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  [No.4147] 電車とポケモントレーナー 投稿者:No.017   投稿日:2020/02/19(Wed) 22:15:53   38clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:ポケモン民俗学

●乗り鉄にしてトレーナー

 あなたは「乗り鉄トレーナー」をご存知だろうか。
 世の中には多くの鉄道ファンがいて、電車の撮影が好きな人を撮り鉄、電車に乗るのが好きな人を乗り鉄などと呼んでいる。両者は兼ねることもあるが、今回は主に後者について取り上げたい。何を隠そう後者の中でポケモントレーナーでもあるのが「乗り鉄トレーナー」である。その興味深いライフスタイルについてごく簡単にではあるが紹介したいと思う。
 旅のポケモントレーナーの移動方法には、徒歩、ポケモンに乗る、乗り物に乗るなどがあるが、その中でも乗り物、特に鉄道での移動にこだわるのが乗り鉄トレーナーである。
 彼らは鉄道に乗って移動しながら、出会った人々とバトルをする。そして鉄道でキリのいい場所まで移動したり、終電の時間が近づいたら降車し、近くの街に宿泊し、日が昇ればまた電車に乗って移動する。そんな生活をしている者達である。
 田舎のほうに旅をしたことのあるトレーナー諸兄であればご存じかと思うが、田舎というのはとても電車の待ち時間が長い。一時間はおろか二時間さえも当たり前である。正直暇である。なのでトレーナーが出会えばバトルが始まる。暇を持て余した駅員がバトルを仕掛けてくる事もままある。むしろ田舎の駅には簡易なバトルフィールドがある。電車は来ないし、土地はあるからだ。勝負の制限時間は「電車が来て出発するまで」である。
 彼らは時刻表に記載された時間と駅の時計を見比べて何分でケリをつけるかを考える。バトルの前に発車時間を確認して、何対何のバトルにするかを相談するのである。そして賞金代わりに駅弁を賭ける。
 強者を求めて電車で果ての駅まで遠征したり、無人駅で待ち構えて電車に乗ってやってくる同志達に勝負を挑む「バトル鉄」と言われるトレーナーもいるそうだ。
 鉄道オタクと侮るなかれ、これでいてなかなかバトル経験が豊富なのが彼らである。カビゴンが寝ていて乗っていた電車が止まる、ゴローンが転がってきて電車が止まる、そんなことは乗り鉄トレーナーをやっていれば「あるある」であり、線路を塞いでいるカビゴンやゴローンとのバトルを手伝う事は彼らにとってのご褒美であり、名誉である。
 鉄道員は線路を傷付けずに電車の行く手を阻むポケモン達とバトルし、路線から退却させるプロである。そんな業務が発生することもあって、ジムバッジをたくさん持っているトレーナーは鉄道会社への就職が有利なのだと言われている。

