[掲示板へもどる]
一括表示

  [No.3996] 平和な島、アローラ 投稿者:逆行   《URL》   投稿日:2017/05/14(Sun) 20:12:19   70clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 注意:やや残酷なシーンがありますので念のため注意。


 ある日の昼下がりのこと。ハノハノリゾートの砂浜の一角に人骨が散らばっているのが発見された。計三人の骨のようだった。
 皆シロデスナにやられたと思われる。シロデスナはハノハノビーチの砂浜に時折出現するポケモンだ。シロデスナは人々の生気を吸い取って殺してしまう。殺された人間は骨しか残らなくなってしまう。
 アローラ地方の砂浜には他にも危険なポケモンが生息している。ナマコブシというポケモンがいる。彼らは非常に小さいが、口から内蔵を飛び立たせて人々に殴りかかることがある。その力は以外にも強く、並の人なら失神してしまう。運が悪ければ死亡することもある。
 アローラには砂浜だけでなく、森の奥地等にも人々に危害を加えるポケモンが数多く生息している。マシェードというキノコに良く似たポケモンがいて、このポケモンは要注意生物に認定されている。マシェードは森に迷い込んだ人間を発見すると、まず怪しい光で混乱させて、逃げられないようにしてしまう。訳も分からずその場で自分を殴っている人間をキノコの胞子で眠らせた後に、生気を吸い取って殺してしまう。
 また一部の森だけではあるが、キテルグマという非常に凶暴なポケモンもいる。キテルグマは人間を見つけると追いかけてくる。彼らは巨体にもかかわらず足が早く、逃げ切るのは容易ではない。キテルグマは人間を捕えると背骨を折ってしまう。この危険生物は力がとても強く、人間の背骨を折ることは容易いのである。
 その他にも、アローラでは数多くの野生のポケモンが人間を襲う事件が勃発している。だが野生のポケモンを無慈悲に殺すことは決して許されない。人間にできることは、危険なポケモンがいる場所には立ち入らないことと、きちんと育てたポケモンを所持しておくことぐらいであった。
 被害に合うのは、特にトレーナーの子供達が多かった。ここ数年で島巡りを行う子供が急増した。子供達は珍しく強いポケモンが欲しいが故に、危険な場所にも平然と立ち入ってしまった。そして遺体となって親の元に帰っていった。
 また、観光客の人々も被害に合うことが多かった。事前に良く調べずにアローラにやってきた人達は、危険なポケモンを警戒することなく刺激した。アローラは観光客も年々増加しており、それに伴って被害件数も増えている。
 勿論一般の人々も被害に合うことが多くあった。ポケモンなんてそこら中にいる訳で、彼らの尻尾を誤って踏んづけてしまって攻撃されるなんてことも良くあった。
 アローラの人々はこの惨状を大いに嘆いていた。どうにかできないものかと懊悩していた。だが警察はこのような惨状に対して、あまり積極的に動くことは無かった。


 ある日のことであった。アローラの歴史に確実に残るであろう大事件が発生した。
 それが、ウルトラビーストの出現だった。
 どこかに馬鹿が一人いた。そいつが、ウルトラビーストの棲む場所、通称ウルトラホールの入り口をこじ開けてしまった。その結果、数匹ではあるがこの世界にウルトラビーストを迷いこませてしまった。
 ウルトラビーストは非常に危険な存在であった。彼らは強大な力を持っていた。そして人々を躊躇なく襲った。通常のポケモンでも人間を襲うことはあるが、ウルトラビーストは更に酷かった。数は少なかったが、その被害は絶大だった。
 ある区域では、ウツロイドというウルトラビーストに一人の男性が寄生された。寄生された人は、途端に包丁を持って暴れ回った。目につく人を片っ端から刺していった。それによって死んだ人は十人以上いた。最終的には、寄生された人を、ポケモンで殺して解決することになってしまった。
 またある島では、デンジュモクが暴れていた。デンジュモクは、強力な電撃を放つウルトラビーストだった。次から次へと人々を黒焦げにしていった。並の電気タイプの十万ボルトとは威力が桁違いだった。デンジュモクは体力がなくなると、近くの発電所を襲撃した。そしてエネルギーとなる電気を吸い取り再び暴れ回った。ある老人は「神よ。どうか怒りを沈めてください」と手を合わせていた。デンジュモクは神ではないので当然その祈りは効かなかった。
 また別の島では、マッシブーンという、ボディービルダーと蚊を足してニで割らずにそのまま出てきたようなポケモンが暴れていた。マッシブーンは町中に繰り出し、人々に筋肉を見せつけていた。筋肉を見せつけられた人びとは、何を考えているのか分からないという不安と、その筋肉を使って今後暴れてきたらどんな惨事になるだろうという恐怖に怯えた。やがてマッシブーンはとある建物の屋上まで上り、そこで人間に向かって自らの筋肉を見せつけた。町からは途端に悲鳴が湧き上がった。
 一番酷いのはアクジキングというウルトラビーストだった。アクジキングは残虐なまでに、人々を片っ端から食べまくっていた。アクジキングは食べても食べても満腹にはならないようで、カビゴンとは比較にならない程の量を食べ尽くしていた。アクジキングは建物ごと口に放り込むので、家にいた人は家ごと喰われていった。避難場所に逃げた人も、その建物ごと喰われた。アクジキングに猛毒を喰わせることも試したが、全然毒は効くことがなかった。
 ウルトラビーストはアローラ地方のそこら中で暴れに暴れた。残虐な彼らの行為は止まることを知らなかった。このままではアローラ地方は滅ぼされる恐れがある。
 政府は強力なポケモンを持つトレーナーを集めた。トレーナー達は協力してウルトラビーストに攻撃を仕掛けた。
 彼らの攻撃はそれなりに効いたが、ウルトラビーストを倒すまではいかなかった。ウルトラビーストはやはりとても強いのだ。レベルの高いポケモンが束になっても敵わなかった。
 ウルトラビーストは特殊なオーラを纏っており、それによって強くなっていることがあるとき判明した。彼らは明らかに、普通のポケモンとは一線をなす存在であると分かった瞬間だった。 
 人々は絶望した。もう駄目だと諦めていった。


