故郷に帰る途中に訪れたカロスの地にて、伝説のポケモンであるファイヤーが目撃された。
その知らせを聞いたボクは、迷わずスケジュールを変更することを決める。
動機は単純にファイヤーをゲットしたい……ではなく。
ボクはただ手合わせしたかったんだ。
あるいはファイヤーと戦うことで、過去の因縁を振り切りたかったのかもしれない。
ボクは昔、カントー地方でとある陰謀に巻き込まれ、色々と苦い思いをした。
その思い出話は割愛するけど、その中心にはファイヤーがいたことだけは添えておく。
カントーの騒動から月日はだいぶ経っていた。
心の中にあった爪痕は、「こんなこともあったよね」で済ませることもできた。
でもこの湧き上がるような衝動には、逆らいたくなかった。
逆らうべきじゃないと思った。
事前に作戦を練り、カロスの地でファイヤーを追いかける日々。
そして、ついにたどり着く……。
「やあ。久しぶり……であっているかな」
深い夜。岩山地帯にファイヤーは居た。休息をとっていたのだろうか。羽を休め、その炎の翼で岩場を明るく照らしていた。
ボクの存在に気づき、視線を向けるファイヤー。細い嘴を閉じたまま、じっと見つめてくる。それから目を閉じ、ボクを脅威と認めず無視して休み続けようとする。
だがボクは、ファイヤーにそれをさせない。
「カントーでは世話になったね」
その一言で、ファイヤーの様子が変わった。
睨みつけてくるファイヤー。その素振りで分かった。ボクが過去に出逢った同一個体だと。
キミはボクのことなど覚えていないのかもしれない。
だけど、ボクはキミのことをまだ忘れられない。
「手合わせ、願えるかな」
燃え上がる翼を広げ、夜空を赤く染め上げるファイヤー。その『プレッシャー』に飲まれかけるも、ボクはモンスターボールからポケモンを出した。
光と共に現れたのは深緑のフードを被り、薄茶色の翼をもつポケモン、ジュナイパー。
炎・飛行タイプのファイヤーに対し草・ゴーストタイプのジュナイパー。
相性は圧倒的に不利。炎も飛行も弱点だし、ジュナイパーの得意な草技がファイヤーにほとんど通じないと言ってもいい。
一発でもまともにくらえば致命傷になる。だからこそ、攻撃をどうくらわないかが肝心だった。
ジュナイパーの名を呼ぶ。『プレッシャー』に押しつぶされまいと声を上げるジュナイパー。
ファイヤーがボクらを戦闘相手だと認め、戦いが始まった。
◆ ◇ ◆
「まずは『かげぬい』っ!」
ジュナイパーが素早く構える。
熟練した動作で翼にフードのツルをかけ弓にし、羽の矢を放った。
その矢先は揺らめくファイヤーの影を射抜く。
影を縫われたファイヤーは、もう逃げることはかなわない。
ファイヤーが苛立たしそうに両翼を一薙ぎ、『ほのおのうず』でジュナイパーを閉じ込める。
「勢いに飲まれるな! キミなら脱出できる!」
多少かすりこそすれ、渦巻く火炎の牢獄の中からジュナイパーは転がり抜け出す。
この脱出はジュナイパーがゴーストタイプを持っていたからできた芸当だった。
「そのまま『ゴーストダイブ』……!」
地面の影にダイブし、火の粉から身を守りつつ攻撃のチャンスを伺うジュナイパー。
しかしその一撃は当たらなかった……なぜなら忍び寄る一撃をファイヤーが『そらをとぶ』で回避し、天高く舞い上がっていたからだ。
影を縫われて逃げることは出来ずにいるとはいえ、空中に退避すれば一方的にファイヤーのアドバンテージは高い。
けれど、すでにそのパターン想定されていた。
対策は打っていた。
この瞬間こそを、ボクたちは狙っていた。
「――――『うちおとす』」
ジュナイパーが矢の先に隠し持っていた小石を付けた。
それから両足で踏ん張りをきかせ、空飛ぶファイヤーを狙撃。撃ち落す。
