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  [No.3841] ずっとむかしのはなし 投稿者:焼き肉   《URL》   投稿日:2015/09/27(Sun) 14:39:01   127clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:エモンガ】 【シンボラー

 やあ、よく来たのう。ちっちゃなエモンガには、このデザートリゾートまで飛んでやってくるのは大変だったろうに。
 ……ああ、子ども扱いしてはいかんな、すまんすまん、そう怒らないどくれ。深い意味はないんじゃ。なにしろここは、元々住んでいるポケモンですら難儀するような環境じゃから、素敵な客人であるお前をねぎらったのじゃよ。
 本当じゃよ、この前なんぞはズルッグの若造がしっぽだけ出して後は砂に埋もれたマヌケな格好でいたのを、このシンボラーじいさんのサイコキネシスで助けてやったくらいじゃ。慣れとるとはいえ、やはり厳しい環境じゃからなあ。

 そうそう、今日は何を話してやろうかのう。おっと、その前にオレンのみで作ったジュースをお飲み。すなあらしで疲れた体に聞くぞい。モモンのみで甘めにしておいたから安心しとくれ。おっと、これは子ども扱いじゃないぞい。モモンのみは解毒効果もあるからのう。そして飲みやすい。これは大人のポケモンでも人間でも、一石二鳥の知恵として、ずっとむかしから使われている調合法なんじゃ。

 お前さんくらいかわいい、じゃないのう、親しみやすいポケモンなら、野生の個体でも人間に甘くておいしいお菓子をもらったことくらいあるじゃろう? あれもな、砂糖というモモンの実と同じ、甘い味のものが入っているからおいしいんじゃ。苦すぎたり酸っぱすぎたり辛すぎたりする実に、モモンのみを混ぜるというのは、このお菓子を作るのと少し似ておるな。

 この場合、調合というよりはお菓子を作るのと同じように調理、料理と言った方が正しいかもしれんのう。混ぜるのに失敗したところで、人間の見るテレビのコメディアニメのように爆発はせんからな。じゃがそれなりに分量を考えてしっかり混ぜないと、全くモモンのみの味がしなかったり、逆に元の味をすっかり打ち消してしまったりと、混ぜない方がよかったようなことになりかねんのう。
 何? オレンのみのからいのやしぶいのや苦いのは、すっかりなくなってしまった方がいいと? フォッフォッフォ、おいしい甘さに正直なお前さんは、まだまだかわいいおチビさんじゃな。
 
 まあまあ、そう怒るでない。またお話をしてやるでな。何を話そうか……ああ、そうじゃな、さっき少しだけ触れた、この場所、デザートリゾートのずっと昔の話でもしようかのう。
 昔はまだ、この場所もこんなにすなあらしが酷くなかったし、人もいっぱい住んでおったんじゃ……。

