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  [No.3979] ハッピーエンドのつづきへ 投稿者:ねここ   投稿日:2017/02/09(Thu) 17:06:24   55clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


「ここが流星の滝です。地面が滑りやすいので、転ばないように気をつけてくださいね」

 これまで生きてきた中で、これほどまでに美しいものを目にしたことがあっただろうか。ただ呆然と透明な水の流れを見つめるだけで、時間を忘れた。あっという間に見学の時間は終わり、私はまた現実に引き戻されてしまった。いつもの無味無臭な現実に。

……

「――今日は流星の滝の前からお伝えしています! 今日のホウエン地方は天気もよく、絶好のバトル日和でしょう」

 偶然にも、今朝の天気予報は流星の滝での中継だった。私はテレビに釘付けになったまま、ジンジャーブレッドを口に運んだ。
 どうしても修学旅行で行った流星の滝が忘れられなかった私は今日、行動を起こす。親はちょうど出張だとかで一週間ほどいないらしく、事を成し遂げるには最高のチャンスだった。
 お年玉を全部持って高速船やリニアを乗り継ぎ、流星の滝のあるハジツゲタウンへ行くのだ。
 もう一度、あの場所に足を踏み入れたい。その一心のために、ずっと計画を練ってきた。友だちは一緒に行ってくれないだろうし、変に反対されたりすると面倒だ。だから、一人で旅をするのだ。

……

 電車で1時間ほどのクチバまで出て、そこからカイナ行きの特別船に乗った。もちろん酔い止めは忘れずに。私みたいなのとは不釣合いなお金持ちの人たちに囲まれたが、特に何もなくなんとかカイナに着いた。
カイナからとりあえずキンセツを目指す。頭上に映るサイクリングロードがなんだか悔しい。自転車があればこんな草むらを通ることもなく、すいすいとキンセツまで行けるのに。
 途中、野生のラクライに餌をあげながらしばらく行くと、キンセツが見えた。
 ちょうど自転車屋さんがあったから一応と覗いてみたら、マッハ自転車もダート自転車も100万円。小さな子どもがそこらじゅうをマッハ自転車で疾走している。ここは金持ちの町なのか。だが、こんなのを羨ましがっても仕方がない。
 お客かときらきらとした目を向けてくる店主を視界から消すため、ぎゅっと帽子のつばを下げて、店から離れた。
 街中の硝子に私の格好が映っている。適当に投げ出された黒髪を隠すアイボリーのハンチング帽と、黒いワンピースに赤のポシェット。ポシェットにはライトと、マップ、お財布、メモ、えんぴつ、お守りの石、流星の滝について書かれた本、黒のポケナビ。お兄ちゃんのお下がりのポケナビはもうぼろぼろだけれど、ないよりはましだと思って持ってきた。どうせ、誰に連絡を取るつもりもない。
 ポケットには一応、縮小されたモンスターボールがひとつ入っている。小さい頃の私はポケモンアレルギーだったので、10歳になっても旅立つことができなかった。もう大分良くなっているのだが、必要以上に近づくことは、まだ怖い。この前、イッシュにたどり着いたと連絡してきた兄から送られてきたこのボールも、まだ開けてあげられていない。だが、一応のときのため、頼りは少しでも多いほうがいい。

………

「あーあ」

 思わず出たため息。111番道路はどこまでも長くて、足が疲れをうったえている。
 ここから道を間違えると、流星の滝ではなくシダケに行ってしまうらしい。時々マップを確認しながら歩いていると、そろそろ砂漠が近付いてきた。さらさらの砂たちが凄まじい音を立てながら、砂嵐となっているのが見える。

 ――ポケモンに襲われなければいいけど。

 サンドが砂混じりに巣穴へ潜り込んだのが見えた。
 私を吹き飛ばそうとする風をなんとか抜けて、火山灰の降り積もる道に入った。歩く度に踏んだところの色が変わって、灰の下から緑色の草花が顔を見せている。なんだか少しだけ嬉しくなって、そこもあっという間に通り越した。

