怪獣大決戦




 グラードンが目覚めたのは初めてではない。
 例えば昔からグラードンはカイオーガと戦い、永い眠りに入ったと言い伝えられている。「陸地を産み出したポケモン」――同じ言い伝えでそう評されていたことを知ったどっかの馬鹿な自然保護団体だか何かが活動の一環として、グラードンを目覚めさせて異常気象を引き起こし、周囲の都市を恐怖に陥れたのは記憶に新しい。
 その時復活したグラードンは、当時僅か十歳だったとかいうトレーナーによって「瀕死」の重傷を負って地に伏した。所謂ところの「戦闘不能」である。たかだか十歳の少年(少女だったかもしれない)が、「伝説」のポケモンを倒してしまうとは末恐ろしい話だ。トレーナーの世界はいつも、こういう「天才」によって彩られている。悪の組織が子供に倒され、トレーナー歴が一年にも満たない少年少女がポケモンリーグのチャンピオンとなる。その「天才」の出現に世の子供は色めき、自分も「天才」となることを夢見てポケモントレーナーの道を歩んで行く――。
 すっかりトレーナー主体の世の中になっちまったな。
 グラードンが復活したことによる日照りにさらされながらそんなことを想う。真冬だというのに気温は30度を超えているらしい。地球温暖化とかそんな可愛い話ではない。頬を伝う汗を袖で拭い、空を仰ぐ。雲ひとつない。
「一応仮にもこの国の命運がかかっているっつーのに、それでも主役はトレーナーなんだな」
 ふと、声を掛けられて視線を横に向けた。同僚が苦笑を浮かべて俺を見ている。
 そう、いつも主役はトレーナーだ。この国の防衛を任されているのは俺達なのに。戦闘が仕事なのは俺たちなのに。
「世の中は分かってないんだ」
 大げさに肩をすくめて見せる。
「ゴジラ以下怪獣もんの特撮じゃ、あり得ない負け方をするのがお約束になってる。要するに前哨戦であっさり負ける噛ませ犬役」
「はっ、違いねえ」
 でもまさか本当に怪獣と戦うことになるとは思わなかったなあ、と同僚が笑う。俺も軽く肩を揺らした。怪獣――まさしくその通り。ポケモンなんて、怪獣のひとつでしかないだろう。特にこの、離れ小島からいきなり出現して本土上陸を目指しているポケモンは、怪獣と呼ぶのが何よりふさわしいだろう。
「でも」
 同僚の顔が引き締まる。
「ただの噛ませ犬じゃ終わらねえぜ」
「ああ」
 頷く。
 俺達――陸上自衛軍ホウエン方面第四師団は。
 ただの噛ませ犬などでは、決してない。

 敵が来たことは日差しの強さですぐ分かった。
 装甲車に乗り込んでしばらくしてからのことだ。装甲車に冷房装置はついていない。強い日差しの中、装甲車はすぐ簡易サウナと化してしまう。だらだらと伝っていく汗をぬぐい、ともすればぼうっとしがちな頭を軽く振るう。
「こおりポケモンを配備してほしいよな」
 同僚のぼやきに頷きかけた時だった。卒然と日差しが強くなった。真夏のような肌の焼ける感触。息を飲む。来た。
 ほんの少しの高揚感。始まる、遂に。唐突に今から始まるこれは報復戦だという考えが頭に浮かんだ。何への? 誰への?
