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  [No.4121] ドードー戦争 投稿者:フリッカー   《URL》   投稿日:2019/03/08(Fri) 23:03:02   74clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 ぱぱぱぱぱ、と響く機関銃の乾いた射撃音は、空しく虚空へと消えていく。
「くそっ! こんなの射撃訓練にならねえぞ!」
「おとなしくしやがれってんだ、畑荒らしめ!」
「いいから追え! もっと飛ばすんだ!」
 兵隊を乗せ、機関銃を背負って荒野を駆けるジープが追いかけているのは、首が2つある特徴的なとりポケモン・ドードーの大群だった。
 しかし、いくら機関銃を撃っても、まるで当たらない。
 それどころか、ドードーに追いつけさえしていない。
 当たり前だ。
 時速100キロの快足を誇るドードーに、武装して重くなったジープが追い付けるはずがない。
「この戦いには、農産業の命運がかかってるんだぞ! 人間様の底力を見せてみろ!」
「射撃訓練じゃなかったのかよー!」
 指揮官の叫びに、機関銃手はたまらずぼやく。
 それも空しく、機関銃の弾は全く当たらず、ドードーの群れをいたずらに散らばらせ余計に追跡しにくくなるだけであった。

 人間がドードーを狙って機関銃を撃ちまくるというこの光景は、まさに戦争だ。
 畑を荒らす野生ポケモンと、それを退治しようとする人間の。
 誰が呼んだか、「ドードー戦争」──