……

 修学旅行以来のハジツゲは、相変わらず火山のにおいで密封された町だった。大きめのサイズのサイコソーダを買って、カラカラになった喉に流し込んでいく。シュワっとした感覚がじわじわと体を駆け巡って、すぐに疲れは飛んでいった。
 私は、ポケモン図鑑を持っていない。だからトレーナー確認をすることができないので、ポケモンセンターで泊まることもできないし、そこらへんを歩いてる人に声をかける勇気もない。とにかくマップを片手にして、流星の滝へ向かった。

「早く行こう」

 自分を励ましながら、大きく深呼吸。
 まだカントーの家を出てから、一日も経っていない。いざとなったら夜通し歩く覚悟だったから、こんな早く着けるなんて思ってなくて心が弾んだ。
 114番道路を歩いていたら、エリートトレーナーの人に声をかけられた。勝負しようというのだ。でも私は、万が一の時のポケモンしか持っていない。曖昧にもごもごと答えて、逃げた。そのままスピードを落とすことなく、ごつごつした岩を飛び越えて、流星の滝へと進む。トレーナーらしき人はその間にもたくさんいたけど、なんとか見付からずに通り過ぎることができた。

……

 そして、ぽっかりと開いた洞窟の入口まで来た。オレンジ色に光る夕陽が火山の向こうに沈んでいく。不安をかき立てるように足元がほの暗くなってきた。だがこんな時のために持ってきた、ピカチュウを模したライトを点けて、ゆっくりとその洞窟へと足を踏み入れた。

「……うわ」

 中は、正に幻想的。ライトが必要ないくらい明るく輝いている。
 金色がかった滑らかな岩たちからは、しとりしとりと雫が垂れ落ちている。どきどきと逸る気持ちが胸を満たし、興奮から息をするのを忘れてしまった。
 数歩進むと、荘厳な滝が見えた。耳にダイレクトに当たる大量の水の音が何とも心地いい。そしてそれは跳ねて、周りの鍾乳洞や私の頬にかかる。滑らないようにゆっくりとそちらへ歩み寄ると、いつの間に現れたのか目の前を見たこともないようなポケモンが通り過ぎた。太陽の形をしたのと、月の形をした不思議なポケモン。私は図鑑も見たことないし、種類には全然詳しくないが何だか彼らはここの守り神のようにも見えた。

「よ、っと」

 しゃがんで小さめの滝壺を覗き込んでいると、水紋に誰かがに立っているのが見えた。思わず勢いよく振り返ると、水色がかったさらさらの銀髪の、きれいな男の人が立っていた。そしてにこりと笑い、形の良い唇で音を紡いだ。

「こんにちは」
「こんにちは」
「ここに何か用があるのかい?」
「はい、まあ」
「もしかして、ここで修行しようとか?」
「えっ、いえ……そうじゃないです」

 もしかしてトレーナーなのだろうか。でも勝負しようとか言われても困る、今できる最大の反抗だと思い、目を伏せてそう答えた。彼は私を見下ろしながら目をぱちくりとさせて、私を何か変なものを見るかのような目で見て、恐る恐る自分の髪を摘んで困ったように微笑んだ。

「もしかして……僕のことも知らないのかな」
「……はい、存じ上げないです」
「ポケモンも連れずにこんなところに来るなんて、危ないよ」
「ありがとうございます。……あの、もしかして有名な方なんですか?」
「ポケナビに登録されてるくらいにはね」

 人前で失礼だが、ホウエンには詳しくない。頼りのぼろぼろのポケナビを開いてトレーナーを片っ端から見ていくと、最後の最後に目の前に立つ「ツワブキダイゴ」の項目があった。どうやら、ただの自意識過剰な人ではなさそうだ。それを開くとそこには「ホウエンリーグチャンピオン」の文字が踊っている。

「えっ、チャンピオン……!?」

 リーグチャンピオン。
 つまりその地方の最強トレーナー、ということだ。
 有り得ない、と驚いた私の顔を見ると、彼は笑ってどこからか取り出したモンスターボールを空に放った。目映い光と共に現れたのは、如何にも強そうなポケモン。私や彼よりも遥かに高い身丈と銀色に鈍く輝く鎧のような体躯を見上げていると、そのポケモンはすっと私に手を差し伸べてきた。私の手の五倍以上は大きいし、鋭すぎる爪は鋼。あまりポケモンらしくないその質感に、なぜか安心感を覚えた。恐る恐るそれに手をくっつけて握手を交わす。ひんやりとした体温のない体だが、何か暖かいものを感じた。

