赤い爪が俺の胴を少しばかり、切り裂いた。
大した傷ではないし、奴もその事を分かってる。反撃とばかりに尾の刃を振ったが、奴は軽くそれを躱した。
息はまだどちらも整っている。口から毒針を出したがやはり躱される。
奴はそのまま、また俺に肉薄する。鋭い両腕の爪が顔面へと迫り、後ろに退きながら今度は尾の刃で足を狙う。跳躍して躱される。その瞬間、奴に向って身を伸ばした。
防御される前に脇腹に自分の牙を突き立てた。奴は悲鳴を上げるが、動けなくなる訳じゃない。こいつらには忌々しい事に俺達の毒が効かない。
奴の爪が俺の脳天に突き立てられる前に、牙を抜いて引いた。
どさりと落ちて、奴はぼたぼたと血を流しながらも、俺を睨み付けて来た。
奴の息が荒くなる。いや、おかしい。
毒が効いているように見えた。ただ何か、おかしい方向だ。弱っているだけじゃない。
奴が手を付いて四足になった。弱っているが、何故か分からないが、そしてまた、強くなっている。まるで、体が暴走しているかのようだ。
奴は後ろ両脚で地面を蹴り、その一蹴りで一瞬にして、眼前に爪が来ていた。
躱せず、頬を切り裂かれ、片目から光が失われた。まあ、良い。目よりも、鼻先と舌の熱を感じられる感覚の方が役に立つ。致命傷を負わずに済んだ。それだけで良い。
そのまま背後を取られ、奴はまた直後に跳躍してきた。
二度目は無いぞ。
尾の刃を、奴の軌道上へと薙ぐ。片方の爪で弾かれる。それを見越して伏せ、もう片方の爪が俺の頭上で空振る。
その影響で奴は俺の目の前で着地をしくじった。今度はこっちから攻める番だ。
体勢を整えられる前に毒針を放ちながら長い胴をうねらせて奴に向う。
奴の起き上がろうとしていた腕に一本当たり、顔面をもう一本が掠る。後は外れた。
が、それで十分だ。体勢が整えられる前に奴の元へ着いた。
尻尾の尾を奴に向けて薙ぐ。無理矢理飛び上がって躱されたものの、両足に深い傷を負わせた。
そして、空中で奴の体勢はまた崩れる。隙だらけだ。そこに向けて今度は首に噛みつき、そしてそのまま地面に叩きつけた。
更に、叩きつけると同時に、腕ごと体を締め上げた。
だが、苦痛の声を上げながらも、奴は諦めていない。こちらも締め上げてはいるが、油断すると、その暴走している力で拘束を解かれそうだった。
全力で、締め上げた。みしみしと奴の体から音が鳴り始め、奴の声は悲鳴へと変わって行く。
ボキボキ、と奴の全身が折れる音がして、やっと俺は勝ったと思った。
がくり、と奴の首が諦めたように折れる。
その目からは生気が既に失われていた。
さて、頂くとしよう。
口を大きく開けると、切られた頬が痛んだ。が、まあ、良い。
頭を呑み込み始めると、流石に奴もまた抵抗し始めたがもう、それは俺にとって抵抗の内にも入らなかった。
ごく、ごく、と頭を呑み込み、首を呑み込み、肩へと入る。びくびく、と奴の体が震えている。
久々に食べるこいつらの肉の味は、今まで食べた奴等とは何か一味違った。
毒を食らって、逆に強くなった、普通の奴等ではない奴だったからだろうか。
だが、美味いのには変わらない。
ゆっくりと、ゆっくりと呑み込んでいく。俺の腹の中からは、絶望の声が偶に聞こえるが、それもやはり、中々良いものだった。
勝利し、食らうという点においては飽きというものは来ない。
片目を失ってしまったが、それへの対価は十分だ。こいつは美味いし、充実感もたっぷりだ。
全身を飲み終え、腹を尻尾で擦る。すると中から僅かにまだ奴が生きている音が聞こえて来た。
消化されていくのを感じるのも、勝利の後の楽しみの一つだ。
ゆっくりと、楽しむ事にしよう。
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twitterで書いたものを修正したもの。