NEAR◆◇MISS×明け色のチェイサー コラボ短編
『負けられない戦い方』
<国際警察>……簡単に言うと世界をまたにかけ、難事件を調査し、犯人を追い、捕まえる特定国家に属さない組織。
その組織の一員である私ことラストは、ヒンメル地方、王都ソウキュウにあるとあるレンタル会議室に向かう最中でした。
今日はそこで待ち合わせている……のではなく、同伴者を案内中です。
「なんで俺が貴方についていかなあかんのですか……」
そう同伴者である、肩に白い毛並みの小さいイーブイを乗せた金色の長髪が特徴的な青年、レスカさんはぼやきます。
まあ、当然の反応ですね。私がいろいろな事情を抱えている“一般人”の彼を無理言って見知らぬ土地にいきなり連れてきたわけですから。
ぼやいてくださるだけレスカさんはまだ私に気を許してくださるようで、イーブイのダッチェスは人見知りなのか、周囲を警戒しています。私は特に警戒対象のようで、地味にショックを受けていることは彼らには秘密です。
愛想笑いを浮かべ、私は話をそらしました。
「レスカさん、姿をくらましたがってはありませんか。都合がいいでしょう、高跳びです高跳び」
「とかいってこきつかう気まんまんって感じしますが」
大正解。その通りです。
「そりゃあ、ええ。それともここからお一人で帰られます?」と脅しをかけると「う……今はまだ付き合います……」と苦笑しながらレスカさんはうなだれました。
次見た時には、レスカさんとダッチェスは私をじっと少し睨んでいました。
「何か?」
「……すんませんラストさん。目が笑ってないとよく言われませんか」
「はい。お恥ずかしながら笑うのが苦手なんです」
そう口元で笑みを作りつつ。目でも笑おうとしてみる。
ぎょっとしたレスカさんとダッチェスが「怒っています?」とハラハラした顔で様子をうかがうので、冗談でこう返しました。
「いいえ今怒りました」
こう、少し間隔が開いた気がしました。
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会議室到着して、先にソファに座り資料を机に広げまくっているミケさんに一礼しレスカさんを紹介したあと……急に思い出したことがあったので私はレスカさんに伝えました。
「そういえば、キンジョウ・ミナトさん。出没していましたよこの地方に」
「はあっ?! なんでアイツがこんなとこに?!」
お、思ったより反応が大きいですね。ナンパしていたのを見かけたと言ったらどんな反応するのでしょうか。
……いや、野暮ですね。でも、一応確認は取らせていただきますよ。
「捜されます?」
「いや……ええ。ラストさんもヒマやないですやろ」
「そうですね」
「で、今回の要件は、俺のお仕事はなんです?」
本題も言い忘れるとことでした。
私がわざわざレスカさんをこちらにお呼びした理由。
それは。
「事情聴取のお手伝いです」
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「……またそないなお仕事に俺なんかが同伴してええんですか?」
俺なんか、だなんていわないでくださいよ。
自分を卑下するレスカさんにフォローを入れたのは、ミケさんでした。
「大丈夫だと思いますよ。私もこき使われていますし」
「ミケさん……貴方、何者なんでしょうか?」
「今は探偵やっていますけどね。昔はそう、やんちゃしていたんですよ」
ミケさん、そのやんちゃしていたことで私に脅されている身ですのに。フォロー、ありがとうございます。
そう念じましたら、ミケさんは素敵な笑顔で「決して貴女のためではないですよラストさん」と考えを推理されました。
私はぞんざいに扱ったあと、ミケさんは笑顔を消し、レスカさんに頼み込んでいました。
「今回の件は私の大事な知人が巻き込まれているので、ご助力願えると助かります、レスカさん」
「あーもう、わかった。わかったから手伝いますって!」
レスカさん人がいいですね。とほほ笑んでいたらダッチェスにものすごい剣幕で警戒されていました。
こ、これは何か対策を打たねば。
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その事情聴取相手とは、【ソウキュウシティ】にある【カフェエナジー】にて待ち合わせをしていました。
