、やたら熱心にあれもこれもと薦められた。実のつき方が良くなる肥料とか、きのみの種類に合わせて水量を調節できるジョウロとか。きのみにあげる専用の水を作る薬まで薦められた時には、思わずたじろいでしまった。水なんて水道水でいいんじゃないかと思っていたけど、そうもいかないものらしい。
「特にカナズミシティのお水だと色々と処理がされているので、デリケートなきのみだと、そのままあげちゃうと枯れてしまうものもあるんですよねぇ〜…このお薬はそういう水道水の中の微量な塩素などを取り除くお薬なんですよ〜」
やたらとフレンドリーな店員は笑顔を浮かべたまま眉毛を八の字にしてそう言った。私は頭を巡らせた。さっきから店員に押されっぱなしだが、そもそも私は何をしに来て何を買うべきなのだろうか。自分で育てて食べるきのみを買いに来たわけだから、水が悪いときのみの質も悪くなるだろう。それを食べるのは私だ。自分で食べるものなのだから、きちんと気を使わなくてはならないのではないだろうか。
「きのみ食」のホームページにも「不自然なものを食べていると体のバランスが悪くなる」みたいなことが書いてあったではないか。そうだ、それならこの薬は必要だ。
「じゃあ、その薬もください」
「ありがとうございます〜!」
店員の声がまた一段と高くなった。まるでズバットの超音波だ。こちらのペースが乱される。ポケモンのこんらん状態もこんな感じなんだろうか。
それからも私は店員にペースを乱されつつ、オツキミ山の赤土とクルマユの作った腐葉土をブレンドしたらしい高級な土4.5リットルと、残業などで長時間世話ができなくても大丈夫なように土の水持ちをよくする肥料と、色々なきのみを同時に育てられる横に広くて深いプランター2つをカートに入れた。ジョウロは普通のものを後で百均で買うことにする。安物のジョウロから滲み出る成分が水に混じって云々、などということもありえるかもしれないが、いい加減そこまで考え出したらきりがない。水と土と肥料が良いのだから、相殺されるだろう、多分。
それにしてもきのみなんて、一昨日までは適当なプランターにそこら辺の土を放り込んで、きのみを埋めて水道水をかけたら勝手にスクスク育つものだと思っていたが、さすがに舐めすぎていた。やはり自分やポケモンのために育てて食べるものなのだからそんな適当なことではいけないのだ。やはりきのみ食を始めてみてよかった。自分の食べ物に対する意識が一日でこんなにも変わったのだから。
私は重すぎる荷物を前籠に入れてよろよろと自転車を漕ぎながら、遠いシンオウのどこか(多分ソノオタウン)に住んでいるアサガオさんに心の中で感謝を捧げたのだった。

「『アースフード』は無香料・無着色・保存料不使用の、ポケモンの健康と自然に優しいポケモンフードです。10種類のきのみと5種類の穀物を混ぜて作っており、肉食の陸上グループポケモンに必要な栄養素も問題なく摂ることができます。原材料は全てシンオウ産。決め手は乳酸発酵させたリンドの実とモコシの実、そしてネコブの実のエキスです。またセシナ、ラブタといった胃腸のはたらきを整える作用のあるきのみを丸ごとミックスしているので、ポケモンの体が中からキレイになります。ポケモンの体に嬉しい成分を多く含んだラムの実の栄養素も、一袋につきおよそ10個分を摂ることができます…」
家に帰った私は再びアサガオさんに感謝することになった。アサガオさんのホームページのリンクに、きのみ食のポケモンフードをネット通販しているサイトがあったのだ。さすがに一般のフレンドリィショップを回ってもこういう専門的なフードはちょっとないだろう。カナズミのどこかにはあるのかもしれないが、そもそもきのみ食のポケモンフードにどういうものがあるのかすらわからない状態で広いカナズミシティを探しまわるのは、丸木舟でホウエンからシンオウへ漕ぎだすようなものだ。私は迷いなくネットの力を借りることにした。
「購入が完了しました」と表示されたスマホから顔を上げてベランダを見てみれば、そこには二つ並んだプランターがきのみの成長を待っている。植えたのはオレン、モモン、クラボ、ナナシの実だ。朝に植えれば夜には実が成っている、と言うくらい成長が速くて水もその間に1〜2回あげればいい、特に今日フラワーショップで買った肥料を与えれば水は植えた時の1回だけでいいと、きのみ初心者にとっては非常にありがたい特性をいくつも持っている。
パッチーはゴムボールで遊びながら時々外を気にしていたが、レッチーはまるで興味なしといった風にごろごろ寝ているだけだ。毛づくろいすら面倒くさいらしく背中にゴミがついている。やっぱりいつもの二匹である。でも、この「アースフード」をあげれば、きっとこんなレッチーの毛並みもゴミひとつつかないピカピカなものになるのだ、多分。
さてと、私はさっそく、昼飯兼夕飯の献立を考えなければならない。買い物とプランターの準備だけで貴重な休日は午後の3時を過ぎてしまった。朝はヨーグルトが残っていたのでそれで済ませてしまったが、本来きのみ食を実践する者はポケモン由来のものは食べてはいけないのだ。ということはあれが最後のヨーグルトだったのか、もっと味わっておけばよかったな、と思いながら私は「きのみ食 夕飯」という単語を検索欄に打ち込んだ。

