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  [No.3751] 戦い 投稿者:マームル   投稿日:2015/05/30(Sat) 18:41:04   112clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:ザングース】 【ハブネーク

赤い爪が俺の胴を少しばかり、切り裂いた。
大した傷ではないし、奴もその事を分かってる。反撃とばかりに尾の刃を振ったが、奴は軽くそれを躱した。
息はまだどちらも整っている。口から毒針を出したがやはり躱される。
奴はそのまま、また俺に肉薄する。鋭い両腕の爪が顔面へと迫り、後ろに退きながら今度は尾の刃で足を狙う。跳躍して躱される。その瞬間、奴に向って身を伸ばした。
防御される前に脇腹に自分の牙を突き立てた。奴は悲鳴を上げるが、動けなくなる訳じゃない。こいつらには忌々しい事に俺達の毒が効かない。
奴の爪が俺の脳天に突き立てられる前に、牙を抜いて引いた。
どさりと落ちて、奴はぼたぼたと血を流しながらも、俺を睨み付けて来た。
奴の息が荒くなる。いや、おかしい。
毒が効いているように見えた。ただ何か、おかしい方向だ。弱っているだけじゃない。
奴が手を付いて四足になった。弱っているが、何故か分からないが、そしてまた、強くなっている。まるで、体が暴走しているかのようだ。
奴は後ろ両脚で地面を蹴り、その一蹴りで一瞬にして、眼前に爪が来ていた。
躱せず、頬を切り裂かれ、片目から光が失われた。まあ、良い。目よりも、鼻先と舌の熱を感じられる感覚の方が役に立つ。致命傷を負わずに済んだ。それだけで良い。
そのまま背後を取られ、奴はまた直後に跳躍してきた。
二度目は無いぞ。
尾の刃を、奴の軌道上へと薙ぐ。片方の爪で弾かれる。それを見越して伏せ、もう片方の爪が俺の頭上で空振る。
その影響で奴は俺の目の前で着地をしくじった。今度はこっちから攻める番だ。
体勢を整えられる前に毒針を放ちながら長い胴をうねらせて奴に向う。
奴の起き上がろうとしていた腕に一本当たり、顔面をもう一本が掠る。後は外れた。
が、それで十分だ。体勢が整えられる前に奴の元へ着いた。
尻尾の尾を奴に向けて薙ぐ。無理矢理飛び上がって躱されたものの、両足に深い傷を負わせた。
そして、空中で奴の体勢はまた崩れる。隙だらけだ。そこに向けて今度は首に噛みつき、そしてそのまま地面に叩きつけた。
更に、叩きつけると同時に、腕ごと体を締め上げた。
だが、苦痛の声を上げながらも、奴は諦めていない。こちらも締め上げてはいるが、油断すると、その暴走している力で拘束を解かれそうだった。
全力で、締め上げた。みしみしと奴の体から音が鳴り始め、奴の声は悲鳴へと変わって行く。
ボキボキ、と奴の全身が折れる音がして、やっと俺は勝ったと思った。
がくり、と奴の首が諦めたように折れる。
その目からは生気が既に失われていた。
さて、頂くとしよう。
口を大きく開けると、切られた頬が痛んだ。が、まあ、良い。
頭を呑み込み始めると、流石に奴もまた抵抗し始めたがもう、それは俺にとって抵抗の内にも入らなかった。
ごく、ごく、と頭を呑み込み、首を呑み込み、肩へと入る。びくびく、と奴の体が震えている。
久々に食べるこいつらの肉の味は、今まで食べた奴等とは何か一味違った。
毒を食らって、逆に強くなった、普通の奴等ではない奴だったからだろうか。
だが、美味いのには変わらない。
ゆっくりと、ゆっくりと呑み込んでいく。俺の腹の中からは、絶望の声が偶に聞こえるが、それもやはり、中々良いものだった。
勝利し、食らうという点においては飽きというものは来ない。
片目を失ってしまったが、それへの対価は十分だ。こいつは美味いし、充実感もたっぷりだ。
全身を飲み終え、腹を尻尾で擦る。すると中から僅かにまだ奴が生きている音が聞こえて来た。
消化されていくのを感じるのも、勝利の後の楽しみの一つだ。
ゆっくりと、楽しむ事にしよう。

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twitterで書いたものを修正したもの。


  [No.3759] Inv: 戦い 投稿者:マームル   投稿日:2015/06/03(Wed) 21:31:01   85clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:ハブネーク】 【ザングース