「いらっしゃいませ! ご予約の方ですね、待ち合わせの方はもういらしてますよ! どうぞ二階へ!」
女性の私でも笑顔が可愛いと思うウェイトレスさんに二階の個室に案内されます。
カウンターのところにあるお持ち帰り用のお菓子を横目に見つつ、私とレスカさんは階段を上ります。ダッチェスはいったんボールに戻っていました。
ウェイトレスさんの手によって開かれた扉の向こうには、小柄な緑のヘアバンドを付けた彼がいました。
立ち上がる彼はやはり背が低い。ですがその物腰は堂々としていました。
流石は、現在のヒンメル地方を守っている一人、というところでしょうか。
「どうも初めまして、オイラは自警団<エレメンツ>のソテツだ」
「<国際警察>のラストと申します、こちらは付き添いのレスカさん。本日は来てくださりありがとうございましたソテツさん」
軽く会釈をしたのちに、要件を催促されます。
「聞きたいことがあるって伺ったけど、端的に言ってなんだい?」
「まあ、“ヨアケ・アサヒ”さん、のことですね」
「やっぱりアサヒちゃんのことか」
へらへら、とまではいかなくても苦笑を浮かべるソテツさん。
彼も、ヨアケさんのことを聞かれると想定していたのでしょう。
「ええ。今指名手配中の“ヤミナベ・ユウヅキ”と共に現場にいたというヨアケさんのことについて情報が欲しいのです」
「……ちなみにそっちはどこまで情報を掴んでいる? 探偵に探らせていたみたいだけど」
(ミケさん存在バレてますやん)とレスカさんがぼやいた気がしました。私にテレパシー能力はないので気のせいかもですが。
「ヨアケさんが八年前の“闇隠し事件”の時ヤミナベと【オウマガ】にいらしたこと、その後<エレメンツ>に長い間居たこと。それと推測ですが、彼女は事件前後の記憶がヤミナベに奪われている可能性が高いこと、ですね」
「……なるほどね。だいたい知っている感じじゃないか。改めて聞くことあるのかなこれ」
肩をすくめたソテツさんに、私は「いやいやありますよ」と話を終わらせないようにします。
「それは?」
ソテツさんは、あくまでボロを出さないようにこちらの言うことを待つ姿勢を見せました。
この目は、守るべきもののある人の目だ。そう感じました。
そんな彼に敬意を表しつつ、切り込んでいきます。
「ヨアケさんが八年間、どこでどう過ごしていたか、です」
今回の私の引き出したい情報は、ヨアケさんが<エレメンツ>にどういう扱いをされていたか。最初からそれ一本でした。
「八年間ほど一緒に居た貴方たち<エレメンツ>なら、知っているんじゃありませんか?」
「まあ、知っているさ」
「詳しく、お聞きしてもよろしいですか?」
「……………………悪いが、オイラの一存ではできない」
自白に近い認め方ですが、かわされましたか。
では、ここでこのカードを切らせていただきましょうか。
「そうですか。じゃあ、こうしましょう。レスカさん」
「はい」
「ソテツさんとポケモンバトルをしてください」
二人が、目を丸くしました。
それからレスカさんは、苦笑い。ソテツさんも口元を歪ませます。
「ええと何で、ですか?」
「ソテツさんは<エレメンツ>中でもトップクラスにバトルが強い方……“一般人”のレスカさんと一戦交えて、親睦を深めるかもしれません」
「あー、確かに熱いバトルをできる相手は単純に好きだね。そんな相手にポロっと内輪のこと喋るのはあるかも」
ソテツさんは意図に気づいて乗ってきてくれました。
レスカさんは小声で私に確認を取ります。
(現役の国際警察には直に言いにくいことでも俺なら、か……そういうことですかラストさん……)
(私はあくまでバトルを勧めているだけです)
しらばっくれる私がソテツさんには面白く見えたのか、彼はしばらく笑っていました。上手な笑い方ですね。
「手合わせ、していただいてもいいですかソテツさん?」
「いいよレスカ君、バトルしようじゃないか。あとオイラに敬語はいらないよ」
「そうですか。ほな、よろしくお願いしますわ」
「うむ、よろしく」
握手をする二人。二人とも穏やかな笑みを浮かべ……。
「レスカ君がどのくらいやれるのか楽しみだよ」
「お手柔らかに頼みますわ」
ほほえましい光景でした。
