空を望む人影 僕が生まれて初めて見たものは高い高い空をかけて行く大きな生き物だった。 気がつくと荒野に一人たたずんで空を見上げていた。守ってくれる親や仲間などいなかった。 ひ弱な手足、頼りない身体。逃げ隠れこそこそ生き延びるための食事をし、少しの安心で睡眠をとる。 頭の中はただ一つ。 あの空へ行きたい! どうすれば昇れるのか、どうすれば届くのか……。 わからない。ただただ前に進んだ。前へ前へ。空へ空へ。 「お前には羽がない。あの高い場所まで手が届くことは一生ない」 いつだったか前しか見てなかった僕に誰かが言った。 「お前ができることは足跡をつけることだけだ」 言われて気づく。確かに空を駆ける者はすべて羽をもっていた。 僕は失望を感じた。それは僕にはついてない。 悲しいカナシイ。ただただ歩く日々が続いた。 下を向いてとぼとぼ。とぼとぼ。涙の足跡が僕に続く。 そんな日々の中、寝床にした暗い森の中、木に張り付いていた物から羽が生え、木から、地面からふわりと、 飛んだ……。 見た! 見た! そうだ! 僕たちには進化がある!! 今はひ弱な手足、頼りない身体だけどいつかきっと力強くなる! 羽もきっと手に入る!! そうだ。まだだ。まだまだ。前へ! 前へ! 空へ。空へ。 そうして歩き続けているうちに僕は大きくなった。 手足が大きく身体が逞しく。しっぽだって太くなった。 そして……羽は……。 僕はいまだに空から遠く、相変わらず地面にへばりついて足跡をつける毎日。 結局あそこに行くことができなかったのだ。 それでも……と僕は再び歩き出す。 僕は大きくなった。強くなった。ならば力強く生きていこう。 空には手が届かなかったけれど、この広い大地にたくさん足跡を残していこう! あの大きな空から僕が分かるように。 僕は僕のやり方であの空を目指そう。 (767文字) 〔作品一覧もどる〕
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