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  [No.3926] 前編 投稿者:まーむる   投稿日:2016/07/17(Sun) 02:21:34   46clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 ポケモントレーナーだからと言って、ポケモンに頼りきるのはいけない。空を飛ぶ為にポケモンを頼らず、自分の背中にジェットパックを付けろと言ったり、早く移動する為に自動車を使えとか、そう言う意味ではなく。
 要するに、歩いて行ける距離ならポケモンに態々乗ったりして行くべきじゃないだろうし、飛ばなくても楽々行ける場所なら、同じく。
 でも、俺のパートナー達が、疲れ果ててる俺を心配そうに見つめて来るのを見ると、頼るべきだったかな、と思った。
 あー、疲れた。

 山奥の秘境の温泉、とやらに主人は私達を連れて来た。一番の古参のメガニウム。続いてオオスバメ。それからレントラー、ラプラス、ドリュウズ、そして一番最後に私。
 地上じゃ上手く動けないラプラスを除いて私達はその山を登って来たけれど、自分の力で出来る事は自分でやるって言ってる主人のポリシーでオオスバメに乗って大空を翔けて一気にその山奥まで行く事もなく、レントラーに乗って山道を駆けて一気に山奥に行く事もなく。
 私も疲れた。歩ける中じゃ一番体重は重いし、自分の特性を抑え込んでおくのもそれはそれで疲れるから。
「お待ちかねの温泉だ……って言っても、メガニウムとドリュウズとバンギラスはちょっと嫌かな?」
 さあ? とメガニウムとドリュウズは首を傾げた。入った事は無いんだろうな。
 私は首を振った。
 私自身の故郷に温泉はあった。まだその時野生だった私の姉貴分が好きで入っていたけれど、私はどうも好きになれなかった。
 ヨーギラスの時は、特に水タイプは最大の弱点の一つだったし。今は最大ではないけれど、苦手なのには変わりない。
「じゃあ、好きなようにぶらぶらしてても良いぞ。暗くなるまでに帰って来てくれれば良いからさ」
 そう言って主人は立ち上がって、周りを見回した。
 確かに、この山は広い。美味しい土も結構あると思えた。
 私は、主人達が村に入って温泉に行くのを傍目に見ながら、山の奥に美味しい土を求めて歩いて行く。
 山を歩いて来て、結構疲れているけれど、この位でへこたれちゃあ、バトルでも活躍出来ない。

 山が少し騒がしかった。
 どうやら、余所者が入り込んでいるようだった。
 岩蛇に稽古を付けていたが、それを中断してその騒がしい方に歩いていく。
 極力森林を傷つけないように。俺の頭の鋼の角が木に当たっちまうと、それだけで結構深く傷ついちまう。
 森の木々、それ一つ一つが、こんな森の中で一応主を務めている俺よりも遥かに長く生きている。
 そして、その木々の恵みが巡り巡って、俺達を生かしている。その根幹である木々を守る事は、俺にとっての生きがいでもあった。
 土を踏みしめれば、俺の自重で水が染み出て来る事もある。俺が水が苦手なのは残念だ。
 温泉も、好きで入っている奴等を良く見るが、俺なんかが入ってしまったら、この自慢の鋼の肉体が錆びだらけになっちまう。
 温泉の良さが分からないってのは、結構損をしているんだろう。
 森の上で葉蜥蜴と葉包虫が遠くの方を見ていた。俺が呼びかけると、そいつらは俺に、その余所者が居る方を指してきた。
 その方を、見通しの良い場所まで移動して見てみると、僅かに砂嵐が巻き起こっているのが分かった。
 あー、と面倒な感情が湧き上がって来る。
 人間のパートナーだろ、あれ。岩鎧。
 俺より、基本的な能力は上。そして、人間と一緒に居るって事は、強さもかなりあると見て良い。
 でもまあ、ここは俺の故郷でもあり、そして俺が一番熟知している。負ける事はまあ、無い。

