旅ポケ『ド-ブル』の見聞録




 この世には世界中のポケモンに出逢いたいと、旅をしている人間がいる。
 俗に言うポケモントレーナーという者の他には世界中のポケモンと出逢いたいと、旅をしているポケモンだっている。

 ベレー帽のような頭で、長い尻尾の先端は絵筆のような形をしており、そこから文字や絵の産声が上がる。
 彼の名はドーブル。
 世界中のポケモンと出逢う為に世界中に足跡を残して来たポケモンだ。
 


 がさこそと震えるような音は多分、誰かを誘っているかのような音。
 ボクはその音の源に逢おうと、件の茂みをかき分け――。
「ねぇ! 君、見たこともないポケモンだね!」
「あ……はい。え……と?」
「ボクの名前はドーブルって言うんだ! 君の名前はなんて言うの?」
「わ、わたしですか……?」
「うんうん! 君の名前、教えてよ!」
「は、はい……わたしはタブンネといいます……」
「タブンネさんかぁ……あぁ、それで早速、頼みごとがあるんだけど、いい?」
「……なんでしょうか?」


「君の足跡、取らしてくれない?」


 用意した紙にタブンネさんの右足が静かに乗る。
 可愛らしい音が一瞬した後、紙の上に現れて来たのは一つのハートだった。
「ごめんね。いきなり頼みごとなんかしちゃって。あぁ、そうそう。
 そのインクは本当に水で簡単に落とせるから心配しないでね」
「では……ちよっと洗ってきますね……」
 恥ずかしそうにタブンネさんは微笑むと、ゆっくりと立ち上がって川の方へと向かって行った。
 タブンネさんのふわふわんな尻尾が小刻みに踊っていて、とても可愛い。
 それにしても……タブンネさんかぁ。
 ハート形の足跡かぁ……とても可愛らしいなぁ。
 紙に映ったタブンネさんの足跡を改めて眺めながら、ボクは尻尾を揺らしていた。
 恐らく、今のボクの顔は生き生きしているに違いない。
「ただいま……戻ってきました……」
 どうやら嬉しさあまり、時の流れを忘れていたらしい。
 川から戻って来たタブンネさんがいつの間にか、ボクの隣に座っていた。
「あ、タブンネさん。本当にありがとね! おかげでいい足跡がまた増えたよ!」
「いいえ……そんな、わたしはただ……その白いモノに、足跡を残しただけですよ……」
 両腕を後ろに回して、もじもじさせながらタブンネさんが答えてくれた。
 瞬きの数も忙しそうに、さっきから増えているような気がするんだけど。
「……あ、あのドーブルさん。一つだけ、聞かしてくれませんか?」
「うん? 質問ってこと? なんでも聞いていいよ? さっきのお礼は後で渡しておこうかな」
 お礼にとびっきりおいしいモモンの実を出そうとしてボクは手を止めた。
 そしてタブンネさんの小さな唇が動いた。
「ドーブルさんは……旅をしているかたで……。
 そして、足跡を、集めているみたい……ですが、どうしてなのですか……?」
「それって、ボクの旅の理由ってことでいいよね?」
 誤解防止の為にボクは確認する意味を込めてタブンネさんに尋ねてみると、
 彼女は首を縦に振ってくれた。
「ボクたちポケモンってさぁ、ポケモンという同じ名前なのに一匹一匹の姿形が違うじゃない?
 なんか、それにロマンを感じたというか、なんというか…………」

 ボクは産まれたとき、この世界のポケモンってボクと同じ姿をしたモノしかいないのではないかって思っていた。
 けど、そうじゃなかった。
 巣から外へ出てみるとボク以外の生き物がいた。
 ボクと同じポケモンと呼ばれているのに、その子は丸くて桃色の体をしていた。
 歌がうまかったから今でも鮮明に覚えているよ。
 心地よくて思わず寝てしまったら、思いっきり『おうふくビンタ』をされたことも、
「ワタシの歌をさいごまで聞きなさ〜い!!!」っていう言葉を浴びせられたのも覚えているよ。