刃を爪で受け止めた。中々重いが、それだけだな。既に何度か受けたが爪に皹が入る事も無さそうだ。
刃が滑り、しゅるりと背後から俺を締め付けようとする糞蛇の喉に爪を向ける。
体を反らして爪は宙を割き、同時に戻る尻尾が俺の腕を軽く切りつけた。
切りつけられた腕を振り回して糞蛇にも爪で傷を与えた。が、同じく軽い。
一旦互いに距離を取って、俺は目を閉じた。蛇にらみだ。
俺に毒は効かないが、麻痺にはなってしまうからな。
しゅるしゅると俺が目を閉じた隙に糞蛇が迫って来る音が聞こえる。
目を閉じたまま、両腕に力を込めた。目を開けた瞬間、また蛇にらみをされては堪らない。常に睨んでいられる訳ではないが、読まれて睨まれたら溜まったものじゃない。
音が止まった。まだ、どちらも攻撃が届く位置じゃない。
少しタイミングをずらして目を開けた。目の前は黒い霧で覆われていた。
チッと舌打ちをしながら、姿勢を低くする。
確か、あいつらは熱でも周りを知る事が出来るんだよな。くそったれめ。
もくもくと、周りが見えなくなったまま、耳を澄ませた。
が、あいつも音を全く立てずに動く事は不可能だ。だからこそ、あいつが動く音は目を開いてからもしていない。来る瞬間は分かる。
集中すれば、奇襲を食らう事は無い。
霧が徐々に薄くなる。夕方の赤い太陽の光が徐々に煙の間を縫って俺に光を寄越してくる。だが、糞蛇が動いている気配は無い。
その時、煙が何かの風を感じて動いた。音はしていない。
どこだ? 周りを見回したがどこにも居ない。音もやはりしていない。
赤い光が暗くなった。上、か。
太い胴が上から落ちて来ていた。四足の姿勢からはすぐに爪を振るえない。
前に走った。間に合わず、どすり、と腰に糞蛇が落ちて来た。
みしみしと体に音が響く。前足で地面を蹴って、何とか巻き付かれる事だけは避けた。
が、糞蛇に背後を取られている。危険は去っていない。そして、それは好機でもある。
腰に圧し掛かられたが、麻痺にはなっていない。足にも力は問題なく込められる。
後ろから俺を呑み込もうと口を開ける様すら、何故か鮮明に感じられた。耳が良いからとかじゃない。体の全てが周りの事象の全てを余す事無く感じていた。
四足に力を込めて、後ろへと背中を下にして跳んだ。縦に回るその視界が、反応が遅れた糞蛇を捉えた。
そして、糞蛇が振り向く前に着地し、糞蛇の胴を両方の爪で切り裂いた。
ぶしゅぶしゅ、と血が俺にも降りかかる。糞蛇は痛みに悶えながら、しかし俺へと尻尾を伸ばし、同時に口を大きく開けて俺を呑み込もうとして来る。
だが、それは余りにも直線的だった。身を屈めて尻尾に爪を突き刺し、ただの空気を噛み砕いた口の下、喉へも爪を突き刺した。
びぐ、びぐと糞蛇は痙攣し始める。
力を失った奴の胴の重さが俺の腕に圧し掛かる。
蹴って両方の爪を引き抜くと、また血が噴き出した。顔にも掛かり、腕で拭う。
糞蛇はもう動く事も出来なかった。
さて、今日は皆で馳走だ。最後に脳天に爪を突き刺して、そのまま持ち帰る事にした。


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同じく。
前回の事。ハブネークは毒針覚えない。……。


  [No.3915] Neutral: 戦い 投稿者:マームル   投稿日:2016/04/07(Thu) 01:24:20   62clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「がぶっ、ごぶっ」
 べきべきと俺の体の骨が折れて行く。頭が沸騰しそうだ。意識が爆発しそうだ。
 こいつの腹を裂いたというのに、こいつは最後の力を振り絞るかのように俺を締め上げた。
「あぐぅっ、いぎぃ」
 両脚の感覚が消えたのが分かった。
 そして、この野郎の締め付けは終わった。

 指一本、爪ももう全く動かせねぇ。
 ハブネークも、俺を締め上げた後は動かなかった。
 くそったれ、相打ちかよ。
 俺もハブネークもこのまま死ぬのだろう。馬鹿みてえにいつも通り、青い空と白い雲が流れて行くのを見ながら。
「げぶっ」
 血を吐くと、目が霞んで来る。
 死、はそう大して怖くない。後悔が無い訳じゃない。俺の子供は俺の死体を見た後に何を思うだろう。俺の番は泣き崩れるんだろうか。
 そんな事も考えたが、すぐに消え去った。
「……なあ」
 消え入りそうな声。ハブネークが話し掛けて来た。
「……何だ」
「楽しかったか?」
 朦朧とする頭で、ゆっくりとした思考の後で俺は言った。
 もう、青い空も霞んできやがった。ったくが。
「そうだな」
 いつからこいつと戦い続けた。
 何度爪を尻尾の刃を打ち合わせた。
 何度こいつの毒をこの身に受け、何度こいつを切り裂いた。
 そして、今、こいつの腹を掻っ捌き、その代償として俺は全身の骨を砕かれた。
 当然の結末っちゃあ、そうなんだろうな。どっちかが強かったらさっさとどっちかが殺してる。
 体が冷えて行く。俺が掻っ捌いた腹から出て来る血が温かい。
「お前に巻かれて死ぬなんてな」
「お前を巻いたまま死ぬなんてな」
 互いの体温を感じながら死ぬなんてな。
 俺達は敵同士でありながら、互いの事を誰よりも知っていた。
 苦い物が好きだ何て事も知ってたし、こいつは俺が甘い物が好きだ何て知っていた。
 吐き気がする。けれど、悪くない。

 暗闇が近付いて来た。
「……なあ」
「何だ、早くしろ」
 こいつも、近いか。
 死ぬタイミングまでそっくり一緒らしい。悪くない。
「……いや、いい」
「……そうか」
 いや、やっぱり、と口を開こうとしたが、もう口も動かない。
 くそったれ。でも、まあ、後悔はない。
 俺だけが死のうが、こいつだけが死のうが、こうなろうが、俺とこいつは全力で戦って来た。
 それだけで、後悔はない。それ以外の事がどうだろうとも、それに比べたら全て些細な事だ。
 体が軽くなる。全ての感覚が失せて行く。
「あの世でもな」
 そう聞こえた気がした。
「ああ」
 答えられた気がした。