『おい嬢ちゃん! 群れがそっちに行った!』
「その呼び方やめてもらいます──って言ってる場合じゃないか」
 インカムで催促された少女は、そう呟いてゴーグルをかけた。
 頭を仕事モードに切り替える、ある種のルーティンである。
 そして、自分が乗る相棒に声をかける。
「ゴドウィン、行くよ!」
 少女は、巨大なポケモンの背に椅子を括り付けて乗っていた。
 白銀の重々しい体を持つそのポケモン──ボスゴドラは、その見た目に反して甲高い声で吠えた。
 正面から、散らばったドードーの何匹かが迫ってくる。
 果敢にも、2匹のドードーが突撃してきた。
 そのくちばしを、ボスゴドラ・ゴドウィンに突き立てる。
 たが、少女もボスゴドラ・ゴドウィンも全く動かない。かわすそぶりすら見せない。
 案の定、くちばしはかすり傷さえ与えられずに弾かれた。
 効果は今ひとつ。
 はがねタイプといわタイプを併せ持つボスゴドラに、“つつく”など通用しない。
「ごめんね、ここは君達が来ていい場所じゃないの──“ドラゴンテール”!」
 怯んだ所に、少女が指示を出す。
 ボスゴドラ・ゴドウィンが重い尾を振るうと、2匹のドードーはサッカーボールのように簡単に吹き飛んでいった。
 だが、相手はこれだけではない。
 未だに時速100キロで走り回るドードー達が、うじゃうじゃいるのだ。
 そのスピードに、ボスゴドラは対抗できない。
「“がんせきふうじ”!」
 故に、飛び道具で対抗する。
 ずしん、と足を踏みしめて足場を固め、大きな岩を投げつける。
 ドードーの進路を遮るように。
 振ってくる岩に驚き、さしものドードーも進路を変えたり、急ブレーキをかけたりを余儀なくされる。
 中には、急ブレーキが効かず転倒してしまうドードーもいた。
「よし!」
 少女が手ごたえを感じたのも束の間、動きが鈍ったドードーに、容赦なく銃弾の雨が降り注いだ。
 ドードーの足や首が、容赦なく撃ち抜かれていく様に、少女は絶句した。
 見れば、ようやく追いついてきて停車したジープの姿が。
『嬢ちゃん、だからあんた達ポケモンハンターは甘いんだよ』
「大尉さん」
『人間様のテリトリーを犯したからには、相応の報いを与えるべきなんだ。手ぬるくやってるからこんな羽目になったんだよ』
 く、と少女は歯噛みするしかない。
 彼らの言う事をも一理ある。
 ここのドードーは、勝手に入って来て畑の作物を荒らす不法侵入者。
 農家達の生活を台無しにして、怒りを抱かない方がおかしいだろう。
 だが、先にテリトリーを犯したのは、一体どちらだったのか。
 ここは開拓地。
 人の手が入らなかった荒野を、畑にしようと切り拓き始めたのは人間だ。
 故に、そこに生息するポケモンとの衝突が起きる。
 人間にとって住みやすい環境は、ポケモンにとっても住みやすい環境。
 食べ物を狙ってポケモンがやってくるのは、自然な事。
 この「ドードー戦争」もまた、そんな事例のひとつだった。
 最初は、少女のようなポケモンハンターが追い払うだけだった。
 だが、豊富な食べ物がある事を知ったドードーは次々とやってきて、遂には何百匹もの群れを成すようになった。
 ハンターの力でどうにかなるレベルを超えてしまったのだ。
 しびれを切らせた農家達は、遂に軍の力を頼るようになる。
 ドードーの大群に対抗できるのは、もはや軍隊しかないと。
 かくして軍隊は、射撃訓練にもなるからと機関銃部隊をドードー退治に向かわせる事になる。
 だが、効果のほどは見ての通り。
 俊足のドードーは、機関銃部隊にとっても手に余る存在であり、ほとんど効果を上げていない。
 こうして、「戦争」は泥沼化していく一方であった。
「確かに、そうかもしれないけど──」
 少女の声が震える。
 撃たれたドードーがすぐに立ち上がり、負傷した事もものともせずにまた走り去っていくのが見えた。
 それを逃がすまいと、また機関銃が火を噴く。
 少女にとっては、ドードーが機関銃程度で死なない事は幸運だった。
 軍隊の機関銃は、当たっても威力不足なのだ。
 軍隊はもっと威力がある重機関銃を持っていきたかったようだが、諸々の事情で持ち込めていないらしい。
「人間のテリトリーに入るポケモンばかりを悪者にする事が、いい解決策だとは思わない」
 この戦いに、正義などない。
 ポケモン達は、ただ生きようとしているだけ。
 そして人間も、自分達の生活を守りたいだけ。
 どちらが正しくて、どちらが悪いなんて言えない。
 どちらも正しいし、どちらも悪いと言える。
「そうだよね、ゴドウィン?」
 相棒に呼びかけると、ボスゴドラ・ゴドウィンは心配するように少女を見た。
 このボスゴドラも、元は人に害なすポケモンだった。
 まだココドラだった頃、たまたま罠にかかり処分されそうになっていた所を、少女が無理を言って保護したのだ。
 鉄を食らう故に、線路や橋を破壊してしまい、人から害獣とみなされたココドラ一族。
 だが、彼らは同時に、住処が荒れると土をならし、木を植えてきれいにする一面もあった。
 害獣であったのは、そんなココドラ達のテリトリーに土足で踏み入った人間の方かもしれない。
 人間が生活を豊かにするためにやっている事が、全部正しいとは思わない。
 そのために傷付き、怒って暴れるポケモンがいる。
 そんなポケモンも、平気で悪だと決めつける人間もいる。
 こんなのおかしい。
 そう思った少女は──
『大尉! 新たなドードーが来ます!』
 インカムの声で、現実に引き戻される。
『いや、違う! あれは──』
『そっちに行ったぞ、嬢ちゃん!』
 すぐに確認する。
 1匹の影が、今までのドードーと同じ速度で一直線に向かってくるのが見えた。
 それは、不意に地面を蹴って跳び上がる。
 空を背にして、くるりと縦回転したそれは、長い足を突き出して、ボスゴドラ・ゴドウィンめがけて落ちてくる。
 そこで、気付いた。
 頭が、3つある事に。
 ドードーではない。
「ドードリオ!」
 少女が叫んだ直後、強い衝撃が襲った。
 初めて、ボスゴドラ・ゴドウィンが怯んだ。倒れそうになるのを、何とか踏み止まる。
 それでも、うずくまってしまった。
「ゴドウィン!? 今のは、“とびげり”……!」
“とびげり”は、かくとうタイプのわざである。
 それは、頑丈さが売りのボスゴドラが最も苦手としているタイプのひとつである。一発でも浴びれば、致命傷になりかねないほどの。
 嫌な相手に出くわしてしまった。
 自慢の装甲が通じないならば、動きが鈍い以上ただの的にしかならない。
『撃て!撃て!』
 そんな少女をよそに、ジープはさっそくドードリオに機関銃を撃とうとするが、なぜか撃たない。
 銃手は引き金を引いてはいるようだが、かち、かち、と空しい音しかならない。
『どうした!?』
『銃が目詰まりしました!』
『何だと!? こんな時に──!』
 機関銃が故障したらしい。
 敵を前に立ち往生してしまったジープに、ドードリオが気付いた。
 3つの首全てが、ジープに向く。
 仲間達の仇、とばかりに敵意をむき出しにした目で。
『まずい! 一旦引け!』
 ジープはすぐにUターンしようとしたが、遅かった。
 ドードリオは、その3つの首全てから、3色の光線を発射した。
“トライアタック”だ。
『ぐわあ!』
「大尉さん!」
 その一撃で、ジープは簡単にひっくり返った。
 兵隊の何人かが投げ捨てられたのが見えた。
 彼らに立ち上がる隙さえ与えまいと、ドードリオは迫りくる。
「“がんせきふうじ”!」
 少女が、とっさに叫んでいた。
 ボスゴドラ・ゴドウィンは、ドードリオと兵隊達の間に割り込ませるように岩を投げつける。
 驚いたドードリオは、すぐに飛び退く。
 その隙に、ボスゴドラ・ゴドウィンは割り込んだ。
 兵隊達の、盾になる形で。
「大丈夫ですか!」
「何とかな……」
 少女の呼びかけに、大尉はそう言って立ち上がった。
 その後ろでは、他の兵隊がひっくり返ったジープの運転席から仲間を引っ張り出しているのが見える。
「だが、正気かお前? あいつ相手じゃボスゴドラは壁にさえならないぞ?」
 その前に自分の事を心配しろ、とばかりに大尉は言う。
 確かにその通りだ。
 ドードリオが“とびげり”を使える以上、ボスゴドラ・ゴドウィンは一発でやられる可能性がある。
 あまりにも脆い壁だ。
 だが、そうとも限らない。
「誰も犠牲にしない……私は、そう決めていますから」
 そう言って、少女は一本のホースをボスゴドラの口に伸ばした。
 それは、水が入ったボトルに繋がっている。
 ボスゴドラ・ゴドウィンは、ホースをくわえて水を一気に飲み始める。
 鉄分がたっぷり入った「おいしいみず」はボスゴドラにとっての栄養ドリンクそのものだ。
 さあ、これで気合が入った。
 ホースを離したボスゴドラ・ゴドウィンの表情に、戦意が戻ったのがわかる。
「行くよ、ゴドウィン!」
 かんかん、と軽く首元を叩いて、少女は自らの右腕を見る。
 その指には、ある宝石をあしらった指輪がはまっていた。
 同じような宝石は、ボスゴドラ・ゴドウィンの右手首にあるブレスレットにもあった。
 2つは、まるで共鳴するかのように光り始める。
「私の魂と共に、いざ!」
 少女が右腕を伸ばす。
 それに合わせるように、ボスゴドラ・ゴドウィンも右腕を上げる。
 すると、指輪とブレスレットがかちん、と合わさる。
 途端、光は視界を遮らんほどに眩しさを増して爆発した。
「メガシンカーッ!」
 少女の叫びに呼応するように、周囲に突風を起こすほどのすさまじいエネルギーがほとばしり、ボスゴドラ・ゴドウィンの姿が変わり始めた。
 胴体がより太くなり、力強く。
 顔も同じように太くなり、より重厚感が増したシルエットに。
 ずしん、と足場が一瞬めり込む。
 姿が完全に変わり終わると、遺伝子のような模様が前方に投影されると共に、力を解き放つように高らかに吠える。
 その声は、ドードリオどころか、兵隊達も怯ませるほどの威力があった。
「ボスゴドラの姿が……!?」
「あれが、噂に聞くメガシンカ……! 究極の絆を結んだポケモンと人だけがたどり着ける境地……!」
 そんな事を言う兵隊を尻目に、メガボスゴドラとなったゴドウィンは、両手を合わせて指を鳴らしてから、指先でドードリオを“ちょうはつ”した。
 怒ったドードリオは、再び跳び上がる。
“とびげり”を繰り出す気だ。
 それでも、メガボスゴドラ・ゴドウィンは動かない。
 かわすそぶりすら見せない。
 そんな無防備な体に、ドードリオは容赦なく“とびげり”を叩き込んだ──
「おい! いくらメガシンカしても“とびげり”を食らったらひとたまりも──!」