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【ソウキュウシティ】にあるバトルルームを借りて、レスカさんとソテツさんは1対1のシングルバトルをされることになりました。
私はダッチェスと観客席と見学です。審判? 私はやりませんよ。
代わりに審判をしてくださるのは、ソテツさんのお弟子さんのガーベラさんという女性でした。
「わざわざ来てもらって悪いね、ガーちゃん」
「ガーちゃんじゃありません、ガーベラです。以後お見知りおきを」
「ラストです。よろしくお願いいたします」
「レスカです。頼みます。審判」
「はい、頼まれました」とガーベラさんがバトルコートの中央端に立ち、両サイドに立った対戦者のお二人にモンスターボールからポケモンを出すよう促します。
「頼んだ、ハーク!」
「任せたよ、フシギバナ」
レスカさんがハークというニックネームの硬い皮膚のよろいポケモンバンギラスを、ソテツさんは大きな花を背負ったフシギバナをボールから出しました。
「それでは、ソテツさん、レスカさん。準備はいいでしょうか」
「いつでもいいよ」
「俺も、大丈夫や」
彼女は一息大きく吸い、右手を天に掲げ……下ろします。
「では――――始め!」
先に動いたのはソテツさんとフシギバナ。
「『グラスフィールド』」
その掛け声とともに、フシギバナを中心にあたり一帯、草が生い茂りました。
確か、そのフィールドの恩恵は、地面に接している者の体力を徐々に回復し、草タイプの技の威力を上げるもの。
ハークも回復の恩恵を受ける代わりに、自分たちの攻撃力を上げてきましたか。
フィールドを展開中のフシギバナに、レスカさんはハークに的確な指示を出します。
「『あくのはどう』!」
フィールド生成は終わってしまいましたが、黒く鋭い波導光線が、フシギバナにヒット。ひるませます。
「『りゅうのまい』!」
ひるませてから、余裕を持って『りゅうのまい』を舞うハーク。攻撃力と素早さをぐん、と上げ、体勢を整えました。
「フシギバナばら撒け!」
フシギバナの背中の花から、何か粒のようなものが一斉に周囲にばら撒かれました。その何かは『グラスフィールド』の中に落ちていき、所在を目視で判断するのは難しそうです。
「そんなら! 『ストーンエッジ』で……「させるなフシギバナ!」」
遠距離の物理技をさせようとしたレスカさんに、
その指示をいち早く聞いた、フシギバナより素早いはずのハークに――
――ソテツさんとフシギバナは割り込みました。
フシギバナの巨体が、『ストーンエッジ』の発生するポイントを高速で通過します。
フシギバナは、草の上を滑っていました。
「『グラススライダー』!!」
『グラススライダー』。
その技は、グラスフィールドがある場所で真価を発揮し、相手より早さを得る技でした。
フシギバナの高速タックルがハークを突き飛ばします。
「天井に掴まれフシギバナ!」
「く、『あくのはどう』っ!」
反動で宙に浮かんだフシギバナは器用に『つるのムチ』で天井に掴まって、勢いを活かして『あくのはどう』をかわしハークの背後を取ります。
「もう一度『グラススライダー』!」
回り込まれたハークは、今度はもっと遠くに突き飛ばされます。
その落下点は、先ほどばら撒かれた何かの上。
「今だ」
「しまっ――!」
起き上がろうとするハークの体を、草の陣地から生えた“宿り木”がからめとります。
「ハーク!」
なんとか立ち上がり振りほどくも、残った『やどりぎのタネ』がハークの体力を蝕んでいきます。それは『グラスフィールド』の回復を上回るスピードでした。
『やどりぎのタネ』で奪い、『グラスフィールド』の恩恵を受けているフシギバナはぴんぴんしています。レスカさんとバンギラスは、ジリ貧でした。
そこで彼は、この技を選択します。
「もういっぺん『りゅうのまい』!」
「一撃に賭ける気だね……フシギバナ、待ちの構え」
生い茂る草のフィールドの中、舞うハークと待ち構えるフシギバナ。ハークの攻撃力がさらに上がり、うまく 技が決まれば回復量を突破して削り切れます。
次のやり取りで、決着がつく。そんな予感がしました。
舞を終え呼吸を整えたハークを見届けたソテツさんが、手招きします。
「来いよ」
「いくで――――」
「『グラススライダー』!」
真正面から滑って突っ込もうとしたフシギバナに、レスカさんは――――特殊技を指示。
