Ultra Golden Memories やあやあ、よく来たね! こんな辺鄙な所まで人が来るのは珍しいよ。すごく久しぶりのお客さんだ。おじさんうれしいよ! さあさあ、座って座って。今からお茶煎れるから、ゆっくりしていってね! そうだ、どうせ来てくれたんだから、これを持っていってよ! おじさんからの贈り物、遠慮せず持ってって! ……え、どうして見ず知らずの自分にこんなものをくれるのかって? それはおじさんの過去と深い深い関係があるんだな、これが。 え、何、その話聞きたいって? 長くなるけどそれでもいいかい? ……いやいや、遠慮する必要はないよ! じゃあ話すね。 若い頃……って言っても今の君よりもっと年取った頃だけどねだけどね、おじさんはここよりずっと北の方、シンオウに住んでいたんだ。 そして、この頃おじさんには友達がいたんだ。……え? 今はいないのかって? そうだね。今は友達と呼べる人なんていなくなっちゃったよ。おじさん、いろいろやっちゃったからね。まあその話はもうちょっとしたらね。順序立てて話してくから。 その友達は、大金持ちだったんだ。ものすごい大豪邸だった。僕はよく遊びに行かせてもらったよ。お屋敷には執事やメイドさんがいて、庭にはたくさんの珍しいポケモン。本当に彼の家は豪華だった。羨ましいだろって、彼によく言われたもんだ。僕は正直に言ったよ。羨ましいって。そんな時、彼はいつも優越感に浸った満面の笑みを浮かべていたよ。自慢するのが何よりの喜び。そんな感じだったよ。 とはいえ、僕は彼の一番の友達だったからね。自慢もいっぱいされたけど、いっぱいよくしてもらえた。美味しいおやつを出してもらったり、珍しいポケモンと遊ばせてもらえたり。広い家中だいたいどこでも入らせてもらえたりもしたんだ。 でも、一部屋だけ入るなって言われた部屋があったんだ。気になるだろ? 当然僕も気になった。どうして入っちゃいけないのか、ここには何があるのか、何度も聞いてみたよ。でも彼は絶対に教えてくれなかった。気になるなぁと思いながら、僕は彼と過ごしてたんだ。 そして、ある日のことだった。たまたまあの部屋のドアが開いてるのを、僕は見つけちゃったんだ。ちょうどその時、友達はトイレに行ってたからね。その部屋に忍び込むには絶好のタイミングだったよ。 僕は部屋に入った。そして見つけてしまったんだ。金色に輝く、マニューラの像を。 それを見た瞬間、僕はその像に魅せられてしまった。いや、もしかしたら像に見入られてしまったのかもしれない。僕の心に何かが入り込んで価値観をすっかり変えていくような、そんな感じだったよ。とにかくその時、僕はこの像のことで頭がいっぱいになってしまった。この像を僕のものにしたい、ってね。 それで、僕は像を持って窓からこっそり抜け出したんだ。意外にもセキュリティ対策はされてなかったから、簡単に抜け出せた。もしかしたら、あの部屋だけ手薄だったのかもしれないけどね。あの部屋にあったのはあの像だけだったから。 後で風の噂で聞いた話だけど、彼の周りの人物……執事やメイドたちは、あの像から彼を引き離そうとしていたらしい。彼はあの像に狂ったように執着していたんだ。彼らは主人が像に魅了され壊れていくのを近くで見ていて、あの像が怖くなっていたらしい。だからこそ、盗まれてもいいようにあの部屋のセキュリティセンサーをこっそり止めてたのかもしれない。……まあ全部おじさんの想像でしかないけどね。 これも風の噂だけど、彼は僕に像を盗まれた後も、ずっとあの像のことが惜しくて惜しくてたまらなかったらしい。だから後に似たような像を作らせて、そして今度は、誰にも盗まれない……もっと言うなら触れさえさせもしないように、像を守るためだけに新たな警備員を雇ったらしい。 ……さて、おじさん自身の話に戻ろうか。 さっきもちらっと言ったけど、あの像はどうも曰く付きのものだったらしい。後で知ったんだけど、それはマニューラの悪魔という像で、見入られた人々を悪に染めあげていくという、恐ろしい像らしいんだ。 そして、おじさんも見入られた。友人の像を盗むというのがその第一歩だったのかもしれないね。 で、像を盗んだ後、僕は逃げたんだ。もちろんその友人からね。取り戻しにこられたら大変だ、像はもう僕のものだ! ……そう思ってたんだね。 