 が。
 大尉の心配は杞憂に終わった。
“とびげり”を浴びせたはずのドードリオは、メガボスゴドラ・ゴドウィンの足元にぼとり、と倒れ、苦しそうに足をばたばたさせてもがいている。
 食らった方のメガボスゴドラ・ゴドウィンは、至って涼しい顔で、もっと来いとばかりに胸を叩く。
“とびげり”は効かなかったのだ。
 意外かもしれないが、メガボスゴドラにとっても“とびげり”は効果抜群である事に変わりはない。
 だが、その度合いは変わっている。
 まず、いわタイプが消えている事。
 次に、装甲の強度がさらに増した事。
 そして、特性がフィルターへと変わった事。
 これで、効果抜群でありながら、相対的に受けるダメージが減っているのだ。
 メガボスゴドラ・ゴドウィンに涼しい顔で見下ろされている事に怯えたのか、ドードリオは至近距離で“トライアタック”を放つ。
 だが、それも全く効果がない。
 何発撃っても、傷一つ付けられない。
「突き倒せ! “スマートホーン”!」
 少女の指示で、メガボスゴドラ・ゴドウィンは頭を振り下ろして角を突き立てる。
 それは、立ち上がろうとしたドードリオを、手で払い除けるように強く弾いた。
 宙を舞うドードリオ。
「“ドラゴンテール”!」
 そこに、さらに尾で追い打ちをかける。
 ドードリオは、他のドードー達と同じくボールのように吹き飛ばされた。
「おおー!」
「やったぞー!」
 兵隊達が、揃って歓声を上げた。
 すると、他のドードー達も揃って逃げていく。
 荒野に再び静寂が戻っていく。
「ドードー達が逃げていくぞ!」
「どうやらあいつは群れのボスだったみたいだな」
 そう言われる中でも、メガボスゴドラ・ゴドウィンは決して追いかけようとしなかった。
 それどころか姿が元のボスゴドラに戻ってしまった。
「お疲れ様、ゴドウィン」
 少女はそう言って首元を軽くなでながら労うと、ボスゴドラ・ゴドウィンは嬉しそうな声を出した。
 そんな1人と1匹に、大尉が歩み寄ってくる。
「君達の事は、見直さなきゃいけないな」
「大尉さん」
「お前達のやり方には、『守りの戦い』ってのが伝わってきた。相変わらず甘いとは思うが──尊重するよ」
 見上げる大尉が、初めて少女に笑みを見せた。
 それを見た少女の顔にも、自然と笑みがこぼれたのだった。

