これは、ポケモン達だけが住む世界のお話。
ポケモン不思議のダンジョン マグナゲートと∞迷宮!
といっても、ダンジョンもマグナゲートも出てこない無いお話。
私はスワンナ、宿場町のポケモンからはママさんって呼ばれてる、食堂と宿を兼ねたスワンナハウスってところをやっていたポケモンだよ、
過去形なのはもう廃業しちゃったからなんだけど、ここもちょっと前まではたくさんのポケモンがで賑わっていた場所だったんだ、
旅の疲れを癒やす者、暇つぶしで愚痴を言い合う者、偉大な冒険者を讃えてどんちゃん騒ぎしたこともあったっけ。
物が片付けられてガランとした食堂を眺めているだけでもいろんな思い出が浮かんでくるねぇ。
「ママさん、これが最後の荷物でいいのか?」
「そうだね、その荷物を運んだら仕事はおしまいだよ」
「わかりました、それではオレ達このまま失礼します」
「ドッコラー達も忙しいところ手伝ってもらってありがとね」
「へへ、これくらい礼には及ばないぜ」
そう言ってドッコラー達は挨拶もほどほどに荷物を外に運び出していった。
さてと、片付けも済んだし私もそろそろ出て行く準備をするかね、準備と言っても大して持ち物も無いんだけど。
「こんにちわ……」
「あらヒメじゃないかい、いらっしゃい」
このポケモンはヒメ、ツタージャだけどみんなからはヒメという名前で呼ばれてる。
かつては世界を救った英雄で今はパラダイスの管理人として忙しくも仲間たちと頑張ってるみたい。
「すっかり片付いちゃったね……はぁ、寂しくなるよ」
「フフ、そんな暗い顔はヒメらしくないね」
「だって、ワタシのせいでこんなことになってしまって」
「あのねぇ、私が全然気にしてないのにヒメがそんなに気にしてどうするんだい」
「うぅ、そうだけど……」
まぁ、ヒメが悩んでいるのも無理は無いんだけどね、ポケモン達が楽しく暮らせる場所を作りたいというヒメの夢であったパラダイスという場所、
今そこは街と呼べるくらいに発展してたくさんのポケモン達で賑わっているんだけど、その結果、宿場町に足を運ぶポケモンは減っていき
それにつれてここでお店をやっていたポケモン達も廃業したりパラダイスや他の街へお店を移していった、そして最後に残ったのがこの宿屋、
他のお店と違って宿屋ってのは簡単に移動もできないからねぇ、かといってここでずっと宿屋を続けても
お客が来ないんじゃ商売やっていけないから廃業することにしたんだけど、それをヒメは自分のせいだと責任を感じてるみたい。
「どうしたもんかねぇ、何をそんなに悩んでるのさ、誰もヒメのことを責めたりしてないじゃないかい」
「……」
「あ、もしかして、良くも私の商売ダメにしてくれたね、こうなったのは全部ヒメのせいだー!なんて言って欲しかったりする?」
「そう、かもしれない。今まで宿場町から出て行ったお店のポケモン達もみんな笑顔で気にしてないって言ってくれたんだけど」
「そりゃそうだ、商売なんてそんなもんだよ」
「だけど、ワタシの夢で誰かが損するなんて、誰かの生活を奪ってしまうなんて」
「みんなが楽しく暮らせる場所を作りたくてパラダイスを作ったのに、そのせいで今までいっぱい世話になった宿場町をワタシが壊してしまった」
「これじゃムンナ達にも顔向けできないよ、みんなゴメンね、ワタシ……うぅ、うわああぁぁぁんっ!!」
ヒメが宿場町に初めて来た頃は言っていた、いろんな冒険をして仲間を集めて、みんなが力を合わせて楽しく暮らせる、
みんなで心躍るような生活が出来る、そんな素敵な楽園のような場所を作りたい、と。
そんなヒメの夢が実現したポケモンパラダイスという場所、それと引き換えに寂れてしまった宿場町という思い出の場所。
みんなのために頑張ってきたのにそれによって誰かの大切な場所を奪ってしまったと思っていたんだろうね