「そしたらさ、世界中のポケモンってボク以外にはどんなヤツがいるんだろうって気になって
 気が付いたら旅に出てたんだ。そして……足跡はそのポケモンと出逢ったという、変わらない証として集めているんだ」

 ちなみにボクが足跡を押してもらう為に使っている紙は親切な人間からもらったものだ。
 人間は悪いヤツだから近づくなって母さんから耳にオクタンができるほど言われたけど、
 いざ出逢ってみたらイイ人もいたんだ。ポケモンと同じで人にも色々な人がいて、ボクの世界観がどれだけ小さかったことか、教えられている気がするなぁ、この旅は。

「大変……だったのでは、ないですか……? いろいろと……その…………」

 確かに色々と大変だった……って現在進行中だけど。
 心配そうにボクの顔をのぞき込んでくるタブンネさんの不安を晴らすかのようにボクは笑った。
 実際、旅は大変だけど苦しいことだけに限定されたわけではないしね。

「こうやって可愛らしいタブンネさんに出逢ったっていう嬉しいことだってあるんだから」
 タブンネさんの顔が若干、赤くなったような気がした……多分ね。

 ボクたちドーブルには不思議な技があるんだよ。
 『スケッチ』っていう技でね、相手のポケモンの技を自分のモノにできる技なんだ。
 それで、色々な技を自分のモノにしては自分の旅ができる範囲を広げていって…………。
 例えば……。

 ラプラスさんから『なみのり』や『ダイビング』などを『スケッチ』させてもらって、海にいるポケモン達に出逢ったりした。
 紙を使っている関係上、その場で足跡は取れなかったけど、代わりに鱗をもらったなぁ……。
 川辺付近のポケモンからは陸から上がってもらい、足跡をもらっていたりした。
 それにしても、あのラプラスさんは元気にしているかな。
 とても口笛が上手くて、思わず昔のことを思い出しちゃってさ……ちょっと涙が出てきたの覚えているよ。

 カモネギさんから『いあいぎり』を『スケッチ』させてもらって、細い木々を倒しては道を開いていったこともあるよ。
「いいかあぁぁぁあ!! いあいぎりぃ、とは! 侍の心を持ってぇええ!! 切り込むのだぞぉぉおお!!」
 ……協力してくれたカモネギさんはいつもテンションが高いお方……いや、かなりの熱いハートを持っている師匠で、 カモネギさん曰く、弟子入りの為の鍛練というものに合格しないと『いあいぎり』を『スケッチ』させてくれなかったんだ。
「侍のぉおお! 心をっ! 持たぬやつにぃいい! 中途半端なやつにぃいい!! この技はぁああ! 教えんっ!!!」
 …………恐らく師匠のおかげで根性という言葉が体の芯まで染みついたと思う。

 ゴーリキーさんから『かいりき』や『ロッククライム』などを『スケッチ』させてもらって、山や谷などにいるポケモン達に出逢ったりした。
 ウリムーさん達の案内で雪山の温泉に赴いたこともあったなぁ…………。
 雪山だったから、そこで出逢ったポケモン達と雪合戦をしたりとかしたんだ。
 そして寒い寒いと身を震わせながら再び温泉へ……本来は疲れを取る為の温泉だったのに、
 雪合戦と温泉の鬼ごっこで逆に疲れちゃった……けど、なぜだか心地よい疲れだったのを覚えているよ。
 ……また、皆と雪合戦したいなぁ……

 ピジョンさんから『そらをとぶ』を『スケッチ』させてもらって、空にいるポケモン達に出逢ったりした。
 空を飛ぶ感覚って、まるで自分が雲になったかのようで摩訶不思議なんだよね。
 そして空を飛んでいるポケモンたちには悪いんだけど、足跡を取らしてもらう為に地上まで降りてもらったこともあったなぁ……。
 あっ、そうそうボクは普段は歩いて旅をしているんだけど、ある程度、足跡を映してもらった、または絵を描いたりした紙がたまると、一回、自分の巣に戻っているんだ。
 荷物がかさばるといけないしね。
 その巣に戻る際に『そらをとぶ』が結構活躍するんだよな、これが。