そんなだったから、もう表社会では生きられない。そこで僕は、裏の社会とつながりを持つようになったんだ。つながりを持つのは簡単だった。こっそりと廃墟で隠れて暮らしていたら、やっぱり廃墟で暮らしていたその世界の人と出会ってね。それで生活を共にしているうちに、徐々に親しくなっていって、仲間にしてもらったんだ。 その中で、特に仲良くなった奴が五人いた。みんな身を隠して暮らしている人間だったから、本当の名前は知らない。みんな自分でつけた通り名で認識しあってた。 気のいい奴らだったよ。よく酒を飲んでは自分たちの夢を語り合ってたよ。 ロケットはただただロマンを求める男だった。宇宙に対しても、好きな理由は「ロマンがあるから」だった。まだ何もわからぬ未知の世界へ飛んでいくことがロマンなのだと、彼は語っていた。そしてその宇宙へと飛び出していくロケットに大きなロマンを感じていた。だから彼はロケットと名乗っていたんだ。 それに対して、マグマとアクアの二人は、この地球が好きだった。とはいえマグマは火山が好きで、アクアは海が好きと真逆だったけどね。でも仲はよかった。よく火山と海とどちらがいいかと酒を飲みながら喧嘩してたよ。でもいつも、気がついたら仲直りしてた。喧嘩するほど仲がいいって奴だね。 一番若いのはギンガだ。彼は無口で人付き合いをあまり好んではいなかったけど、それでも何かある時は一緒だった。若かったけど頭のいい奴でね。神話について語り出したら、誰にも止められなかったな。世界に関する興味が強い奴だった。 残り一人は、プラズマって奴だった。彼はポケモンが好きだった。この世界のすべてのポケモンと友達になりたい、そうしばしば言ってたね。 そんな奴らに対して、僕は何一つ語れるものを持っていなかった。でもそんな何もない僕に対しても、あいつらは優しかった。ちゃんと仲間にしてくれた。嬉しかったよ。 でも若干それをコンプレックスに感じてたのも、事実だった。語れるもの、好きなもの、目指すものがあって、羨ましかった。その頃はおじさん、趣味も憧れも何もなくって、ただただ普通に生きてきた人間だったからね。 ……いや、好きなものは一つあった。あの像だよ。でもあの像のことは、僕は誰にも言わなかった。言ったら誰かに取られてしまうかもしれない、そんな気がしてね。……うん。今思えば、あいつらのことを心の底からは信頼していなかったのかもしれない。悪人になってしまった自分だったけど、それでもあいつらとは違うと心のどこかで思っていたのかもしれない。……まあ、今となっては当時の正確な感情は思い出せないけどね。 そんなある日のことだった。マニューラの悪魔の存在が、五人に知れたのは。どうしてその像のことがばれてしまったのかは思い出せない。でも、とにかく何かの拍子に、奴らはあの像に出会ってしまったんだ。 それからというもの、大変だった。僕はあの廃墟にはいられなくなり、像とともにいろんなところを転々とした。あいつらはそんな僕……というより像を追いかけてやってきた。逃げ隠れする生活はしばらく続いたよ。長かったようにも思うし、今思えば、意外と短かったのかも知れない。とにかく僕は像を守るため、必死で逃げたよ。あのころの僕には、マニューラの悪魔が全てだったから。 でも、シンオウを抜け出してカントーに移って、しばらくした頃だったかな。結局は見つかってしまった。そしてあの五人は我先にと像を取り合った。 すると、大変なことが起こったんだ。取り合いでもみ合っているうちに、像が奴らの手から滑り落ちてしまった。そして像は見るも無惨に砕け散ってしまった。 そうしたら、驚くべきことが起きた。像の中から、何か黒いオーラのようなものが出てきて、それが五つに分かれて、それぞれあの五人の中に入っていったんだ。……え、嘘くさいって? 現実離れしてるけど、本当にあったんだよ! 信じてよ! おじさん、嘘つかない! それから、あいつらは変わってしまった。あいつら、よく考えたら、あのころはまだ悪ぶってただけだった。でも、あの日以来、あいつらは本当の悪になってしまったよ。 ロケットの奴は、悪どい方法でたんまり金儲けすることが、男にとって一番のロマンだって言い出した。マグマとアクアは、それぞれ大地と海で世界を埋め尽くすと言って、最終的には今までにしたことがないくらいの喧嘩……というより罵倒をして別れた。