「どかんと一発爆発娘、ただ今降臨だいばくはつ!」
一言で言うなら大変ロックな女の子だ。ドガースの出す煙を固めたみたいにゴワゴワフワフワのパープルな髪を、横一直線に二つに縛って、Tシャツも紫で、まあまあ大きい胸にはドクロのマークが窮屈そうに伸びている。
ズボンは当然のように穴あきジーンズ、靴は何故か西洋の旅人風のブーツと、あまりにキテレツすぎてどっかの発明ボーイが飛んできそうだ。カロスのでんきタイプのジムリーダーとも別の。
手にはまん丸いドガースを持っている。お互いこわばった顔をしているボクと女の子とは反対に、コイツはのんきな顔だ。そのドガースを持った女の子が、朝配達された新聞とモーモーミルクを取りに来たボクの前に現れて、そう宣言したのである。
ボクたちの横を、ポッポたちがクルッククルック鳴きながら通り過ぎる。
「あの、さ」
何か言わなくちゃ。そう思ったボクが声をかけた瞬間、彼女のほっぺの色はオクタンになった。
きっと口からオクタンほうが吐ける。そんくらい。
「じ、じばく!!!!」
ボン! と大きな音がして、爽やかな朝の住宅街が黒い煙に包まれる。カラン、カランきれいな音がして何かを強く叩きつける音がする。煙が消えた時、ロックな女の子とドガースはとっくに姿を消していた。
「また逃げられた」
ボクはがっくりした。彼女にはこんな感じでずっと、逃げられてばかり。
彼女はいわゆるご近所さんだ。僕の家の正面にある家に住んでる。それなりに面識もあった。親戚が贈ってきてたべきれない、ナナのみとかマゴのみのおすそ分けとかで。
逆にリンゴをおすそわけしてもらうこともあった。おいしかった。もちろん朝のあいさつなんかでも顔を合わせることだってある。そんな風にちょくちょく交流をしていた時の彼女は、目立たないはにかみ屋さんだった。
特徴といえば長い髪につけた赤いカチューシャくらいで、後はその辺を歩いていても目立たない感じの女の子。
ボクは彼女に、淡い恋心のようなものがあった。うれしいことに彼女も、同じような気持ちを抱いていてくれていたらしい。
ここで問題なのが、彼女がはにかみ屋さんだということ。
朝のあいさつと食べ物のおすそわけくらいでしか話が出来ない自分に腹が立って、彼女は変わろうとした。というのが彼女の母親の言い分である。
とにかく派手派手な格好になれば、堂々と話ができると思ったらしい。上半身パープルガールなのは、かわいがっているドガースとおそろいにしたのだとか。パープー(間抜けな)ガールに見えるからやめた方がいいと思う。
更に問題なのが、このイメチェンで堂々とするようになったならまだしも、この大変ロックな格好になったことで、逆にはにかみ屋が悪化している節があることだ。本人もこの格好を恥ずかしいと自覚しているのだと思う。でもここまではっちゃけちゃった以上、後には引けないと。
「今日もあいさつすら出来なかった」
彼女は変な宣言をしたらすぐにドガースのじばくに紛れて、叩きつけるようにドアを閉めて家の中に逃げてしまうようになってしまった。さっきの何かを叩きつけるような音は、かわいそうなドアの音だ。
カラン、カランという音は、これ。
「げんきのかけら、か」
ポケモンに戦う元気を与えるそのカケラは、朝日の中でもきらめいていて、星が落ちてきたみたいだ。
「あの、これ、落としましたよ」的なドラマでも期待しているのだろうか。でもそれって見知らぬ他人同士じゃないと効果が無いんじゃないだろうか。今日はげんきのかけら以外にも何かを落としていったみたいだ。まん丸だけど、モンスターボールじゃない黒い玉。
「あーあ、こんなの落としていっちゃって。明日はどうする気なんだか」
もう一つのおとしものは、けむりだま。ポケモンに持たせておくと、やせいのポケモンから必ず逃げられる道具だ。ボクは野生扱いかよ。確かに彼女いないけどさ。つっかえながらじばく! なんて宣言してるけど、実は彼女は自分のドガースにじばく、もしくはだいばくはつを命じてなどいない。
けむりだまを使ってそう見せかけているだけだ。
しかたないから、げんきのかけらと一緒に届けてあげよう。そして今日こそ言うんだ。
はにかみ屋さんで地味でも。自分の勝手な都合で、ドガースにじばくを命じない優しいキミがボクは好きなんだよって。