「……あの、いつも空を飛んで移動すれば……いいのでは……ないでしょうか……?」
 ボクの冒険談を聞いていたタブンネさんからもっともな質問が飛び出てきた。
 確かに、普段から『そらをとぶ』を使えば楽かもしれないけど……。
「う〜ん……それなら空を飛んでいるポケモンには簡単に出会えるけど、逆に地上にいるポケモンたちには会いにくくなるから、いつも……というわけにはいかないんだ。
 それに、ボクは空を飛んでいるより、こうやって地上を歩いて行くほうが性に合うしね」
「……ふ、ふくざつな事情があったの、ですね…………」
 心配そうな顔を見せるタブンネさんを安心させるかのようにボクは微笑んだ。
「そんな深刻な問題じゃないから大丈夫だよ。要は適材適所ってやつ……って言って、分かるかな?」
 タブンネさんの頭の上から疑問符が浮かび上がったかと錯覚したぐらい、タブンネさんの青い瞳はきょとんとしていた。
 それがとても可愛らしいものだったから、悪いと思いつつもボクはつい笑ってしまった。
「それと言い忘れてたけど、ボクは歩く方が好きだからさ」
「歩くのが……大好き、なんですか……?」

「うん、大好き」
 ボクは自分の足を示しながら答えた。

「歩くとさぁ、地面に足跡が残るでしょ? ……ボクはその足跡が大好きでね。
 なんか……自分の物語を残してきた感じがして、ボクにとっては自分の足跡を見ることで、
 生きている……っていう想いと感覚がすごくするんだよ。
 色々とある、生きている、という絵を描くということの一つに、きっと足跡があるんだって思った瞬間に、すっごいロマンを感じてね。
 ……それ以来かな、歩くことが大好きなったのは」

「なんか……カッコイイですね、ドーブルさんって…………」
 ボクの話を聞いたタブンネさんが感心したかのようにボクを見つめてくる。
 うわ、わわわっ。
 女の子からそんなに見つめられるとボク、困るんだけどなぁ……と言いたげにボクの尻尾は揺れていることだろう。

 あ、ちなみに誤解がないように補足説明をさせてもらうと……。
 足跡がないヤツは駄目なヤツ、というわけではなく、本当に、ただ単純にボクが足跡大好きポケモンというだけの話で、
 出逢ったポケモンに足跡を取らしてもらっているのはボクの大好物が足跡、というのと、それと、もう一つ、この方法の方が相手に時間をあんまり取らせなくていいかな、と思ったからである。
 ……ボクは一応、絵描きができるけど、早く描くというのが苦手というか、
 ついつい凝っちゃって、時間がかかってしまうんだよね。
 納得いかない! って感じに。
 ……足跡を持たないポケモンに関しては鱗などをもらう他に、その姿を描かしてもらうことがあるんだけど、
 時間をかけすぎないようにしなきゃ! って、いつも意識して描くようにしているから大変なときもあるんだ。

「……ドーブルさんは……とても絵が上手なんですね……」
 ボクがトートバックから出した、今まで初めて出逢ったポケモンに足跡を取らしてもらった紙と、ボクが描いたポケモンの絵をタブンネさんはまじまじと見ていた。
 ちなみにボクが使っているトートバックは森を連想させる深い緑色で、その身には誇りという名の汚れとボロをまとっていた。
 これも親切な人間からゆずり受けた物である。
「あの……よろしければ、わ、わたしの絵も描いてくれません……か?」
 いきなりのタブンネさんの提案を映したボクの目は丸くなった。
 今まで、自分からボクに描いて欲しいと言ってきたポケモンが少なかったからである。
「す、すいませんっ。……だ、だめでしたら……」
 しゅん、とうなだれそうになるタブンネさんにボクが慌てて声をかける。
「い、いや! 突然の提案で驚いただけで、もちろん、大歓迎だよ!」
 その言葉を聞いたタブンネさんの顔色が明るくなったような気がした。
 ……タブンネさんって分かりやすいところもあって、本当に可愛いなぁ。
「じゃあ、描かせてもらうね」