 温泉の成分がこびりついた土や岩は、食べていると自分の故郷を思い出すかのようで感傷に浸る事が出来た。
 姉貴分は今、どうしているんだろう。別れも告げずに今の主人に付いて来ている訳だけど。でもまあ、折って来なかったって事は、そういう事なのだろうし、姉貴分は進化して強くなった私よりもより強い筈だ。
 そもそも、私の苦手な格闘タイプが入っているし、炎タイプが次いでに入っているのにも関わらず温泉が好きな酔狂な輩でもあった訳だし。
 特性も解放して、そこらの岩に座ってふぅー、と息を吐く。メガニウムとドリュウズは温泉を堪能してるんだろうか。私にはやっぱり無理な気がする。
 この鎧の穴からダイレクトに水が染み込んで来るなんて、やっぱり考えただけでも余りしたくない。
 土を食べて、硫黄の臭くてしょっぱい味を堪能する。食べ過ぎるとお腹を壊しちゃうから、程々にと思うけど、この懐かしい味を堪能出来るなら、一度位お腹を壊してもいいかな、と思う。
 暫くそうしてぼうっと、もしゃもしゃ食べていると、後ろから足音が聞こえた。
 振り向くと、もう近くに居た。山の上の方から来たらしい、ボスゴドラ。
 ここの山の主って事で良いんだろうか。土を食べてる私を半分迷惑そうに見て来た。
 邪魔だ、と言わんばかりに、ボスゴドラがくい、と首で村の方へ帰るように示してきた。
 ちょっと、ムカついた。

 俺の仕草に苛立ちでも覚えたのか、拳を振って来た。
 もう、振り向いた時のような穏やかな目は無く、戦闘をする気になっていた。
 とは言え、殺し合いまでをするような強い殺気が籠ってもいない。俺をぶちのめして帰るつもりなんだろう。
 拳を掴んで受け止めると、びりびりと腕が痺れる。
 中々強い殴打だった。受け止められると、尻尾を回して俺の脇腹を狙って来る。それを一歩引いて躱すと、近くにあった木が容易くへし折られた。
 あー、ここでやったら木が何本折られるか分からん。俺も折ってしまうだろうし。
 仕方ない、ちょっと移動するか。
 続いて来た噛みつきを腕の硬い部分で受け止めても、みしみしと痛む。それを受けたまま、俺は岩鎧に向って突進した。
 岩鎧が驚くも、高所の方からの、重い俺を受け止められずに一緒にごろごろと転がる。
 木が数本、いや十本以上またへし折れてしまうが、あそこで戦い続けるよりはマシだ。バキバキと木がへし折れ、時たま岩にぶつかり、痛みに互いが顔を顰める。そして、最後に川の中へ落ちた。
 互いに水面に叩きつけられる。俺も岩鎧も、受け身を取るが、かなり痛い。
 とは言え、頑丈さなら俺の方が上だ。ここならもう、木も折れる事も無い。
 続いて折れた木もばしゃばしゃと落ちて来た。

 水の中に落とされ、痛みに怯んでいる間に、ボスゴドラは体勢をもう整えていた。
 何か、少しヤバい相手かもしれない。私は目の前のボスゴドラに対する認識をちょっと改めた。
 互いに水の中。苦手なのは一緒だ。でも、私にとってここは全く知らない場所。地の利は断然ボスゴドラにあった。
 ボスゴドラが落ちて来た木の一本を両手で拾い上げて、振り回してきた。体で受け止めても結構痛い。氷のキバで凍らせて破壊すれば、短くなった木を投げつけて来た。
 腕で払って走る。私の鎧の穴から水が入って来て嫌な感じだし、重いけど、距離を保ったまま戦うんじゃ、私の覚えている技じゃ相性とかが悪かった。
 こんな場所で地震なんて技使ったらボスゴドラのみならず、この森のポケモン達全員に恨みを買うだろうし、もう一つのストーンエッジはそもそもボスゴドラに余り効かない。
 それに地の利があるボスゴドラに対して距離を保ったまま戦うのも嫌だった。
 走って来て、単純に殴り掛かった私に対して、ボスゴドラがその腕を上手く取って後ろへいなした。
 転びそうになった私の足に尻尾を払い、転ばせられる。
 手を付いた私の顔に水しぶきが掛かる。
 ……強い!
 ちょっとじゃない、かなり、強い。
 ぞくぞくとした感情が湧き上がって来る。追撃を避けて立ち上がり、今度は互いに腕を組んで頭突きをかます。
 アイアンヘッドに対して、私は技でも何でもない単なる頭突き。ダメージは私の方が遥かに大きい。
 けれど、久々に感じる強敵との戦い、私は高揚していた。
 尻尾を足に巻きつける。ボスゴドラも私の足に尻尾を巻きつけて来た。
 ざあざあと川の流れを受けながら、尻尾で互いに体を崩そうとしながら、私は氷のキバをボスゴドラの肩に見舞った。再度のアイアンヘッドで無理矢理外される。けれど、もう片方に即座に氷のキバ。
 これでボスゴドラの両肩は余り動かなくなった。
 腕に力を籠め、強引に押し倒そうと、叩きつけようとボスゴドラに向けて体重を掛ける。ボスゴドラは力づくで無理矢理氷をバキバキと破壊して地面に叩きつけようとする私に刃向って来た。
 けどもう遅い。ボスゴドラの股に足を掛け、そして尻尾でも引っ張り、体当たりをかます。
 ボスゴドラは背中から川に突っ込んだ。