慣れないことをするのはやはり時間がかかるもので、ノメルの実のパスタが出来上がるころにはもう陽もすっかりくれてしまっていた。
しかしお陰で、いつも行っている食料品店より近くに、より食材の安心安全に拘った健康志向の食料品店があることを知り、大抵のきのみはそこで買えることも分かった。味がきつすぎるきのみには、人間が調理に使う用に味を整えた種類のものがあることも分かった。
そんなわけで私の記念すべききのみ食第一号は、地元ホウエン産の無農薬小麦で作ったパスタにキノコ数種を加え、そこに輪切りにしたノメルの実を乗せてスパイスにニニクの実の欠片を少量加えたパスタである。キノコがうまい具合にボリューム感を増してくれて、すっきりサッパリとして美味しい。今日の苦労を労ってくれるような味だった。
その横ではレッチーがいつものポケモンフードをガツガツと食らい、パッチーも普段のポケモンフードを両手に持ってカリカリと齧っていた。さっさと食べ終わったレッチーは暇になったのか、パッチーの食事に手を出して怒られている。やれやれ。早くアースフードが届いてほしいものだ。

きのみ食を始めて3日目の夜。
私が玄米ご飯とネコブの出汁のスープ、朝採れたオレンとナナシのサラダで夕食をとっていると、部屋の呼び鈴を鳴らす音が聞こえた。おそらく昨夜ポストに入っていた不在者通知の便だろう。私は席を立ち、ドアを開ける。ペリッパーのマークが入った仕事着の男性が笑顔で差し出してくれた包みを受け取り、サインをして彼を見送ると、私はさっそく部屋に戻って包みを開けた。
薄茶色のパサパサした重い紙袋に、「アースフード」の文字と美しい毛並みのペルシアンの写真がプリントされたラベルが貼ってある。裏には成分表が貼ってあり、確かにそこにはきのみと穀物の名前しか見当たらなかった。包みの上のほうを少し切って中を見てみると、薄い緑色のコロコロしたフードがぎっしり詰まっていた。
いきなり全てこれにしてしまうと逆に胃腸に負担がかかる、と通販サイトには書かれていたので、とりあえず普段のフードに少量を混ぜてレッチーに与えてみる。レッチーはフンフンと慎重に匂いを確かめると、しばらく思案してから口をつけた。アースフードだけ避けて食べたりもしていない。私は胸をなでおろした。割りといい値段がしたので、初日から残されたりしたらきっと私のテンションはガタ落ちだっただろう。
ついでにパッチーにも一粒与えてみることにした。通販サイトには「肉食性の陸上グループポケモンにも問題なく与えられる」とは書いてあったが、草食性のポケモンにどうだかは書いていなかった。まぁ、元々がきのみ食体質なパッチーには普通に与えても大丈夫だろう。
アースフードを受け取ったパッチーは、カリカリと美味しそうな音を立ててあっという間にその一粒を平らげてしまった。もっとくれ、というような顔をしていたのでもう5,6粒与えてみる。するとパッチーは、あげた粒をそのまま吸い込むように口に入れ、ぷっくりと頬をふくらませた。新しいフードが気に入った証拠だ。保存料が入っていないのでなるべく早く消化しなくてはいけないのだし、この際パッチーにも手伝ってもらおう。
食事を終えたレッチーは全くいつもと変わらない様子で、だるそうにパッチーのお気に入りのゴムボールをベシベシと引っ叩いて、パッチーをまたまた怒らせていた。