 真白の紙の上で踊り続けてくれたボクの尻尾は、可愛らしい桃色、独特な柔らかい肌色、ふわふわで甘い白色、そして癒されそうな青色を紡ぎ、
 一匹のタブンネさんを描いた。
「あ、ありがとう、ございます……! こ、これ、ほんとうに、もらってもいいんですか……?」
 タブンネさんが大事そうにボクが描いた絵を優しく抱きしめるように持ちながら尋ねてきた。
「もちろん。こっちも喜んでもらって嬉しいよ」
 さて、タブンネさんも喜んでもらっていることだし、これでめでたしめでたし……という頃には、もう月が昇り始めていた……って今夜はどこで泊まろうかな……と迷い始める。
「あ、あの今夜は、ぜひ、わたしのところで休んでいって……ください……」
「え? いいの?」
「は、はい……狭い場所かも……しれませんが……」
 折角のタブンネさんのご好意を無駄にしたらいけないし、それと正直言って、こんな可愛い子と一緒に寝られる機会なんて……そうそうないしねって言ったら怒られるかな?
 とりあえずボクはタブンネさんの住みかに案内してもらうことにした。


 タブンネさんの案内でボクがたどり着いたのは一本の大きな木。
 その大きな木の幹には穴が開いていて、その中の空間は二匹ぐらい入っても大丈夫そうであった。
 更に暖かそうなワラがしきつめられていて、くつろげそうな雰囲気がそこにはあった。
 夕食の時間、ボクは渡そうと思っていたモモンの実を『ひのこ』で少しあぶり、タブンネさんにごちそうした。
 程よく熱が通ったモモンの実から……とろけるような甘い蜜が口の中に広がる。
 タブンネさんも青い目を一気にキラキラと輝かせるほどの衝撃を受けたらしく、大絶賛してくれた。
「……ドーブルさん、ちょっと、いいですか…………?」
 夕食を食べ終わると、後はもう寝るだけかなと思っていたところに、タブンネさんの顔がボクに近づいてきた。
 タブンネさんから先程のモモンの実とは違う、甘い香りがしたような気がした。
 なぜだかボクの心拍数が速度を上げているような感覚が……。
「ちょっと……失礼しますね……」
「え?」
 戸惑っているボクをよそにタブンネさんは耳から垂れている、先端が可愛らしく、ぐるっと曲がっているモノをボクの体に当てた。
 そのままタブンネさんは目を閉じて…………しばらくすると、ゆっくりと目を開けた。
「…………少し、疲れ気味、のようですね……少しばかり、ここで、休まれていっては……いかがですか?」
「……………………」
 タブンネさんの真剣な青い眼差しを受けて、ボクは、もしかして…………と思った。
「す、すいません。いきなり、そ、その……わたしたち、タブンネはこの耳の触覚で、相手の体調を……調べる……ことができるんです……」

 …………。

 ……これは、多分、ばれたかも。

 う〜ん、今まで秘密にしてきたことなんだけど……実は…………。


 ボクの命はもう数年ぐらいしかないらしいんだ。


 あれは……数ヶ月前、ハピナスさんに出逢ったときのことかな。
 足跡を取らしてもらったとき、ボクはどこか、体調がだるかった。
 心配をかけさせないように、ボクはポーカーフェイスを顔に描いたつもり……だったんだけど、
 それを見抜いていたんだろうね、きっと……ハピナスさんは。
 すぐにボクの体を調べると言って、診査をしてくれた結果――。

