世界に点在するダンジョンと呼ばれる空間、そこは不思議な場所であり様々なトラブルが発生する。そんなダンジョンへと探検に向かい、時には人々からの依頼に応え、時には無法者を成敗し、時には財宝を持ち帰り、時には未知の解明をする。それが探検家、あるいは探検隊と呼ばれる者達の生業である。そしてその探検家達が集う探検隊ギルドの内の1つ「あかいはね」。そこに所属する探検隊「ブラックサンダー」のサンダースとブラッキーが、受ける依頼を探し掲示板を眺めていた。 「さて、よさげな依頼は……っと。 ん? 珍しいとこのがあんな」 サンダースがいくつかの依頼を眺めていると、1つの依頼が目についた。 「お、どんなの?」 「とおぼえ山のお尋ね者だとよ、珍しい。お尋ね者はガーディで……んん!? 待てこれ色々おかしいぞ」 「なになになになに」 「ほら見てみ。報酬とか依頼日とか」 サンダースが掲示板から剝がした手配書を咥えブラッキーへと見せる。ガーディに脅されたというルクシオからの依頼であった。 「えーと報酬……40,000P!? 正気!? 不自然に高いし依頼日もこれ1年半位前だよね……。階層も1Fってお尋ね者じゃ初めて見たし難易度も『B』でそんな高くないのにこれはどっかミスってるかヤバイやつか……」 「40,000Pったらきいろグミ50個位買えるもんなぁ。しかもこれ多分昨日までなかったやつだと思うし」 「まぁこんな目立つ依頼あったら覚えてるもんね。とりあえず代表にちょっと確認してみた方がいいよねこれ……」 「だな……。ちなみにこれガチだったら受けるか? オレはめっちゃ気になるしやってみたいけど」 「いやこれガチだったら絶対ヤバイやつなんだって。少なくとも難易度は信用しちゃ駄目なやつ」 「だからどうヤバイか気になるだろ?」 「それはまぁ僕も気にはなるけど……」 「うっし、じゃあミスじゃねぇ事祈ろうぜ」 「いやそもそもヤバくない方がいいからね?」 そう話しながら2匹はギルドの代表であるウォーグルのいる執務室へと向かった。 「すみません、今大丈夫ですか?」 ブラッキーが扉を開きながら尋ねる。 「ん、お前達か。どうした?」 2匹が執務室へ入るとブラッキーは手配書を見せながら続ける。 「この依頼どっか間違えてるんじゃないかと思いまして」 「手配書か。これはあー、あのガーディの。何でお前達が?」 「掲示板に貼り出してありましたけど」 「マジか。すまん、それは多分こっち側のミスだな。この依頼は何というか……まぁ掲示板に貼り出すつもりはなかったやつでな」 「それはまた何で」 「まぁあれだ、優先度は低いというか、あー……説明めんどくせぇな……」 「えぇ……ギルドの代表なんですからそのあたりはしっかりしてくださいよ」 「マグマラシがしっかりしてるから俺はこんな感じでもいいんだよ」 ウォーグルはギルドの副代表を務めているマグマラシの名を挙げながら続ける。 「まぁ、とにかく報告感謝する。今後気を付ける。用件は以上でいいか?」 「あの……」 ここでブラッキーに報告を任せていたサンダースが口を開く。 「結局その依頼って受けちゃ駄目なやつなんスか?」 「ん? あーそうだな……まぁ今は人手が足りないって感じでもないし別に構わないな」 その返答を聞くなりサンダースが叫ぶ。 「っし、やるぞブラッキー! 捕まえてきいろグミ50個ゲットだ!」 「さりげなく報酬一人占めしないでもらえる? でもあの言い方だと依頼の報酬とか依頼日とかはミスじゃないって事でしょ? そうですよね?」 「まぁそうだな」 ブラッキーの問いにウォーグルが答える。 「ほら絶対ヤバイ依頼なんだよなぁ……というかこんな前の依頼なのに移動してないんですか?」 「あぁ。今のところそういう話はないな」 「探検隊をおびき寄せてるって感じがすごいんですけど……結局この依頼の詳細について説明する気は?」 「何か行く気になってる奴いるし、しない方が面白い事になりそうだろ?」 