きのみ食を始めて一週間が過ぎた。
自分としては体がものすごく変わったような実感はないが、朝にきのみのスムージーを飲むのは既に日課になってしまった。最初の四種の他に、アサガオさんのホームページでお勧めされていたナナを栽培して試してみたら本当に美味しかったので、ナナの実も常備することにした。
それにしても、きのみの成長の早さと取れる量の多さには驚かされた。最初にオレンとナナシを収穫してから、毎日5,6個は何かしらのきのみが採れる状態が続いたので、今はプランターには何も植えていない。今だって余りをパッチーに食べさせたり、ミキサーをフル稼働させてジュースにしたりしてなんとか使いきっているのに、このまま毎日収穫し続けていたら、供給に需要が追いつかない。食べずに腐らせてしまうのもきのみに申し訳ないことだ。一度採れたものを使い切るくらいのタイミングで植えるサイクルがちょうどいいのかもしれない。
それから少し困ったのは職場の同僚にランチに誘われた時だった。こっちとしてはあまり「自然な食べ物」以外を食べることはしたくなかったのだが、同僚の誘いを無碍に断ることもできず、ミートソースのパスタをいただいてしまった。外食がそうなのか、肉類がそうなのかわからないが、とにかくそういう食べ物って意外とにおいがきついんだな、と初めて感じたのがこの時だ。きのみ食を続けていると体臭がなくなる、と色んなサイトで言われていたが、確かにそうなのかもしれない、と実感した出来事だった。
一方ポケモン達はというと、パッチーはいつもどおり変わらないように見える。これはまぁ、そうだろうと思う。レッチーや私のついで程度にしかきのみやアースフードはあげていないし、そのアースフードにしたって、パッチーがいつも食べている小型の草食電気タイプ用ポケモンフードと内容としてはそんなに変わらないのだ。
むしろ変わってきたのはやはりレッチーの方だった。アースフードの割合を毎日少しずつ増やしていくうちに、段々とフンが堅くコロコロとした感じのものに変わってきた。臭いも少し減ったように思う。少なくとも片付けはとても楽になった。体臭については普段から一緒にいるから分からないが、おそらく減っているのではないだろうか。いつも世話をしているトレーナーとしては、これらは素直に嬉しい変化といえる。
だが、気になることもあった。トイレの時になんだか苦しそうにするようになり、時間もかかるようになったのだ。やはり肉食性のポケモンが完全植物性のフードに慣れていくのは大変なのかもしれない。それに私の方も、少し増やし方を急ぎすぎたようにも思う。今は6:4の割合でいつものフードとアースフードを混ぜているが、7:3に一度戻してみよう。
クローゼットの影で、ケッケッと咳をするようにしてレッチーが毛玉を吐いた。あの面倒くさがりが、毛づくろいも前よりはちゃんとするようになったのだろうか。良い兆候だ。