 ……ボクの命は、もって、後、三、四年らしい。


 そう、ハピナスさんが告げたのだった。


「ごめんね、心配かけさせちゃって。でも、ボクは明日の朝には出発するよ」
「えっ!?」
 タブンネさんの青い目に驚きの色がにじみ出ていた。
 ……これはもうカンペキに、タブンネさんは知ってしまったとみて、間違いなさそうだった。
 タブンネさん自身、なんて言えばいいのか分からないのかもしれない。
 気まずい沈黙の間が降り注いでくる前に、ボクは自分の意思を言うことにした。
「これまで……色々なポケモンに出逢ってきたけれど……タブンネさんは伝説と呼ばれるポケモンを知っているかい?」
「でんせつ……ですか?」
「うん。人間たちやポケモンたちの間で語り継がれているだけで、実際に姿を見たものがあまりいないポケモンのことなんだけど……。
 そのポケモンについての有力な情報を手に入れてね、それを元に、これから、そのポケモンがいるって言われているところへ行くんだ」
 ポケモンの中でも伝説とも言われているポケモン。
 真の姿は分からないものの、その伝説という言葉だけで新たなロマンを感じさせてくれるポケモン。
 一体どういうポケモンなのか、手足を持っているとしたらどんな足跡なのか、それを見ないまま、死ぬのはごめんだった。
 ……まぁ、ご覧の通り、ボクは最期まで新たなポケモンを求めて、新たな足跡を求めて旅を続けることだろう。
 それが使命とか、宿命とか、そういう堅いものじゃなくて、
 ……まぁ、もちろん、世界には色々なポケモンがいるということを知ってもらいたいという気持ちは少なからずあるけど。
 ボクみたいにさ、自分の世界を広げていってほしいなっていう想いもある。

 だけど、一番の理由は――

 大好きなこと、だからかな。

 そうじゃなかったら、今まで、ここまで、足跡をこの世界につけてこなかったと思うんだ。


「……あの、ドーブル、さん」
 ボクを見ていたタブンネさんの青い瞳が若干、うるんでいた。
「……そ、その、『スケッチ』と、いう、わざは、まだ……つかえ、ます、か?」
 今にも泣きそうなタブンネさんだったが、必死に青い湖からあふれ出そうな雫を押さえ込んでいた。
「うん……まだ二、三回使えるはずだよ」
 自分のだいたいの感覚から数値を出したボクに、タブンネさんが微笑みを努めようとした。
「よ、よろしけ、れば……わたし、の……『リフレッシュ』と、いうわざを『スケッチ』して、くだ、さい……」
 タブンネさんが声を上げて泣くことはなかった、しかし、その青い湖から数粒が空中へと羽ばたいた。
「きっと……くるしく、なった、とき、に……やくに、たつ……と、おもい、ます、から……」

「ありがとう……タブンネさん」

 ボクは感謝の気持ちを込めてタブンネさんを抱き締めた。




 翌朝、青い空が大きく広がっている中、彼――ドーブルさんは新しい足跡を一歩一歩つけながら出発しました。
 わたしは迷いました。
 ……あのとき――ドーブルさんを初めて見たとき、とても嫌な予感がしました。
 そして、その嫌な予感は当たってしまいました。
 わたしはドーブルさんを止めたほうがいいのではないかと思いました。
 これ以上、自分の体を傷つけて欲しくなかったから……単なる、わたしのわがままだった想いかもしれませんが。
 しかし、わたしは迷いました。
 ドーブルさんの足跡を止めるようなことをしてもいいのだろうかと。
 彼の言う生きている証や想いを消してしまってもいいのだろうかと。
 ………………結局、ドーブルさんの意思が強かった。
 わたしなんかでは、止めることができなかった。

 ………………。

 わたしは、ドーブルさんに出あえて、誇りに思っています。

 どうか、彼が一つでも多くの、足跡を残せるように。





 この世には世界中のポケモンに出逢いたいと、旅をしている人間がいる。
 俗に言うポケモントレーナーという者の他には世界中のポケモンと出逢いたいと、旅をしているポケモンだっている。

 ベレー帽のような頭で、長い尻尾の先端は絵筆のような形をしており、そこから文字や絵の産声が上がる。
 彼の名はドーブル。
 世界中のポケモンと出逢う為に、世界中に足跡を残して来たポケモンだ。

 今、私たちが様々なポケモンを知っているのは、
 旅ポケ『ドーブル』が残してくれた足跡が起こした、キセキなのかもしれない。





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