「ほんとにこの……そういう所ですよ代表」 軽く笑いながら答えるウォーグルに対しブラッキーは呆れと諦めの混じった溜息をつく。 「この分じゃ依頼人に繋いでもくれなさそうだね……しかしこんだけずっといてまだ捕まってないって時点でめっちゃ強いやつでしょこれ」 「でもやってみねぇと分かんねぇだろ? 相性だって色々あんだし何かこう奇跡的にハマるかもしれねぇじゃん」 「サンダースも奇跡的って言っちゃってるじゃん。まぁいいか……もし危険なやつだったらさすがに代表も止めてるだろうし少なくとも無事には帰れる……よね」 ブラッキーがウォーグルへと目を向ける。目が合うとウォーグルは無言で頷いていた。 「つー訳で行くぞブラッキー! 受けるって事で手続きの方はウォーグルさんよろしゃーす!」 そう言うとサンダースは部屋の外へ勢いよく駆けていく。 「あっ、ちょっ……! あー、分かりやすくワクワクしてるなぁ……。まぁ分からないでもないけど。あ、じゃあそういう事で、お願いしまーす」 ブラッキーはウォーグルに軽く頭を下げると、サンダースを追って部屋を去る。 「……おー、振り回されてら。さて、いい反応してくれりゃ面白いんだが……ま、後であいつらが戻った時に聞かれそうな事でも纏めておくか」 ウォーグルは翼を振って見送った後そう呟くと、依頼の受領処理を始めるのだった。
とおぼえ山――以前は初心者〜中級者向けのよくあるダンジョンだったのだが、ある時からこの場所での依頼の数が激減していた。特にお尋ね者の退治依頼と救助依頼で顕著であり、稀にある依頼も道具の収集、配達や案内の依頼である事が殆どだった。その為、「悪者も行き倒れる者もおらず治安が良い」というのが近頃のとおぼえ山に対する大多数の印象となっていた。そのとおぼえ山の入り口に2匹のポケモンが現れる。 「さて、着いた訳だけど、入る前に確認しとくよ。お尋ね者がいるっていうのがこことおぼえ山の1F。場所も階層もおかしいというか怪しいんだけどそれはもう置いといて、つまり入っていきなり出くわす可能性がある訳。OK?」 「おぅ、手っ取り早くていいじゃねぇか」 ブラッキーの確認にサンダースが答える。 「前向きだねぇ。まぁ準備できてるならいいね。行くよ」 そうして2匹はとおぼえ山へと足を踏み入れ、いつお尋ね者と出会っても構わない様に警戒しながら探索を進める。そして程なくして、2匹は1軒の建物へと辿り着いた。 「……家?」 「もう絶対依頼絡みじゃんおかしいもんここにあんの」 そこにあったのは雑に修繕された跡がある事を除けば街にあっても何ら違和感のないごく普通の家であった。しかしここはダンジョンである。ごく普通の家がある事は不自然でしかなかった。 「単純に考えりゃお尋ね者のアジトっつーか住処になるのか、これ」 「あったらおかしいもんがあんだから単純に考えるとかじゃないけどね……。まぁ誰が住んでてもおかしいんだからその線が一番濃くはあるけど」 2匹はその建物へと近づくと窓から中の様子を窺う。そこには伏せながら新聞らしき物を読んでいるガーディの姿があった。手配書にあるポケモンだと判断した2匹が頷き合い、入口の方へと回ろうとしたその時、ふと顔を上げたガーディと目が合ってしまう。 「あ、ヤッベ。バレた!」 2匹が慌てて家から離れ身構えていると、何やらドタバタと物音がした後、家から何かの袋を咥えたガーディが飛び出した。 「おぁー! その感じ探検隊の方ッスよね!? 依頼で来てくれたんスよね! 感激ッス!」 袋を置き尻尾を最大限に振りながらガーディが叫ぶ。一方サンダースとブラッキーはガーディのテンションに理解が追い付いていなかった。 「ちょ、ちょっと待って。感激……? 君の言う依頼っていうのはえーと……?」 お尋ね者ではありえない反応を前にブラッキーが探りを入れる。 「あれッス、あの、ルクシオに出してもらった悪いガーディがいるんで捕まえてください的なやつッス! もしかして違ったッスか?」 「いやまぁ確かに依頼人はルクシオだしそんな感じなんだけど、えーと出してもらった……っていうのは……?」 