 この戦争が、いつ終わるのかはわからない。
 ただ、軍隊を送り込んでもほとんど効果が出ない様に、人々から非難が集まっているのは事実である。
 それで軍が撤収しても、ドードー達がまたやってくるかもわからない。
 それでも、少女は思うのだ。
 こんな場所でも、いつかドードーと人間が共存できる日がきっと来ると。
 だから誰も犠牲にせずに戦うんだと。
 そう思いつつ指輪のキーストーンを見つめながら、少女達は荒野から撤収していった。


※あとがき
 この小説は、空色代吉さんの企画(http://masapoke.sakura.ne.jp/lesson2/wforum.cgi?no=4108&reno= ..... de=msgview)に投稿しようとしたものの、ルールも読まずに企画してしまい参加できないものになってしまったので、単独で投稿する事にした作品です。
 皆さん、企画のルールは事前にしっかり確認しましょう;


  [No.4141] カッコよくてロマンティック 投稿者:焼き肉   投稿日:2019/12/29(Sun) 16:06:11   26clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

ポケモンがハッキリ害獣として扱われていて、人間も直接銃器で対抗したりするという大筋の話が、ポケモンとしては攻めてるなーって思いました。(駆除、殺すとかまではいきませんが)私としては原作ポケモンのそういう方向にはいかない感じがとても好きなので、大尉さんの言う「甘さ」が最終的に肯定される流れになるのも良かったです。ゴドウィンと少女の出会いのエピソードも優しい。

メガシンカするタイミングも弱点を克服するくらい強いメガボスゴドラもカッコいい!
キーストーンが指輪っていうのもロマンティックですねえ。
現実にありそうな問題だけでないポケモンらしい絆が心地よい作品でした。
少女とゴドウィンに幸あらんことを願います。