弾ける音がした。
全く別の場所で鍛えられた金属が、自分と自分が打ち合わされる音だ。
続いて、何合かの打ち合いが続く。
二つの自分は握られていた。握られている柄からは、その人間達の呼吸が明瞭と伝わって来ていた。
心臓の高鳴りでさえもが感じられる。そして、段々と自分の視界が開けて来た。
敵のみを見据えるその目が見えた。切り傷の痕が残る頬が見えた。赤い甲冑が見えた。握られている、強剛な拳が見えた。
誰かを案じるその目が見えた。傷跡一つ無い、色白な顔が見えた。必要最低限の煌びやかな防具を身につけているのが見えた。握られている、細いが同じく鍛えられている拳が見えた。
無言のまま、また自分は打ち合わされられる。より激しく、より強く。
痛みがあった。自分は僅かに身を震わせた。その瞬間、強く握り返された。どちらも、自分が嫌がっても戦いを止めなかった。
打ち合いが止まなくなった。自分の体はその度に傷ついていった。自分の体が、刃が傷ついていく。ぽろり、と欠けたのが分かった。このまま打ち合わされ続ければ、どちらかが折れてしまう。
けれど体は命を賭すように力強く握られ、全く動かなかった。
気付くと、自分の体から、握られている柄の根本から、青い帯が出ているのに気付いた。
咄嗟に、それをそれぞれの腕に巻きつけた。
すると、自分の刃毀れが治っていくのが感じられた。自分が生命で満たされていく。握っているその人間二人の生命を吸い取っている。
しかし、それでも二人は打ち合いを止めなかった。新たな傷が付けられずとも顔は苦悶に満ち溢れる。足取りが覚束なくなっても自分は打ち合わせられ続けた。
刃毀れはもうしなかった。それ以上に自分の体は固く、太く、鋭くなっていた。
赤い甲冑を着けた方が、吼えた。自分の全てを賭すように。自分の一つが天高く掲げられもう一つの自分と最も強く打ち合わせられようとしていた。腕に巻きつけた青の帯から力を吸い取る。されど、赤い甲冑の男は力を緩めなかった。色白な顔は苦悶に満ち溢れようとも、構えを解かなかった。
振り下ろされる。振り上げられる。叩き折られる事を覚悟した。自我を持ってまだたった数瞬の命が尽きる事を覚悟した。
しかし、振り下ろされた刃は、振り上げられた刃で打ち合わされる事なく、地面に叩きつけられていた。
振り上げられた刃は、振り下ろされた刃を逸らしていた。そしてそのまま赤い甲冑の懐に入り込み、胴を貫いていた。
吐かれた血が自分を赤く染め上げる。赤い甲冑を貫いた自分が赤く染め上がっていく。一本の、赤い甲冑が持っていた自分が放された。
赤い甲冑は隠し持っていた小さな刃で、色白な顔の直ぐ下、首に突き立てられた。
その小さな刃には、自分は居なかった。
二人は倒れ、地面に落ちた、赤い甲冑に突き立てられたままの、二つの自分が残った。
打ち合いは、至る所で続いていた。
自分のような存在が、別の所でも誕生していた。