♪〜
「最初はグー! ジャンケングー! 今週もハウとグー! ラジオ、始まるよー! ハウだよー!」
「……」
「ちょっとグラジオー、ちゃんとしゃべろうよー。これ、ラジオだから、しゃべらないと誰がいるのかわからないよー」
「……グラジオだ」
「わー、なんだか今週も不安になってきたよー。おれ、口閉じてもいい?」
「……勝手にしろ」
「わかったー!」
「……」
「……」
「おい」
「……」
「おい、お前だ」
「……」
「聞いてるのか?」
「おれには、ちゃんとハウっていう名前が……あ!しゃべっちゃったよー」
「ハウ」
「なにー?」
「しゃべってくれ」
「わかったよー。そういえば、夏休みが終わってもう学校が始まった人もいると思うんだけど、グラジオは夏休み何してたー?」
「オレは自分の弱さと向き合うために、白銀の氷塵の積もった孤高の山で、相棒と共に修行をしていたが……」
「うーん、よくわからないけど、修行してたってことだよねー。どこかに遊びに行ったりはしなかったのー?」
「遊び……だと? お前は俺に遊ぶような暇があるとでも思うのか!?」
「ラジオに来てくれるってことはー、暇なんじゃないのかなー? それに、おれにはハウっていう名前があるってさっきも言ったよねー?」
「ぐっ……」
「グラジオの夏休みはなんだかつまらなさそうだから、おれの夏休みの話してもいいー?」
「勝手にしろ」
「わかったよー、しない」
「えっ」
「しない」
「しよう」
「グラジオがそんなに聞きたいっていうなら、してあげるよー。おれ、夏休みの間に、アローラ地方で売ってるマラサダを、全種類食べたんだー!」
「なるほどな……」
「マラサダにも色んな種類があって、シュガーと、シナモンと、ココナッツと、あと中にクリームが入ってるのもあるんだー! ナナシの実のクリームと、モモンの実のクリームと、あと」
「ハウ」
「どうしたのー? グラジオもマラサダたべたくなったー?」
「いや、そうじゃないんだが」
「マトマのクリームが……」
「ちょっと待て」
「さっきからどうしたのー? おれにマラサダの話させてよー」
「この言葉を自分の口から発するのはかなり癪だが、この際だ、心して聞けよ」
「なになにー?」
「お前、脂肪という鎧を身に纏ったな?」
「何言ってるんだよー、おれ、鎧なんて着てないよー? それに、おれにはハウっていう名前がー……」
「わかった、ハウにもわかりやすく言ってやろう」
「うん、耳をゴマゾウにして聞いてるよー」
「オレにはお前が太って見える。それも、ゴンベ並みに横に成長している気がする」
「えぇーーー! それって、じーちゃんに近付いたってことーーー!?」
「はぁ……もう何も言うまい。体型的には近付いたかもな、よかったな」
「わーい、わーい。えっ、なになにー? あっ、えっと、今ねー、音響さんが、そろそろ曲流せってー。えっ、音響さんとかそういうのは言っちゃダメー? ごめんもう言っちゃったよー。グラジオ、タイトル言ってー?」
「えっ……これをオレが言うのか!?」
「はやくー」
「後で覚えとけよ。タケシの……タケシのパラダイス」
♪〜タケシのパラダイス
「みんなきいてよー、曲が流れてる間にグラジオにげんこつされたんだよー」
「この曲聞くと、オレの気分が反比例して漆黒の底へと堕ちるんだよ」
「えっ、それって最初はめちゃめちゃテンション高いってことー? しかもその後ガタ落ちで、でも0にはならないから底でもないよねー」
「そんなわけあるかよ」
「えっ、もしかして、グラジオって勉強できな……えーーーっと、なんでもないよー! そんな怖い目で睨まないでよー! あ、ちょっとスカル団に似てきたかもー?」
「……」
「あぁもうまたグラジオが口閉じちゃったよー…… あ! そうだ! メールとお便りがたくさんきてるんだー!」
「……」
「まずは、アーカラ島の、光の三原色赤さんから『タケシのパラダイスを聞いて、ガラガラたちが踊り出しました。でも、俺の知らない謎の山男が混ざっているのは気のせいにしておきます』そうだねー、気のせいにしたほうがいいと思うよー」
「……」