 
●乗り鉄トレーナーの手持ち

 ポケモントレーナーの手持ちには一定の傾向があり、とりつかいならば鳥ポケモンを、からておうやバトルガールなら格闘ポケモンを所持、というような特徴があるが、彼らは鉄道好きの集まりなのでその傾向はバラバラである。とはいっても、ある程度の特徴を見いだす事はできる。
 その特徴とはずばり、「一緒に電車に乗れるポケモン」である。なので身体の大きすぎるポケモン、重すぎるポケモン、高熱を発するポケモンなど、同乗に支障の出るポケモンは敬遠される傾向がある。
 多くの鉄道会社の規則では、特別に禁じられる場合を除き、電車内では膝や肩に乗るポケモンは出していい、とされている。そうでない大型のポケモンは本当は出してはいけないのだが、多くの人は電車内が空いているなら出してしまうためにルールとしてはあまり機能していない。けれど、電車が混んできたらしまうというマナーも彼らはちゃんと持ち合わせている。そして懐に余裕がある時や、推し路線では切符をポケモンの分も買う。これは乗り鉄トレーナーの間では徳を積む行為として推奨されている。
 面白いのは彼らの中にはポケモンと一緒に電車に乗るため、あえてポケモンを進化させずに未進化にしておくという文化があることだ。この傾向は電車の混みがちな都市部でよく見られる。つまり彼らのポケモンは小さく未進化であってもそれなりに鍛えているため油断ができないとも言える。たまたま鉄道を使って電車待ちバトルをした中堅トレーナーのポケモンが、バトル鉄のスバメにゴッドバードを喰らってノックアウト、目の前が真っ暗になった、という話はあまりにも有名である。
 とはいうものの、基本的には進化形の方がバトルが強いので、バトルして勝ちたい乗り鉄にはある種のジレンマがつきまとう。そして単純に進化形のほうが好みなのであっさり進化させる者ももちろんいる。
 そして、肝心のポケモンとの出会いだが、彼らに話を聞くと「電車を待っていたらポケモンが現れたので捕まえた」という話が非常に多い。駅弁を奪おうと襲いかかってきた、と話してくれたトレーナーもいた。
 また、姿が電車に似ているのでデンヂムシが好きで手持ちに加えたいと考えるトレーナーも多い。最近はICカード「デリカ」が普及したこともあり、カードのマスコットであるデリバードの人気も高まっているそうだ。
 余談になるが、鉄道員のポケモンは格闘やエスパーが多いと言われる。これは有事の際に障害物をどかしたりなどするのに向いているからである。「かいりき」や「いあいぎり」の得意なポケモンを連れている者も多い。
 また、ホウエン地方では線路をココドラに食べられないように嫌いな物質などを混ぜ込んだ鉄を用い線路を守っているが、それでも悪食の個体がいて線路を食べようとするため、仕方なく捕まえているという。故にホウエンの鉄道員はココドラやその進化系を持っている事が多いのだ。


●乗り鉄トレーナーの聖地

 乗り鉄トレーナーは乗り物に乗ることが好きなので、フェリー好き、バス好きを併発させがちだという。カントー地方ナナシマ行きのシーギャロップやカントー、ジョウト地方間を結ぶ高速船アクア号が大好きだ。ホウエン地方でタイドリップ号の名誉船長に就任したハギさんは若い頃は小さな船を乗り回して、乗り鉄トレーナーを大いに喜ばせた為、界隈では有名人であるという。
 また、彼らはアローラ地方のホクラニ岳のバスにも乗りたいと思っており、カロス地方のミアレシティでタクシー運転手とタクシー代踏み倒しバトルをしてみたいと思っている。が、いざ現地でタクシーに乗ってはみたものの、やっぱり運転手に悪くてそれができず、降車の際に料金を払った上で勝負を申し込んだという微笑ましいエピソードもあるという。もちろん、ガラル地方の鉄道や空飛ぶタクシーにも乗りたいと思っている。
 そして、彼らが最も憧れるのは、イッシュ地方の地下鉄兼バトル施設であるバトルサブウェイだ。いつか行きたい聖地、不動のナンバーワンである。彼らにとって憧れのトレーナーとはジムリーダーでも、四天王でも、リーグチャンピオンでもない。バトルサブウェイのサブウェイマスターである。その車両基地があるカナワタウンも憧れの地である。
 そして彼らは一人一人がそれぞれに自身の聖地を持っている。それはお気に入りの路線だったり、ある地方の終着駅だったり、ある時間のある列車の座席だったりする。その中には今はもう行くことのできない場所も多くあるし、一度乗ったきりだが忘れられない路線もあるだろう。
 もしも乗り鉄トレーナーに出会ったら、そんな聖地について聞いてみるのも面白いだろう。きっとあなたの知らない世界を教えてくれるはずだ。



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  [No.4148] ピジョンエクスプレス(1) 投稿者:No.017   投稿日:2020/02/19(Wed) 22:18:55   38clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