「あの、このポケモンは?」
「ボスゴドラっていうんだよ。僕の相棒さ。そういえば君は、どこから来たのかな?」
「カントーの、タマムシです」

 一瞬言い淀みながらもそう告げるとツワブキさんは目を見開き、答えを咀嚼するように「タマムシか」ともう一度呟いた。たしかにトレーナーでもない人間、しかも女が散歩をするには少し遠いかもしれない。

「君の相棒は、出してあげないの?」
「あの、実はまだ出してあげたことがなくて。誰が入っているか知らないんです」
「ここまで来るのに、バトルを申し込まれたりしなかった?」
「逃げてきました……」

 するとその瞬間、いきなり滝から何かがばたばたと落ちてきた。
 そちらに目をやれば、そこには――私でも知っている――ズバットが水に流され、それをゴルバットが救おうともがいている姿。ズバットもまだ息はあるらしく、バタバタと水を切り裂いているが自然の力には敵わない。落ちてきたその威力のまま、呆気なくどぶんと沈んだ。ゴルバットが、ズバットの消えた水面上でばたばたと忙しなく翼をはためかせている。


 目の前でポケモンがこういう目に遭っているのを見たことが、前にもある気がした。
 もう二度と悲しい姿を見たくない、と泣き叫んだ夜があった気がした。


 ――思わず、手を伸ばしたその瞬間だった。
 またもやどぶん、と不吉な音がしたかと思うと、いつの間にか私の身体は大量の水に囲まれていた。ツワブキさんの叫ぶ声が、ぼんやりと聞こえる。幸い薄着だったせいか、服に重みをあまり感じることなく沈みゆくズバットの元へたどり着けた。水はきれいでよく透き通っていて、こんな状況でも何だか感動してしまった。
 水面からは滝が激しく落ちてくる。力ない彼をしっかり胸に抱いて水面まであと少しのところで、私の足に異変が起こった。見たくはないが、何かが足を引っ張っている。ぐいぐいと引き込まれていく。せめてズバットはと、ぐっと腕を伸ばし水中から空へ、彼を持ち上げてかかげた。それを一回り大きいゴルバットが掴んでくれたようで、軽くなった手に安心感を感じながらも、やはりそれでも私は沈んでいった。
 口から抜けた空気が泡になって昇ってゆく。

……

 私がポケモンアレルギーになったのは、6歳の時だった。旅に出るのを、とても楽しみにしていた。
 兄が10歳になる数日前のことだった。毎日庭で一緒に遊んでいた野生のポッポがいなくなって、兄とふたりで探しに行ったんだ。
 兄はそのポッポを相棒にして冒険に出たいと言っていた。ポッポもそれを聞いて、いつも嬉しそうに鳴いていた。その声を今でも覚えている。
 しかし彼は森で、悲しい姿で見つかった。額に大きな怪我をしていて、辺りに血が飛んでいた。白くてきれいだった羽根がぼろぼろと落ちていた。
 私はひどくショックを受けて、それを見つけた瞬間に逃げ出してしまった。それから高熱を出して、悲しいのと辛いのとが一緒になって、毎日のように悪夢を見た。
 兄は数日して、旅に出た。その日も私は朧げな意識のまま、送り出したと思う。よく覚えていない。
 私はだめだった。たとえ、どんなポケモンだろうと、もう二度とそんな姿を見たくはなかった。ポケモンが傷つくなんて、当たり前のこと。けれど、私に力がないから、守ってあげられないからポッポがああなってしまった。
 死んでしまった。

……

 目が覚めると、白い天井が目に入った。体を起こすと、傍のソファにツワブキさんがいるのが分かった。目を閉じて、腕を組んで眠っている。随分と迷惑をかけてしまったようだ。窓からは月明かりがさしている。
 机の上に、私のモンスターボールが置いてあった。びしょびしょのポシェットは、服と一緒にハンガーにかけられている。きっとポケナビも壊れてしまっただろう。水を含んで膨れた本は、ツワブキさんの隣で月の光を受けていた。
 もう一度ベッドに横たわると、ギシという鈍い音が部屋を支配する。その音でツワブキさんがゆっくりと目を開けた。起こしてしまったようだ。

