もともとTwitterで呟くつもりでしたが、あまりに長くなった(※20連ツイート)ので、ここに投稿させていただきます。
掲示板で読む分にはそんなに長くないです。
性質上、「雨河童」(http://masapoke.sakura.ne.jp/rensai/wforum.cgi?no=1125&mode=allread)の重大なネタバレが多数含まれるので、結末を知りたくない方はご注意願います。
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元々このお話は、某氏に唆されて「夏コミで本を出そう」ということになり、既存だけで無く書き下ろしのお話も入れよう……ということで制作が始まりました。その時から、漠然とですが、メインに持ってくるポケモンはコダック/ゴルダックにしようという思いがあったように思います。
本には「弾けたホウセンカ」「wrong」「プレゼント」の三つを収録することを決めていて、これらはすべてストーリー中何らかの形で「贈り物」が登場します。また本のタイトル自体が「プレゼント」だったこともあり、書き下ろしにも「贈り物」の要素を入れることは確定していました。
初期案は「都会で暮らしている男の子が田舎に来て、半人半ポケモンの『河童』と仲良くなるが、月日が経って二人の関係は消えてしまう」という筋書きでした。初期段階で話の大枠はできており、完成稿もほぼこれに準じています。ただしこの時点では河童は少年で、恋愛要素は皆無でした。
この時頭の中にあったのが、大昔テレビで見た記憶のある雨降り小僧(参考:http://www12.wind.ne.jp/yoroconde/link8.htm)でした。読んでいただければ分かるかと思いますが、ほぼ同じ流れを辿っています。端的に言えば、これのポケモン版を実装するというコンセプトで企画が始まっています。
書き始める直前になって、単純に「相手は女の子の方がいい」ということで、河童は女の子に変更されました。これがあの「チエ」ちゃんです。少年にも「志郎」という名前が付けられました。母方の実家の風景を思い浮かべつつ序盤を書き始め、まずは順調に推移し始めました。
序盤は順調だったのですが、結末をどうするかということを考えており、こちらはかなり苦戦しました。
初めは初期案である「成長した志郎が再び村へ戻ってくるが、チエの姿を見ることはできなかった」というもので進めていましたが、これは「押しが弱い」「見えなくなる理由が思い浮かばない」ということで早々に破棄されました。
次に候補として上がってきたのが「チエがゴルダックに進化していて、種族の違いをまざまざと見せつけられる」というものでした。結構長い間この結末を前提に進めていましたが、途中からどうにも気に入らなくなってしまい、さらに別の案を練り始めます。
その次が「チエの姿は見えないが、微かに頭痛がして、そこにチエがいることを理解する」というもので、これも三日ほどは気に入っていたのですがやはり満足することができず、執筆しつつも煮詰まるという厄介な状況に陥りました。大体三分の一くらい書けていた頃です。
ところでその頃、志郎の叔父である「健治」さんという人物がおり、志郎の父及び祖父と対立して……と言うより一人で喚き散らして、毎日のように激しい罵詈雑言をぶつけるというシーンがちょくちょく挟まっていました。お察しの通り、これは伏線です。
かなり初めのうちから、結末で舞台となる山村を「ダムの底に沈めよう」ということは決めていて、それを示唆するための役割が健治にはありました。さらに村の地主に慕っていた姉の「恵」を手籠めにされて恨んでいるという設定も追加されました。村にダムを誘致したのは勿論地主です。
なお、この「村をダムの底に沈める」という筋書きは、ノベルゲームの「ひぐらしのなく頃に」の影響を受けています。また、健治が作中終盤で起こす殺人事件は、実際に起きた大量殺人事件である「津山事件」をモデルとしています。うちの親友はこの双方を即座に看破してきました。
村がダムの底に沈んで跡形も無くなることから、作品タイトルはかなり長い間「水底の記憶」というものでした。これに引っ張られる形で、作品の識別IDは「sink」(沈む; 没する)としていました。最終的にタイトルは変更になりましたが、識別IDはそのまま継承しています。
さて、ここで閃いたのが「志郎は恵と地主の間に生まれた男子」「チエは恵と池の主の間に生まれた女子」という設定です。ここで話の構造が劇的に変わりました。それまで無関係だった志郎とチエが種違いの兄妹になった瞬間です。同時に、お話が持つ業の深さが跳ね上がりました。
結末の方向性がだいぶ絞り込まれてきました。二人は種族が違うと同時に、同じ血を分け合う兄妹です。どう話を結ぶのが一番の悲恋となるか、それまでの案も踏まえてほぼ三日間、ただ結末を考えることにひたすら集中しました。
その時点で出ていたのは「チエが見えなくなる」「チエがゴルダックになっている」の二案で、先に挙げた通りいずれも「押しが弱い」という欠点を抱えていました。けれどこのどちらかしかない……そう考えて悩んでいた、ある日の会議中のこと。
「そうだ、幼いままのチエを出せばいいんだ」
この第三案を閃いたときのことは今も鮮明に覚えています。成長した志郎の前に幼いままのチエを登場させることで、二人の隔絶をより鮮烈に印象づけることができると考えたのです。それまで出ていた細かな設定もすべて回収できることを確認できて、興奮したのを覚えています。
表層的には志郎とチエは種族の違いで結ばれなかったように見えますが、深層では二人は血を分けた実の兄妹であり、出会った瞬間から結ばれることなど無い運命だった――という、「雨河童」が持つ絶望的な構造が完成した瞬間でした。
今読み返すとシンプルで特に捻っていないように見えるのですが、そこに至るまでにかなりの紆余曲折があったのは事実で、よく一ヶ月の間に纏めることができたな、と思っております。ホントによく間に合った。
最後に……主人公二人より物語の進行に貢献してくれた健治さんに、深く感謝したいと思います。というか志郎くんとチエちゃん、ほっといたらずっといちゃついてただけだと思う。真剣に。