 しかし、人々が諦めていった時期のことであった。ある一人の救世主が現われた。
 その人間は、暴れ回る怪物達を次々と倒し、そして捕らえていった。
 その人間は、数多くの強いポケモンを従えていた。そして彼らに対して的確に指示を出した。トレーナーとして殆ど完璧と言わざるを得ない程技の選択が巧かった。
 トレーナーのポケモンはウルトラビーストに致命傷を与えることに成功した。オーラを纏われて強力な力を得ている彼らをも凌ぐ破壊力だった。
 まずトレーナーはウツロイドを捕えることに成功した。それがニュースで伝えられると人々は歓喜した。そして残り全てのウルトラビースト捕獲の成功を祈った。
 ウルトラビーストは例え弱らせることができたとしても、通常のモンスターボールで捕獲することが非常に困難であるらしい。しかしウルトラビースト専用のモンスターボールが最近開発された。そのボールを使ってトレーナーは捕獲していった。
 デンジュモクとマッシブーンの捕獲にも成功した。その他のウルトラビーストも苦戦しつつもなんとか捕まえることができた。
 アクジキングだけはかなり手間取っていた。トレーナーのポケモンが次々と倒されていた。トレーナーはその場から一旦退却した。
 次にアクジキングの前に現われたときには、トレーナーはアローラの四体の守り神を手持ちに加えていた。カプ・コケコ、カプ・テテフ、カプ・ブルル、カプ・レヒレ。トレーナーはこの守り神達に協力してもらうことを考えた。
 カプ・コケコ達はアクジキングに攻撃を開始した。守り神の攻撃は恐ろしく協力である。そして、その守り神を従えてしまうトレーナーの力も、恐るべきものと言うべきであった。
 結果、トレーナーの勝利となった。なんとかウルトラビースト全てを捕獲することに成功した。このトレーナーがアローラを救ってくれた。
 もう人々はウルトラビーストの脅威に晒されることはない。
 ウツロイドに寄生されることもない。
 デンジュモクに黒焦げにされることもない。
 マッシブーンに威嚇されることもない。
 アクジキングに喰われることもない。 


 そして、数ヶ月が経った。
 ウルトラビーストによって襲われた町の修復も、だいぶ進んできた。観光客もぼちぼちまた増え始めていた。ビーチは人で溢れ返るようになっていった。また、島巡りを中断していた子供達も徐々に再開していった。子供達が試練を乗り越えていく姿がまたアローラで見られるようになった。
 ある日の昼下がりのこと。ハノハノリゾートの砂浜の一角に今日もまた人骨が散らばっているのが発見された。シロデスナに生気を吸い取られる者は数知れない。
 テレビを付けると、キテルグマに背骨を折られたトレーナーのニュースがやっていた。そのトレーナーは全力で逃げたが、捕まってしまったとのこと。シルバースプレーを一応持っていたが、効果がいつの間にか切れていることに気が付かなかったらしい。

 海の傍に住む一人の老人がいた。彼はつい最近までウルトラビーストの脅威から逃れるために避難していたが、またこの町に戻ってきていた。家族とも再開を果たし、のんびりと余生を過ごしていた。
 老人はソファーから立ち上がる。キテルグマがトレーナーを襲っているというニュースをやっているテレビを消した。
 実に晴れやかな表情を浮かべていた。
 老人は窓から海を眺めた。気持ち良さそうに大きく伸びをした。そして、このような独り言を言った。
「アローラも平和になったなあ」
 老人が眺めている海の砂浜では、誰かがナマコブシに殴られていた。