「はぁ、やっと本音がでたねぇ、ほんと不器用なんだから」
「スワンナ、ゴメンなさいぃ」
「フフ、特上の羽毛だよ、特別にいっぱい抱きしめてあげる」
そういえばヒメには親や家族がいないんだったね、こうやって甘える相手もいなかったと思うと辛い事も多かっただろうし、
あの子と出会う前はずっと一匹で生きてきたらしいから、悩みを抱え込んでしまうのは仕方がないか、でも今のヒメには仲間もいるし、
「それに、ここが消えてなくなるわけじゃないんだからさ、ねぇ、アンタ達もいつまで盗み聞きしてるんだい、そろそろ降りてきてくれないかい」
「えっ、二階に誰かいるの」
「別に盗み聞きしてたわけじゃないわよ、ねー、ブラッキー」
「そう言うエーフィはずっと聞き耳立てて聞いていたじゃないか……その、深刻そうに話してるから入りづらくてな、スマン」
二階に居候しているダンジョン研究家のエーフィとブラッキ、特殊な移動手段として使われるマグナゲートを呼びこむエンターカードの使い手でもあるんだけど
その説明は聞いているだけでぐっすり眠れる優れた力があって、そのおかげで寝付きの悪い私もいまでは熟睡出来るようになったほどだよ。
恐ろしいくらいの鋭い感と周りへの気遣いを欠かさないエーフィ、面倒見も良くて子供たちからも人気のお姉さんみたいな存在、
そしてロマンチストで信じたことを突き進むブラッキー、ちょっときざっぽいけど根は優しいお兄さんといったところかな、
全然違う性格なんだけどなんだかんだで仲がいいコンビだねぇ。
「エーフィ、ブラッキー、全部聞いてたのね……なんなのよ、もう……」
「ゴメンね、でもそんなに思い悩んでいたならワタシ達にも相談して欲しかったなぁ」
「ううん、ワタシこそゴメン、毎日忙しくしてるうちに仲間に頼る事も忘れかけてたよ」
「でもエーフィはヒメが悩んでいる事はずっと前から気づいてたからな、ずっとタイミングを伺ってたんだぞ」
「ブラッキー!」
まぁ、なんだかんだでアンタ達の絆は強いから大して心配することは無かったみたいだね、
最後くらいちょっとお節介してみたくなっただけ、私の気まぐれさ。
「ところでスワンナ、この宿をオレたちに譲ってくれるって話だが本当に良かったのか」
「え、そんな話いつの間にしてたの」
「廃業を決めてすぐだよ、空き家になるくらいならアンタ達に使ってもらったほうがこの宿屋にとっても良いだろうし」
「ありがと、大切に使わせてもらうわ」
「これだけ静かなら研究も捗りそうだねぇ」
「ハハ、頑張るよ」
「最近ちょっと気になっている事もあって腰を据えて調べてみたいと思っていたところだったの」
「気になること?」
エーフィとブラッキーならこの宿屋を大切に使ってくれそうだから譲って良かったと思ってるよ、
二階は二匹が使っていた期間が長かったし、私が手入れする必要が無いくらい綺麗に使ってくれていたからね。
「おーい、オメーらいつまで話し込んでんだ」
「あら、ドテッコツいらっしゃい」
「いらっしゃいって……とっくにみんな集まってるぞ、今日の主役はママさんなんだから来てくれないと始められないんだぞ」
「もうそんな時間だったかい、じゃ急いで行かないとね」
「おいおい、まさか飛んでいくつもりか、そこまで急がなくてもいいんだぜ」
「パラダイスのガルーラカフェだったね、ヒメ、乗ってくかい」
「え、良いの!?」
「もちろんさ、空から見るパラダイスも良いもんだよ」
宿場町でポケモン達を眺めてるのも楽しかったけど、せっかくの機会だし思い切って世界中を旅して回るのもいいかもね。
またここに訪れる時、あのパラダイスがどんな景色になっているかも楽しみにしてるから、ヒメ、頑張りなよ。
超ポケダンの時代ではマグナゲートに登場していた宿場町のお店が軒並み潰れてるみたいだったので
きっとこんな事があったんだろうなと、ふと思いついて書いてみました。