  1. カケルの悩み

 カケルは鳥ポケモンが大好きだ。十歳になってポケモン取扱免許を取った彼が最初に捕まえたのは、「ことりポケモン」のポッポだった。
 カケルはポッポにアルノーという名前をつけ、アルノーと旅に出た。
 そうして旅先でアルノーと一緒に、ホーホーやオニスズメを捕まえた。次にドードーとネイティを捕まえた。今度はヤミカラスやカモネギ、デリバードやエアームドも捕まえたい、と彼はアルノーに目標を語った。世界のまだ見ぬ鳥ポケモン達との出会い、そのことを考えてわくわくした。
 そして、カケルにはもうひとつ楽しみにしていることがあった。
 進化だ。
 ポッポが進化するとピジョンになる。身体が大きくなって力も強くなるし、何よりかっこよくなる。特に頭の羽飾りの美しさは堪えられない。
 ピジョンとは、カケルにとって鳥ポケモンの代名詞だった。その大変バランスの取れた容姿に関していえば進化後のピジョットより好みかもしれなかった。ピジョンこそはかっこよさとかわいさを兼ね備えた至高の鳥ポケモンだ、といつだったか列車の席を共にしたトレーナーに力説したほどである。
 それに、アルノーはいつもバトルには一番に出して戦わせているのだ。進化の時も近いに違いない。カケルはアルノーの進化後を頭の中に浮かべ、今日か明日かとその日を待っていたのだった。
 が、カケルの予想に反して最初に進化したのはオニスズメだった。首と嘴がぐんと長くなり、頭に立派なトサカがついた。背中にはふさふさの羽毛、立派なオニドリルになった。
 次に進化したのはホーホーだった。体つきは立派になり、貫禄のあるヨルノズクになった。こいつに睨まれたゴーストポケモンは震え上がるだろう。
 そして、二つあった頭が三つに増えて、ドードーがドードリオになった。以前にも増してギャーギャーうるさくなったのが玉にキズだが、攻撃力も数段アップしてポケモンバトルでは頼れる存在だ。
 と、いうわけで、アルノーより後に捕まえた三羽が先に進化、という結果になった。
 なんだか予定外の順番になってしまったなぁと、カケルは思ったが「まぁいい、きっと次に進化するのはアルノーさ」と気楽に構えていた。
 が、次に進化したのはネイティだった。ネイティオになった彼は、カケルより背が高くなって、ますます異彩を放つ存在になった。目つきだけは前と変わらない。進化前と同じようにいつも無言で明後日の方向を見つめている。
 こうして進化を待つ手持ちはアルノーだけになった。
 カケルは待った。アルノーはまだピジョンにならない。カケルはその日を待ち続けた。けれどその日は、待っても待ってもやってこなかった。
 もしかしたら体のどこかが悪いのではないだろうか。ポケモンセンターで詳しく調べてもらったが、どこにも異常は見当たらなかった。むしろ健康そのものだと言われた。
「そう焦らないで。気長に待つしかないわよ」
 ポケモンセンターのジョーイさんはそう言ったが、カケルの心は晴れなかった。
「何事にも適した時期というものがあるの。今はまだその時じゃないのよ」
「じゃあ、いつその時になるの」
 カケルはいたって真面目に、真剣に尋ねた。
「うーんそうねぇ……、鳥ポケモンにでも聞いてみたらどうかしら」
 ジョーイさんは苦笑いしながらそう言った。