「オレ達はオレ達しかできないことをやろうぜ」
 同僚が嘯く。俺達にしかできないこと。それが何かは、誰も何も言わなかった。

 攻撃三倍の法則という言葉がある。有効な攻撃を与えるためには相手の三倍の兵力がいるという話だ。
「じゃあグラードンは一匹だからオレ達の圧勝だな」
「面白くねえぞ」
 実際数の上ではこちらの圧勝である。数の上での話が通用する相手なら。しかし相手は怪獣だ。
 俺達はグラードンを迎え撃つ形になる。この作戦の骨子は「グラードンを本土に上陸させない」ことにある。グラードンは「じめん」タイプ。海水に浸かっていると言う事が、それ自体不利になる。俺達は陸上から常にグラードンを攻撃する。あるいは海から、空から。戦闘機も配備されているらしい。たかがポケモン一匹に大がかりなことだ――などと言える相手ではないらしい。
 そもそもグラードンの通常の大きさは高さ三・五メートル、重さ九百五十キロだ。無論それなりに大きい方のポケモンではあるが、十メートル超のポケモンだっているのである。本来大した大きさではないし、自衛軍まで出張って来るような相手ではない。それこそ十やそこらの少年が倒してしまえるただの「ポケモン」だ。
 それが一体何をどうすればこんな巨大になるのだろうか。
 ハッチからそっと覗いた先に見えたのは、はるか向こう、それでもなんとか視認できる先にいる「山のよう」な巨体。赤い独特の甲殻、その隙間から除く丸く黄色い瞳。姿形はまさしくグラードンであるのに、その大きさはとてもではないが「グラードン」のそれとは比べ物にはならない。まさしく「怪獣」だ。要するにここに俺達が呼ばれた理由がある。別に怪獣と最初に戦うのは自衛軍の仕事だとかいう話ではない。重要なのはこの、奴が本土に上陸した先にある都市だ。既に住民の避難は完了しているが、グラードンに簡単に上陸してもらう訳にはいかない……というのは政治の話も多少絡むらしい。自衛軍は国の組織だ。自衛軍が動けば国が「行動した」ことになる。
 ところでポケモンリーグその他、ポケモントレーナーの在籍する各組織は国の組織ではない。有志のトレーナーが作った個人の団体だ。それは時に何とか言う自然保護団体のような冗談みたいな脅威を作りだしたりするが、概ね「有志」による「正義の味方」集団、非政府組織だ。それを動かすのは国ではない。さて、国民の生活を脅かす「怪獣」が現れて、政府は何もせずに有志の国民だけが動く、そんなことは許されるのだろうか?
 そんな俗っぽい事情に加えて、ポケモントレーナーを総括して束ねる組織が無いと言うのも大きな理由の一つになる。各ポケモントレーナーの在籍する組織が構成員に協力を要請したり、この件を聞いて有志がぼつぼつ集まることはあっても、結束の取れた「軍」が活動することはない。何せトレーナーは基本的に「個人」であり、団体戦をやったとしても多くて二人か三人のチームでしか戦わない。自衛軍に相当するような組織がそもそも存在しないのである。勿論普通のポケモンを一匹倒すだけならそれで問題ないのだ――「普通」のポケモン相手なら。
 つまり「怪獣」を相手にするのに、トレーナーが個人個人で相手をしていては足らないのである。一対一では間に合わない。それがこの「グラードン」だ。
 そして俺達は自衛「軍」として、グラードンに戦いを挑む。いや、
「本当に戦いを挑むのは後から来るトレーナーだけどな」
「ずるいよなあ、手負いのトコに止め刺す役だなんて」
「手負いにできるとも思われてないんだろうよ」
