俺がすっかり綺麗になったゴースをつれてくると、客の少年はとても驚いた。

 ガス状ポケモンのゴースは、街中で暮らしていると排気ガスやスモッグなどを身体に溜め込んでしまうことが多いらしい。

「どうやって……?」

 目をぱちくりさせている主人に、ゴースは同じくおおきな目をパチクリさせながら寄り添っている。その嬉しそうな驚きが俺の"やりがい"なのかもしれない。

「悩んだんです。いちおう霧吹きとかでやってみたんですけどうまくいかなくて。それで、こいつらに頼んだんです」

 奥のトリミングルームから飛び出してきたのは、泡をまとったいつものカゲボウズ達。

「カゲボウズ!?」
「はい。こいつらに、ゴースの中に入ってもらったんです」

 飛び込んだカゲボウズ達は、けほんけほんと咳き込むような音を立て、ちょっと煤けた色になって出てくる。
 ゴースはちょっぴりくすぐったそうだったな。

「すごい方法ですね……!」
「いやあ、思いつきです」

 そんなに目をきらきらさせられたら、照れる。


 喜んで帰っていく客を見送ると、煤の黒に汚れたカゲボウズ達が俺の前にすーっと並んだ。

「あいあい、わかってるよ」

 俺は店の裏の日陰へ出て、タライとホースとやわらかいタオルを準備する。

 こいつらはダメもとで頼んだ俺に、何も言わずにしたがってくれた。
 ゴースを洗ってくれなんてとんでもない頼みを聞いてくれた。
 トレーナーでもない俺にそんなことをしてくれるのは、後でちゃんと綺麗に洗ってくれると信頼されているからだろうか。

 だから俺はたとえ無償でも、こいつらの"洗濯"に手は抜かない。

 最後の一匹を拭き終える時、そういえば、バイトも途切れて職なしの俺に、こんなやりがいのある毎日をくれたのも、こいつらカゲボウズを洗ったあの日のおかげのような気がした。

 負の象徴たるカゲボウズを洗うということは、自分自身の負を洗い落とす的な……なんて、そんな抽象的な話は柄じゃねーが。

「ありがとよ」

 ぼそりと呟くと、カゲボウズ達は調子に乗ったのかにっこにこして、俺を例の定食屋まで引っ張っていこうとしたもんだから、「奢りゃしねーぞ!?」と叫んだら自転車で通りかかったお姉さんとがっつり目が合ってものすごく恥ずかしかった。

 恨めしい目でカゲボウズをみつめると、向こうは待ってましたといわんばかりのきらきらの瞳。

 ……いいように使われている気がしないでもない。



 おわってくれよん





店長「炎タイプにも優しい素材のシャンプー、入荷しますた」





もどる