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  [No.3895] イーブイの選択肢 投稿者:逆行   投稿日:2016/02/27(Sat) 12:20:43   55clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 イーブイは、様々なポケモンに進化ができる。シャワーズ、サンダース、ブースター、エーフィ、ブラッキー、リーフィア、グレイシア、ニンフィアの、八種類だ。それぞれ、タイプや能力が異なる。進化の選択肢が複数あるポケモンは、他にもいる。しかし、八種類もあるのは、イーブイだけだ。多くのイーブイは、何に進化しようか非常に悩んでいる。
 このイーブイもまた、何に進化すべきか、それなりに考え込んでいた。このイーブイには、八匹の兄と姉がいた。八匹は、それぞれ進化していた。しかも、全員バラバラの種族だった。なかなかレアなケースである。
 兄達は皆、自分と同じ種族に、イーブイを進化させたがった。同じ種族の仲間が増えることは、単純に嬉しい。後は、同じタイプから少なからず賞賛される。しかし、面と向かってイーブイに、これに進化しろ、等と言わなかった。そんなことをすれば、自分の意見を押し付けてくる悪い奴だと思われる。そして、「お兄ちゃんのようにはなりたくないな、別のに進化しよう」、となるのが明白だから。だから、直接的には言わない。ありとあらゆる、遠回しな手方を使う。そして、自分の思い通りに行動させるように促す、というようなことをしていた。
 だがイーブイには、そのずるい手法すら見透かされていた。彼らが、自分と同じ種族に進化させたがっていることなど、分かりきっていたのである。


 イーブイは、帰り道を歩いていた。太陽が燦々と照りつけていた。夕方なのに暑苦しい。早く帰りたい。そんなときだ。イーブイの姉である、シャワーズと出会った。
「やあイーブイ。暑いねー暑そうだね―。私は涼しいよ。だって、体の大半が水だもん。それでも暑いときは、自分で出した水を浴びればいいし。イーブイは暑そうだよね。その毛皮脱いじゃえばいいのに」
 シャワーズは水タイプ。故に暑さには滅法強かった。彼女は、直接シャワーズになれとは言わない。「こんな良いことがある」と自慢をして、シャワーズになることを促そうとしてくる。
 シャワーズと別れる。イーブイは更に暑くなる。少し早足になる。と、お次はブースターに出会った。
「いやあ今日も暑いね―。君はいいよね、涼しそうで。僕は炎タイプなものだから、熱くて仕方がないよ。冬でも暑いくらいなのに、夏場は地獄のようだよ。本当に君は楽でいいねえ。うん。ははは」
 彼はあえて、進化すると良くない面を言う。そして、君はそうじゃなくて良いよねえと、皮肉った口調で言う。イーブイに、悔しいという感情を抱かせる。見返してやろうと思わせる。そうして、ブースターへと進化するように仕向けるのだ。
 ブースターと別れる。イーブイは、お花畑を通る。お花畑には、リーフィアがいた。リーフィアが話かけてきた。
「私ね、このお花畑を大きくするのが夢なんだ」
「そしたらね。草タイプのポケモンを、もっとたくさん呼べるから」
「だからこうして毎日、お花たちに水をあげてるんだ」
「いつか綺麗な緑色になったイーブイも誘ってあげるね」
 いかにも、善意がありそうなことを言って、自分の意見が正しいと思い込ませる。この人良い人だと錯覚させようとする。そして、ドサクサにリーフィアへの進化を促そうとしてくる。
 リーフィアと別れる。続いて現れたのが、サンダースだった。
「やばいな、これはいけるんじゃないか」
 そう呟きながら、歩いていた。
「いや、実はね、シスバネタウンと隣に、電気タイプがたくさん住み着いている草むらがあるんだけど、スパークスっていうポケモン達が急に現れて、領土を占領し始めたんだ」
「そいつの電気は毒素が混じっている。青素カリウムっていう名前の化合物だ。スパークスの半径100m以内にいると、なんと毒と麻痺状態が同時にかかるんだ」
「このままではポケモン達が全員、追い出されてしまう」
「しかし、ある秘策があった。この方法なら、スパークスを倒せるんじゃないか、という」
「秘策? いやそれは教えられない。電気タイプ以外に教えて、敵に教えられるとまずい。電気タイプに変わったら教えてあげる。どうやって変わるのか知らないけど」
 彼はこういう感じで、イーブイの好奇心を擽らせようとしてくる。そうして進化を促す。もちろん、電気タイプだけの秘密なんぞは嘘だ。というか最初から最後まで全部作り話だ。
 次に出会ったのは、グレイシアだった。グレイシアは出会った途端、見せたいものがある、と言ってきた。そして何やら、冷凍ビームを使って、付近の川の一角を美しく凍らせた。
「水はどんどん別の場所へと移動します。けれども、氷は、一箇所にとどまり続けます」
「一つのことをやり続ける、徹底した心の強さのようなものを感じますね」
「イーブイには、そんな氷のような強い意志を持って生きてほしいのです」
「ここまで言ったら、私の言いたいことはもう分かりますね」
 言いたいこととか知らん。
 続いて現れたのはニンフィア。
「あのね個人的だよ、個人的にだけどさ。個人的に、個人的に、めっちゃ個人的に個人的にで、個人的な考えなんだけど、ニンフィアに進化したほうがいいよ。本当に私の個人的で個人的で個人的で個人的な考えなんだけど」
「個人的に」ってつければ、客観的に言ってるように聞こえると思っている。
 続いてはエーフィ。
「(……きこえますか……きこえますか……イーブイ……エーフィです……今……あなたの……心に……直接……テレパシーで……呼びかけています……エーフィに進化するのです……何に進化するのか……迷っているなら……エーフィを選んでください……エーフィになれば……こういうこともできます……)」


 帰宅したイーブイ。ブラッキーがいた。彼は夜行性であり、ついさっき起床したようだ。
「なんかみんなに色々言われてるんだって」
 疲れたイーブイの顔を見た瞬間、このように言ってきた。
「遠回しに、これに進化しろって言ってくるからうざいよな」
「もっとはっきり言えばいいのに。はっきり言ってくれれば、反発もできるのになあ」
 イーブイは、ぶんぶんと頷きながら聞いていた。更にブラッキーは、イーブイの気持ちをはっきりと表してくれた。ブラッキーだけは見方なのだと、イーブイは悟った。
「俺は別に、ブラッキーに進化して欲しいなんて思ってないよ。自分ががなりたいものになればいい」
 悪タイプは、世間的には悪いイメージがある。悪さをしたり、騙したり、そういうことばかりしている気がしていた。けれども、それは思い込みにすぎないのかもしれない。悪タイプって、本当は良いポケモンばかりなのかもしれない。
(ブラッキーにだったら、進化してもいいかな)
 イーブイは、決断をした。そしてそのことを、ブラッキーに伝えた。 


 皆が帰ってきて、寝静まった夜中。まんまるとした月が、黒い世界にぽっかり穴を開けていた。ブラッキーは、一人夜道を歩いていた。途中、ほくそ笑みながら、こんなことを呟いていた。
「これで上手く、弟を導くことができた」