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  [No.3992] パンケーキ、ふわふわ 投稿者:砂糖水   投稿日:2017/04/22(Sat) 00:56:29   137clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 あるところにパンケーキが大好きなピカチュウがいました。まだピチューだったころに、ご主人が食べていたものを一口もらって以来、パンケーキのとりこなのです。
 ふわっふわのパンケーキ。すてきなパンケーキ。
 きのみのジャムのもおいしいけれど、一番好きなのはあまーいメープルシロップをかけたもの!
 香りをかぐだけで、うっとりしちゃう!
 ほんとうはおなかいっぱい食べたいのに、まだ子どもだからって、ピカチュウはパンケーキを半分しか食べさせてもらえないのです。ピチューだったころは四分の一しか食べさせてもらえなかったので、量は増えているのですけれど。
 ピカチュウとしてはパンケーキを丸々一枚食べてみたいのです。
 ああパンケーキ、どうしてあなたはそんなにすてきなの。
 ピカチュウの頭の中はいつもパンケーキのことでいっぱいです。

 ある日ピカチュウは気がつきました。子どもだから半分のパンケーキしか食べさせてもらえないなら、大人になってしまえばいいのです。大人に、そう、ライチュウになればいいのです!
 ピカチュウは、これは名案だとにんまりしました。
 ああパンケーキ、どうか待っていて!

 ピカチュウがライチュウになるには、雷の石が必要です。逆に言うと、それだけあればすぐに進化できます。なんて、簡単に思えるけれど、実は言うほど簡単なことではありません。なにせ、雷の石はとっても珍しいので、手に入れるのがとっても難しいからです。
 さあて困った、どうしよう。
 とは言っても、地道に探すしかありません。

 その日からピカチュウはあっちこっちに出かけては雷の石を探しました。
 あっちをがさごそ、こっちをがさごそ。うーん見つからないなあ。
 あんまり毎日出かけるものだから、ご主人にも不審がられるほど。でもだからといってやめることなんてできません。なんたって、パンケーキのためですから!
 でもでも、見つからないものは見つかりません。
 あーあ困ったどうしよう?

 そんなときに声をかけてきたのは、島から島を行き来するドデカバシでした。
「やあそこの君、ため息なんてついて一体全体どうしたんだい?」
 ピカチュウはかくかくしかじかと事情を説明しました。すると途端にドデカバシは大笑い。一体何がおかしいのでしょう。
「雷の石をいくら探したって見つからないよ。この島にはないもの」
 なんということでしょう! それではいつまでたっても進化できないではありませんか!
「アーカラ島で売っているのを見たことがあるよ。あとは、ポケリゾートで探検すると見つかるらしい、って聞いたことがあるかな」
 ピカチュウがいるのはメレメレ島です。アーカラ島に行こうにもピカチュウは泳げませんし、それにそもそも人間のお金を持っていません。
 ポケリゾートはたくさんのポケモンを持っている人が、普段は連れ歩かないポケモンを預けておく、アローラのどこかにある施設のことです。ピカチュウも存在は知っていましたが、なにせご主人のポケモンはこのピカチュウただ一匹ですから、行ったことはありませんし、これから行くこともきっとないでしょう。
 ある場所はわかったのに、そこに行くことができないなんて!
 ピカチュウはしょんぼりして泣きそうになってしましました。
 盛大に落ち込むピカチュウを見たドデカバシは、うーん、と少し悩んでから言いました。
「ようしわかった、僕が雷の石を取ってきてあげよう」
 ほんと? とぱあっと顔を輝かせてピカチュウはドデカバシを見つめました。
「いいとも。ただしお願いがあるんだ」
 なあに? とピカチュウが尋ねます。
「君の言うパンケーキが食べてみたいんだ。だって君、あんまりにもおいしいって言うからさ。一回だけでいいから、そのパンケーキを食べさせておくれよ」
 ええっ、パンケーキを? ああ、どうしよう。パンケーキ、おいしいパンケーキ、ご主人の焼いてくれる世界一のパンケーキ。うーんうーん。
 ピカチュウはとっても悩んでしまいました。でも、一回我慢するだけで、これからはパンケーキが丸々一枚食べられるのです。一回だけのことです。
 ピカチュウはどうにか頷いて、パンケーキをドデカバシにあげると約束しました。

 折しももうすぐ三時のおやつの時間です。ピカチュウはドデカバシを連れておうちに戻りました。
 おうちに近づくとふわんとバターのいい匂いがしました。ご主人がパンケーキを焼いているのです。
 おいしいパンケーキ。世界一おいしいご主人のパンケーキ!
 ピカチュウはドデカバシを外に待たせるとおうちの中へ入ります。帰ってきたピカチュウを見て、ご主人が焼きたてのパンケーキをお皿ごと持ってきてくれました。もちろんいつも通りパンケーキはまん丸じゃなくてその半分です。
 いつもならこのままかぶりつくのですが、今日はぐっと我慢、我慢。パンケーキをくわえると、外へと一直線。そうしてドデカバシめがけてパンケーキをえいっ!
 空を行くパンケーキを見たドデカバシは、大きなくちばしを大きく開けて見事キャッチ!
 もぐもぐ、もぐもぐ、ごっくん。
「おお! たしかにこれはおいしい! マラサダとはひと味違う、世界一のパンケーキだ!」
 約束は守ってよ、とピカチュウが言いますと、
「ああ、もちろんさ! じゃあ見つけたら持ってくるから、それまで待っておくれ」
 ドデカバシはそう言って飛び去っていきました。ピカチュウは期待のまなざしで遠ざかっていくドデカバシを見つめました。
 さて、訳がわからないなりに一部始終を見ていたご主人は、今日のおやつをドデカバシにあげてしまったピカチュウに、自分の分のパンケーキを半分分けてくれました。なんて優しいご主人なんでしょう!