 倒れた俺に対して拳を数発叩きつけられる。一発一発が強烈で、次の拳を受け止めようとした所に強烈な尻尾の一撃が顎に入った。
 歯を食いしばってその尻尾を抱き、体を捩った。岩鎧の体がよろけて、思い切り足を尻尾で払う。そうすれば、岩鎧が俺の上を越えて盛大に川に叩きつけられた。
 そこからは、揉みくちゃになりながら、川の中で殴り合い、叩きつけ合い、噛み合い。
 どれだけそうしていたか。
 俺の体はぼろぼろになってたし、岩鎧の体もぼろぼろだった。
 ふぅー、ふぅーと息を吐きながら、また立ち上がって距離を取ると、岩鎧が笑っていた。俺は笑っているだろうか。良く分からなかった。
 俺にとっての目的は森を守る事だったが、この戦いを楽しいと感じる俺も居たし。
 そして、先に地に伏したのは、岩鎧だった。体力の限界が来ているようだった。
 負けても岩鎧は笑っていた。俺が岩鎧の前まで歩いて行き、さっさと帰れと首を動かすと岩鎧はゆっくりと立ち上がって、俺に唐突に口付けをしてきた。
 一瞬、混乱する。舌を絡ませながら、どこに隠し持っていたのか、甘い果実の味もした。
 岩鎧は俺を抱いて来た。体力が少しながら回復するその果実を飲み込みながら、俺も自然と抱き返し、舌を交わわせていた。岩鎧が俺を押し倒そうとして、それを俺は許さなかった。
 俺が負けじと岩鎧を押し倒そうとすると、岩鎧はあっさりとそれを受け入れ、押し倒された。
 舌を交わわせながら、俺は激しく岩鎧を貫いた。苦手な水の中だとか、そういう事はもうどうでも良かった。
 転がり、互いに主導権を握りながら、上と下で交わり続けた。深く深く、互いに初めてのようだったが、そんな事はどうでも良く。いや、交わる事以外の全てがどうでも良く。
 只管襲って来る初めての快感に身を預けた。
 


  [No.3927] 後編 投稿者:まーむる   投稿日:2016/07/17(Sun) 21:36:43   44clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 あれから五日間、岩鎧は逢瀬をしにやって来た。
 精が尽きるまで交わい、一緒に物を食べ、ただ歩いて。今まで生きて来た中で一番満たされていたし、心地の良い時間でもあった。
 これからずっとこうして生きて行きたいとも思う。
 けれど、岩鎧の寂しげな表情から、俺はもう察していた。その内、岩鎧は人間と共にここを去ってしまうのだろう。
 引き留めたいとも思う。その人間を殴り飛ばしてこの岩鎧を俺だけの番にしたいという凶暴な欲求さえ浮かんできた。
 けれど、そうしたら岩鎧は俺の元から去ってしまうとも分かっていた。
 きっと、別れは止められないだろう。諦め切れないという思いもとてもある。けれど、それが最善なんだろうとも。
 俺と岩鎧は、根本的に違うのだ。山に住む者として、人間に従う者として。
 どうして人間に従うのか、それにどんな生きがいがあるのか、分からないが、そこには俺が大切に思うような事がきっとあるのだ。

 とうとう、ここを発つ日にになってしまった。
 朝早く、誰よりも先に目が覚めてそう思った。
 ふと、何かがある気がして、隣を見る。卵があった。
 ……底の無い嬉しさが私の中を一気に占めて行ったけれど、それと同時に私は選ばなくてはいけなかった。
 主人の元を離れてでさえ、ボスゴドラと一緒に居たいと言う気持ちもあった。けれど、私は主人の元に居続ける決心をした。
 いつかここに戻って来ようとも思うけれど、今はまだ、この主人と、そして皆と一緒に居たい気持ちの方が強かった。
 私はキャンプ地で他の皆が寝ている所をこっそりと起き上がって、卵をそうっと抱いて皆の元を離れた。
 選ぶ決心は、すぐについた。この卵を、私の、主人の元に置いて育てるか、それともボスゴドラの元に置いて行くか。