「ねえ、アルノーはいつ進化するの」
 オニドリルに聞いたら、長い首を複雑にひねって「さあ?」という顔をされた。

「ねえ、アルノーはいつ進化するの」
 ヨルノズクに聞いたら、首をすごい角度に傾けるだけだった。

「ねえ、アルノーはいつ進化するの」
 ドードリオに聞いたら、三つの頭が互いに目配せして困った顔をした。

「ねえ、アルノーはいつ進化するの」
「……、……」
 ネイティオにも聞いたが、明後日の方向を見つめるばかりで、聞いちゃいなかった。

「ねぇ、お前はいつ進化するの」
 アルノー本人にも聞いてみたが一言、「クルックー」と言っただけだった。

「……大真面目に聞いた僕がバカだったよ」
 カケルはなんだか自分の言動がばかばかしくなってきた。

 ――何事にも適した時期というものがあるの。今はまだその時じゃないのよ。
 進化しなくても旅は続く。寂しげな線路を走る三両列車に揺られるカケルの頭の中にジョーイさんの言葉がこだました。焦ったってしょうがない、まだ時期ではない……。
 ああ、そうか。きっとこれは長い長い路線なんだ、とカケルは思った。終着駅にはまだ遠いのだと。ならば終着までの列車の旅を楽しむだけではないか。いつもやっていることだろう、と。
 今日も日が昇る。朝、電車に乗り込み、乗り換え駅で食事をしてポケモンバトルをした。電車が来ればまた乗って乗って、乗り換え駅でバトルして、乗って乗り続け、気がつけばもう夕方だった。夕日が赤く染まるのを促すようにカンカンカンと踏切の遮断機が鳴って赤い光がパカパカと踊る。列車は踏切を通過した。黒い木々の上、オレンジ色に染まった空をヤミカラスと思しき鳥影が数羽、連れ立って飛んでいく。
 山の向こうに沈んでいく夕日を眺めながらカケルは思った。
 ……たまには家に帰ろうかな、と。


  [No.4149] ピジョンエクスプレス(2) 投稿者:No.017   投稿日:2020/02/19(Wed) 22:19:53   40clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

  2. 列車で帰宅

 カケルは鳥ポケモンが大好きだ。そして乗りものも大好きだ。
 トレーナーの移動手段は徒歩、自転車、自動車、ポケモンそのもの、その他、多岐に渡る。その中で移動手段に鉄道を使うことを殊の外カケルは好んだ。
 カケルはいわゆる乗り鉄だった。電車に乗っている時間が幸せなタイプの人種だった。実を言うと旅に出た理由の半分くらいはたくさん電車に乗れそうだったから、だ。トレーナー、それもデビューしたばかりのビギナーは割引率が高くてお得なのだ。お金が無くなれば辿り着いた町でのアルバイトやバトルで旅費を稼ぐ。また電車に乗る。そうやってカケルは旅をしていた。
 もちろん鳥ポケモンが好きなのも本当だ。時々、鳥ポケモンと鉄道のどっちが好きなんだと言われたが、ラーメンとハンバーガーを出されたらどっちも食べるだろう、というのがカケルの答えだった。トレーナーとして鳥ポケモンを所有し、これを育てる。移動手段は主に電車。それがカケルのポリシーだった。
 電車で山奥や僻地へ行くほどに乗り換えで待たされる。カケルが捕まえた鳥ポケモンはそうやって電車を待っている時に捕まえたのが主だった。駅弁を盗ろうと襲ってきたオニスズメ、すっかり暗くなった終電の終着駅に現れたホーホー、駅のホームの端っこで佇んでいたネイティ――彼いわく線路が結んだ縁である。
 待ち時間はポケモンバトルにもなった。暇を持て余した駅員や電車待ちトレーナーが勝負を仕掛けてくるのだ。時には駅長と呼ばれてマスコット化した地元のポケモンが仕掛けてくることもあった。たま、と名付けられた駅長のペルシアンが勝負を仕掛けてきたのは記憶に新しい。
 そんなカケルであるからして、帰宅手段は当然鉄道になった。数年前に自動改札が導入されたばかりのローカル駅でデリバードが描かれたICカード、デリカにお金をチャージし、ホームで鳥達と戯れて待つこと小一時間、彼らは電車に乗り込んだ。
 車窓が木々や田園の風景を流していく。お客の少ないローカル線では席が向かい合せのことが多い。カケルはボックス席で靴を脱いで足を伸ばすと鳥ポケモン達と共に乗車を楽しんだ。都市部へ向かうにつれ、乗り込む客が多くなってくると、彼は仕方なく鳥達をボールにしまった。膝にアルノー一羽を乗せて座るカケルの座席を揺らしながら、列車はジョウトの中心を目指した。
 二回ほどの乗り換えをした後に車窓の風景に高い建物が混じるようになった。だんだんとその大きさが巨大になっていく。そして車窓の風景はついにトンネルの闇に浮かぶ等間隔のライトになった。電車の通行より建物や道路が優先される地域に入って、列車が地下に潜ったのである。
「イッシュにはバトルサブウェイっていう地下鉄があるんだって。いつか行きたいね」
 肩の上で狭そうにしているアルノーにカケルは百回目くらいになる台詞を言った。
「黄金中央(こがねちゆうおう)、黄金中央」
 車掌が次の停車駅を告げた。
 カケルの実家はジョウト地方の大都市、コガネシティにある。ポケモンジムあり、デパートあり、ラジオ局あり、ゲームコーナーあり、オクタン焼きあり。ありとあらゆるものが揃って、現在も発展し続けている街だ。近々、カントー地方のヤマブキシティ行きのリニアも開通予定だった。カケルは自動改札をデリカの入ったパスケースで撫ぜると、複雑な迷路のように枝分かれしたホワイティコガネの地下街を抜けて地上に出る。地上はすっかり夜で、ネオンライトに照らされた街の喧騒が目に飛び込んできた。
 喧騒を抜けて住宅街に出る。そこはいくつもの巨大マンションが立ち並ぶコガネシティのベッドタウンだった。カケルはそのマンションの一つに入っていき、オートロックのパスワードに「0017」と入力する。自動扉がサーッと開いた。そうしてエレベーターに乗ったカケルは自宅階のボタンを押したのだった。