 俺達がこうしてグラードンに対して攻撃して本土上陸を防いでいる間に、トレーナー達がやって来ることになっているらしい。チーム戦闘の経験不足をどう補うんだか、そんなことは全く知らないが、とにもかくにもポケモンリーグ直属だか、ジムリーダーなんだか、そんな実力お墨付きな奴らがごろごろやって来るらしいというのも話に聞いた。
「アスナちゃんも来るとかどきどきするよな」
「いや、知らん」
 ジムリーダーのファンらしい同僚の妄言を切り捨てる。
 上昇を続ける気温とは反対に、戦場の空気は確実に冷えた物へと変わりつつあった。それに伴って、戦闘が始まる前独特のあの、体中の血液が沸騰するような感じが俺を襲う。
 使い古された言葉だが――戦いの火蓋が、切って落とされた。

 射撃できる範囲までただ一匹真っすぐ進んできたグラードンに対し、俺達自衛軍の布陣は大きく横に広がっている。その中でもグラードンの右斜め前方・左斜め前方・正面と三方向に大まかに別れていて、当たり前だが特に正面の戦力が厚い。俺達がいるのは左斜め前方、グラードンの右半身が見える位置だ。凹角陣地、あるいは鶴翼の陣と呼ばれている陣形で、グラードンを取り囲み集中して火力を浴びせることができる。これだとグラードンの気が変わって別の場所から上陸されたら目も当てられないのだが、俺達が待ち構えているのにも構わずグラードンは真っすぐ正面に進んで来ていた。いや、そもそも最初に離れ小島に出現した時から、グラードンは何かを目指すように一直線にこちらへ進んで来ていたようなのである。それが何故なのかは俺達末端の戦闘員には知らされていないが。
 ところでこれはポケモンにも当てはまる理屈なのかは謎だが、基本的に装甲というのは前が厚く、後ろ……つまり背中側は薄い。考えてみれば当たり前の話だが、普通攻撃と言うのは前に向かってするもので、進むのだってわざわざ後ろ向きに歩いて行く馬鹿はいない。自然、攻撃を多く受けることになる前の装甲が厚くなるわけだ。逆に、攻撃するなら背後か横から攻撃するのが望ましい。この陣形だと横方向から、グラードンが進んだ後には背後からの射撃が可能となる。一直線に馬鹿正直に進んでくる相手との交戦には効果的な陣形だろう。
 さて、これから俺達の仕事が始まる。
 戦車砲が火を噴いた。
 轟音と共に一斉に各方向から発射された砲弾がほぼ同時にグラードンに着弾した。
 この陣形を生かすのに重要なのは「集中射」である。グラードンの装甲、例えばあの赤い甲殻の部分は硬い。単純に個々の戦車砲で射撃しただけでは効果的なダメージは与えづらい。しかし一斉に集中して砲弾を受ければ、いかに硬い装甲であろうと無事では済まない。そして何よりそれだけ大量に射撃されれば、「生き物」であるところのグラードンは止まらずにはいられない、ということだ。
 予想通り、大量の砲弾を浴びたグラードンは束の間歩みを止めた。爆煙の先にうっすらと見えたその装甲は、当初の艶やかな赤みを失って所々砕けてひび割れている。砲弾を避けようとするかの如くその体を揺すり、体のわりに短い手足を振りまわした。爆煙が晴れるにつれ、手足を振りまわす動きは前へ進む動きに変換される。また歩き出す。所で、
 第二射。
 轟音、着弾、グラードンの動きが止まる。
 今回の戦闘の目的は「グラードンを上陸させない」ことと同時に「トレーナーがやって来るまでの時間を稼ぐ」ことでもある。つまりこれらの攻撃には「時間稼ぎ」という側面もあるのだ。俺達は「集団」という強みを最大限に生かして、「個」であるグラードンの動きを制限する。それが集中射撃であり、俺達の機動力であり、あるいはグラードン自身の鈍重さも多少関係する。
 轟音、轟音、轟音。
 絶え間ない。その間グラードンは一度も身じろぎもせず――、――身じろぎもせず?