 その日、朝早くに岩鎧がやって来た。
 岩鎧の両腕には、卵があった。
 まさか、と思うと同時に、気付けば尻尾が揺れていた。嬉しさが込み上げて来る。
 岩鎧は卵を地面にそうっと置いてから、いつものように舌を交えた。
 深く、長く。そうしてから、岩鎧は寂しげな目をして、また卵を優しく持ち上げた。
 ……ああ。
 今日、これから岩鎧は去ってしまうのだ。
 直感的に分かった。岩鎧は、その卵を俺に渡してきた。その卵は、軽く叩けば壊れてしまうような脆いものだった。そして、重いものでもあった。
 寂しさが込み上げて来る。俺は、柔らかい所にその卵を置いてから、岩鎧を抱き締めた。強く、強く。
 岩鎧も抱き締め返して来た。寂しさがより一層込み上げて来る。
 このまま、抱き締めたまま時間が過ぎなければ良いのにとも思う。けれど、岩鎧は先に、力を緩めた。
 俺も、緩めた。

 この子と会う機会があるとしても、母親らしい事は、最初で最後にしかさせてあげられない。
 私の種族、バンギラスとしての本能が、この卵を地中深くに埋めるように言っていた。
 少し深い場所に行って、それから土を掘る。深く、岩をどけて、染み出て来た水を無理矢理止めて。
 暫くして、私の体がすっぽり埋まる位まで掘り終えてから、卵をその地下深くに置いた。
 本当はもっと深くまで掘り進めたり、洞窟とかを探してその奥深くに見つからないように隠してくるべきなんだろうけれど、私にはもう時間が無かった。今頃きっと、主人達はもう目が覚めている頃だろう。
 ボスゴドラが不思議そうな顔をしながら、這い出て来た私を見た。
 その内、出て来る。その時は、よろしくね。
 じゃあ、また会う日まで。私は卵にそう、心の中で呼びかけて、土を掛けた。

―――――

 土を食べ進めて地上に出て来た岩鎧との子を見ると、深い安堵が訪れた。
 殺す訳じゃないとは分かっていたけれど、どうして埋めるのか良く分からなかった身としては、とても不安があったのだ。
 俺を見て、直感で父親だと分かって甘えて来た時は、もう、何と言い表したら良いのか。

 そんな我が子は、良く食べる子だった。土を食べながら地中深くまで進んでいくのを見ると、土が崩れて生き埋めになったらどうしようといつも不安に駆られる。卵を割って地中から出て来たとしても、不安なものは不安だった。
 いつまで経っても出て来ないから不安になって刃蛇に出して行って貰えば、呑気な顔で寝ている事さえあった。
 はあ。
 けれど、悪い気はしない。子を育てるという初めての経験は、俺にとってどんどん食べて大きくなって欲しい。蛹の形態を経て、俺と同じ位の立派な、大きな岩鎧になってくれれば、俺はそれが一番だ。

 他の子供とも良く遊ぶ。力は強いが、良く食べて少し太り気味なのか、足はやや遅い。
 元々素早い種族でも無いけれど、大きくなれば軽快な動きをする事も出来なくなる。今の内に、はしゃぎまわっていると嬉しい。
 段々と成長して来ると、喧嘩をするようにもなってくる。
 けれどやっぱりまだ子供なのもあるし、手加減が出来ない所もある。親が周りに付いてやらなければいけなかった。
 そして、我が子は仕方ない所もあるけれど、負けを喫する時が多かった。
 進化を経て強くなる種族と言うのは、進化前の形態は弱い。生まれてからそのまま変わらない種族と比べて、生まれてから過ごした時間が同じでも力量に差が出るのは仕方ない事だった。
 それに加えて、苦手な属性が多いと言うのもあった。
 水や草系の技を食らえば一撃でやられてしまう事もあった。それを覆す為の小細工も素早さが低いせいで中々難しそうだった。
 俺も通った道だった。悔しく、そして食べて、鍛えて、強くなって、俺は今こうして、この山を管理する身になっている。
 負けたくないその一心で山を食べ続けるのを、俺は眺めていた。