  [No.4150] ピジョンエクスプレス(3) 投稿者:No.017   投稿日:2020/02/19(Wed) 22:22:27   56clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

  3. 拝啓 アマノカケル様

 数ヶ月ぶりの息子の帰宅を母親は喜んで出迎えた。カケルが促されるままに入ってみると食べきれないほどのごちそうが並べられ、彼は手持ちの鳥ポケモン達を総動員して平らげた。そうしてお腹いっぱいになると、彼は母親に土産話をせがまれたのだった。
 そんな時間が過ぎて、カケルはソファにゆったりと腰を下ろし、ぼーっとテレビを眺めていた。ポケモン達も画面を見つめる。四角い画面の中でコガネ弁の人々がおもしろおかしくやりとりをしているのが見えた。そういえば最近テレビなんか見ていなかったなぁ。自分の膝の上で羽毛を膨らませるアルノーを撫で回しながら、カケルはなんとも言えない安らぎを覚えた。なんだかんだで我が家とはいいものだ。
「そうそう、あなた宛にいろいろ届いているわよ」
 カケルとアルノーが目を細めてウトウトしはじめ、ドードリオの三つの首とオニドリルが長い嘴でリモコンの主導権を争い始めた頃、母親が封筒の山を抱えて入ってきた。
 目の前のテーブルに母親はバサリと封筒の山を置くと「もう寝るから、あなたも鳥さん達も早く寝なさいね」と言って、あくびをしながら去っていった。
 まさかこの封筒の山、旅立った当時から貯めてるんじゃないだろうな……。カケルは眠い目を擦りながら封筒の封を破り、中身を見始めた。
“トレーナーズスクール開校のお知らせ ”
“旅するトレーナーのカレー講座、ポケモンセンター食堂にて ”
“モンスターボール大セール、ガンテツ師匠によるきのみボール実演販売 ”
“フードに混ぜて肥満防止! ダイエットポロック ”
 ほとんどのダイレクトメールは興味のないものか、あっても期限切れだった。カケルは内容を確認してはクシャッと丸くしてゴミ箱へと投げた。差出人を見ればだいたい見当はつくのだが、ついつい確認してしまうのは貧乏性だからかもしれない。
 丸めた紙は、たまに明後日の夜空を見つめているネイティオに当たってしまったが、当のポケモンは気にしていない様子だった。見るとネイティオの横で、ヨルノズクがどこからか引っ張り出してきた雑誌のページを器用に足と嘴でめくって、中を覗いては首を傾げている。思えばホーホーの頃から本や地図、パソコン画面を覗いてくることがあった。意味がわかっているのかは不明である。カケルは作業を続行した。
 そうしてダイレクトメールの山は次第に低くなり、丘になり平地になった。最後に残ったのは茶色い封筒一つだった。
 それはダイレクトメール、というよりはごく親しい友人に宛てた手紙のような封筒であった。が、宛先は書いてあるのに差出人名がない。
 一体誰からだろう? カケルは封を破いて中に入っていた明るいクリーム色の紙を開いた。少し古めかしい感じのする印字が並んだ紙にはこう書かれていた。

