始まりの産声




  ――亀裂ができた硬い音がした。


次の瞬間、完全に目が覚める。全てが覚醒する。身体全体に力が漲ってくる。そして、宿命が追い掛けて来る。それが目の端に見えた時、自分の立場を思い出す。誰に教えられたのでもない、自分の誕生と共に生まれる使命。自分が背負う絶対のもの。無意識の咆哮が周囲に響き渡って、ついに、自分は。



自分は、生まれる。



何かが音を立てて割れるような、スイッチが入るような、轟音であり囁きでもある不思議な始まり。真っ暗だった世界が開けた。罅で砕けた硬い殻が自分から離れていく。そしてゆっくり形を成す。それを待つひと時の間、自分は、虚空を見つめていた。何かが潜んでいる――そんな沈黙。自分は独りぼっちだった。しばらく吸い込まれそうになりながら闇を眺めていた。気付けば殻の塊は一六に分かれ、光を帯びている。それらはひとつずつ別の色に煌めいて、自分の身体の周りをゆっくりと旋回していた。瞬きをひとつした。すると無限の星屑が真空に輝き始めた。息を吐いた。すると青い星が現れた。全ては自分の手の中だった。一六の内、緑と茶色の殻の塊――プレートに力を与えると、星に米粒大の陸が浮かび上がる。



そしてリズムを刻むように前脚で宙を蹴った。タンタンタンと三度軽やかな音が響いたのに連れ、自分の身体がふわりと揺らめく。しっかりと見据えると、自分の分身がふたつと影がひとつ、ぼんやり生まれていた。それらに息を吹き掛ける。分身はそれぞれ硬い宝石のように磨き上げられた龍に形成され、影は黒い霧が集まったような色の龍になった。しかし三匹はまだ瞼を閉じたままである。自分は三種類の光る石を背後の闇から取り出すと、三匹の龍にそれぞれ渡した。すると龍達は眼を開かぬまま、ゆっくりと青い星に飛んで行った。



更に、近くで精一杯煌めいていた小さな星屑を呼びだす。目の前に現れた星に、今度は念を掛けるように視線を預ける。すると星の塊はするすると丸くなり、白く小さなタマゴとなった。前脚で小突いてやると、タマゴはゆっくり動き、罅割れ、輝きと共に崩壊した。そして現れたのは抱き合うようにして誕生した三匹の守り神である。まだ目を瞑る赤と青と黄の、それぞれの頭に光る真紅の石が全てを悟ったように自分を見つめる。やがて、三匹も青い星へ飛んで行った。



最後にそっと優しく眼を閉じた。瞼の裏に桃色が見える。もう一度眼を開けると、そこには長い尾を宙に揺らせる桃色の小さな母神が浮いていた。蒼の瞳はしっかりと開き、こちらを見ていた。母神には早くも役目があるのだ――だから、既に目覚めている。自分は母神に青い星を見せた。それから頷いて見せた。すると母神は浮き浮きした表情で素早く星に飛んで行った。



自分はまだ未完成の宇宙を見た。



しかし必要最低限の誕生は終えた。



――青い星が母神によって活気付くまで、眠ろう。全ての完成は遠い未来の話だが、プレートに囲まれて全てを見守るのが自分の背負う役目であった。力は幾らあっても足りなかった。少しでも眠り、蓄えなければ。自分が送り込んだ神達を思い星を眺める。微かに振動していく生命の鼓動が地へ空へ宇宙へ自分へ伝わる。




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