「えーとだからルクシオに頼んでお尋ね者にしてもらったんスよ」 「何言ってんだこいつ」 理解の及ばぬ行動に率直な言葉がサンダースの口をついた。 「ちょっと話が掴めない……というか全然掴めてないんで1回落ち着いて話聞かせてもらってもいい……かな……?」 「いいんスか!? ウヒョーッ! ブラックサンダーさんとお話しできるとか光栄ッス!」 名乗っていないにも拘らず自分達のチーム名を口にされ2匹の耳がピクリと動いた。 「ん、オレらの事知ってんのか? そんな有名な探検隊じゃねぇと思うんだけど」 「自慢じゃないッスが探検隊名鑑は全チームを暗記する位には読み込んでるッスからね! 最新号より後にできたチームでなきゃ大体分かるッス!」 「自慢気だな。いやガチなら実際凄ぇけどよ」 「というかお尋ね者に手の内バレてるのまずくない?」 「とにかくお話ししてもらえるならとりあえず中へどうぞッス! 今片付けるッスね!」 ガーディはそう言うと袋を拾い家の中へと駆けていく。 「……罠だと思う?」 ガーディのお尋ね者らしからぬ言動にブラッキーがサンダースへ投げかける。 「罠の方がまだ理解できんだが素にしか見えねぇ……」 「だよねぇ……まぁ警戒はするにしても行ってみようか」 そうして2匹も家の中へ続いていく。そしてまず目にしたのは壁一面に飾られている大量のサインであった。 「うぉぅ……探検隊のサインか……?」 「多分そうかな……『36コン』、『モノクローム』、『マフォマフォヌマクロー』、『イチカバチ』……うん、聞き覚えあるとこもあるしそうだと思う。もう探検隊ファンなのかお尋ね者なのか分かんないんだけど」 「『グマグマ』、『ディル&ミック』、『暁の牙』……お、『PMD』。ちゃんと有名どころもあんのな」 「足跡付きのも多いね……あ、あそこの『ブレイブバーン』って代表と副代表のチームじゃ……」 「うわマジじゃねーか。何であんだよ」 数々の探検隊のサインに目を通していると片付けを終えたガーディからクッションが差し出される。 「どうぞ自由に寛いでくださいッス!」 「いやお尋ね者に寛いでくださいって言われてはい寛ぎますとはならないからね」 「どういう距離感で接すりゃいいのか分かんねぇなこれ」 そう言いつつ2匹はガーディから少し離れた場所に座る。 「えー、とりあえず話を聞かせてもらいたいんだけども、いい?」 「あ、もちろんッス! オレに分かる事なら何でも答えるッスよー! そんでその後もしよければなんスけど、是非ブラックサンダーさんの探検譚とかも聞かせてもらいたいッス!」 ブラッキーの言葉にガーディが元気よく答える。お尋ね者の態度じゃねぇんだよな、とサンダースが小さく零した。 「えぇと……じゃあ正直に答えてくれたらね……?」 「はいッス!」 「じゃあまず確かめたいんだけど、この手配書にあるルクシオを脅迫したお尋ね者っていうのは君の事でいいんだよね?」 手配書を見せながらブラッキーが尋ねる。 「そッスね。オレッス」 「で、君はさっき頼んでお尋ね者にしてもらったって言ってたと思うけど、それがどういう意味なのかちょっと……」 「言葉通りッス。ルクシオに『お尋ね者になりたいからオレを通報してくれ』って頼んだんスよ」 「『お尋ね者になりたい』」 ブラッキーはガーディの発言の中で最も理解できない部分をそのまま復唱する。 「そうッス。えー、まずオレって探検隊の大ファンなんスよ」 「それはまぁここまでのやり取りでもそんな感じは、うん。だから余計に分からなくもあるんだけど」 「で、大ファンだから色んな探検隊に会ってみたいなーとかって思うじゃないスか」 「まぁ、うん」 「そこで思いついたんスよ。お尋ね者になれば色んな探検隊が会いに来てくれるじゃん! って」 「……うん?」 「会いにっつーか捕まえに来てんだけど」 シンプルかつ予想外の理由にブラッキーの理解が遅れ、代わりにとばかりにサンダースが口を挟んだ。 「会える事に変わりはないッス!」 