―その日も、心地よい日差しが降り注ぐ休日だった。
先日採れたベリブのジャムをつけた雑穀パンを軽いランチに齧りながら、私は二匹のポケモン、レッチーとパッチーの昼寝姿をゆったりと眺めていた。二匹とも窓辺でベランダのナナの木越しの日差しを浴びて、寄り添って寝息を立てていた。あまり仲の良くない二匹だが、寝る時だけはいつもこうして寄り添っているのは、いつ見ても不思議な気持ちになる。
それにこうしてじっくりとその姿を見ていると、10日、二週間、一ヶ月、と日が経つうちに、二匹の体が確かに変わってきたことを実感していたのだ。
まずパッチーだが、体がふっくらとして、性格が穏やかになってきた。庭で育てているきのみも、どんな味のものでも与えれば喜んで食べてくれる。お陰でゴミも出すことがなく、きのみを全部使い切ることが出来てとてもありがたい。レッチーが多少狼藉をはたらいても、怒って火花を飛ばすこともすっかりなくなった。というか、そもそもレッチーがパッチーを怒らせることをしなくなったのだ。
レッチーは7:3の割合で混ぜていたフードに体が馴染んできたようなので、また少しずつ増やして今では半分をアースフードにしている。パッチーとは逆に引き締まった体つきになり、いたずらに費やしていた時間を毛づくろいに回すようになった。今では暇さえあれば体を舐めている。それにつれて毛玉を吐くことが多くなり、それが見ていてちょっと辛そうなので、自分でもブラッシングを手伝うようにした。ブラッシングの最中大人しくしてくれているのもとても嬉しいことだが、それでもブラシが離れたとたん自分で毛づくろいを再開するのだから念が入っている。
私はといえば、職場でもオフでも「あなた、ずいぶん痩せたね〜」と言われることが多くなり、そのたびに得意げな気持ちになってしまうのは否定出来ない。それにきのみ食のサイトにも、体重が落ちるのは体の中の悪いものが出て行っている証拠だと書かれていた。これはきっと私の体が良い方に変わっていっている印に他ならない。
二匹が眠る部屋の中はとても穏やかな時間が流れていた。私はモモンのお茶を飲みながら、全てが順調に行っていることを幸せに思っていた。

レッチーが吐いたのは、その日の夜である。

廊下をウロウロしていたレッチーが背を丸め、ケッ、ケッ、と咳をするような声をあげたので、あぁ、また毛玉だな、と思った私は、室内用のホウキとチリトリを取ろうとして立ち上がった。が、どうにも様子がおかしい。顔は苦しげに歪み、全身の毛が逆立っている。私は彼のその様子にただならぬものを感じ、名前を呼んだ。
「レッチー、どうしたの…?」
返事はなかった。レッチーはこちらを見ようともしなかった。ただ苦しげに呻くと、私の見ている前で、全身を震わせて半分溶けたポケモンフードを廊下に吐き出した。こんなことは今まで無かったことだ。
「レッチー!レッチー、大丈夫?!」
私はレッチーに駆け寄り、必死にその背を撫でた。指先にゴツゴツとした背骨の感触があった。パッチーが部屋の隅から、ブランケットを抱いて心配そうな顔でこちらを見ているのが視界の隅に映った。レッチーはすべてを吐き出してもまだ足りないというように咳をしつづけている。
どうしよう、どうしよう、私は頭を必死に巡らせる。グラグラする頭のなかにはたった一つの単語しか浮かばない。私はその単語に突き動かされるように起き上がり、自室のクローゼットの一番下の引き出しを漁る。そこからチョロネコのシルエットのシールが貼られたモンスターボールを取り出すと再び廊下に走り、レッチーの隣にしゃがみ込んで囁いた。
「レッチー、すぐ治るからね、大丈夫だからね」
手の中のボールを起動すると、赤い光がレッチーを包み込み、彼の体は私の手のひらに収まった。
そして私は脱衣所のタオルを一枚引っ張りだすと、廊下の吐瀉物を乱暴に拭い、ビニール袋に押し込んだ。これも必要なものだ。
「パッチー、お留守番、お願い!」
私は部屋に向かってそう叫ぶと、モンスターボールをポケットに押し込んでアパートを飛び出した。