遠くの地方に行って世界征服を企んでいろいろしてるみたいだ。ギンガは新たな世界を作り出すと言い始めた。そしてプラズマは、ポケモンは人間に支配されているから、解放して全て自分の統治下に置くべきだって。大きいこと言いはじめて、みんなそれぞれ別れて、そして行動に移していった。今ではみんな大きい組織を作り上げていろいろやってるらしい。……まあ、これも風の噂だけどね。今となってはもう見知らぬ相手だ。 それで、像が砕けた時。もちろん、おじさんはショックだったよ。でも、中から黒いオーラが出てきたら、もうショックを受けているような事態じゃなかった。何が起こったかわからなくて、ただただ呆然としていたよ。 黒いオーラを浴びた後、五人はどこかへ行ってしまった。呆然とした僕と砕けた像を残してね。しばらくしてやっと判断力を取り戻した僕は、とりあえず砕けた像を拾おうとした。 その時だったんだ! あの像の欠片から、今度は白いオーラが出てきたのは。そして僕は白いオーラに取り囲まれた。きっとあれは、悪魔の中に潜んでいた唯一の善意だったんだ。うん。そうに違いないんだ! で、オーラを浴びた僕は思った。今までの僕は間違っていた。誘惑にとらわれて、一つのものに固執しすぎていた。だから、これからは何にも執着しないで世のため人のために生きよう。UGM……あ、アルティメット・グッドマン、つまりは究極の善人ってことね、になろう。そう思ったんだ! でも、まっとうな生き方からは、長らく離れてしまっていたからね。おじさんはどうやって生きていけばいいのやら、わからなかった。いきなり表社会に出ていけるはずもないからね。 とりあえず、手始めに僕にとって悪の象徴でもあった、マニューラの悪魔の破片を処分しようとしたんだ。ところが、捨てようとしたとき、大変なことに気づいてしまったんだ。 マニューラの悪魔は、純金性だった。ショップで売ったら高値で売れる。形がよければなおさらだ。そこでおじさんは、ポケモンを使って破片を加工した。……え? おじさんポケモントレーナーじゃないんじゃって? そうだよ。でも一時的くらいだったらポケモンを捕まえて扱っても良いだろ? なんたってUGMになりつつある人間なんだから。……ただ、あいつの言ったことが頭に残ってたみたいで。終わったらすぐに解放したよ。UGMはポケモンを長いこと支配して自由を奪ったりはしない! なぜなら究極の善人だからね! それで、おじさんはマニューラの悪魔の破片を加工して、道行く人々にそれを配り始めた。UGMは自分の財産を喜んで人に分け与える! なぜなら究極の善人だから! はじめはおじさん、向こうの道路で配ってたんだ。でも、渡そうとした女の子が泣き出して、お巡りさんがすっ飛んできた。公然なんとかっていう罪で、一度は捕まったよ。すぐに釈放されたけどね。そして、もうこんなことを外でしてはいけないよ、って言われたんだ。だからおじさんはお巡りさんに勧められて、この善行を室内ですることにした。家もお巡りさんに紹介してもらったよ。安い家でね、あまりお金はかけたくなかったからちょうどよかった。良い家に住んだら、その分人にあげるお金が減っちゃうからね! でも、選択を失敗したよ。立地が悪かったんだ。そう、ここだよ。ここは「切っても生えてくる木」が生えてるからね。ある程度ジムバッジを持ったポケモントレーナーじゃないと、自由に行き来できない。 ……え? それ、お巡りさんにハメられたんじゃないかって? はっはっは! そんなはずはないじゃないか! だって僕はもはや究極の善人、UGMなんだよ! 閉じこめられる必要なんてないじゃないか。ね、そうだろ? で、おじさんはUGMとして、みんなに財産を分け与えたかった。でも運悪く閉じこめられた状態になっちゃってね。だから、ここに来る人がいたらこれを渡そうって、そうずっと思ってたんだ。 さて、おじさんの長い長い昔話聞いてくれて、ありがとう! さあ、これを持っていって!! それはおじさんのきんのたま! だいじにしてね! なんたって、おじさんのきんのたまだからね! (5313文字) 〔作品一覧もどる〕
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