「ああ、目が覚めたんだね。よかった。体調はどうかな。ジョーイさんを呼ぶ?」
「大丈夫です。あの、ズバットは」
「キズぐすりですぐ元気になったよ。心配そうに、君の周りを飛び回っていたんだよ」
「そうですか。よかった……」
「自分より先にズバットの心配だなんて、お人好しというか何というか」
「それより! 助けてくださってありがとうございました! ご迷惑おかけしてしまって申し訳ないです」
「それなら、助けたのは僕じゃないよ?」
「え?」
「君のポケモンだよ。見事なゴッドバードだった」

 ツワブキさんは、手で私のモンスターボールを示す。ことり、と僅かに動いた。

「出してごらん。心配しているから」

 あまり、怖くはなかった。けれどなんとなく、分かる気がした。私の命を救ってくれる、ゴッドバードの使い手が。いや、本当は信じられるはずがなかった。期待しているだけだ。そんなことは有り得ない。目の前で失ったはずなんだ。そのはずだ。
 逡巡しながらボールに手を伸ばし、軽くつつくと眩い光と共にそのポケモンが姿を現した。
 額の傷に見覚えがあった。しかし似ても似つかぬ大きな体躯。ひと鳴きして、私の手にとさかを擦りつけてくる。

「あ……」

 あのときの、ポッポだ。首には、私と同じお守り石をつけている。

「生きて、たの?」

 そう尋ねるとポッポ――いや、ピジョットは頷いた。そして花瓶に飾られていた花をくわえ、嬉しそうに私に差し出す。
 彼の目は私を真っ直ぐと見据えて、まるでずっと一緒にいたかのように自然にそこに佇む。

「私は……てっきり死んでしまったものと思って……」

 ピジョットはそんな言葉は聞こえないと言ったように、相変わらず花を差し出している。両手をゆっくり向けると、一輪の淡い橙の花が手の中に落ちた。

「ありがとう」

 じわりと視界が滲む。
 臆病者の私はあの時、逃げることしかできず、傷ついたポッポを想う術がなかった。しかし、私はずっとずっと後悔していたのだ。逃げなければよかった。このピジョットからも、ポケモンからも。助けられなくとも、助けるべきだった。体が凍りつく前に、飛び込んでしまえばよかったのだ。ズバットを助けたとき、私は何も嫌なことを想像していなかった。ただ助けたいという一心で飛び込んだ。でもそれは、ピジョットも同じだったんだろう。鳥なのに水に入るなんて、溺れてもおかしくないのに。
 それでも私を助けたいと思ってくれたのだろう。
 ああ、気づくのが遅れてほんとうにごめんなさい。

「見殺しにしてごめんなさい。助けてくれてありがとう」

 ただ救う勇気が、救えない勇気がなかっただけ。
 私はベッドから飛び降りて、ピジョットに抱きついた。ふわふわで真っ白な羽は、昔と同じ。
 ピジョットの黒い眼には、涙でぐしゃぐしゃな私の顔が映っていて、ちょっとだけそれが潤んで揺れていた。

「水の中から、君を抱えて飛び上がってきたんだ。それより、そのメガストーンとピジョットには見覚えがあるな」

 やがて落ち着いた頃、ツワブキさんは口を開いた。
 どうやらこの対のお守り石はメガストーンというらしい。これでメガ進化をするそうだ。何を言っているかよく分からないが、ピジョットがもっと強くなるらしい。

「もしかして、兄をご存知ですか?」
「メガストーンをあげたのは僕なんだ。そもそも、それは流星の滝で採れたものから加工したものでね」
「そうなんですか」
「……石は不思議なものだよね。ときどき、元の場所に帰りたがるんだ」
「採掘された場所に、ってことですか」
「そうだよ。君が持っていたメガストーンと、ピジョットのメガストーンはひとつの石から採れたものだから、一緒に流星の滝に帰りたがったんだよ」