「『あくのはどう』!!」
射線、ドンピシャで『あくのはどう』を叩き込みます。いくら相手より早く技を発動できるからと言って、怯むような威力の光線を真正面から受ければ、その動きは止まります。
「今や! 接近戦に持ち込めハーク『ほのおのパンチ』!!!」
ハークは拳に業火を纏わせ、すさまじいスピードでフシギバナに接近します。
そしてフシギバナに攻撃が――――届きませんでした。
激しく地面に叩きつけられる音がしました。
一瞬の出来事でした。
超速で突っ込んだハークは、前に転んでいました。
ハークの足元にあるのは、草むらに隠れつつも成長したほかの宿り木に引っ掛けられピンと張られた『つるのムチ』。
その持ち主は、言わずもがな。
「『グラススライダー』」
仕込みのうまさが際立った、決着の一撃でした。
「バンギラス戦闘不能! よって勝者ソテツさん!」
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「すまんな、お疲れハーク」
「フシギバナ、ありがとう」
互いにポケモンにねぎらいの言葉をかけつつ。二人は感想戦に入りました。
「いやあ、終始『グラスフィールド』に苦い思いをさせられましたわ……」
「ははは、どうも。レスカ君は『あくのはどう』で相手の動きを封じ、『りゅうのまい』でアドバンテージを徹底的に上げる戦い方をしていたね。こういうのは自分のペースを作ったら強いと思ったよ」
「そのペースがかき乱されまくっていましたけどね。『やどりぎのタネ』、憎い」
「まあ『やどりぎのタネ』はプレッシャーを与える技でもあるからね」
「フィールドと言えば、バトルフィールドをうまく作ってましたなソテツさん。天井ぶら下がりとか、宿り木に引っ掛けたロープとか。あかんやっぱ『やどりぎのタネ』憎いわ」
「さんざん『りゅうのまい』を積んだあの局面でそれをブラフにして『あくのはどう』をぶつけてきたレスカ君も肝が据わっているよ。ロープ仕込んでなければ痛い一撃もらっていただろうね」
「ロープって、保険だったんです?」
「いや狙っていたよ?」
「でしょうね。“来いよ”って思い切り言っていましたし」
感想戦が一区切りつく頃、私は先ほどのカフェで買っておいたお菓子で買収したダッチェスの頭を撫でつつ、笑い合う二人の様子を見ていました。でも、ソテツさんは何か考えているようでした。
「レスカ君とハークの戦い方は、なんていうか……生き残るための戦い方だね」
「どうして、そう思いはるんです?」
「無茶をあまりしないからだよ。いや、無茶をする戦い方に慣れていないというか。悪い意味じゃないよ?」
「あー、そう、だったんですかね……確かに思い切りはなかったかもしれません」
「オイラもそういう傾向があるけど、負けられない人の戦い方だなと思ったよ。でも……」
「でも?」
ソテツさんはヘアバンドを下げつつも。
レスカさんの瞳をじっと見て、こう伝えました。
「負けない戦い方だけじゃ、守れないものもあるんだよね」
自身の経験なのか、誰かからの教えなのかはわからないですが。
その言葉は、私も含め、全員に刺さる言葉でした。
ダッチェスがするりと私の腕から抜け出します。
レスカさんに近寄ったかかと思いきや、ソテツさんの足元にすり寄りました。
戸惑うソテツさんにレスカさんはさらに彼を困惑させる言葉を一つ、言いました。
「ダッチェスはええ人には懐くんです」
「……ええ人なもんか。八年間みんなで軟禁し続けて、その上オイラは私利私欲であの子を苦しめ続けているんだから」
ソテツさんは、そう一言呟いたあと、多くは語りませんでした。
でもダッチェスはソテツさんとの別れを惜しむくらい、彼に懐いていました。
あとがき
ビターな感じになってしまいましたが、POKENOVELのレイコさん作「NEAR◆◇MISS」よりレスカさんと、自作「明け色のチェイサー」よりソテツさんとのコラボポケモンバトルでした!
レスカさん、なんていうか古傷えぐってごめん。でもバトル描写楽しかったです……!
以前お花見の企画が上がったときにミナトさんとアプリコットちゃんの短編を書いて頂いたころから何かしらお返し短編が描きたかったので、この機会に書けてよかったです。
改めて、レイコさん、レスカさんをお貸しくださりありがとうございました!