「それでいいのか……」 「それになってみて分かったんスけど、お尋ね者っていうのはガチで戦ってる探検隊を特等席で見れるポジションなんスよ! いや〜、やっぱ皆さんカッコいいッスよね! 戦ってる時感激しまくりッス!」 「あ、ちゃんと戦ってはいるんだ」 「そりゃそうッスよ、探検隊の皆さんはオレを捕まえに来てるんスから。オレだって捕まったら探検隊に会えなくなるから結構鍛錬してるんスよ〜?」 ガーディが身振りを交えて語る中、それを聞いたブラッキーの頭を1つの考えがよぎる。 「……それでまだ捕まってないって事はもしかして全勝……?」 「いや負けたことはあるんスけど、何か捕まえないでもらえたッス」 「よかった……いやいいのか……? まぁ確かにそう判断するとこはありそうか……」 「ルクシオに頼んだっつーのがマジなら別に悪い事してねぇって事でもあるもんな」 「それはそれで虚偽の依頼って意味で問題ではあるんだけどまぁ……」 「あ、それはルクシオも言ってたッスね。だから代わりにこうすれば多分セーフっつー事で、『通報してくれないと襲っちゃうぞー』みたいな感じで脅迫はちゃんとしたッス!」 「『ちゃんとしたッス』じゃねぇんだよな」 「そのルクシオ君は何? 友達とかなの?」 「そッスね、親友っつっても過言じゃないッス。協力してくれたおかげでこうしてお会いできてるんスからマジ感謝ッスよホント」 「協力って言っちゃってるんだよなぁ……。いやまぁそこはもういいや。とりあえずこのガーディの言ってる事が本当だと仮定しとこう、今は」 ブラッキーが深く考えるのを諦めた様子で告げる。と、 「じゃあ今度はブラックサンダーさんのお話聞きたいッス! もちろん無理にとは言わないッスけど是非! ね! 是非!」 目を輝かせ千切れんばかりに尻尾を振りながらガーディが迫る。 「あー、えぇと……どうする?」 ブラッキーは後ずさりながらサンダースを見やる。 「フッ……まぁ減るもんでもねぇしいいじゃねぇか。何よりオレらの武勇伝を聞きたいっつー殊勝な心掛けには応えてやんなきゃ探検隊の名が廃るってもんよ」 「おぉ!」 「あ、結構乗り気なんだ。じゃあえーと……よろしく。一応戦い方とかはあまりバラさないでね……?」 「任せとけ。よし、そうだな……まずオレがこいつとチームを組んだのは確か大体3年とちょっと前……その頃はまだ両方ともイーブイでチーム名も最初は――」 そこから語るんだ、とどれだけ語る気なのか心配になるも、サンダースが楽しそうならいいか、とブラッキーは好きに語らせる事にしたのだった。
「――そんでブラッキーがドーン行ってエネコロロの体勢を崩した所にオレの稲妻がビシャーン! って決まってよ、オレの一撃をくらって立ってられる筈もなく捕まえる事ができたって訳だ」 「おぉー! さすが探検隊って感じッス! やっぱ凄いッスね!」 「いやたしか2桁位撃ち込んでた気がするんだけど」 「それはそれで凄いッス!」 「フフン、もっと称えていいんだぜ? で、えーとそれが語れそうな中だと一番最近のやつか。あとは簡単な依頼を普通にやったって感じだし……。よし、こん位にしとくか」 サンダースが大袈裟に語ってはブラッキーが訂正する、そんな事を繰り返して数十分、ようやく探検譚が終わりを迎えた。 「あざッした! いやホントこんな沢山お話聞けてマジ嬉しいッス! 感激ッス!」 「いやーオレとしてもこのテンションで褒めちぎってくるから何つーかめっちゃ気分いいわ。こっちこそサンキュな」 2匹が笑顔で盛り上がる中ブラッキーが現実的な話を投げかける。 「……何か仲良くなってるけどこれ結局どうすんの? 捕まえるのか見逃すのか。僕としてはとりあえず捕まえといて、真偽の確認とか最終的な判断とかは代表や連盟に任せるのが無難だとは思うんだけど。そもそも勝てるか怪しいのは置いといてさ」 「あー……おぅ、じゃあそれで。恨んでくれるな、一応形としちゃそういう依頼ではあるからな。そんできいろグミ50個買おう」 「買わないからね。