夜の街に煌々と光る赤と白の丸いネオン。その下に並ぶ「POKEMON CENTER」の文字列。私にはそれが救いの神に見えた。
自転車を停め、自動ドアが開く時間も惜しいくらいの勢いで施設内に飛び込むと、私は受付のジョーイさんに駆け寄った。
「すみません、うちのレパルダスが吐いて…ずっと止まらないんです、治してください、お願いします…!」
もしかすると、私は半分泣いていたかもしれない。ジョーイさんの対応があくまで冷静で、こちらを落ち着かせてくれるようなものだったのは救いだった。言われるままにモンスターボールと汚れたタオルを預け、待合室で待っていた時の時間は拷問のように長く感じられた。
やがて私の名前が呼ばれ、診察室のドアを開けた私は、レッチーが何事もなかったような顔でベッドの上で横になっているのを見てボロボロと涙を零してしまった。
「大丈夫だったんですね…よかった、本当に良かった…」
レッチーの体はもう震えておらず、咳もしていない。代わりに「にゃあん」という不思議そうな声がこちらに向かって飛んできた。
ベッドの脇にはジョーイさんとナース帽を被ったプクリンが立っていた。ジョーイさんは私にレッチーが無事であることを伝えると、難しい顔をして
「預かったタオルを調べてみたんですが…もしかしてレッチーちゃん、ラブタの実をたくさん食べたりしませんでしたか?」
と、聞いてきた。私は、はて、と考え込んだ。この間収穫したのはベリブだし、今はナナとマトマしか植えていないはずだ。ラブタの実…?
(あっ!)
私の意識にあの薄茶色の紙袋が浮かんだのはその時だった。購入時に通販サイトに書いてあったではないか。「セシナ、ラブタといった胃腸のはたらきを整える作用のあるきのみを丸ごとミックスしているので、ポケモンの体が中からキレイになります」と。
そのことを伝えるとジョーイさんは、なんとも言えない顔でため息をついた。
「ラブタの実の皮には、確かに胃腸の活動を高める作用があります。でも摂り過ぎると、かえって胃腸に過剰な負担をかけてしまうんです。そのままきのみアレルギーになってしまう子もいます。最近、自然食ブームか何かでこういう症状の子が増えてきているんですよね…レッチーちゃんも今後あんまりきのみは与えないほうがいいかもしれません」
ジョーイさんの説明は、私の頭に音としてしか入ってこなかった。何よりも、私がしてきたことがこの子に負担をかけていたというショックが頭を激しく揺り動かしていた。
「それからちょっと栄養失調も起こしてますね…栄養剤を与えておくので、普段のポケモンフードに1食につき一袋分を混ぜてあげてくださいね」
私はただもう俯いて、はい、はい、と頷くだけの人形のようになっていた。レッチーは、こんな酷いトレーナーの側で、くあぁ、と、のんきにアクビをしている。それすらも辛かった。
モンスターボールとタオルを再び貰い受け、アパートに帰って寝るまでのことはろくに覚えていない。ただ、アパートのドアを開けるなり丸々としたパッチーが無邪気にじゃれついてきてくれたのは本当に嬉しく、そして悲しかった。
あの記事が出たのは、その2,3日後のことだったと思う。


  [No.3739] ある日のネットニュース 投稿者:Ryo   投稿日:2015/05/07(Thu) 18:50:26   35clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「アースフード」自主回収へ きのみアレルギーの原因にも
ホウエンタイムズ 20XX年5月15日版

「自然とポケモンに優しいポケモンフード」をうたい、インターネット上で販売されていた「アースフード」を食べたポケモンがきのみアレルギーを引き起こす事例が相次いだとして、製造販売会社「アースフレンド」(本社・ソノオタウン)は14日、4月30日までに出荷した商品の自主回収を始めた。

同社や厚生労働省によると、4月30日までに販売した、ラブタの実の成分が含まれたアースフードを食べたポケモンが何らかのきのみ、またはきのみ成分が含まれた食品を食べた場合、じんましんや肌のかゆみ、嘔吐などの激しいアレルギー症状が出ることがあったという。報告されたうち52件は救急入院が必要となる重篤な症状で、意識不明になった例もあった。

同商品は通信販売のみでこれまでに30万個以上を売り上げていた。

連絡先は同社お客様窓口、電話(XXXX)(XX-XXXX)。受付時間は平日午前11時〜午後5時。返品または商品交換で対応する。


  [No.3740] その後 投稿者:Ryo   投稿日:2015/05/07(Thu) 18:51:38   41clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