 さて、一日が経ち二日が経ち三日が経ち……。なかなかドデカバシは現れません。
 まだかな、まだかな。そわそわ、そわそわ。
 あんまりそわそわするものだから、おいしいはずのパンケーキもなんだか味がよくわかりません。
 ああもったいない。
 そうは言っても、そわそわしちゃうのはやめられないのです。
 もしかして、約束を忘れてしまったのでしょうか。いやいや、たんに、雷の石がなかなか見つからないだけなのでしょう。疑うのはよくありません。
 きっとじっとしているのがいけないのです。ドデカバシがピカチュウのことをすぐに見つけられるように、ずっとおうちの前で待っていたのですけれど、もう限界です。遊びに行ってしまいましょう。
 なあに、ドデカバシは飛べるんですから、おうちの前にいなくてもちゃんとピカチュウのことを探し出してくれるに違いありません。
 そうと決めたらさっそく出発!

 さてはて、何をして遊びましょう? コラッタとかけっこでもしましょうか、いやいや、マケンカニと力比べをするのも楽しそうですし、まだ進化していないピチューたちに稽古をつけてあげるのもよさそうです。
 ああ、なんだかとっても久しぶりな気分!
 でもそれもそのはず。ドデカバシと会う前から何日も何日もピカチュウは雷の石を探し回って、みんなの誘いを断っていたのですから。
 そんなわけでピカチュウの姿を見つけたみんなは、わっと寄ってきてめいめい遊びに誘いました。ピカチュウは順番にみんなとたっぷり遊びました。

 あー楽しかった!
 心地よい疲れとともにピカチュウはおうちに帰ることにしました。久しぶりに顔を出したものですから、ピカチュウもみんなも張り切って少し遠くまで遊びに来てしまいました。
 おやつの時間に間に合うかな?
 ちょっぴり焦りながら走るピカチュウに誰かが声をかけました。
「こんなところにいたのか」
 声の主を探して上を見ると、そこにはドデカバシがいました。
「そら、約束のものだよ」
 その言葉とともに降ってきたのはなにやらマークの入った不思議な石です。こつん、とピカチュウの頭にぶつかりますと、ピカッと光りました。
 わわっ! 眩しい!
 思わずピカチュウは目をつぶります。そしてなんだか体がむずむずしてそれに熱くなりました。
 なになに、一体どうしたの?!
「ほほう、これは立派なライチュウだ」
 なんだって、と慌てて目を開けてみると、あらまあ、茶色い体が見えました。
 そうです、ドデカバシの言うとおり、ライチュウになっていたのです。
 ピカチュウ――いえもう立派なライチュウです――は自分の体のあちこちを確かめるように視線を走らせます。いつだったかテレビで見たライチュウの姿にそっくりです。もっとも、自分の顔までは見えませんけれど。
 信じられない! とばかりにほっぺたを触るとあら、いい匂いが。
 もみもみ。ふわんとあまーい香り。
 ……おっとこんなことをしている場合じゃなかった。
 わあ、すごいや! ありがとう!
 にこにことしてライチュウがお礼を述べますと、ドデカバシもにこにことして
「いやいやこちらも面白い体験ができたよ」
 と答えました。
 じゃあまたね、とライチュウはドデカバシと分かれると、またおうちへ向かって走り出しました。

 しばらく走ったライチュウはふと思い出しました。
 そういえば、テレビで見たライチュウは、しっぽに乗っていたような。しっぽに乗って飛んでいったらはやいかな?
 そう思ったらもう、試さずにはいられません。
 えいやっと念じてしっぽに飛び乗ると、はじめはふらふらしましたが、すぐに慣れました。あとはもう、おうちへひとっ飛び!
 ああ愛しのパンケーキ!
 走るより断然はやくおうちが見えてきて、ライチュウはそのままおうちに飛び込みました。そうしてご主人の姿を見つけるや否や、ダイブ!
 ねえねえご主人、見て見て!
 突然のことにご主人は目を白黒させます。
「ええっ、もしかして、進化したの?」
 そうだよ、とばかりにライチュウはほっぺをすりすりしました。
 うわあびっくりした、と言いながらご主人は甘い香りのするライチュウを抱きしめました。

 さて、進化したお祝いということで、その日ライチュウはパンケーキを一枚と半分食べることができました。明日からは一枚だそうですが、丸々一枚食べられるのですから、ライチュウとしては夢が叶ってとってもうれしく思いました。
 パンケーキ! すてきなパンケーキ!
 世界一おいしいご主人のパンケーキ!
 たっぷりメープルシロップをかけて、いただきます!




























 それはそれとして世界はダムの底に沈みました。
 でもパンケーキを食べたライチュウは最強なのでなんの問題もありません。
 めでたしめでたし。

――

Q.ダムじゃねーか!
A.ダムだよ!!!!!!!
ていうかそれダムじゃないとこういう話はほぼ書けない……。
ほのぼのな話を書く回路が自分の中にも存在するということに驚きつつ、スイッチの入れ方がおかしいとも思います。
実を言うと、いや言わなくてもわかると思うけどハワイティ杯の没ネタです。
アローラ!(
肝心のハワイティ杯は投票も感想も全くもって終わっていませんが勢いで書きました。
これからがんばりまーす。
あと一週間しかないんだよ、驚きだね?(

船出はいいぞ。http://fesix.sakura.ne.jp/contest/2017/alola/016.html
それダムはいいぞ。