やあ、君も観光で『いかりのみずうみ』を見に来たクチかい?
……うん、そうかい。
とても大きな湖だったろ?
なんせジョウト中はおろかシンオウやカントーにも、こんな大きな湖はないだろうしね。
……赤いギャラドス目当てで来たのに見つからなかった、って?
あはは、やっぱり例のテレビ番組を観て来たんだね。
最近来る人はみんなそう言ってるよ。
有名になったもんだね、あの『龍神』も。
……あー、そうか。うん。
いやいやなんでもない、こっちの話だ。
そうだ、あのさ。
……君は、このチョウジタウンが、
昔はあの『いかりのみずうみ』の場所にあった、って言ったら信じるかな?
あー、うん、湖のほとりにあったってわけじゃなくて。そのまんまの意味さ。
『いかりのみずうみ』にはね……大昔のチョウジタウンの跡が沈んでるんだよ。
お、やっぱり気になる?
なんで湖に沈んじゃったか、って。
うんうん、それでこそ話しがいがあるってもんさ。
実はそれこそ……
君が探してる赤いギャラドス……
『水龍神様』が関わってるのさ。
昔々、まだこの町が忍者の里、なんて呼ばれる前の頃。
『いかりのみずうみ』ってのはまだ無くて、池くらいの大きさの水場がある程度だったそうだ。
でもその池のそばには、小さな社があってね。
そこでは水神様が祀られてると云われていた。
ここまで来た君にはわかると思うけど、この土地は山ばかりに囲まれている。
そして当時は今みたいに遠くから水路を伝って水を運ぶことも難しい時代だ。
そして農業やらで作物を育てるにも水は必要。
だから、水へのありがたみってのはそりゃもう大変なものってことはわかるよね。
で、当時の人々は水、それを雨などによってもたらしてくれる天への感謝を捧げるために、唯一あった小さな池のそばに社を建てたそうだ。
だけどね……
時代の流れってのは、いろんな想いも流していくもんでね。
いつしか、よその土地から流れて来た商人によって、少ない水で育つ作物やらが流通したおかげで、水への信仰ってのがだんだん薄れていった。
で、しまいには水神様の社は忘れられてしまったんだ。
まあ、その後も幸か不幸か、
日照りなども起こらず、
安定した気候の日々が続いた。
……と思った矢先。
秋の収穫期だったかな。
村で火事が起こったんだ。
その火事がなにが原因で起こったのかは分からない。
ともかく一度着いた火は、収穫後に干していた米やら藁やら、家屋やらにどんどん燃え広がっていった。
秋晴れの乾燥した空気も災いしたんだろう。
そしてたちまち、村は火の海になった。
村人達は困り果てた。
とにかく炎を消すための水がない。
どこかに水は無いものか。
そして、村人は池があることを思い出した。
そう、あの『水神様』の池だ。
村人達はみんな総出で池に詰めかけた。
何やら古びた建物があるけど、
そんなことより、まずは火事を消すことだ。
そう考えた村人達は
池からバケツリレーならぬ桶リレーで水を運び出し始めた。
だけど、そこは小さな池。
たちまち水は底をついた。
村人達もどん底気分だ。
炎はますます燃え盛るのに、どうしようもできなかった。
たまらず村人の1人が、その辺の小石を拾って、
行き場の無い怒りをぶつけるかのように、古びた建物に投げつけたそうだ。
するとだね……
ガタガタガタッ!
っとその古びた建物が内側から揺れに揺れて、バキッと吹き飛んだ!
村人が驚き戸惑ってると、
その破裂した社から《何か》が飛び出し、
干上がった池の底へと飛び込んでいったそうだ。
そうしたら。
干上がった筈の池にみるみるうちに水が戻り、どんどん水かさが増していったそうだ。
村人達は大喜びだ。
これでまた水を運んで炎を消せる。
そう躍起になってたのも束の間。
何やら様子がおかしい。
というのも、池の水かさはどんどん増え、しまいには溢れ始めたからだ。
池の水が増えるのは止まらない。
どんどんどんどん湧き出てくる。
村人達はたまらずその場から逃げ出した。
しかしまるで逃げた村人達を追うかのように、水はどんどん湧き出てくる。
池を中心に湧き出てくる水は、洪水のように押し寄せて来て、池周辺の草木を飲み込み、村人を飲み込み、そして炎に焼かれる村を飲み込んだ。
空もまた荒れ始めて、雷が轟く大雨になっていった。
そのあと。
命からがら逃げ延びた村の若者が、水に沈み、まるで最初から湖であったかのような村の跡を
高台の上から呆然と見ていると、
嵐吹き荒れる湖の中心に、
紅い……龍の姿があった。
それこそが、今まで忘れられていた水神様の怒り猛る姿だった……。
とまあ、こんな伝説がある。
もっとも知ってる人はもう少ないし、あくまで水の大切さを伝えるための作り話って説もある。
でも。
その伝説が残ってるこの地で
あの《紅いギャラドス》が現れたってなると……
作り話だったとしても、信じてみたくなるし、何かの意味があるって考えたくなるよね?
っと、僕の話はこれでおしまいだ。
長々と引き留めてごめんね。
……ああ、そうそう。
もう見たかもしれないけど。
湖の辺りに、鳥居があっただろ?
あれが、水龍神様を祀ってた社の名残らしい。
まだ見てなかったら、見物してみたらどうだい。
くぐって湖を見たら……
……いやいや、なんでもない。
こっちの話さ。
まあ鳥居はくぐったらちゃんとくぐり直して帰るようにね。
僕からはそれだけだ。
これで話は本当におしまいさ。
それじゃあ、縁があったらまた何処かで。
fin