この技は岩タイプの技。炎にも、飛行にも効果は絶大だ。対ファイヤー対策の打てる最大の手といってもいい。
あえて攻撃のタイミングまで猶予ある『ゴーストダイブ』は『そらをとぶ』を誘発させるための、選択だった。
撃ち落されたファイヤーが羽ばたくことをせず真っ逆さまに地面に落下していく。
しかし緊張は解けない。
あまりにも素直過ぎる落下。
その行動に、違和感を覚える。
「違う、これは……!」
結論から言うと、『うちおとす』は決定打にならなかった。
ファイヤーは『うちおとす』直前から、羽ばたきを止めていた。
空飛ぶことを中断し、自らの羽を休めながら落下していた。
『はねやすめ』をしながら、ファイヤーは攻撃をしのいでいた。
……この『はねやすめ』と言う技には、おおきく二つの特徴がある。
体力を回復する効果と、自身の“飛行タイプを消す”ことのできる効果だ。
ファイヤーは自らの弱点の一つを消し、こちらの狙っていた『うちおとす』を耐えきっていた……。
落下直前でひと羽ばたきし、着地するファイヤー。
ファイヤーの狙いすました『はねやすめ』により、こちらの『うちおとす』で大ダメージを狙う作戦は通用しなくなった。
その上『プレッシャー』の特性をもつファイヤーに長期戦は圧倒的不利。
ジュナイパーも困惑し始め、熱気で呼吸が乱れていく。
その燃え上がる重圧は悪夢のような過去を彷彿させる。
あの時はいろんな意味で負けていった。
また敵わない、まだ届かないのかもしれない。
けど、
ボクは、
ボクらは!
断ち切るために、吹っ切れるためにここに来た!
だからその炎、克服してやる!!
「このまま燃やさせてたまるか――――『とぎすます』!」
息を吐き出し、精神を研ぎ澄まさせる。相手の急所に、狙いをつける。
ジュナイパーの視線に気づいたファイヤーが、両脚で大地を掴み、構える。
(こいっ)
ファイヤーは空に逃げることをせずにボクたちに狙いを定め、『もえつきる』勢いで自身のまとった炎を全て集約しぶつけてきた!
「行くよ」
ジュナイパーとボクは腕を正面で交差させ、指揮者のように両手を挙げた。
飛び立つジュナイパーの背後に分身した影矢が現れる。
影の矢の雨と共にファイヤーに突っ込むジュナイパーに、ボクは全力をもって、技名を叫んだ。
「『シャドーアローズストライク』!!!!」
影の閃光たちと紅蓮の炎がぶつかり合う。
黒と紅のエネルギーが、混ざり合い、弾けた。
ジュナイパーの影の矢は、ファイヤーの急所を……射抜く直前に燃え尽きていた。
最後に堂々と立っていたのは、ファイヤーだった。
『かげぬい』の効果が切れ、飛び去って行くファイヤーと、倒れたジュナイパー。
その両方にボクはお礼を言った。
「……ありがとう」
まだまだ、ファイヤーにも過去にも打ち勝つことは出来なかった。
でも、何かしら変化の予兆はつかめるような気がしていた。
去っていく熱気、思い出したように吹く夜風の中。
ボクたちは進んでいく。
過去を引きずりながら、暗夜行路を進んでいく。
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ポケモンバトル書きあい大会、カントーのファイヤー対ジュナイパーで参加させていただきました!
普段あまり伝説のポケモン扱わないので楽しかったです。
ボクっ娘こと彼女たちの苦難は続く。
技構成
ジュナイパー 特性:しんりょく 持ち物ジュナイパーZ
かげぬい(シャドーアローズストライク)、ゴーストダイブ、うちおとす、とぎすます
ファイヤー 特性:プレッシャー 持ち物なし。
ほのおのうず、そらをとぶ、はねやすめ、もえつきる
読んでくださり、主催してくださりありがとうございました!