―――――

 季節が一周しようとする頃、もう我が子が掘り進めた土の中で居続けても不安にならなくなった頃の事だった。
 山のある一か所が地崩れを起こしていた。人間達が住む場所の近くだった。地震が起きた訳でもないし、一体何なのだろう。
 それは、段々、その近い場所で頻繁に起きるようになってきていた。
 そう言えば、我が子はどこだろうと思う。
 この頃全く見ない。

 嫌な予感がしつつも、山の色んな場所を数日掛けて周った。
 我が子の掘った穴の痕跡はあるとは言え、我が子が見つかる事は無かった。皆に探して貰っても、掘った痕跡はあれど、我が子は見つからなかった。
 一体どこに……。
 地崩れが頻繁に起きている場所の近くで土を食べ進めているのだろうかとも思いながらも、その場所を掘って探すのはとても危険だった。岩蛇がせめて鋼蛇に進化してくれれば、地崩れが起きてもある程度大丈夫だと思うが、その進化する為に必要な金属はここ辺りには無かった。
 不安が体を駆け巡っていた。生きているとは思えど、顔を見せてくれないととても不安だった。
 もしひょっこりそこ辺りから出て来たら、怒らなければいけないなとも思う。
 地崩れの影響で、結構な数の木々が死んでしまっていた。

 そんなある日。
 雨がざあざあと降っていた。雷も何度か落ちて、数本の木が真っ二つに裂けたりもした。
 言いようのない不安は、この雨のせいか、かなり強くなっていた。
 川の流れはいつもより強く、他の皆も憂鬱そうに洞穴の中とかでじっとしていた。
 叩きつけるような雨。真っ黒な雲。時たま落ちる雷。
 早く止んでくれ。

 どどどどどどどどっ!
 地崩れの音がした。今までと比にならない位の強さの音だった。
 どくん、と俺の心の根が強く鳴った。何度も何度も。呼吸が自然と荒くなった。
 外に出て、その地崩れの音がした方へ行く。
 走る。転ぶ。起き上がって、また走る。
 重い体が鬱陶しかった。この鎧を脱げるものなら脱ぎたかった。
 時間がかかる。そして、時間が掛かってもその聞こえて来た派手な音の音源まで辿り着けない事がより一層不安を感じさせていた。

 辿り着いた。
 膝が崩れた。
 あ、……ああ。
 原因は、はっきりとしていた。我が子が地中に潜って土を食べ続けたからだった。
 その結果、土が緩んで、この雨がきっかけとなって滑って行った。
 とても広大な部分が滑って行っていた。遠くに見える町は、土とそして、山に蓄えられていた水が解放された事によって、大部分が泥に埋まっていた。
 ぴきっ、と音がした。俺の後ろの方から。やばい、と思った時にはもう、手遅れだった。
 俺が乗っている地面が勢いを乗せて滑って行く。俺には為す術は無かった。
 滑る地面にしがみ付いて、ただ只管に堪えるしか無かった。

 訪れた衝撃で体が吹っ飛ばされる。俺の重い体が宙に吹っ飛び、そして泥の中に埋まった。
 重い泥から何とか顔を出す。
「――――!」
「……――!!」
「――? ――? ――!! ――!!!!」
 人間の悲鳴が沢山聞こえる。手や足だけが泥の中にあって、もうぴくりとも動かないものも見えた。
 一瞬茫然としてから、我が子を探さなくてはと泥の中を必死に掻いて、木々が密集している所を目指した。
 上からバラバラと音が聞こえる。

―――――

「えー、こちら○○地方××シティです! 突如起きた大規模な地響きにより、××シティのほぼ全てが泥に埋まってしまいました! 現在、必死の救命活動が空から行われています!」
「俺が一年程前行った所じゃねえか」
 主人はそう言っていた。ボスゴドラは無事だろうか。私の子は無事だろうか。
 ただそれだけを願った。
 解説している人が言った。
「これだと、野生のポケモンにもかなりの被害が及んでいるでしょうね」
「ええ。右端の方を見てください。ボスゴドラが必死になって木々が流れて行く中で何か探しています」
 どくん、と、心臓が鳴った。やめて。やめて。

 テレビの中のボスゴドラは、膝を着いて、何かを探り当てた。
 緊張する。頼むから、助かっていて。

 ボスゴドラの体が崩れたのが見えた。
 私の目の前は、真っ暗になった。