「次は、メレメレ島の、エリコさんから『ハウさん、グラジオさん、こんにちは。私はトレーナーズスクールで先生をしています。夏休みが終わり、スクールには日焼けをした子どもたちが毎日元気に登校してきます。ただ、どうしても夏休みの宿題をやってこない子が全体の6割をしめて困っています。ハウさんとグラジオさんは夏休みの宿題をきちんとやっていましたか? そして、子どもたちが宿題をきちんと終わらせるにはどうしたらいいと思いますか?』うーん、夏休みの宿題って、永遠の課題だよねー。グラジオは、どう? ちゃんと宿題やってたのー?」
「一応やってはいたが……」
「うんうん」
「なぜか提出した後に、夏休みの倍の宿題を出されて、しばらく学校を休んでいたことがあった」
「えぇーーー! それってやっぱり…… えっと、グラジオは、どの教科が1番苦手だったのー?」
「国語だな。この時の作者の気持ちを答えよっていう問題とか、文章を読んで答えを書くみたいなやつが特にダメだった」
「あ、ダメそう」
「うるさい、その達者な口を閉じろ」
「わかったよー」
「……」
「……」
「開けろ」
「グラジオも、学ばないよねー」
「うるさい」
「ちなみにおれは、ちゃんと宿題やってたよー! 宿題が終わるとじーちゃんがマラサダ買ってくれるんだー! ご褒美があると頑張れる気がするよー」
「ご褒美か」
「グラジオは何をもらったら宿題頑張れるー?」
「己の弱さを補填する、頂点に立てるほどの強さだな」
「それはちょっとあげられないかなー。後で色紙に強さって書いてプレゼントするねー。さーて、次のお便りにいこうかな。へー、たった今カントー地方からメールがきたよー。カントーの21様ラブさんから『ハウさん、グラジオさん、こんにちは。いつも楽しく聞かせていただいてます。グラジオさんに質問です。グラジオさんには兄弟はいますか? それはどんな方なのでしょうか、教えてください』うわー、これってもしかしてー」
「リーリエは先々週くらいに電話で特別出演したはずなんだが……」
「でもさ、あのときはグラジオもリーリエと話すの久しぶりで、緊張して結構辛辣なこと言ってたよねー? あ、それとも照れてたのかなー? このままだとリスナーさん達がグラジオとリーリエのこと誤解したままになっちゃうよー。この機会に本当はどう思ってるのか話してみたらー?」
「ぐ……そうだな。オレには妹、リーリエがいるんだ」
「そうだねー」
「弱々しくて1人じゃ何もできなくて、小さい時もオレの後ろをついて回っては転んで足を擦りむいてたな。本当に鈍臭くて、泣き虫で、でもかなり頑固なんだ」
「確かに、そんな感じー……って! また辛辣トークになってるよー!?」
「でも、あいつは今、母の病気を治すために、自分でカントーに行くことを決めて、あっちで頑張っている。良い目をしているやつだ、なんとか頑張っているんだろうな」
「グラジオ、なんだかんだ言っても、リーリエのことが大好きなんだねー」
「そうだな。いなくなってから気が付いたが、オレは思いの外家族想いらしい」
「だってよ、リーリエ! よかったねー。普段は聞けないデレジオの言葉、ちゃんと聞けたかなー?」
「何!?」
「今のメール、リーリエからだったんだよー。この前の電話のやつ、やっぱり気にしてたんだねー。グラジオが勝手に電話切っちゃうしさ。本当に良かったねー! 今リーリエからまたメールが来たよー『本当に嫌われたと思っていましたが、そうではなくて安心しました。わたくしは変わらず兄さまのことが大好きですので、母さまの病気が治ったら、またたくさんお話聞かせてください。それまでは、がんばリーリエ! です!』だって! リーリエらしいねー 」
「クソッ、はめられたのか…… だがリーリエ、お前の想いは上昇気流に乗って、オレに届いたぞ」
「メールだよー?」
「お前はさっきからいちいちうるさいんだよ!」
「怒られちゃったー。さて、ここで1曲。リーリエも、おんなじ空を見ているかなー? ロケット団のニャースさんからのリクエストで、ニャースの、ニャースのうた!」
♪〜ニャースのうた
「良い歌だな」
「なんだかしんみりしちゃったねー。グラジオ何かしゃべってよー、おれ、さっきからずーっとしゃべってるよー。そろそろ顔の筋肉が疲れてクチナシおじさんみたいになりそうだよー」
「それはそれで見てみたい気もするが……何をしゃべればいいんだ」
「それを考えるんだよー。ラジオだから、言葉が少ない方がかっこいいとか、言ってられないよー」
「チッ」
「今舌打ちしようとしてできなくて、チッて言ったよねー?」
「わかった、ちゃんと考えるから、時間をくれ。そろそろCMの時間だ。えーっと、ハウとグー! ラジオは、アローラ観光案内所と、マラサダショップの提供でお送りしています」