……まぁモチベーションになるなら多少はいいけど」 「っしゃ! 絶対勝つ!」 「負けないッスよ〜! あ、でも戦う前に1つお願いがあるんスけどいいッスか?」 「ん? 何だ?」 「サイン頂いていいスか!? もしよければ足跡も!」 ガーディは出会った時に咥えていた袋から色紙、ペン、印肉を取り出し頼み込む。そしてそれを見て頭に1つの可能性が浮かんだブラッキーが、壁に飾られたサインを指しながら尋ねる。 「そういえばあそこに飾ってあるサインってこの感じだともしかして……」 「あ、あれは依頼とかで来てくれた探検隊の方々に書いてもらったやつッスね!」 「……全部?」 「そッスね。さすがに断られたり頼む間もなかったりって事も結構あったんで、書いてもらえなかったチームも多いッスけど」 「って事はPMDとか来てんの!? ヤッバ……!」 「代表達も来てたって事になるね……というかそうなるとやっぱ相当強いんじゃ……」 「ここまで来たらもうやってみりゃ分かるだろ。で、サインだったか。別にいいよな?」 「まぁ……代表達も書いてるみたいだし悪用される感じもなさそうかな……? とりあえず構わないけど、そもそも僕等サインってないよね? ファンサービス的なあれとしては」 「あ、オレとしてはお会いできた証みたいなところあるッスから、もう普通にチーム名とか書くだけで十分ありがたいッス!」 飾られているサインに目を向け確かに、と納得するブラッキーを尻目に、サンダースは自慢気に告げる。 「フフフ……オレは考えてある……!」 「えぇ? 考えてあるって、サイン……? いつの間にそんなん考えてたの……。まぁいいや、じゃあ書くの任せていい?」 「おうともよ!」 自信満々に答えるとサンダースは色紙を前脚で抑え咥えたペンをスラスラと走らせる。 「よし、いっちょあがりぃ!」 「おぉー! いいッスね!」 「どれどれ……え、これを残すの」 書き上げたサインを覗き込んだブラッキーが怪訝な眼差しでサンダースを見やる。 「あ? 文句あるってか?」 「いや、まぁ……いいか。今はもうこれで」 「何で不服そうなんだよ。カッケーだろ?」 「あー……かっこいいはかっこいいけどちょっとかっこつけ過ぎてる感じが恥ずかしいというか……」 「いやサインはカッコつけるもんだろ?」 「まぁ、今度一緒に考えて擦り合わせていこう、うん」 サンダースのセンスを改めて実感したブラッキーは問題を先送りにする形で話を打ち切る。 「サイン新しくすんならそん時はぜひまた来てくださいッス!」 「お? もう勝った気でいんのか?」 「勝たないと次がないッスから。絶対負けないッスよ!」 「こっちだってきいろグミが懸かってるからな! 絶対勝つ!」 「懸かってるもの軽いなぁ」 2匹の釣り合わない意気込みにブラッキーは呆れ気味に呟いた。 そうこうして足跡を加えたサインを飾った後、3匹は揃って外へと移動する。 「前戦ってたらうちが壊れた時があってちょっと困ったんスよ。だからもうちょっと離れたとこで戦いたいッスね。いい感じのとこがあるといいんスけど」 そう言うとガーディは戦いやすそうな場所を探しにダンジョン内を適当にうろつき始める。ブラッキーとサンダースもそれに続く。 「それにしても今日はブラックサンダーさんとお話しできて感激ッス! 最後にカッケーとこ見せてもらうッスよ!」 「お望み通り見せてやろうじゃねぇの! 負けて後悔すんなよ!」 「今まで負けた時も感激とか本望って感じだったんで大丈夫ッス! もちろん負ける気はないッスけど!」 「筋金入りだね……」 そう話しながら少し歩くと、開けた場所へと辿り着く。 「お、この辺りとかいい感じッスね。どうッスか? もっと狭い方がよかったり何か色々ある方がいいッスか?」 「いやここでいいだろ。動きやすくていいんじゃねーの」 「だね。他のポケモンも見当たらないしとりあえずはここでいいと思う」 「よっしゃ! じゃーやるッスよー! お2人の勇姿目に焼き付けさせてもらうッス!」 こうしてようやく探検隊とお尋ね者の戦いが始まるのだった。