そういうわけで今、私の家からはきのみの木も、アースフードも消え去ってしまった。
職場の昼休みを利用してアースフレンド社に電話をかけてみたが、返品よりもむしろラブタやセシナの成分を抜いた別商品との交換を薦められたので呆れて切ってしまい、買い替えたばかりのアースフードはそのままプランターと一緒にゴミ箱行きとなった。集団訴訟を起こす動きもあるらしいが、私個人はもうこの企業と係る気が完全に失せてしまった。
レッチーは今、肉食性のポケモン用の缶フードを朝夕に食べる生活をしている。ほとんどの乾燥フードは多かれ少なかれきのみの成分が入っているので、与えることができないのだ。幸いにもそういう生活でレッチーの体に支障は出ていないし、体重も戻ってきた。今思えば、体が引き締まったのも、頻繁な毛づくろいも、彼の体が合わないフードに必死に抵抗していた証だと思うと、今すぐ過去に戻ってアースフードを捨ててしまいたくなる。
しかし、過去は過去だ。問題は今、私とパッチーに起きている。ずっときのみ食を続けてきた私だが、今回のレッチーの事件、そしてそれに対する企業の対応は私のきのみ食への信頼を大きく揺らがせる結果となってしまった。しかしこれまでの習慣というのは恐ろしいもので、今やきのみや雑穀、野菜以外のものを口にするのがとても恐ろしいことのように感じられるのだ。最近はファストフード店の前を通っただけでにおいが気になるほどになっていたくらいである。
パッチーはふっくらとしてきたなどと言って喜んでいたが、なんでもない、ただ食べ過ぎて太っただけだ。きのみばかりを食べ続けていたらこうなったのだ。レッチーのことがあって心配になったのでパッチーもポケモンセンターで診てもらったが、きのみアレルギーにはなっていなかった。だが、やんわりとだが、太り過ぎだと言われてしまったのだった。
「あんまり体重が増えると、高血圧などにも繋がるので気をつけてあげてくださいね」
これではきのみで健康も何もあったものではないではないか。

私はある日、仕事帰りに救いを求めるように本屋へ立ち寄った。もうネットの情報は信用できない。アサガオさんのホームページもブックマークから消えた。よく考えたら彼女はホームページなど持っているがただの一般人ではないか。数々のレシピもどうせその辺の素人が考えたものだ、なぜそんなものを信頼したのだろう。お陰でここ数日玄米ご飯と野菜スープしか食べられていない。そんな食事でまともに頭が回るはずもなく、お客様の質問に頓珍漢な受け答えをしてしまい、上司に大目玉を食らってしまった。ああもう!
私は怒りの赴くまま、闇雲に本棚の間を歩きまわった。絵本コーナー、スポーツ雑誌の棚、音楽情報誌の棚…そうしていつしか、健康法に関する本が山のように置いてある棚の前に来ていた。
平積みで置いてある本を見下ろし、ある一冊が目について手に取る。それはきのみ食を激しく批判した本だった。

「こんなに危ないきのみ食!―ドクター・キタノが教える正しい食生活」
白い表紙に大きくきっぱりとしたフォントで書かれた題字が、私の中の怒りに呼応して一艘頼もしく見える。私は表紙をめくり、まえがきを読み始めた。
「私、キタノ・ミヤアキは、長年人とポケモンの正しい食生活について研究してまいりました。その中で近年、きのみ食なるものを提唱している人々がいると聞き、私はその実態を調査しました。そしてその内容が実に恐ろしいものであることを知ったのです。
『きのみは体に毒である』
―いきなりこんなことを言われても、信じられない人もいるでしょう。しかし、本書で語るきのみ食の実態、また、きのみがどのような過程で作られた食物であるかを知れば、誰もが頷かざるを得ないと思われます。結論から言ってしまえば、あれは人間がどのようなポケモンにも食べられるように味を極端にした毒なのです。言わば砂糖をたっぷりかけたお菓子や、思い切り塩辛くしたおつまみのようなものなのです。例えばモモンの実に含まれる糖質は1個当たりおよそ30gで、こんなものを健康によいからといって食べさせ続けていたらあなたのポケモンは糖尿病になること間違いなしです。
人とポケモンが健康に、幸せに生きていくためには、何を食べ、何を避けるべきか、それを記したのが本書です。その答えは動物性蛋白質にあります。きのみなどを食べなくても、肉や魚肉、乳製品などで充分にビタミン類は補えるのです。…」

私はそこまで読むと、万感の思いで本を閉じた。ここ数日の迷い、怒り、きのみ食への反感や疑問を解決し、その先を示してくれる先生がここにいたのだ。怒りに赤く曇ったようだった景色は今や、霧が晴れたように鮮やかに見えていた。レジ係の人に向けて表紙を見せつけるように本を置いた時の私の顔は、ここ数日で一番輝いていたと思う。
そしてそのまま私はフレンドリィショップに自転車を走らせ、意気揚々とパッチーのためにササミジャーキーを探し始めたのだった。