『アローラ観光ならまずココ! アローラローラー♪ アローラ観光案内所!』
『マラサダー♪ マサラダー♪ サラダではないー♪ マラサダー♪ おいしいー♪ シュガー・クリームもいっぱいー♪ マラサダを食べるなら! マラサダショップへGO!』
「ハウとグー! ラジオ、パーソナリティのグラジオだ。ハウに何かしゃべれと言われたので、どうしてハウとオレがラジオなんて面倒なものを任されたのか話そうと思う」
「うん、いいよー」
「あれは、よく晴れた夏の午後、オレとチャンピオンがハウに連れられてマラサダショップに行ったときだった」
「なんだかんだで仲良しだよねー」
「3人でマラサダを頼んで、あいてる席に座ったとき、外から汗の滴りし上裸に白衣のサングラス男が……」
「ククイ博士のことだねー」
「そのククイ博士とやらが、チャンピオンとハウにラジオをやらないかと声をかけてきたんだ。どうやら研究が忙しくて、自分のラジオ番組に出演する時間さえも惜しくなったらしい」
「結構忙しそうだったよねー。リーグ作るのもきっと大変だったろうし、頑張り屋さんだよねー」
「ハウは『えー、ラジオー? おもしろそー!』って言って、すぐに快諾していたんだが、チャンピオンが厄介で、絶対にやらないって言ってな……」
「グラジオと違って、言葉が少ないかっこいいオレを演じてるんじゃなくて、本当に話すのが苦手なんだよねー。その分心に熱いものをもってるというかー、ね?」
「途中まで聞き捨てならないが、今はいい。それで、チャンピオンがオレを推薦して、ハウと2人でラジオをすることになったわけだ」
「この『ハウとグー! ラジオ』っていうタイトルは、チャンピオンにつけてもらったんだよー。面白いセンスだよねー」
「最初の放送は大暴走だったよな……」
「そうだねー…… おれ、じーちゃんに優しく怒られちゃったよー……」
「……」
「……」
「ハウ」
「どうしたのー?」
「オレは今役目を終えた。後はハウに任せる」
「えぇーーー! 聞いてないよーーー! でも、そろそろそう言われると思って、コーナーを考えてきたんだー。グラジオも手伝ってくれるよねー?」
「わかった、言われたことは何でもやろう」
「あ、音響さーん、今の録音取れたー?」
「えっ」
『わかった、言われたことは何でもやろう』
「そうそれー。よろしくねー。じゃあ新コーナー! 『グラジオの決め台詞ー!!!』」
「はっ……ハウこれはどういう……」
「これから、グラジオに言って欲しい言葉を募集するよー! なんでもいいよー! メールで送ってくれると嬉しいなー」
「おい、オレはそんなこと」
『わかった、言われたことは何でもやろう』
「音響さんタイミングバッチリー! おっと、もう586通もメールが届いてるよー、ありがとー! 最初はこれにしようかな。マサラタウンの3104さんから『オレ、マサラタウンのグラジオ。こっちは相棒のシルヴァディ』まだ言える方だと思うんだけど、どうー?」
「オレ、マサラタウンのグラジオ。こっちは相棒のシルヴァディ。これでいいのか」
「テンション低いねー。じゃあ次は……これにしよー! ポニ島のジュカインさんから『ミーに感謝するでしゅ』いいねーこれ、グラジオ言ってみてー」
「なんでオレが……」
『わかった、言われたことは何でもやろう』
「だが……」
『わかった、言われたことは何でもやろう』
「ぐっ……みっ、ミーに感謝しゅるでしゅ」
「あ、グラジオ今噛んだよねー? もう1回ちゃんと言ってよー」
「ミーに感謝するでしゅ!!!」
「おぉー、全力なかんじー」
「ハウ、お前覚えとけよ……」
「えー? そろそろおなかすいたなー……。え、なに? 時計見ろ? あっ、今日のハウとグー! ラジオ、おしまいの時間が近付いてきましたー。今日は、夏休みの話と、宿題の話と、リーリエの話と……思ってたよりたくさんしゃべってたみたいー! 来週もグラジオの決め台詞のコーナーはやろうと思うからー、メールとお便り待ってるよー! ハウとグー! ラジオ、ハウと」
「グラジオでした。ハウこの野郎……」
「わー、げんこつしないでよー! 強さって書いた色紙あげるから、ねぇー!」
『ミーに感謝しゅるでしゅ』
「おいっ」
『ミーに感謝しゅるでしゅ』
『この放送は、アローラ観光案内所とマラサダショップの提供で、お送りしました』