「何なんですかあの化け物は」 ギルド「あかいはね」の執務室、そこに代表のウォーグルと副代表のマグマラシ、そして依頼から帰還し報告に訪れたブラッキーとサンダースの姿があった。 「ははっ、いい反応だな。説明をめんどくさがった甲斐があった」 「そんな所に甲斐を見出さないでください」 面白そうに笑うウォーグルにブラッキーが冷ややかに返す。 「そりゃ勝ち目ない程度に強いかもしれないとは考えてましたけど、そういう次元じゃなかったんですけどあれ」 「瞬殺だったもんな。マジバケモン」 ガーディとの戦いは完敗に終わった。ブラッキーとサンダースの攻撃は感嘆の声と共に全て受けきられ、一撃必殺と表現するに十分な攻撃が笑顔と共に2匹を襲った。 「まぁボク達でも勝てないからね……」 マグマラシの言葉にウォーグルがうんうんと頷く。 「代表達でも!? お二人の事だからてっきり見逃した側かと……。どんだけ強いんですか……」 「あいつこっちが空飛んでんのに跳んで届きやがるからな」 「えぇ……やっぱ化け物じゃないですか……というかそういうのは行く前に教えて欲しいんですけど」 「言わなかったからお前達の面白い反応が見れてんだ。ファインプレーと言ってくれ」 「ほんと代表は……」 「なんか……ごめんね? こういう奴で」 呆れて溜息をつくブラッキーにマグマラシが苦笑いで謝る。 「まぁ代表がいい性格してるのは今に始まった事じゃないですから」 「つーかそんな強いんなら勝ってんのってホントPMD位じゃないッスか……?」 「答え合わせしてみるか? 他のギルドのも含めこれまでこの依頼を受けたチームをマグマラシに纏めてもらったリストだ」 「あの仔に勝った事あるってとこには印付けておいたから」 ブラッキーとサンダースはウォーグルからリストを受け取り目を通していく。 「どれどれ……うわめっちゃある」 「印が付いてるとこっつーと……やっぱ『PMD』に……『夢物語』、『エンドレス』……だけ!?」 「はい? 全部マスターランク以上のとこじゃないですか!」 「そうだな」 ウォーグルが淡々と相槌を打つ。 「しかもマスターでも印ついてないとこもあんだよな……」 「これでBは難易度詐欺にも程がありますよ……」 「そもそもこの依頼が詐欺みたいなものではあるからな。お前の事だ、どうせあいつの話聞いたんだろ?」 「まぁ、ちょっと」 ウォーグルの投げかけにブラッキーが答える。 「じゃあもう大体事情は分かってるな。ま、そういうあれで掲示板には貼り出してないって事よ」 「あの仔の話や様子的に放っておいても大丈夫そうなのと、あの仔に勝てるチームが今うちにいないってのが大きな理由ね」 ウォーグルのふんわりとした発言をマグマラシが補足する。 「あー確かに……とりあえずうちとしてはお尋ね者だけど放っとく感じのスタンスなんですね」 「そうだな。まぁうちで調子に乗り過ぎてる奴がいたら行かせたりはするが」 「うわぁそういう使い方……僕等そんな調子乗ってる感じに見えました?」 「今回はお前達が受けたいって言ったんだろーが。というかむしろ逆だな。お前達なら調子乗ってもブラッキーが諫めるだろうし別に今行かせてもいいかって感じだ」 「サンダース君はともかくブラッキー君は大分慎重な方だよね」 「オレはともかくってのはどう反応したらいいんスか……」 「あ、別に悪い意味じゃないよ。慎重過ぎてもあれだし2匹でバランス取れてる感じでいいと思うな」 「あ、そう……スか、はい」 サンダースが少し照れ臭そうに返すと、数秒の沈黙が訪れ、一区切り付いたと判断したウォーグルが口を開く。 「さて、他に何か質問は……いややっぱめんどくせぇな。情報は纏めてあるからあと何か知りたきゃ勝手に見るといい。何なら本人に聞きに行ってもいいしな。歓迎してくれるだろうよ」 その言葉と共にウォーグルはガーディに関する資料をブラッキーへと渡す。 