 瞬間、グラードンがこちらを向いた。否、見たのだ。獲物を見据える獣の目で。
「おい、今すぐ後退しろ!」
「は、いきなり何言ってんだ?」
「良いから!」
 強引に同僚に装甲車を反転させる。勢いよく俺達の車両が走り出す。
 一瞬の後。
 鼓膜が破れるかというような音が響き、装甲車は吹っ飛び、もうもうと土煙が舞い、はっと気を取り直した時には俺達のいた辺り一帯の地面がむき出しになっていた。玩具のように戦車が転がっている。
「何だこれ……」
 装甲車から這い出した同僚が呆然と呟く。
「『カウンター』だ」
「は?」
「『カウンター』だよ、ポケモンの技の。敵から受けた物理攻撃のダメージを倍にして返す技。大量に砲弾を浴びていたから、こっちに返したのは単なる偶然だろうけどな」
「……でかかろうが何だろうが、ポケモンはポケモンか」
 同僚が溜息をついた。俺も溜息をつきたいところだ。しかしそんな場合でもない。
「問題はグラードンが『カウンター』を覚えていることさ」
「問題? それのどこが問題なんだ?」
 訝しげに同僚が問う。
「グラードンは人から教わらなければ『カウンター』を覚えないんだ。つまり」
「あのグラードンは誰かのポケモンだって言うのか?」
 後を引きとった同僚に頷く。離れ小島からの唐突な出現、何かを目指すような一直線の前進、あるいはそれが誰かが仕組んだものだとするなら分からなくもない。
「どうする、今からこの事実を報告しに行くか?」
「いや」
 同僚が首を振った。
「上の方の人間は多分、そういうことも全て知ってたと思うぜ」
「何?」
「そもそもずっとグラードンが一直線に前進してるからって、それを見越して布陣するっていうのがおかしいじゃねえか。相手は生き物だぜ。今まで決まり切った事してたからって、次もそんな行動を取るとは限らねえ。でも、誰か操ってる奴がいて、『前進しかしない』と仕組まれてるって言うんだったら話は違う。その進路に隊を配置すれば良いだけだからな」
「……」
「となればトレーナー達のために俺達が時間稼ぎする理由も分かる。どこだか目的地で、何がしかの準備の対策が取られてるんだ、多分な。その準備時間を稼ぐために俺達は戦ってるってわけ」
 同僚が大げさに肩を竦めて見せる。言われてみれば、統制が取れないの何のと言ってトレーナー達が遅れてやって来るというのは妙な話だ。深く考えなかった自分の方が馬鹿だ。
「しかし、グラードンの後ろに黒幕がいるとして、何を目的とした誰なんだ……?」
「そんなことオレが知るわけねえだろ?」
「……それはそうだが」
「どうだって良いよ。上の方が何考えてようが、どうせこの装甲車はもう使い物にならないし」
 吹っ飛ばされた衝撃で、装甲車はひっくり返っていた。周りには同じように死屍累々とした様相の戦車やら装甲車やら対戦車砲やらが散らばっている。勿論まだ健在で俺と同僚が話している間も戦車砲を打ち続けている戦車もいるが、ともかく俺達の周りでまだきちんと動けそうな車両は殆ど見つからなかった。
「逃げるか」
「そうしよう」
 一応の護身用に小銃を担ぎ、俺と同僚は内陸に向かって走り出した。

 山林の中から、俺と同僚はグラードンの様子を見詰めていた。
「何か口ん中にエネルギー溜めてるぞ。『ソーラービーム』か?」
「いや、恐らく『はかいこうせん』だろう。今は『ひでり』状態だ。ソーラービームならエネルギーを溜めるのにこんなに時間は食わないだろう」
「ああ、なるほど……わ、おい、見てみろよ。戦闘機が出てきたぜ」
 言われずとも俺もグラードンを注視している。グラードンに向かって一機の戦闘機が向かって行ったのも見えている。
 瞬間、グラードンの『はかいこうせん』が放たれた。閃光。真っすぐに、今の今まで戦闘機がいた空間を青白い光線が射る。紙一重の回避。すぐにその空間すら切り裂けそうな鋭い動きで反転し、――激しい咆哮。
 頭部ににミサイルを叩きこまれたグラードンの苦悶の声だ。緋色の鎧が砕け、痛みによじった体の動きが海面にさざ波を立てる。闇雲に手を振りまわす。もがくように、痛みを与えた根源を掴み取ろうとするように。戦闘機の動きは軽やかだ。闇雲な動きに絡め取られることなく空を舞い、そのしなやかな緑青に輝く肢体をグラードンの金色の瞳が睨めつけた。
 ここまで熱風が届いた気がする。
 『だいもんじ』を受けた戦闘機が墜落して行く。呆気なく、黒こげの塊と化した戦闘機が海へと一直線に。
「規格外だ……」
「何度も言ったけど、……怪獣だな」
 ポケットモンスター、ポケモン。普段愛玩用のペットとしてすら扱う彼らに、はたして俺達人間は技術だけで勝てるだろうか。否、勝てないのだから、
「トレーナーが来る事になってるんだよな」
「ああ、もう少しすれば来るはずになっている」
 太陽の位置で時刻を確認。そう、もう少しだ。人類の技術力だけでは、超常の力たるポケモンには勝てない。それを誰もが認め、誰もが知るからこそ「トレーナー」達がこの場を訪れることになっているのだ。悔しいが、――現実。
 そう、今日の俺達自衛隊の仕事は時間を稼ぐことだ。各地のジムリーダーやリーグトレーナー、あるいはそれ以外の力を持った誰か――悔しいが、戦車砲も戦闘機もポケモンの前には無力だ。例えば今、大量の砲弾を受けたはずのグラードンは、悠々と本土への歩みを再開している。
 装甲を貫けない。攻撃の威力で勝てない。技で全て弾かれる。
 自衛隊の存在の是非は何度も問われてきた。いや、自衛隊の存在の是非ではなく、武力の是非と言うべきか。つまりこういうことだ。「その兵器はポケモンではだめなのか」?