 私がこんなにも流星の滝に心惹かれるのは、メガストーンのせいだったということか。ポシェットの中で冷たく鎮座しているそれを手に取ると、ピジョットの首のものと同調するように幾度か光った。

「せっかくあるのに使わない手はないと思うけどね」
「……そうですね」

 旅に出れば、もっといろんな世界を目にすることができるのだろうか。
 こわがって閉じこもって勝手に妄想して、大事なことに気付けなかった。周りは、何も言わずに支えてくれていたけれど、そんなのは私の甘えだ。ピジョットがボールの中で諦めずに、私のことを想ってくれていた時間の方がずっと重い。

「私、旅に出たいです」

 こぼれた言葉。
 ツワブキさんはまっすぐに私を見つめ、頷いた。

「そのピジョットとなら大丈夫。リーグまで来るのを楽しみにしているよ」
「はい。どのくらいかかるか分かりませんけど、つよくなりたいです……」
「やるなら、とことん頑張ってみるのがいいと思うな」
「分かりました」

 そこは、私が自分の世界から切り離していたセカイだ。行きたくないと思い込んで目をそらしていた場所。それを素直な心で受け止めることが、今はできる。ピジョットと行く旅の道は、きっと険しいだろう。何度も傷つくだろう。だが、それでも傷つかないように俯いているより傷ついた方がずっと、晴れ晴れとした気分でいられる。
 明日が楽しみな夜なんて、久しぶりだった。

……

 体調が戻って2日間、ダイゴさんの丁寧なガイドで流星の滝を満喫した。助けたズバットが案内してくれたり、ピジョットと初バトルにチャレンジしたり、メガ進化してみたり。ポケモンアレルギーになっていた頃がもったいなかったと思えるくらい楽しかった。こんな生活がこれから毎日続くなんて、しあわせな気持ちがした。
 カイナから船に乗って帰るというと、ダイゴさんはエアームドという鳥ポケモンでカイナまで送ってくれた。ピジョットも乗せてくれたさそうにしていたが、私は免許のバッジを持っていないので諦めてもらった。エアームドもボスゴドラのように冷たくて暖かい。

「そういえば、兄が今何をしているかご存知ですか?」
「フキヨセジムでジムトレーナーをやっているみたいだよ」
「フキヨセ……イッシュですよね」
「そう。飛行ポケモンのジムだよ」
「そうですか。私もいつかイッシュに行きたいです」
「その前に僕に勝たなきゃいけないけどね」
「ええっ、そうなんですか?」
「君のことは応援してるけど、僕が一番凄くて強いからなあ」

 船の乗り場が見えてきた頃、エアームドは降下を始めた。
 乗り場に静かに着陸すると、ちょうど乗船を開始する笛が鳴り響いた。大きな荷物を持ったジェントルマンや、日傘を差したお嬢様などが次々と船に乗り込んでいく。

「ここがトレーナーとしての門出かな」
「まだ、家に帰って親に聞いてからですけどね」
「きっと喜んでくれるよ」
「だめでも食い下がります」
「その意気だ。じゃあ、僕はそろそろリーグに戻らないと」
「何日もありがとうございました。それと、いろいろすみませんでした」
「いいんだよ。それじゃあ、またね。頑張って」
「本当に、ありがとうございました! またいつかお礼させてください!」

 エアームドが舞い上がり、旋風を巻き起こしながら空の向こうへと飛んでいった。さすが貫禄があるというか、飛び方が様になっていて格好良い。ぼーっと姿を目で追っていると、もう一度笛が吹き鳴らされた。ポシェットの中で、ピジョットのボールが慌てるように揺れ動く。

「乗船のお客様はお急ぎくださいませ!」
「あ、乗ります!」

 列に向かって走っていく。
 青い海の向こうに帰るのだ。そしてそこから、私の人生を始めよう。


***
ねここと申します。お久しぶり過ぎて、どう投稿したらよいものかとこんらんしてました。
ポケモン世界の地図を全部繋げて、ガイドブックを作りたいなあ。
なんだかやたら展開早い気がしますがキニシナイ。