“拝啓
 アマノカケル様
 この度は当社の東城リニア新幹線試乗および開通記念式典にご応募くださいまして、誠にありがとうございました。 ”

 カケルはぼりぼりと頭をかいた。
 ああ、そういえばイベントに応募していたんだっけ。しまった、僕としたことがすっかり忘れていた、と思った。たしか開通記念限定デリカをプレゼント、リニアに乗ってヤマブキシティへ、開通記念式典に参加して、またコガネシティに戻る、というイベントだったはずだ。乗り鉄のはしくれならばこれに応募しない理由はないだろう。
 ん? ちょっと待て。ということは当たったのか? と、カケルはにわかに興奮した。

“しかし、大変にご好評いただきまして多数のご応募をいただきました結果、カケル様のお席をご用意することが叶いませんでした。 ”

 なんだ、ハズレか。カケルはがっかりした。
 だが、手紙はその後にこう綴っていた。

“そこで当社では抽選に漏れた方の中から更に厳正なる抽選を行い、カケル様を特別イベントにご招待することと致しました。同封の切符をご持参の上、下記の日時に西黄金駅へおいでください。 ”

 同封の切符? カケルは切符を確認しようと手紙を持つ手を下ろした。
 いつのまにか封筒を落としていたらしく、落ちた封筒にアルノーが頭を突っ込んでゴソゴソと中を漁っていた。やがて、アルノーは封筒の中から濃いピンク色の切符を取り出した。
「クルックー」
 アルノーはカケルの膝にピョンと飛び乗ると切符を渡してくれた。

“5月16日(雨天決行) 出発駅 西黄金(にしこがね)駅より
 午前5時入場開始 5時25分入場締切 5時30分1番ホームより発車 ”
“イベントの特性上、お手持ちのポケモンの同伴およびポケモンの入ったモンスターボールの持込みを禁止とさせていただいております。ご了承とご協力をお願い致します。 ”
“それでは、カケル様にお会いできるのを楽しみにしております。 ”



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ここまでお読みいただきましてありがとうございます!
以降は単行本をお楽しみ下さい!

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ピジョンエクスプレス

  1. カケルの悩み

  2. 列車で帰宅

  3. 拝啓 アマノカケル様

  4. 三つ子と三つの分かれ道

  5. 改札鋏と蒸気機関車

  6. 車掌

  7. 乗り鉄のすすめ

  8. 食事のメニュー

  9. 切符を拝見

  10. 二つのヨウリョク

  11. 雲をつきぬけて

  12. 車内販売

  13. 空に浮かぶホーム

  14. 風の吹く場所

  15. 遠くの駅で

  16. レポートと招待状

  17. ピジョンエクスプレス