「いや探検隊がお尋ね者と懇ろになるのは色々とまずくないですか」 「あの仔普通に最寄りの街にも顔出してるみたいだし大丈夫だと思うよ」 「えぇ!? お尋ね者なのに!?」 「実際その街のギルドがもう懇ろみたいなもんだからな、気にするだけ無駄だ。それでも気になるってんなら依頼受けて行けばいい。そんでまた瞬殺されてこい」 「余計な一言が聞こえた気がしたんですけど」 「そんな堂々と癒着してて何か問題視されてないんスか?」 「まぁ繋がってるせいで誰かが損したりはしてないから……」 「その資料読みゃ分かると思うがあそこは繋がっといた方が色々と都合がいいっぽいな」 「要はセーフなんですね。まぁ別に行かないとは思いますけど」 「え、行かねぇの?」 行かないというブラッキーの言葉にサンダースが驚いた様に聞いた。 「そりゃ行く理由もないし……何か聞きたい事でもあるの?」 「いやサイン新しくしたらまた来いっつってたし」 「あー、言ってたけど……それに応える義理もなくない?」 「いやーファンのお願いだぜ? 聞きたくなるだろ。アイツいい奴だし」 「ファンといっても彼は僕等のっていうより探検隊のって感じだと思うんだけど」 「それでもオレらのファンなのは変わんねぇじゃん。オレらも探検隊なんだから」 「それはまぁそうだけどさ……いやまぁ君がいいならその解釈でいいけど」 「じゃあサイン作ったら行くっつー事で」 はいはい、とブラッキーは呆れながら相槌を打つと、ウォーグルへと向き直る。 「えー、はい、じゃあ今回の報告は以上って感じですかね? 代表達の方が情報持ってんですから報告って感じでもなかったですけど」 「おぅ、ご苦労。面白かったぞ」 「お疲れ様」 では失礼します、と告げブラッキーとサンダースは執務室を後にする。 「うっし、じゃあ早速考えよーぜ。オレは別にあれでいいと思うけどな」 部屋を出るなり伸びをしながらサンダースが言う。 「サイン? 今から?」 「おぅ」 そんな急がなくても、と言いかけたブラッキーだが、早い内に再訪した方があの気恥ずかしいサインを見るポケモンも少なくなるだろうという事に気付き思い直す。 「確かに早い方がいいか……分かった考えてみよう」 そうして2匹は一緒に自室へと帰っていくのだった。
明くる日の事、底抜けに明るい声がとおぼえ山に響く。 「あー! また来てくれたんスね!」
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「うちのこお披露目会」というポケモン小説に出たうちの仔をプレゼンし合う企画がありましてね、プレゼンする為にはうちの仔が出る小説が必要なんですね。ただ良い感じのが私にゃまだ無かったのでうちの仔が出るお話を書こう! という事で書きました。この仔(https://twitter.com/cadomori/status/1229346220969037825)とこの仔達(https://twitter.com/cadomori/status/1100390413796429824)とこの仔達(https://twitter.com/cadomori/status/1189508690014920706)です。今は消えちゃいましたがモーメントにこういう感じのを纏めてたりしたんですよね。モーメント廃止はガチで悲しい……。 という訳でお尋ね者のガーディのお話。かわいい。もっとアホの仔にしたかったんですが、何故かちょっと利口になっちゃいました。難しい。今回初めてキャラから話を作るという事をやったんですがめちゃくちゃ難しいですね。私には向いてなさげ。というか長いですね。自分で読み返すのが面倒になる長さ。自分こんな長いの書けたんだなという感じもありはしますが削れる所は結構ありそうですね。 まぁ何はともあれうちのこお披露目会でガーディ君プレゼン出来たら良いですね。でもこれネタバレなしでプレゼンするの無理では……?
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