 ○

 おまえさんのご先祖さますらまだいたかも怪しい、ずっと昔の話じゃ。ここはとても緑が豊かで、三歩歩けば木の実のなる木にぶつかるくらいじゃった。……よだれが垂れておるぞ。腹がすいたんじゃな。フォッフォッフォ。なーに、砂漠を越えてくれば腹の九つや八つ減るじゃろうて。いっぱいリンゴがあるからたくさんお食べ。
 話が逸れたな。とにかく、ここは緑がいっぱいの素敵な土地じゃった。
 近くの湖は美しく、青いしなやかな竜まで住んでおった。
 頭の両側に、ちいさな白い羽があって、時々空まで飛んでみせるから、天使さまなどと呼ぶ人間もおったのう。
 さてお前さん、水と植物が豊かな場所を見つけたら、どうする?
 ……ふむ、腹ごしらえと水分補給は大事じゃな。さて次は? ……仲間に教える。
 仲間に教えた後、お前さんと仲間は、次にどうするかな?
 ……その通り、住む場所を移して、そこに定住するな。そして巣を作る。正解じゃ。
 わしらが食糧と水のある場所に住みつくように、人間も食料と水に困らない場所に住みつく。
 そしてわしらと同じように、集落を作る。
 しかし人間は良くも悪くもその先を求める生き物じゃから、そこで終わらないんじゃな。
 集落はやがて村になり、村は街になり、最後に大きな国となる。
 ポケモンの進化と似ている? はっはっは、確かにそうじゃな。
 そう、人間の住む場所はどんどん進化していくんじゃ。住む場所が進化するというのは、まったくもって面白いのう。
 そんなわけで、かつてのこの場所に人間が住みつき、国を作った。国と言っても地方そのものを指すのではなく、今だとシティくらいの規模じゃな。
 昔の人間は言い方が大げさ? わっはっはっは、こりゃかなわんわい。
 とにかく、国には大きな家、お城があってな。若いころのわしはそこで、城の警備をしておった。
 ずっと昔はポケモンと人間の区別があいまいじゃったからな、キチンとしかるべき報酬を受けて雇われておったよ。
 本当じゃとも、わしは優秀じゃったからな、賃金を貰える日には毎回革袋に金貨銀貨がジャラジャラじゃよ、じゃが多い? こりゃ失敬。
 む、信じておらんな、ちょっと待っておれ……ほれ、どうじゃ、キンキラキンがいっぱいじゃろう。
 おまえさんのような客人に出す食べ物なんかは、ここからあるルートを通して来ておる……んな貴重なもんを売っぱらっちまうのかとな? 金貨と銀貨はそのままでは食えんからのう。
 また話が逸れたな。ボディーガードの話じゃった。
 当時は王宮の宝を盗み出す、泥棒なんかが多かったのう。今もじゃが、今以上に当時は美しい宝石が富と権力を示すステイタスとして強い位置に陣取っておったからな。
 わざわざ予告状を出してから盗みに来る、今で言う怪盗なんかもおったぞい。なーにを驚いておる、なにも怪盗は、人間が読んで楽しむ物語の中にだけいるのではないぞ。
 都市の方では、今でもそんな輩がいるそうじゃな。
 しかし昔は紙なんてもんがなかったから、予告状が石版だったりしてのう。向こうは華麗に落としていったつもりでも、落とすときドガンとすごい音がしたり、予告状を落としていったところに立っていたポケモンや人間に当たってえらい騒ぎになったりしとったわい。
 笑うでない。こちとら痛かったんじゃい。石なんかぶつかった日にはダメージ二倍じゃぞ! お前さんとて他人ごとじゃあるまい。
 しかし、コソコソ嗅ぎまわるコソドロよりも、怪盗達は手ごわかった。
 体型と声さえも変え強固な警備をくぐり抜け、追い詰めた城の見張りを突如発生させた光で目をくらませ、城の最上階から飛び降りても颯爽(さっそう)と空を飛翔し、逃げていく。
 何度か負けたこともあったが、逆にボロボロのコテンパンにしてやったこともあった。
 怪盗も、好みのものを集めたくてしかたないという、自らの蒐集癖に身を任せるような奴や、盗まれたものを取り返す義賊めいたやつもおったな。
 ん? 盗みをするようなやつのもとで、何故働いていたと? 雇い主の王さまは、わしらポケモンには優しい人間であったからな。
 王さま本人が盗んだのではなく、民衆から宝を巻きあげた権力持ちのやつが、いいとこを見せようと、王に巻きあげた宝を献上したりもしていたから、そのあたりもややこしいんじゃ。
 ある人間には悪人だからといって、こっちにも悪い人間とは限らんということじゃ……難しいかのう?
 しかし働いた後に金を出してうまいもんをたらふく食うのは悪い気分じゃあなかった。夜の酒場で竜も鳥も人間も獣も、わしのような鳥かなんだかわからんものも入り混じって、くだらん話をしながら馳走を食うのはな、何もかもが入り乱れていながら、何もかもが揃っていたような気もする。
 
 ずっと昔は、ここいらで騒いでいた、人間たちの革命組織がなんやかや言っていたことに近いことが、ごく自然に行われていたわけじゃな。
 何故それがなくなってしまったのか? それはわしにもわからん。考え方も姿も生態も違うということに、誰かがハッキリと気づいてしまったのが始まりか。
 科学というものが発展すれば、良くも悪くも同じではいられないのかもしれんな。
 ポケモンと人は会話が出来ない、というのも理由の一つかもしれん。無論、テレパシー等を通じて喋れる種族もおるし、身振り手振りや鳴き声でも大まかなコミュニケイションは出来るじゃろう。
 じゃから決定的な理由というのは断絶されてわからない。当時と結果があるだけじゃ。
 始まりがあれば終わりもあると言ったのは誰じゃったか。年を取ると忘れっぽくていかんのう。
 
 わしのいた城にも終わりはあった。日に日に膨れ上がっていく国はやがて、領土争いの末に戦争を起こした。
 それで怒り狂ったらしい雨と雷の神が、この場所を暴れ回り、何もかもを土砂と雷で流してしまった。
 後には何も残らんかった。この場所の砂の中に眠る、城以外はな。
 戦争中はいろんなことがあった気がするが、あまり覚えておらん。人間だけでなくポケモンも、つらいことは忘れるように出来ておるようじゃな。
 それからずっと、わしはここにいる。時々、まだ城が砂に埋まっていない時のことや、人間の友人のことを思い出して懐かしくなるよ。
 それは一体全体どのくらい昔だったかと? さあそこまではわからん。キュウコンほどじゃないが、わしらの種族も結構な長生きでな。
 そのぶん数も少ないんじゃがな。
 自分たちだけになって、さびしくないかと? 仲間もいるし、こうしておまえさんみたいな物好きの優しいやつが、おいぼれじじいのとこに遊びに来てくれるからのう。
 長生きして、移ろう時の中に永く身を浸していなければ、おまえさんにも出会えなかったわけじゃ。
 なあに、このおいぼれじじいの過去を案ずることはないさ。
 何しろ、もう誰も覚えていないほど、ずっと昔の話じゃからな。