「俺達は弾幕になるために来たんだ」
 それがどんなに意味が無くとも、グラードンの装甲を貫けなくとも、技で弾き返されてしまったとしても。眼球や口、ほんの少しでも露出させた部分のある生き物である以上、撃たれた砲弾を全て気にせずに歩むことはできない。技で弾き返せば僅かなラグが生まれる。それはひとつひとつは些細な、僅かなことだ。でも、集まれば。何度も、絶え間なく砲弾を撃てば。グラードンに本来のスピードで歩くことは、できない。
「食い止めなくて良い」
 爆音は止まない。
「トレーナーが来るまでの時間稼ぎだ。――その意味では上出来なんじゃないのか。ずっとこの場に引きとめている」
「まあ正直、逃げ出したオレ達に言えることなんか何もないだろうけどな」
 同僚が肩を竦める。俺も口角を上げた。弾幕になるために来て、弾幕にもなれずに逃げ出した俺達。本当の役立たず、か。
 グラードンが迫る。グラードンの出す技の衝撃派で戦車が吹っ飛んで行った。一つのバリケードなのだ、踏みつぶされて足跡になっても。そう、だからポケモンじゃ駄目なんだ。ポケモンじゃバリケードになれないだろう? 弾幕になることはできないだろう? だって、
「トレーナーが来たぞ!」
 同僚が俺の肩をゆすった。一拍遅れて、グラードンに閃光の塊が叩きつけられたのが見えた。それを期に次々と技が――ポケモンの「技」とおぼしき物がはなたれていく。轟音。爆煙。
 ああ、やっぱりポケモンでは駄目だ。弾幕にはなれない。だって。
 煙の向こうで、轟音の先で、グラードンは。
 咆哮。
 轟き、渦巻き、俺の体全体にぶつかる、その声の主は。
 哂っていた。
 表情ではない。漲らせる力で、その一挙手一投足で、全身全霊をかけて放つ技で。グラードンは己の心の昂りを俺達に見せつけていた。満足げに。やっと相手を見つけたと言うように。だからポケモンは弾幕にはなれないんだ。ポケモンだけでない――トレーナーもみんな。戦う事を楽しみやがる。心の底から悦んでいる。やつらに弾幕になり切る事なんて、できるわけがないじゃないか。
 そして、そう、俺達はこれでもう覚るしかない。
 今、この瞬間、閃光が光ったその刹那から。ポケモンの『バトル』が始まったのだ。ここから先、俺達自衛軍は踏み入ることができない。弾幕を貼るときは終わった。
 『バトル』の始まりを悦ぶグラードンの向こう、砲弾に撃たれながらも進んできたヤツの背後には、大量の「足跡」。砲弾として、弾幕となって、グラードンの『技』の元踏みつぶされて来た自衛軍達。食い止めることはできたかもしれない。足跡にはなれたかもしれない。
 グラードンと闘うトレーナー達を見る。この先に「足跡」が付く事は無いだろう。今からこの圧倒的な力を持つ「怪獣」と闘うのは、同じく圧倒的な「怪物」達なのだから。
 ふと見ると、砂浜についていた俺と同僚の足跡が、波と風に攫われて消えていくところだった。




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